艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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 お待たせ致しました、クロギリ海域編突入でございます。
 ここまで足掛け3年、長いですね。それでもここまで来れたのは閲覧者に皆様のおかげです、本当にありがとうございます。
 まだまだ先は長いですが、頑張って最後まで書き切れたらと思います、なので皆様もほどほどに付いて来て下されば幸いです。

 …さて、今回のクロギリ編では新しいワードが次々と出て来る予定です。混乱されると思われますが逐次解説を挟んでいきたいと考えています。よろしくお願いします。
 この章のヒロインは…消去法だからもう分かりますよね?
 では早速参りましょう。…どうぞ!


クロギリ海域編
ある夢の中の対話


『──…君は……界……の…者……る』

 

 …頭の中に響く声に、ただ呆と耳を傾けていた。

 

『勇者………参りま…………!』

 

 知らない景色。

 

 知らない場所。

 

 知らない人たちの映像を…呆と見ていた。

 

『勇者………どう………を……に……っ!』

 

 しかし…そのどれもが途切れとぎれで…時折砂嵐が混じってよく見えない。

 

 理解しているのは…自分、いやかつてこの映像を見ていた何者かが「勇者」と呼ばれていたこと。そして周りの「他人(ひと)」が気持ち悪いぐらいの親密な笑顔を向けてくること。

 

『勇者……きさ………我に…………か!!』

 

 今度は…見るも悍ましい巨大な化け物が映る。

 

 まるで異世界の冒険譚だ…勇者が魔王を倒すために、仲間を集め、冒険し…その旅の果てに、遂に魔王を倒すのだ。

 

 

 ──彼女と夢見た、あの日の物語のようだ。

 

 

『──おめでとうございます勇者様、この世界は「救われました」。…さぁ、”願い”をどうぞ?』

 

 

 今度ははっきりと知覚した、しかしその言葉は…まるで頭の中ですぐ消えてしまうように、どこかぼんやりとしていた。

 

 

『…皆が…………に……──』

 

 

 その時…ザーーー…というノイズ音が紛れ、僕はその言葉を聞き逃した。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──やがて、僕は優しい波の音を聞き目を覚ました。

 

「…ん?」

 

 目を凝らし周りを見回すと…まだ夜の帳の中であり、辺りは静寂に包まれ、夜空に星々が輝いていた…しかし、それだけではなかった。

 何処かは分からないが…僕はどうやらまだ「夢の中」に居るようだ。というのも…目の前の海岸の砂浜には「花」が咲き乱れていたのだ。

 確か海岸に咲く花もあると聞いたことはあるけど…これはそういう類ではない、と「直感」で理解する。知識があるわけではない、これは「そういう意味で在るモノではない」と理解する。

 …花言葉か、僕はそう思い花を凝視する。ぼんやりした焦点を目を擦って合わせていく。…赤や白、紫色の三種の花が砂浜に咲き誇る。…「アネモネ」花言葉は──

 

「──希望」

 

 僕以外の誰かが呟いた言葉。僕は特に取り乱すことなくその言葉のする方を向く、その人は──薄明るい白靄に包まれて──シルエット以外見えなかった。それでも声ははっきりと聴き取れた、低く落ち着いた壮年の男性の声だ。

 貴方は? 僕がそう問いかけても白い影は答えない。代わりにこの空間が「何を意味しているのか」を回答する。

 

「ここは全ての世界の「夢」そこに囚われた者たちの檻…いや、鳥籠かな?」

「っ、夢の…鳥籠?」

「そう、私もかつては自らの為すべきことのために戦った。そしてそれは為された…故に輪廻転生の理の下、我が魂もまた転生(てんじょう)を与えられるものと思っていた」

 

 だが…と、何処か寂しそうな声色で白い影は言葉を綴っていく。

 

「悲しき哉、世界は己が存続のために「強き精神」を欲した。それは集合意識たる己を束ねるに相応しい存在…」

「…集合意識?」

 

 僕の問いに返す言葉は無く、白い影は傍に咲いたアネモネの花を一輪摘み、空に翳しながら更なる問いかけをする。

 

「君は、何故人が限りある生を受けたか理解しているか?」

 

 …答えのない問いを、あまりに尊大な態度で言われるものだから、僕は答えず眉を顰めながらただ首を横に振った。白い影は特に気にする様子もなく粛々と事実を語った。

 

「人は限りある生と理解するからこそ、そこに一筋の光を見出すのだ。生まれた意味、それまでの歩み、それは己という泡沫の夢を確固たる「思い」に昇華させる要因でしかない」

「…その言い方じゃ、まるで人は死ぬことにこそ「意味がある」…と聞こえるんだけど?」

 

 僕はそう疑問を口にする、すると白い影は大仰に両手を広げて肯定の意を示した。

 

「然様、君にはまだ理解出来ないだろうが「死は終わりでは無い」のだ、世界の理の熟知は死の先にあるのだ。無論「生あるからこその死」であることは、承知しているがね?」

「…貴方はつまり、死んだら「アカシックレコード」みたいなものを知覚出来て、そこに到達することが人間が生きる理由…って言いたいの? だとしたら僕は「どうかしてる」って言わないとだけど」

 

 僕の言葉に、白い影は「笑った気がした」。不気味さは感じない、ニヤリと不敵に笑う感じだ。

 

「はは、なるほど。アカシックレコード、神智学か? 君は物知りのようだね…「色崎拓人」君?」

「…っ!?」

 

 僕の名前を看破した白い影…まだ名乗ってすらいないのに? 一体何者なんだ…そう一瞬焦っていた僕だったが、頭の中では「まるで最初から知っていたように」言葉が浮かんで来た。今のところ冷静に受け止めているが、状況の異質さに衝撃を隠せない。

 

「…貴方は──"特異点"?」

「正確には「だった」を加えた表現になるな。…然様、私はかつて特異点だったモノ、だよ。ある理由からこの場所で全ての世界を観測する者と成った、君の言うアカシックレコードの智慧によってあらゆる事柄を知覚出来るようになった」

「つまり貴方は…神様?」

「そうなるかな。そしてこのまま行けば…()()()()()()()()()()()()

「っ!?」

 

 僕の疑問に即座に回答し、更に突拍子もない事実を突き付けた。…意味を噛み砕くとどうやら彼は今「全知全能」の状態であり、将来僕もそうなるかもしれない、と意味の分からない言葉を投げ返して来た…いよいよ理解が難しくなって来た。

 

「…頭が痛くなって来た」

「あぁすまない、混乱させるつもりは無かった。…順を追って説明しよう、まず君の言う「死後の人間の魂がアカシックレコードを垣間見る」という説は「ほぼ正解」なんだよ」

「正解? 冗談で言ったつもりだったんだけど?」

 

 頭を押さえながらも僕は皮肉めいた言動を止めない、それをままに受け入れてしまえば、僕は本当に「人でなし」になると思ったから。それでも白い影は優しく諭すように続けた。

 

「今は無理に理解する必要はない、だが…人は死後地球上で生じる全ての真実を知覚する。その後死した魂たちは二つの選択を迫られる。…そのままアカシックレコードの一部となるか、アカシックレコードの管理を司る「観測者」となるか…二つに一つだ」

「…観測者?」

「君たちに分かりやすい言葉で訳すと、アカシックレコードは神そのものであり、観測者は「神の領域を見守る者」、ということになるか?」

「…っ!? 嘘…死んだら神様になるかもしれないの…?」

 

 僕はその虚偽のような事実を受け入れようとしていた、さっきから頭の中に浮かんでいる「感覚」もその一因になっているのだろう…しかし、白い影は初めて「否定」の言葉を口にした。

 

「確かに神には違いないが、そこに明確な意識は無くなるんだよ。選択と表したが実際は「試練」のようなものでな、アカシックレコードに記録される知識の海は「広大」であり、それに呑まれたものはそのまま世界の一部となり、以降転生も果たさぬまま世界の行く末を見守る機構と成り果てるのだ」

「っ、それが…集合意識?」

 

 あまりの自身の理解力に吐き気がするが、要するに人間は死んだら世界の意識(アカシックレコード)に呑み込まれ、そのまま一部になってしまう…それが僕らが「神様」と呼ぶ()()()()()()…らしい。

 

「アカシックレコードの膨大な情報の波を前に、未だ自我を保っていた者のみ許される「特典」…それこそが「転生」なのだ」

「…あはは、凄い…死んだら神様が融通利かせてそのまま転生、って訳じゃないんだ?」

「君の言わんとしていることも知覚出来るよ、その歪な感情もアカシックレコードに記録されている。まぁ…死を経たとしても早々事が上手く運ぶ訳では無い、ということだよ?」

「ですよねぇ…はは」

 

 なんだかなぁ…よく夢と現実との違いを見せつけられて挫折する、なんて言うけど…こういう感じだよね? 身も蓋もないなぁ。

 …とりあえず僕は情報整理のため、この場にいる神様みたいな存在(白い影)に尋ねた。

 

「観測者…は要は警備員みたいな立場なんですね?」

「端的に言えばな。世界は多くの可能性に満ちており、何千何万という世界線が存在する。それらの過去、現在、未来の人々の魂が此処に集うのだ、当然その質は不安定なモノで、あらゆる個が犇めく集合意識を束ね統一する「鋼の心」ないし「純粋な精神」の持ち主を世界は欲している」

「それが…観測者ですか?」

「然様。私はその中の一人という訳だ」

 

 死んだら天国か地獄か、じゃなくて神様か警備員かだなんて…結局悪いことしたら死んで悔い改める、なんて人間の妄想だったんだなぁ…。

 

「…っと、アカシックレコードの試練をクリアして、観測者になるんですか?」

「少し違うな、試練を克服した者には観測者になる「資格がある」と認められる。第二の試練、その選定を受けて見事遂行した者が初めて観測者に至るのだ」

「…っあ! その選定法こそが「転生」なんですね?」

「然様、転生を果たした折り世界より課せられし「使命」を果たした者が、初めて意識を保ったまま観測者に到達出来る」

 

 成る程…神様になるためには二つの条件があるのか。試練と転生…二回目の人生の時に世界の設定した「使命」を果たせば「神様(この場合は観測者)」になれる…ということか? 観測者もアカシックレコードの恩恵(全知全能)を得られてるみたいなので、神様と言っても差し支えないだろう。

 …"使命"ってなんだろう? 艦娘たちの「カルマ」みたいなものだろうか? その辺は何故かボヤけてる、さっきの感覚も無い。何だか聞くのも怖いし(ぶっちゃけ神様になるつもりないし)その辺りは聞かないでおこう。

 

「ん…? さっき貴方は「僕も観測者になるかもしれない」って言ってましたよね?」

 

 ここである疑念を抱いた僕の問いに「そうだな」という思いが伝わるジェスチャー(肩を竦めて両手を広げる)をする神さま。それが本当なら──

 

「じゃあ僕は事前に「アカシックレコード」の試練を耐えて転生したってこと? 僕そんなこと覚えてないし、妖精さんも何も言ってなかったし?」

 

 僕は覚えているのは、死んだ後妖精さんにこの世界に連れてこられ、特異点としてこの世界を救う使命が出来た…ってこと。最初は色々あって事実を隠してたみたいだけど。

 アカシックレコード…というか、僕にそんな「感覚」…で良いのかな? とにかくそんなこと身に覚えがないわけなのだが?

 

「覚えていないことが普通なんだよ。本来なら転生すれば死後知覚した知識も、生前の記憶も全消去(リセット)される…が、君の場合は事情が違うのだが?」

「えっ、それは…」

 

 脳の理解が追いつかないので問いかけようとした僕は、またも不思議な感覚を覚えた。頭の中に…答えが浮かんで来た。

 

「──アカシック・リーディング…?」

 

「然様、主に異世界への転生者に見られる現象だ。あぁ分かっているとは思うが、この名前もアカシックレコードも、その事象を表す言葉が無いので便宜上の仮名である…先に断っておくよ?」

「その…名前は分かるけど、このアカシック・リーディングとは?」

「要するに君は異世界に転生した際に、アカシックレコードと「曖昧」に繋がったまま来てしまった、ということだ。どうやらアカシックレコードに触れた「感覚」は、その拍子に抜け落ちてしまったみたいだな?」

「僕が覚えていないだけで、僕の魂はアカシックレコードには繋がったまま…ってことか?」

「そう。君が前世の記憶を覚えていることも、直感的に物事を理解出来るのも、その恩恵だろう」

「それが「アカシック・リーディング」…そうなんだ」

 

 つまり…本来の転生は何もかも忘れて現世に生まれ変わるのが普通、でも何らかの理由で異世界転生したら、そもそも世界同士の境界が曖昧だから、死んだら視ることの出来るアカシックレコードに「繋がったまま」転生してしまう…か。

 世界の叡智を生きたまま知覚出来ることを「アカシック・リーディング」と呼ぶ、か。…何にしても転生にも種類があったなんて、僕は流石に驚きを隠せないでいた。

 

「それでもアカシックレコードの恩恵はほんの一部だろう、今の君では事実の全ては知覚出来ない…「そうなんだろう」というぼやけた事柄しか理解出来ないだろう」

「んー、アカシック・リーディングのお陰で「僕ら」は前世の知識等を保てているんだね?」

「然様。それは異世界において異能と捉えても差し支えないだろう、前世の記憶と知識の知覚に+αしたものだと思えば良い」

「そうなんだ。…覚えていること自体が特異な能力だったなんて、異世界転生ってまだよく分からないなぁ?」

「そもそも異世界転生という状況自体、そうそう起こるものではないがね? 「干渉」が起きない限りは」

「…干渉?」

「そうだね、それは──」

 

 その時…。

 

 

 ──ドドドドドッ!!

 

 

 大地の震えに世界が揺れているような錯覚を覚えた。

 どうやら地震…というよりこの空間が「崩壊」しようとしているようだ(この知覚も"アカシック・リーディング"の能力みたい)。

 

「どうやら見つかってしまったようだ。いやはや長話が過ぎたな?」

「ちょ、ちょっと。これどうなっちゃうの?!」

「案ずるな、この空間は夢であると言っただろう。崩壊と同時に目を覚ます筈だ、都合が良いことに夢であっても君と私の会話は覚えていることだろうが」

「それも「能力」ってこと? …ぁあ良いよ、今知覚したよ「そうなんだよ」って!」

「ははは、もう二度と会うことはないだろうが、この情報を是非役立ててくれ給え?」

「分かった。それから…"綾波とユリウスさんを助けてくれてありがとう"、あの声は…そうなんだよね?」

 

 僕は頭に「あの時響いた声」を思い浮かべ、その声の主を察して微笑む、白い影も笑ってるかは見えないが「笑っている」ということは知覚出来た。

 

「私は君に選択を迫ったまで、助けたのは君自身だ。酷な選択だったと反省しているがな?」

「どんな風になっても、僕は二人を助けることを諦めなかったと思う。あの時の貴方の選択肢が無かったら、二人ともどうにかなっていた。だから…ありがとうございます!」

「いや…さぁ、もう行きなさい。君はもう「無知な愚者」ではなくなった。これから君がどんな選択をするか…この場所で観測させてもらおう」

「えっ、それはどういう……──」

 

 僕の疑問は空間の「崩壊音」により掻き消される、ガラガラガラ…と夜空にヒビが入り所々から岩のような塊となった空が海中に没する。夢で無ければ不可思議な光景だろう。

 そんな非日常の景色に見入り過ぎて、僕はあの白い影が最後に放った言葉を聞き逃していた。

 

「彼……を………る……許し……れ…」

 

 僕はそんな白い影の言葉を考えると…やがて意識が離れていく感覚になった──

 

 

 

 

 

・・・・・

 

『──どうして、教えたんですか?』

 

 

「…彼を見ていると、君のやっていることに疑問を感じてしまってね?」

 

 

『正当であるか無いか、の問題じゃないんです。彼に…余計な情報を与えないで下さい』

 

 

「…確かに、今君たちが対面している問題とは全く関係はない。だが…彼の「選択」には必要ではないかな?」

 

 

『何が不満なんですか、私は──』

 

 

「本当に彼を思うならば、真実を話した方が良いだろう? 今の君は…どんな悪よりも「醜悪」だと、私は感じるが?」

 

 

『何故そんな極論を…彼のために必要なこととは思えません』

 

 

「ほう、目的のために泳がし、必要以上の真実を語らず、我らの「意志」に反する調和を乱す行為の数々が"必要"なのか?」

 

 

『…ッ』

 

 

「君の立場を考えろ、これ以上のイレギュラーを「世界」は見逃さない、権能を超える力の行使を続けるより…彼自身の判断に委ねるべきだ」

 

 

『…………』

 

 

「…やれやれ、仕方あるまい。だが最低限の知識は教えた、後は彼ら次第だ。…どのような結末になろうと、恨むなよ?」

 

 

『…私は──』

 

 

 

 ──彼のためなら、どんな醜悪も受け入れます。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──名も無き鎮守府、仮眠室。

 

「…ん」

 

 僕が意識を取り戻すと、そこは…僕たちの「鎮守府」。

 

 最近は長期間の任務もあり、度重なる疲労が祟りおかしな「夢」を見ていたようだ。少し頭が痛い、脳が休まらなかったようだ。

 

 ──いや、夢では無い。アレは「本当に起こったこと」だ。

 

 そう感じている自分がいる、アカシックレコード、転生、そして…謎の白い影。

 全て覚えている、仮眠室のベッドから身体を起こすと、少しずつあの時の出来事を反芻していく。

 

「人が死んだらアカシックレコードに…試練を耐えて転生して…使命を果たしたら神様に…干渉? で異世界転生する。…干渉…誰に?」

 

 僕は反芻する内に当たり前の疑問に打ち当たる。そして…考えるまでもない単純な答えを浮かべた。

 

「(あの白い影…僕に何かを伝えようとしていたのか? だとしたら……)」

 

 ──コン、コン。

 

 僕が思考整理に耽っていると、ドアのノック音が響いた。

 

「はい?」

『タクトー? 金剛だけど起きてる? 入って良い?』

「あっ、どうぞ!」

 

 一先ず目先の事に集中しよう。僕の返答の後、ガチャリとドアノブを回す音と共にドアが開いた。そこには巫女装束を纏った美少女…艦娘であり秘書艦の「金剛」が立っていた。

 

「グッモーニン! タクト。ユリウスが呼んでるんだけど、皆との「会議」についてらしいんだよ」

 

 金剛の言う会議とは、元TW機関研究員であるユリウスさんから、機関にまつわる真実と今後の動向等を話し合う場のこと、それを設けるための下準備を僕らは連日手伝っていた。

 いよいよか…この異世界に転生してから数か月が経つけど、未だに終わりが見えない。それと言うのもあの全ての元凶といっても過言ではない「アイツ」の足取りが、全くと言っていいほど掴めていないからだ。

 ユリウスさんの協力も取り付けているけど、連合も深海研究所の資料を読み解くので手一杯だったので、足取りを追うために時間を割けなかったことも要因だ、僕らだけで出撃は出来ないし、焦って行動してまた取り逃がすことがあれば…今度こそチャンスはない。万全を期すために全員の意志を共通のものにしたい、そのための会議なんだ。

 

「そっか、じゃあちょっと待ってて。今から支度するよ」

「っあ、うん。…え、ええと。その…わ、ワタシ…も、一緒に、着替え手伝おう…か、な?」

 

 頬を赤く染めながら、何だか辿々しい口上で金剛は「誘い文句」を言ってきた。

 前の金剛ならそういったセリフも勢い良く出てきたものだったが、今の彼女は(いつそうなったのかは分からないけど)どうやら「記憶を完全に取り戻している状態」のようだ。

 というのは、金剛は僕が初めてこの世界に来た時からの仲だけど、今までの彼女は「記憶が曖昧」で、自分がどこから来たのか、自身の「力」が何を意味しているのか、艦娘として知って当然のことも知らなかったのも、本人ですら何も知らず見当がつかないでいたから。

 そういう意味では謎が多かったんだけど、今後はそういう矛盾というかモヤモヤした部分を本人から語ってくれるようなので安心している。流石に今は色々忙しいのでダメだけど、金剛自身の話では会議の場で話せたら全て打ち明ける、と約束してくれた(ユリウスさんともそういう手筈で進めているようだ)。

 僕としては今の金剛も好感を持てる。前の僕は金剛という「キャラ」が好きだったけど…この世界での金剛の人となりを、これから知っていけたら嬉しいと思う。

 

「無理しなくていいよ? 君は金剛だとしても、僕はありのままのこの世界の君を見ていきたいから…ね?」

「…うぅ…タクト、自分が恥ずかしいこと言ってるって分かってる?」

「そ、それは…異世界パワーというか…僕だって恥ずかしいというか…」

 

 

「「・・・・・」」

 

 

 …あぁ、またこれだ。最近は金剛が「奥手」になったせいか会話が長く続かない場面が多い。正直僕も話が得意なタイプではないので、少し困っている。優しく諭したつもりだったんだけど?

 僕は無理やり話を進めることにした。

 

「…ねぇ、ユリウスさんが呼んでるんだよね? 早く行こう…?」

「そ、そうだね! ゴメン…;」

「いや謝らないでよ。…っはは、じゃあ行こうか?」

「…ふふっ、うん、行こう!」

 

 お互いが力なく笑い合うと、僕らはユリウスさんの下へ急いだ…。

 




観測者「やぁ、白いおじさんだよ。これからは私が君たちに用語の解説をしたいと思う、では早速…」

○アカシックレコード

 神智学においては「元始からの全ての事象、想念、感情が記録される世界記憶の概念」と言われている、要するに「世界の真実が解る場所」ということかな?
 実在は証明されていないが、我々人間が死んだ際辿り着く知識の海と同一視出来るため、知識の海の仮称として名義している。…まぁ、元々似たようなものだが?
 アカシックレコードに落とされた魂たちは、膨大な世界の記憶を流し込まれる、大抵はそのままアカシックレコードの一部となるが、稀に全ての記憶の知覚に成功した「個」は、全ての記憶をリセットした状態で現世に「転生」する。輪廻転生の理、という訳だな?

・・・

○アカシック・リーディング

 いわゆる「異世界転生者」に見られる現象だ。
 アカシックレコードの中に入る魂を強制的に(干渉という形で)異世界へ飛ばす(転生させる)と、本来なら転生の際に失う前世の記憶を引き継いだ状態になる。これは世界の境界が曖昧なため「魂がアカシックレコードに繋がったまま」になっているからだ。
 世界の全てを知覚出来るソレと繋がりがあるのは大きな力に見えるが、実際は「前世の記憶+α」のことしか分からない、少しだけ物分かりが良くなった程度かな?
 そもそも異世界転生は、異世界側の干渉が無ければ起こり得ない。では誰が彼を……っふふ、そうだな。この言葉がどういう意味か、よく考えてくれ給え?

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