艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

69 / 134
 結構長くなりました、ご注意下さい。


星を見上げるモノ、囁きを聞くモノ。

 ──あれから、数日後。

 

 僕は任務完了の報告をするため、時雨と一緒に鎮守府連合幹部のカイトさんの下を訪れた。…ある人物を引き連れて。

 

「…貴方がユリウスさん?」

「あぁ…」

 

 ユリウス、TW機関の元研究員だ。

 僕は(色々犠牲にしちゃったけど)何とかユリウスさんの説得に成功したので、こうして連合にご同行願ったんだけど…皆は僕が本当にユリウスさんを仲間として連れ帰るなんて思ってなかったようで、僕に連れられたユリウスさんを見た時は「マジか」みたいな目をしてた。

 

「…まぁ、どうやって説き伏せたのかは敢えて言わないけど、タクトが命懸けで頑張ったことは、僕が保証するよ」

 

 時雨は僕の背中に手を押し当てながら、隣でカイトさんに状況の補足をしていた。時雨は僕が何をやったのか理解しているようだが、黙っていてくれるようだった。

 それを聞いて頷いたカイトさんは、ユリウスさんに向き直ると「にこにこポーカーフェイス」で彼の来訪を喜んだ。

 

「よくぞ来てくれました、連合代表として貴方の賢明な判断に感謝の意を表明します」

「…社交辞令は止せ。お前たちの狙いは機関の技術を私的利用した我々を"粛正"すること…だろ?」

「…はは、まぁ本来ならそうしたい所だけどね? 君にはまだ利用価値がある…と言ったら?」

 

 カイトさんが言わんとしていることは、おそらくドラウニーア周りの「情報」だろう。

 彼が何を企ているのか、計画の全貌を知りたいようだ。僕もそうしたいのは山々だけど…。

 

「あの、カイトさん。その辺りはまたの機会ではダメでしょうか? もしドラウニーアがユリウスさんに感づいたら、また…例の研究員たちのように、ユリウスさんに危険が及ぶ可能性があります」

 

 そう、機関やら計画等について話そうものなら、ドラウニーア…アイツが何を仕出かすか分からない、下手にユリウスさんに話をさせる訳にはいかないのでは?

 僕はそう意見するが、当のユリウスさん本人は違う考えみたいだ。

 

「いや、問題はないだろう。我々の計画の一部に狂いが生じたようで、ヤツはそれの急ぎの修正に躍起になっていることだろう。計画自体も終盤に差し掛かっている、とてもこちらに感けている余裕は無い」

「っ! そこまで進んでいるんですか…!?」

「あぁ、だが…それでも止めるのだろう?」

 

 ニッと笑うユリウスさんに、僕は力強く頷き返した。

 

「…分かった、君に拾われた命だ。私に出来ることなら何でもしよう、それが終わり次第煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

「了解だよ、それにしても…大手柄だねタクト君、機関研究員の生存者の確保だけでなく、海底研究所まで…これで計画の仔細も明らかになりそうだ」

 

 ユリウスさんが隠れ家として利用していた「海底研究所」は、かつてドラウニーアも利用していた…当然彼らの研究資料も残っている。

 自爆を止めて良かったと言ったところだけど、カイトさんたち連合は研究所の資料を既に引き上げて解読しているとのこと、これで…事態が進んでくれたら良いけど。

 

「全ての資料を整理出来たら、改めて君たちに声を掛けるよ。ユリウスにその辺りの事実も一緒に話してもらうけど、その時は…ヤツとの「全面戦争」になるだろうから、覚悟だけしておいてね?」

「…分かりました」

 

 全面戦争。…当たり前か、散々多くの人の人生を狂わせたヤツが大人しく捕縛されるとは思えない、向こうにはレ級もいるし、おそらくは他の深海棲艦も付き従えているはず…双勢力のぶつかり合いになる、か。

 

「今日はここまでにしよう、ユリウスは君たちの鎮守府で預かっておいてくれ。構わないだろ?」

「もちろんです、じゃあユリウスさん行きましょうか?」

「あぁ…いや待てタクト君、君のところの艦娘騎士と…出来れば他の艦娘騎士にも連絡を取ってくれないか?」

「えっ、良いですけど…何か?」

 

「…彼女たちの団長について、話しておきたいことがあるんだ」

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 後日。ユリウスさんに言われた通り、僕は綾波とウォースパイト、不知火に集まって欲しいと呼びかけた。

 彼女たちは僕たちの「名無し鎮守府」の客間にて一堂に会した、ウォースパイトは綾波の変わり様を見て感激の表情を浮かべていた。

 

「まぁ! それが噂のカイニなの? あんなに小さくて愛らしかった貴女が…こんなに立派に…貴女は私たちの誉れですよ、綾波」

 

 穏やかに微笑み綾波を褒め称えるウォースパイト、そういえばウォースパイトたちは綾波改二は初めて見るのか、あの時は操られていてそれどころじゃなかったし。

 

「ありがとうございます姫様、しかしこの姿に成れたのは、そこにいらっしゃる司令官のお陰です」

「そうですか…感謝致しますタクトさん、本当に何もかもお世話になって…貴方は、我々の恩人です」

「そんな…僕は自分の出来ることをやっただけで」

「いえ、貴方が居なければ我々は綾波と和解することは無かった。これでも…感謝しているのですが?」

 

 不知火はぶっきらぼうながらも、僕に対して感謝の意を込めた言葉を投げた。

 

「もう不知火?」

「何ですか姫様、不知火に落ち度はありませんよ?」

「…っぷ!」

 

 僕は思わず吹き出してしまった、今更だけど不知火…ここでその台詞は…狙ってる? …w

 

「な、何で笑うんですか!」

「うふふ、貴女がそこまで狼狽るのは団長以外では初めてではありませんか?」

「姫様まで!」

「姫様、不知火ちゃんはそれだけ司令官に心を許しているということですよ? ふふ…!」

「綾波…お前もか、全く。…まぁ確かにこうしていると、懐かしい感じがしますね?」

 

 不知火が昔日に想いを馳せながらしみじみと言うと、向かいのドアが開く。

 

「…待たせたかな?」

 

 ユリウスさんが、僕たちの前に姿を現した。

 

 テーブルを挟んで、僕と綾波は左側のソファに、ウォースパイトと不知火は右側に、ユリウスさんは予備の椅子を僕たちとウォースパイトたちの間に置いて座る、丁度テーブルを囲む形になる。

 

「最初に謝罪から入らせて欲しい、艦娘騎士団の諸君…知っているとは思うが、君たちの騎士団を壊滅させたのは…我々元機関のメンバーだ。私はその一人として、如何なる罵倒雑言も受け入れる覚悟だ…本当に、済まなかった」

 

 神妙な面持ちで頭を下げるユリウスさんに、綾波たちはそれを宥めながら言葉を投げた。

 

「ユリウスさん、私は姫様からその辺りを既に聞かされていますが…貴方にも事情があったご様子。こうしてしっかりと罪を償おうとする姿勢は…私個人としては「共感」出来ます」

「貴方の犯したCrimeは、決して許してはならないもの…ですが、貴方自身それに向き合い続けるなら、私はそれを応援しましょう」

「…絶対に許しはしない、それでも姫様たちが下がるなら…私もそれに倣うだけです」

 

 三人のそれぞれの考えに、ユリウスさんは安堵しながらも、深い感謝を表していた。

 

「ありがとう。…さて、本題に入ろう。今日集まって貰ったのは…君たち艦娘騎士団の団長についてだ」

 

 …辺りが静まり返り、その場の全員が気を引き締めた。

 

 ここで改めて状況を整理しよう──騎士団崩壊後、生き残った艦娘騎士団は散り散りになり、この場以外の艦娘騎士が果たして生きているのかも分からない状態だという。

 そんな中綾波は、離ればなれになった団長を探すため世界中を探し回った…という。

 ウォースパイトたちが綾波と離れていたのは、団長の足取りを地道に追い続けている内に、艦娘騎士団崩壊の原因が「TW機関」にあることを突き止めたから。…彼らに報復する際、綾波にこれ以上辛い思いをさせたくないから敢えて彼女を遠ざけようとしていた。

 …だから不知火は最初、綾波をあんな邪険に? 幾ら団長関連に綾波を関わらせたくないからって…ちょっと棘があったというか?

 

「…不知火、正直なところ綾波のこと…どう思ってる?」

「…共に激戦を戦い抜いた戦友、そして団長を一人にした愚か者」

「極端だねぇ…それだけ複雑な心境だったのかな?」

「お好きに考えて頂いて結構です、今は…私は何の憂いもありませんので」

 

 いつものように素っ気ない言葉だが、不知火は綾波を見やると静かに微笑みを浮かべる、綾波もそれを見て笑顔を返した。

 …さて、とユリウスさんは事の次第を改めて話し始める。

 

「まず綾波君、君は今日まで君たちの団長を探し出そうとしている道中、タクト君のところに身を置いていた、そして偶然ボウレイ海域に辿り着き、彼女が…沈んでいた、その事実を知ってこれを乗り越えようとした…そうだね?」

 

 ユリウスさんの問いに、綾波は静かに頷いた。不知火はその問いかけに難色を示した。

 

「その問いに何の意味があるのですか? 不用意な掘り下げは…」

「まぁ聞いてくれ。…ウォースパイト君、君は独自に騎士団崩壊の謎を調査する内に、我々に辿り着いた。そして私がボウレイ海域にいることを突き止めて報復を決めた…そうだね?」

「Yes.情報は不知火が調べていたのですが、私も逐次報告を受けて知ってました」

「そうか。…不知火君、では「団長の死」その事実確認は出来ているかい?」

 

 そう問われた不知火は、不服そうだったが黙って首を横に振った。

 

「そうか。では私があの白き姫に乗り移っていることで、私が「沈んだ」団長をそのまま操っていた…と推察したのだね?」

 

 ユリウスさんの言い含みは、その場の僕たちに大きな疑問を与えた。

 艦娘と深海棲艦の因果関係は何回も説明してるけど、明確な証拠のようなモノは実際の所「ない」んだ、この世界の艦娘たちも何となくは気付いているようだし、そう考えるのが「普通」だと思うけど…?

 

「いや、その仮説自体は正しいよ。詳しくはまたの機会に話すが、結論だけ言うと「艦娘は沈むと深海棲艦になる」。それに間違いはない、酷い言い方だがそういった実験を繰り返した私の言葉、と思ってほしい。だが…「彼女」の身体自体はその限りではないが」

「どういう意味ですか?」

 

 僕が疑問を口に出すと、ユリウスさんはゆっくりと言い聞かせるように話す。

 

「話が長くなるが、そのために時間を割いてもらったんだ、説明しよう。…先ずはあの艦娘騎士団崩壊の日、私は"あの場所に居た"」

「…っ!?」

 

 衝撃の事実を突きつけられる。綾波たちにとって全てが始まった日にユリウスさんが居た…!?

 僕たちの困惑を余所に、ユリウスさんは事の次第を説明し始める…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──全てはドラウニーア…ヤツの一言から始まった。

 

「あの艦娘騎士団とか言う堅物共は、何れ我らの障害となる。だから…私はあの目障りなガラクタ共を"殲滅する"ことにした」

 

 突拍子もないことだが、ヤツは自身の目的のためなら如何なる手段も問わない。そういうヤツだ…邪魔立てするモノ、そうなるかもしれないモノ、確実であれ予測であれ可能性のある限りヤツはそれらを壊していった。

 艦娘騎士の殲滅、その方法とは…"海魔石"の力で艦娘騎士たちを暴走させることであった。

 知っての通り海魔石は、マナの穢れと呼ばれる黒い魔力を凝縮し、石に封じたもの、それは太古の昔に人々の「負の感情」を溜め、世界を楽園に造り替えたという逸話が残る代物。現在は海魔の名を冠した呪いのアイテムとして忌み嫌われ、連合から使用が禁じられている。

 対して艦娘はマナの塊である「艦鉱石」を己の心臓部にしており、大気中のどんなに微量のマナであろうと彼女たちにとって「1日分のエネルギー」に変換出来る。

 マナと穢れは対極の位置関係にある、これらが混ざり合うとプラスとマイナスエネルギーとしてお互いが相殺しあう。…つまり、艦鉱石(艦娘)に海魔石の光を浴びせると一時的に機能停止(気絶)してしまう、運が悪ければ艦娘自身の負の感情を暴走させる危険がある。ドラウニーアはその「暴走」を利用しようとした。

 

 …しかしここで疑問があるはずだ、何故あの場の多くの艦娘騎士たちを「暴走」させることが出来たのか?

 

 こういう言い方では語弊があるかもだが、負の感情は人が抱く「生きている上で絶対に必要な」激情だ。だが艦娘たちは「そもそも兵器」としての役割もある為、そういった感情は持ちづらいんだ、負の感情による暴走も「低確率」でしかない。

 だがそれを可能にしたのがヤツの恐ろしい所、ヤツは…海魔石を「一時的に強化艦鉱石に作り替えた」のだ。

 トリックとしては…海魔石の術式に時限式の強化魔術と魅了(チャーム)の魔術を織り交ぜた術式を上書きして…ぁあ失礼。つまるところ最初から「力に溺れるように仕組まれていた」のさ、艦娘騎士自身が欲望…負の感情に陥るようにね?

 頃合いを見てヤツは上書きした術式を消し、海魔石に戻すことによって負の感情を暴走させるようにしていた…ということだ。

 …惨いことだ、艦娘騎士たちの生き方を全否定とは、私もこの作戦はリスクが多いと思い、問い質したいと思ったが…雲隠れしたヤツを見つけるのは時間が掛かった。

 

 ──漸く艦娘騎士たちの本拠地で居座っていたと耳にした、しかも国の国務大臣とやらに就いていたようだ、相変わらず人に取り入るのが上手いヤツだ。とにかく…私はドラウニーアを改めて追求するため、その城内に赴いた。

 

「…それだけのためにここに来るとは、お前も馬鹿な男よユリウス。見ろ、こうして艦娘騎士たちは悪鬼羅刹と成り果て、蜜を啜るだけの愚かしい民を惨殺処刑している。…何れ全ての人間を切り捨てた後、己や仲間を攻撃していくだろう。これで…邪魔モノは居なくなった!」

「…っ、流石といったところだが、この件を嗅ぎつけられて我々の居所が割れでもしたら、どうするつもりだ!?」

「そんなもの、我々の「超化学(ちから)」を以てすれば、嗅ぎ回るだけしか能のない野良犬風情、どうということもない!」

「君は…っ!」

 

 その時──

 

 私たちが言い争いをしていると、乱暴に玉座の間の扉が開かれた。

 

「──やっぱり、アンタが首謀者だったのね? 大臣…っ!」

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「団長が…!?」

 

 ユリウスさんから語られたその日の出来事に、艦娘騎士たちは動揺を隠せない様子だった。

 

「あぁ、私もドラウニーアも驚いたよ。特にドラウニーアは自分が撒いた種だというのに、裏をかかれたことに憤慨していたよ」

「そ、それで…綾波たちの団長は…?」

 

 僕の問いかけに、ユリウスさんは…静かに首を振る。

 

「…っ」

 

 綾波が言葉に詰まったように声が押し黙ったいたが、ユリウスさんは訂正した。

 

「いや…なんと言えば良いのか、とにかく…君たちの団長は「無事かもしれない」んだ」

「えっ…!?」

 

 ユリウスさんの発言に僕らはただただ吃驚するしかなかった。

 綾波たちの団長が…無事? それってどういう…?

 

「済まない、混乱させてしまったな。また説明させてもらう」

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 我々はこの地獄の有り様から、まさか正気の艦娘が出てくるとは思いもしなかったので、一瞬面食らってしまった。

 

「き、貴様…まさかブレスレットを付けなかったヤツらか!? 遠征に行っていたのでは…「アイツ」…失敗(しくじ)ったか!」

「…っ!」

 

「よくも陛下を…艦娘をっ…手前勝手に利用したなっ!!」

 

 彼女は頭から血を流しており、自慢の鎧も格好もボロボロだったが、渾身の力を振り絞るように背中の大剣に手を掛けつつ地を蹴った。

 

「報いを…受けろおぉーーーっ!!!」

「…っ!?」

 

 

 

 

 

 ──ザシュッ!!

 

 

 

 

 

「…ッギ!? ギャァアアアアアアアッ!?? お、お、俺の…"腕"があああああっ!!?」

 

 刹那の出来事だった、見ると隣ではドラウニーアの「左腕」が切断されている、夥しい血が左腕があった場所から出ていた。どうやら彼女は…一矢報いたようだ。

 

「ぐっ、くそ…よくも…こ、こんな……っ、きぃいいいさあぁああああまぁああああああっ!!!」

 

「…っ!?」

 

 ドラウニーアは激昂し、彼女に向けて「海魔石」の光を放った。ボロボロの彼女には…最早避ける事もままならなかった。

 紅い光を浴びると、彼女の姿勢がどんどん力なく崩れていき…そのまま倒れてしまった。

 

「…ハァ……ハァ…ッ、この…ガラクタ風情があああ…っ!!」

 

 悔しさを滲ませた表情を浮かべながら、ドラウニーアは彼女の身体を脚で踏みつける。

 

「どうしてやるか…深海化させるか? それとも用は無いならこのままバラすか? どちらにしても…貴様の敗北だ! 残念だったな〜〜ぁ? ハァーハハハハッ!!」

 

 怒りをぶち撒けるように悪言を浴びせるドラウニーアだったが…ここに来て異変が。

 

「…っ! ドラウ、その娘に構うな! 早く脱出しろ!!」

「ユリウスぅ! 貴様誰に向かって…!」

「違うっ! 窓の外を見ろ!!」

 

 私が外に見た光景は…城内に暴走した艦娘騎士たちが雪崩れ込んで来る姿だった…!

 

「…っ! 何故だ…ヤツらは我々の計画に気付いていない筈」

「大方…暴走しても戦略的行動は本能に刻まれているのだろう、敵陣を攻め落とすには「拠点にいる大将首」を取るのが定石だ。広場に邪魔者が居なくなったから、今度はこの城を攻略するつもりだ!」

「ナニぃ…(ズゥン!)っぐぉ!?」

 

 玉座の間に轟音が響く、城が崩れようとしている…艦娘騎士たちの仕業なのは明白だった。

 

「ここに居たらヤツらに殺されるぞ! いい加減状況を弁えてくれ!!」

「…っ、仕方ない頃合いか。いいだろうユリウス、お前の提案に乗ってやる…!」

 

 こうして私たちは、地響きの止まない城内から脱出する…その時、私は後ろを振り返る。

 …そこには確かに、倒れ伏した騎士が倒壊した瓦礫に飲まれる姿が…見えたんだ。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「それから数日して、私は崩壊した城へ戻って来た。…ドラウニーアに頼まれてね? ヤツは執念深い性格だから、君たちの団長を含めた艦娘騎士を深海棲艦に変えて自身の手駒にしようとしたんだ、海魔石には深海棲艦を操る能力もあるからね」

「……そうですか」

「外道め…そのドラウニーアとかいう輩、私たちを何だと思っている…!」

 

 不知火が怒りを露わにする、ユリウスさんもそれを宥めながら同調した。

 

「君たちにとっても不快な話だな、私も同じ気持ちさ。…それもそれとして、私には一つ気になったことがあってね?」

「それは…?」

 

「うむ、瓦礫に埋まっていた艦娘騎士たちの中に…君たちの団長の姿は「無かった」んだよ」

 

「え…っ!?」

 

 驚愕の連続に投げられた一番の衝撃、僕らは思わず言葉を失う…。

 

「…もしかしなくても、それって…!」

「あぁ、科学者として予測で語るべきではないのだが…とにかく、あの場に居た艦娘騎士団団長は、生き残っている「可能性」がある…ということだ」

「…っ!?」

 

 …その言葉を聞いたとき、綾波の目には…一筋の涙が。

 

「…団長……生きて…っ!」

「綾波君、気持ちは解るがまだ確定事項ではない。それでも私は彼女の捜索に全力を上げるつもりだ、これが…罪滅ぼしになるとは思わんが」

「いえ…お気持ち痛み入ります、ユリウスさん…ありがとうございます」

 

 ユリウスさんは綾波と眼を合わせ微笑み合う…がしかし、ここで一つ疑問が出てくる。

 

「ま、待って! なら…ボウレイ海域で出会ったあの「白き姫」は一体…?」

 

 僕は大きな疑問をぶつけるが、ユリウスさんは淀みなく答える。

 

「アレはドラウニーアの命令で私が造った「人造深海姫」だ」

「じ、人造…?!」

「そんなこと…可能なのですか?」

 

 不知火ももちろん懐疑的だが、筋が通らない訳ではない。

 機関の超化学からすれば造作もないだろうし、何よりあの時…綾波と初めて対峙したときに、ユリウスさんが言わんとしていたことは、このことだったんだ。

 

「済まないな、君たちとは相対していた訳だし、今更言ったところでと口に出す機会も無かった。…ふぅむ、君たちからすればややこしかったな、重ねて謝罪するよ」

「い、いえ…でも何故ドラウニーアは綾波たちの団長…のレプリカ? なんて造らせたんだろう?」

 

 僕の当然の疑問に、ユリウスさんは皮肉笑いを浮かべながら回答した。

 

「私からすれば、余程悔しかったのだろうな。彼女の顔をした深海の姫を造って、手元にでも置いて尖兵に仕立て上げて甚振る算段だったのだろう、丁度…レ級だったか? 彼女のようにな」

「く、クズ過ぎる…;」

「そうだろう? まぁ開発途中だった矢先、まるで示し合わせたように君たちがあの海域にやって来たから、急ぎ完成させて君たちを襲うようにと言われたのさ」

「成る程…」

「もっとも…器は何とかなったが、データ不足か「自律感情自制機構」…まぁ心だな? それが未完成のままだったから、急遽手動で動かすことになったが」

「そんな…心まで再現出来るんですか?!」

「あぁ…データさえあれば、だが? まぁ君たちに言わせれば、例え完成したとしても、造りモノの心では団長の強さを再現出来ないだろうな」

 

「いえ…そんなことはありません」

 

 綾波の呟いた言葉の意図が、僕やウォースパイトたちは何のことか分からなかった。

 

「What’s? どういうこと綾波?」

「あの場の白き姫は…間違いなく「団長」でした。例え…造られた心だとしても、です」

 

 短く言葉を区切ったが、それは僕やウォースパイトたちが理解するには充分だった。

 

「…そう、お別れは出来たのね?」

「はい、でも…もしまだ団長が…本物の団長が生きていらっしゃるなら…私は、彼女に会いに行きます。…今度こそ」

 

 綾波の新たな決意は、希望に満ち溢れたものだった。彼女が…前を向いて歩くための「輝き」。

 星の瞬きのような光を垣間見たウォースパイトは、僕に対して提案を持ち掛けた。

 

「…タクトさん、不躾で申し訳ありませんが…宜しければ私たちをこの鎮守府に置いて頂けませんか?」

「うぇ、良いですけど…よろしい、んですか?」

「フフッ、えぇ。私も団長に会いに行きたいと思いまして。綾波と再会出来たのは貴方のお陰、ならば…きっと貴方の下に居れば、団長に会える気がするんです」

「…不知火は?」

「姫様の護衛として置いて頂けるなら、どのような御命令にも従います」

「急に畏まったね…形から入るタイプ?」

「えぇ。私は長いモノに巻かれるタイプ…ですので」

 

 真顔でそんなことを言う不知火が、何だかおかしかったので…皆で思わず声を上げて笑った。

 

「…人が真面目に返したというのですが?」

「あはは、ゴメンごめん。じゃあ…これからよろしくね、二人とも?」

「はい、これからよろしくお願いします。Admiral?」

「しばらくお世話になります、よろしく。…綾波も?」

「…うん、よろしく。ね?」

 

 …こうして、綾波の過去を中心としたボウレイ海域の怪事件は幕を閉じた。

 

 彼女は未だ重い荷を背負ったままだ。でも…これからは、彼女が罪に圧し潰されるようなことは、二度と起こらないだろう。…彼女は。

 

「あはは…!」

 

 ──こんなにも眩しい笑顔が、出来るようになったんだから…!

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──その頃、苦悩する一人の影。

 

「そ、そんな…!」

 

 野分…ボウレイ海域より帰還してからの彼女はある異変に苛まれていた。それは…?

 

「何故…ボクの額に……”角”が…っ!?」

 

 彼女の額右側より小さな突起…明らかに白い角が生えていた。

 この状態は深海棲艦の「姫」によく見られる特徴と酷似していることを理解していた、つまり…野分の頭の中に「最悪の結末」が浮かび上がる。

 

「…っ、そんな…ボクは……人類の…敵に…っ!」

 

 酷く狼狽える、鼓動が早まる、寒気がする、嫌悪ではない…自分が自分でなくなるかもしれない、そんな恐怖に怯える一人の少女がそこに居た。

 

「どうすれば…どうしたら……っ」

 

 

 ──ガチャ

 

 

 突然開け放たれた部屋のドア、ビクッと震え驚きながら…野分は後ろを恐るおそる振り返る。

 

「…よぉ」

「マドモアゼルモッチー…マドモアゼルテンリューも」

 

 いつもの余裕ある態度が崩れ去り、少女は恐れを表した顔と消え入りそうな声で来訪者たちに縋り付いた。

 

「ぼ、ボクは…ボクはどうなってしまうのですか? 深海に堕ちて…ボクは…っ!」

「落ち着けや野分。…早いな、精神が侵されきれない限り肉体に大した影響は出ないと思っていたが…」

「…っ! 何か知っておられるのですか? 教えてください! どうすれば…ボクは…このまま醜くなっていく自分が…嫌だ…!」

「落ち着け、俺たちも全てを知っているわけではない。…それで、どうするんだ望月?」

 

 天龍に問われた望月は、唸りながら野分の角を凝視した。

 

「…先ずはソイツの原因を調べたい、野分…深海に堕ちたくなきゃ、アタシらと協力してコイツを何とかするんだ」

「勿論です、どうか…どうか、お願いします…っ!」

 

 野分は泣き崩れそうになりながらも最悪の未来を避けるため、望月と天龍と共に対抗していく。

 

 

 …されど、深海への囁きは「すぐ傍まで」迫っていた──

 

 

 ──クロギリ海域編に続く。

 

 




 うーむ…ボウレイで一年ぐらい掛かってる…クロギリは果たしていつ終わるのやら。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。