艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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過去の決着、悪魔は踊る

 海原に響く鉄と鉄が激しくぶつかり合う音…。

 

「ふっ!」

『ア"ア"ア"アアアーーーッ!!』

 

 戦斧と大剣が刃を打ちつけ合い、激しく火花を散らす。

 得物である鉄塊を軽々と振り回す二つの影…かつて苦楽を共にした唯一無二の盟友。

 

『アァヤナミイィィ!!』

 

 在りし日の団長はもう居ない、目の前にいるのは彷徨う亡霊…頭では理解していた。

 だが綾波は白き姫の太刀筋を受ける度に、先程対峙した時よりも明らかに「速く、鋭く、重く」なっていることに気づいた。

 研究員では彼女の実力を出し切れていなかった…本来の彼女の強さは、綾波に迷いを生んでいた。

 

「…っ」

 

 かつては綾波も新米の兵士として、鎮守府連合の前身となる組織、そして艦娘騎士団に身を置き、そこで戦う術を学んだ。

 団長、ウォースパイト、不知火、そして他の艦娘騎士たちも、皆同じように学び、戦い、笑い合う。…そんな過去の情景が、綾波を惑わせた。

 

「…団長」

 

 こうして剣を合わせていると、脳裏にはあの日が思い浮かぶ。…研鑽の日常を過ごした、あの日々が…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「…わぁ!?」

 

 かつての艦娘騎士たちの修練場…互いに剣と、砲撃の精度を上げるため、切磋琢磨を繰り返す。

 綾波はそれほど強力な武装(砲)を所持していなかったので、必然的に剣や槍等の得物を操る武術を学んでいた。

 しかし綾波が選んだのは「巨大な斧」だった。幾ら常人より力のある艦娘でも、比較的重量のある斧を、体格の小さな綾波が振り回すことは少々無理があった。

 団長に稽古をつけてもらってはいるものの、矢張り一朝一夕に身につくものではない。重心を見誤りよろけて、そのまま転げてしまう。

 

「大丈夫、綾波?」

 

 近づいて来たのは、稽古をつけてくれていた団長。

 稽古、と言ってはいるが団長も綾波たちと同様に、剣術の修行中である。彼女は艦娘騎士団の創設者である提督──亡国の元騎士団長──から、大剣術や処世術含めたあらゆる事柄を教え授かっていた。…今回も、そんな己の武力を高めるために、修練がてら綾波の稽古も見ていた。

 

「いたた…だ、大丈夫です」

「やっぱり無理しない方が…貴方だったら剣でも槍でも他の武器は幾らでもあるんだから」

 

 綾波の戦闘センスを見抜いていた団長、態々習得の難しい斧にする必要はない、そう綾波を説得する。

 

「いいえ、少しでも威力のある武器の方が、皆を守れるかも…って」

「…んー、確かに戦斧は自分の周りの敵を薙ぎ倒せるかもだけど…武器の重量がありすぎるから、駆逐艦の素早さを殺してるかもなんだよね…うん」

「はわぁっ!?」

 

 衝撃の稲光が走る、綾波は見事に論破されてしまった。

 駆逐艦の役割は素早い連携と撹乱で相手の意表を突くこと…綾波もそれが分からない訳ではない。

 

「うぅ…」

「あぁ、泣かないで? …まぁ一人ぐらいは、皆を守る盾が居ても良いよね、ねぇ?」

 

 団長は傍で一人黙々と稽古に勤しんでいた不知火に声を掛けた、不知火は団長たちを一瞥すると、淡々と告げる。

 

「そうですね。しかし…足の遅いモノに合わせなくてはなくなることも、事実ではありますが?」

「はわわぁっ!!?」

 

 またも稲光が轟く、団長は不知火に聞いたらいけなかったと悟った。

 

「ちょっと不知火…こういう時ぐらい空気読んでよ?」

「団長は綾波に甘すぎるのです。…まぁ、しかし。その動きを究めれば、斧を持ちながら迅速な行動は…充分「可能」…とは思いますが?」

「…っ! 不知火ちゃん…ぅう……私頑張るね?」

「ええい泣くな、鬱陶しい。…全く」

 

 恥ずかしそうにそっぽを向くと、不知火は再び稽古に打ち込んだ。

 

「…んー、そうね。じゃあこれから綾波は毎日、私の修行に付き合うこと。良い?」

「えっ、団長…それは…!」

 

 花が咲いたような満面の笑みの綾波。団長も釣られて笑いながら続けた。

 

「私も重量のある武器使ってるからさ、提督にも相談して一緒に稽古してもらおう?」

「っ! 団長…ありがとうございます!」

 

 こうして、綾波は団長と共に重量武器の扱い方を学び、艦娘騎士の中でも指折りの実力をつけていった…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「…ふっ」

 

 昔日の日々の記憶は、綾波の頬を緩ませた。

 そして、目前の敵に目を向けて表情を引き締めた。…彼女は今「過去という鎖」を断ち切ろうとしていた。

 

「はぁっ!」

『ア"ァ"ッ!!』

 

 綾波の戦斧の横薙ぎと、白き姫の剣撃が交わる。鋼のぶつかる音は、虚空に響いて耳に残る。

 それを何度もなんども交じり合わす。まるで演舞のように激しく鮮やかだが、確かに急所を狙った動きだ、一撃必殺の斬撃は…意地のぶつかり合いのように、戦いを終わらせることを許さない。

 

『シュロロロッ!!』

 

 突如、白き姫の腹部から現れた白蛇が、備え付けられ爆砲で零距離射撃を行う…が。

 

「…っ!」

 

 綾波も素早く「遠心力バリアー」を張り砲弾を寄せ付けない。遠くで着弾音が響く中、何事もなかったように再び斬撃の応酬を繰り返す二人。

 

『シュロロロッ!』

 

 白蛇は、今度は綾波に直接巻きついた。一瞬の間を突かれて胴に巻きつかれる綾波。

 

「ふっ…!」

 

 綾波は白蛇に重力の圧をかけた、襲いくる重圧に堪らず巻きつきを緩める白蛇。

 

「…御免」

 

 そのまますかさず白蛇の長い胴体を「断つ」綾波。切られた胴体は白き姫と離れて、そのまま海中に沈んだ。

 

『ギッ!? …ァアアアア"ッ!』

 

 残るは白蛇の片割れと、亡霊騎士のみ。

 

 怒号を上げながら、尚も向かって来る白き姫。白蛇もまた砲撃で応戦する。

 しかし、剣撃は綾波の斧捌きに防がれ、砲撃もバリアーにより無力化。綾波が優勢のように見えるが、それでも当人には力の差は感じない、この剣捌きに少しでも油断が生じれば…?

 

『ア"ア"ア"ァーーーッ!』

「…っ!?」

 

 剣の動きを見切れず、横薙ぎ一閃をかろうじて躱す綾波、頬には剣の切り傷が薄らと出来ていた。

 この後の行動としては、相手の動きを止めるため「重力」の力を使うことは当然の帰結…だが綾波は違った。

 

「…"騎士同士の一騎討ちに、第三者は不要"…ですよね、団長?」

 

 綾波は、かつての団長の言葉で一騎打ちの矜恃を表した。

 ここで言う第三者は、先程の白蛇のような騙し討ちや異能による状況の転覆である。全てが己の力と豪語する者も居るだろうが…綾波にはそう思えなかった。

 

 騎士は剣技に己の誇りを乗せて戦うのだ…それ以外の力で勝っても「何の意味も無い」のだ。

 

 綾波は生粋の武人…誇り高き「艦娘騎士」であった。

 

「はああぁっ!!」

 

 左足を後ろを蹴る要領で力強く伸ばし、勢いざまに懐に飛び込む。

 腹の底に力を込め、腰を軸にして、戦斧を握りしめた両腕を思い切り振りかぶる。

 白き姫も、同様に大剣を構えて迎え討つ。…今、誇りを賭けた「一 瞬(たたかい)」に決着が着こうとしていた。

 

 

 

『ア"ヤ"ナ"ミ"イイイィーーーーッ!!』

 

「団長ーーーーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──刹那

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さようなら」

 

 綾波の戦斧は、亡霊騎士の胴を「切り裂いた」……。

 

『………ア──』

 

 

 

 ──ありがとう、綾波…!

 

 

 

 それは、果たされなかった騎士の誓いか…。

 

 ともあれ、懺悔の騎士の後悔…その全ては「断ち切られた」。

 

 

 

「…ありがとうございました、団長…」

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 機獣クラーケンとの戦いは、一見すれば拮抗しているように思えた…が、矢張り徐々にではあるが天龍たち側に疲れが見え始めていた。

 

「…っち!」

 

 天龍のスピードに、クラーケンの触手攻撃が追いつき始めているのだ。

 烏賊には触手が「八本」あり、海底にて小魚に狙いを定め、八本の触手の奥に隠された二本の「触腕」と言われる部分を高速で射出し捕らえる。

 その要領か分からないが、天龍が瞬速で触手の攻撃を避けると、避けた直後を狙って触腕を狙い撃ち始めたのだ、最初は面食らった天龍であったが、時雨の水上探知に見破られ事なきを得ている。

 

「気を付けて…段々「慣れ始めている」。天龍がどの位置に避けるか理解し始めている…!」

 

 時雨の言葉に天龍は思案気味に相手の居るであろう方向を睨みつけている。

 

『Kyuooon…!』

 

 まるで嘲笑うように甲高い音が虚空に響いた。

 天龍は対人戦やゲリラ戦など、戦闘においては右に出るものは居ない猛者である。しかし…自身が改二になり身についたこの「速さ」も、巨大な烏賊の化け物相手には、一人でどうこう出来るものではなかった。

 

「ヤツの動きを封じるか…だが、そもそも姿が見えなければやりようがない…っく」

 

 せめて「コア」の場所さえ分かれば…そう苦心していた天龍であったが?

 

 

「テンリューッ、シグレーーッ!!」

 

「…っ! 金剛か!」

 

 

 天龍がそう言って振り返ると、巫女風の衣装に身を包んだ勇ましい少女が駆けてくる。

 

「…っ、ごめん、遅くなった!」

「あぁ全くだ。…それで、望月は何と?」

「先ずはあのスクィードの気を逸らして、私がその隙に砲弾を撃ち込む。それで全て上手くいくって!」

「成る程、了解した。…時雨、いけるか?」

「分かった。タイミングは僕が見ているよ、合図をしたら砲撃開始で…良いかい?」

「うん! …じゃあいっくよー!」

 

 金剛たちは短くこれからの作戦を話し合い、了承し合うとクラーケン討伐に乗り出した。

 

「シグレ、あのスクィードの頭はどの辺りか解る?」

「えっ? …ん、あの辺りかな?」

「…オッケー、じゃあ合図よろしく、ネ!」

 

 金剛がウィンクすると、時雨の下を離れクラーケンの周りを滑り始めた。

 

「…ふふ、それが本当の君なんだね。何だか…不思議な気分だね。「彼女」とは違うのに…凄く懐かしい気分になる」

 

 時雨は少しだけ微笑むと、クラーケンの攻撃に集中し始める。

 

『Kyuooon…!』

「…天龍、右舷に敵攻撃、来るよ!」

「良し…ふっ!」

 

 天龍は時雨に言われた通り、右側から迫る触手の攻撃を避ける。

 

『Kyuooon……ッ!』

「今度は左舷だ!」

「ふんっ!」

 

 一度着水する天龍に左側から又も触手攻撃、もう一度避ける…。

 

『Kyuooooon……ッ!!』

 

 今度は…触手奥に隠した「触腕」で天龍に狙い澄ました高速の一撃を与えようとする。

 

「来たっ!! 正面に敵の触腕が接近中!」

「く…おぉ!」

 

 前方に感じる空気の圧、何かが近づいてくる…天龍は空中で一度姿を現し、そのまま超速でその場を離脱する。天龍の居た空間に風切り音が響いた、間一髪である。

 

「──今だ、金剛!」

 

『…ッ!?』

 

 敵の狙いは完全に天龍に向いている。

 今こそ好機…時雨が号令を出すと、金剛はクラーケンの右側から一斉射撃を敢行する。

 

「よぉし! …いっけえぇーーーーっ!!!」

 

 手を広げ、腕を突き出す。

 その動きに反応し、金剛自慢の砲塔は敵の居るであろう空間に撃ちだす…!

 

 

 ──ズドオォォオオンン!!!

 

 

『Kyuooon…!?』

 

 雨あられと撃ち込まれた弾は爆散し、爆炎と共に何かが散布されている…これは「着色料」か?

 

「…ピンクか?」

「”マゼンタ”だよー! 赤だよあか! あれで敵の居場所がはっきりと解るはずだよ!」

 

 金剛に言われて見ると、確かにクラーケンの巨体が赤色に染まっており、外套膜の中央には「くぼみ」のような穴らしきものが認識出来る。

 

 擬態は最早意味を成さない、後はコアを砕いて機能停止に追い込めば…!

 

「…はっ、流石望月だ。これで「分かりやすく」なった!」

 

 そう笑う天龍の行動は早かった。すぐさま敵の懐に潜り込み、双剣を構えコアを切り裂く万全の体制を整える。

 

「これで…終わりだ!」

 

 チェックメイト…かに思われた。

 

『Kyuooon…!!』

 

 天龍が双剣を振り斬る直前に、クラーケンは突如として「空に舞い上がった」。

 驚く一同であるが、烏賊には「漏斗」という、体内に海水を貯めこむ器官が存在し、それを利用して勢いよく海水を噴射させることで「高速移動」することが可能なのだ。

 

「逃がさん!」

 

 空中に舞い上がる巨体を捉える天龍、又も敵の懐に入り込むが…?

 

『Kyuooon…!』

 

「っな、ぐぁ!?」

 

 なんと、空中で身を捻ると身体を回転させ、勢い様に触手で攻撃するクラーケン。これには天龍も堪らずその身に攻撃を受けてしまう。

 海面に叩きつけられるも、直前で身体を丸めて回転することで威力を軽減した天龍は、そのまま着水し体制を整えた。

 

「テンリュー、大丈夫!?」

「ああ。…っち、悪あがきとは笑わせる」

「でも、もう少しだね」

「うん、何とかあのスクィードの動きを止めないと!」

 

 そう話し合う三人であったが…空中からゆっくり降りるクラーケンだが、何か様子がおかしい。

 

『…Kyuooon…ッ!!』

 

「…っ、避けろ!!」

 

 天龍が叫ぶと、弾けるようにその場を離れる三人…瞬間。

 

 

 ──ピシュッ!!

 

 

 クラーケンの漏斗から発射された巨大な圧縮水鉄砲、それは海上を一直線に疾ると…余剰威力が海を割り、大量の海水が宙を舞った。

 

「うわぁ!?」

「っく…!」

「これは凄いね。…人体に当たれば真っ二つどころじゃない、粉々に砕け散ってしまう…!」

 

 擬態を封じられ、あと一手で王手を掛けられるが…機獣の意地とばかりに中々隙を見せないクラーケン。

 

 果たして、三人はクラーケンを捉えることは出来るのか…?

 

『Kyuooon…!』

 

「何にしても…長丁場になりそうだな?」

 

 天龍はそう言いながら、皮肉笑いを浮かべるのであった…。

 

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