艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
単刀直入に言うと、今回のクロギリ編のヒロインは「翔鶴」です。大丈夫、ちゃんと金剛にも出番はあります。
──名も無き鎮守府、研究室。
拓人たちの鎮守府奥にある一室、そこは望月が様々な研究を行うため間借りしている個室。
5〜6人は入れるが比較的狭い部屋には、実験机に広げられた資料に目を通し、椅子に腰かけながら小さく唸る天才「望月」と、それを険しい目つきで見守る天龍。更に望月と向かい合う形で丸椅子に座る野分、額右側には異常の象徴として「白い角」が生えている。その横には…舞風。
野分の異常にいち早く気づいていた舞風、それもそのはず、野分の異常の原因と考えられる場面に彼女も居合わせていたのだ。
今までは様子を窺うため、この鎮守府で遠目から野分を見ていたが…彼女に異常が出たと聞き、居ても立っても居られず望月たちにそうなった原因を話していた。
「あのドラウニーアってヤツを野分が追い詰めて、心配で野分を探してた私が曲がり角から顔を出した途端に、アイツは「注射器」を投げて…それで…野分が…私を庇って…っ!」
泣き崩れそうになる舞風だったが、あくまで平静を装うために大きく深呼吸をする。
「…すぅ……はぁ……っ! …野分はきっと何かされたんだって思って、でも…始めはピンピンしてたから、私の勘違いかもって、でも…私…心配だったから」
「…成る程な」
彼女がこちらの鎮守府に居座る切っ掛けを聞いた天龍は大きく頷いた。望月はなんの返答もせずずっと野分の診断資料を見ていた…が、暫く間を置いて重い口を開いた。
「…”深海細胞”」
「…っ!?」
望月の診断結果に、その場の一同は驚愕の表情を浮かべる。
「深海細胞…とは?」
「アタシらが深海化したら、構成される肉体元素に異変が生じる。ソイツが「深海細胞」。艦娘にとって異常らしいヤツは穢れの魔力に侵されて機能停止に陥るが殆どだが、コイツはそもそも要因が違う」
「どういうことですか…?」
野分が質問しようとすると、静かにドアの開く音が響く。
「…望月、例の薬を持ってきた」
浅黒い肌の男性、ユリウスである。部屋に入ると彼は望月に「小瓶に入った錠剤」を手渡した。
「サンキュー。悪りぃなユリウス、アンタが来てくれてホント助かるわ~」
「フッ、こんなことで良ければいつでも言い給え。…それで、今何を話していた?」
「あぁ、深海細胞と艦娘の関連性について、だ。アンタが説明してくれた方が良いだろ。アタシが補足してくから好きに喋ってくれや」
どうやら件の深海細胞はユリウスから聞いた情報のようだ、望月が促すと、ユリウスは了承し語り始めた。
「…深海細胞は海中に漂う「憎悪」のエネルギーを艦娘の肉体が吸収した時、細胞レベルで肉体変化を生じ、艦娘を超常の力を備えた「魔物」に変えてしまうんだ」
「ま、魔物…?」
「要するに「深海棲艦」になっちまうんだよ。アタシもユリウスに聞いただけだから半信半疑だったが…そうか、沈まねぇと変化しねぇんなら、海魔石の光浴びたことあるアタシらにも、身体に異変があってもおかしくねぇもんな?」
「…憎悪とは? マナの穢れとはどう違うんだ?」
天龍の疑問に、ユリウスは言葉を選ぶように続ける。
「定義として、マナの穢れは人々の生命の活力となるマナが、負の感情に侵されることにより変質し「生命を奪う」魔力となること。対して憎悪はそんな負の感情の中で最も凶悪な感情を指す、怒り、悲しみ、憎しみ、嫌悪し、他者を攻撃することを厭わない、人を凶暴化させるもの。目には見えないものでは当然あるが、人は亡くなると最期の死に場所に「残留思念」として感情を宿すと言われている。その大半は否定…つまり自身の死への憎悪の念なんだ」
「…成る程、その残留思念が艦娘の身体に触れることで細胞から変化し、深海棲艦となる…という構図か?」
「沈んだら深海棲艦に、それは理解出来ます。噂の域を出てませんがそう言われ続けてましたから? ですが…何故ボクは深海棲艦に? 沈んでもいませんし残留思念も…おそらく触れていないものかと?」
野分の更なる捕捉に、舞風も強く頷く。しかし…ユリウスはこう付け加える。
「疑似的に「沈んだこと」にすることが出来る…と言ったら?」
「え…っ!?」
「深海細胞は、正常な細胞の遺伝子を「書き換える」ことによって起こる異常障害だ。艦娘の場合はマナの穢れに左右されやすい精神構造だがら、肉体の遺伝子を書き換えるのは「容易い」。具体的には、深海細胞を艦娘の体内に「直接注入する」こと、それにより細胞内に蓄積された憎悪が周りの正常細胞を侵食し、深海細胞へ変異させる。やがて肉体面でも精神面でも段階的に変化していき、最終的には…破壊衝動に駆られた悪鬼となる」
「っ! じゃあ、ドラウニーアが野分に注入したものは…!」
「おそらく、深海細胞入りの培養液だろう。ヤツのことだから野分君の変異によって君たちを内側から崩壊させようと目論んだのだろう」
「そんな…このまま行けば、ボクは皆さんを襲う怪物になってしまう…? そんな…そんなの、嫌です…っ!」
ユリウスの説明を聞いて、野分は身震いしてその結末を否定した。不安と絶望を湛えた顔はその場の誰もが彼女と気持ちを同じくした。
「安心しな、そんなことアタシらがさせねぇ」
望月はそう言うと、先程ユリウスから手渡された小瓶の錠剤を野分の手に握らせる。
「これは…?」
「コイツは艦鉱石の欠片を混ぜた特製の「拮抗薬」だ。コイツでとりあえずは深海化の症状を抑えられる筈だ」
「っ! 本当ですか!!」
絶望の淵に照らされた一筋の光に、野分は手放しで喜んだ。…しかし、望月は尚も沈んだ表情のまま話を続けた。
「あぁ、だがコイツはあくまて「深海化の進行を抑える」薬だ。根元を絶たなけりゃ…また直ぐぶり返すだろうぜ?」
「…っ、そんな…っ!」
「ユリウス、野分の深海化を治すにはどうすれば良い? お前の知っている限りで構わない」
天龍がユリウスに助け船を求めたが、彼はゆっくりと首を横に振った。
「残念だが…艦娘が沈めば深海棲艦に成るのは周知の事実だが、深海棲艦を艦娘に戻す方法は、機関でも確立されていないんだ。野分君の場合はまだ中途半端に深海化している状態だから…仮に戻せるにしても、どうなるか想像出来ない」
「…っち、ドラウニーアめ…最悪の置き土産をしやがった…!」
天龍は頭の中に、ドラウニーアのニヤついた嗤いを浮かべながら、乱暴な口調で小悪党を詰った。
…その時、ユリウスは望月に向き直ると提言した。
「…望月、これは提案だが。良ければ私の研究に付き合ってもらえないか?」
「あン? んだよ藪から棒に……っ! 研究ってまさか…!」
「勿論「深海棲艦を艦娘に戻す方法」だよ。野分君をこのまま放ってはおけないし、君が居れば早期に成果を出せると踏んでいる。君としても…仲間のために何かしたい筈だ」
「…ハハッ、良いのかい? アタシはムーンチルドレンで、アンタからしたらかつての実験体なんだが?」
「今更それを言うことはないだろう? 私は元機関研究員なのだから、それに君だからこそだよ。私一人で実験を繰り返すにも限度があるからな、君の「
「…いんや、望むところさね。仲間見捨てたとあっちゃあ大将にどやされそうだからねぇ? ヒヒッ。まぁ宜しく頼むよ?」
「あぁ、こちらこそ頼むよ」
皮肉笑いを浮かべながらも、望月はユリウスと固い握手を交わし、共同で深海化した艦娘を元に戻す実験を執り行う。全ては野分を救うために…!
「お二人とも…ありがとうございますっ!」
「良かったね野分、まだ油断しちゃダメだけど、何とかなりそうだね!」
「マイマドレーヌ、それに皆さん。ありがとう、ボクは…コマンダンや皆さんに会えて、本当に…良かった…っ!」
野分はそんな二人の「美しい」心意気を垣間見ると、感極まった顔となり二人に深い謝意を表した。
「待て、そういうことならそれで良いが問題が二つある」
天龍の言葉に、ユリウスは深く頷くと彼女の心配事を言い当てた。
「タクト君たちにこのことを伝えるか、そして…野分君の「ソレ」をどうするか、だね?」
ユリウスが指差した先には、野分の額に堂々と聳え立つ「白い角」が。天龍は少し面食らいながらも続ける。
「あぁ、タクトや金剛たちにこのことを伝えるか、仮に伝えないなら野分の角を何とかしないと…直ぐにバレるぞ?」
彼女の言い分も尤もだが、早い話は拓人たちに全てを伝えること。だがこのまま拓人たちに伝えて良いものか、艦娘たちは思い悩んだが、ユリウスは眉間に手を当てると回答した。
「…いや、まだ伝えないでおこう。彼にとって今は大事な時期だ、こういってはなんだが下手に野分君の異常を伝えれば、彼の混乱を招くだろう」
「ユリウスさんの意見に賛同致します。ボクは…コマンダンの戦いの邪魔をしたくない、寧ろボクは彼の力になりたいと存じます」
「野分…」
野分のどこまでも真っ直ぐな想いに、舞風は感嘆を漏らし、天龍や望月もその意見を肯定する。
「野分、何か異常があれば俺に頼れ。可能な限りサポートする」
「ありがとうございます、マドモアゼルテンリュー。…しかし、そうなるとこのツノは如何いたしましょうか?」
「ま、そのくらい何とかなるだろ。あぁ因みにその拮抗薬じゃあ角は元に戻せないからな、隠すなりしねぇとな?」
「よぉーし、ノワツスキー! ちゃんとツノ隠して皆と一緒に戦えるようにしないとね!」
「マイマドレーヌ、皆さん、重ねがさね感謝致します…っ!」
こうして野分を絶望の淵から救出するため、各々尽力する。
果たして、沈みかかりし美の探求者は、深海より浮かび出ることが出来るのか──
・・・・・
──名も無き鎮守府、海岸。
鎮守府を出て正面に向かうと、砂浜から青い海の広がる絶景を拝むことが出来る。
その砂浜を遊歩するのは、拓人艦隊きっての実力者であり唯一の空母である、銀色長髪の艦娘「翔鶴」。
どこか安らいだ表情で砂浜を歩むその姿は、容姿端麗も相まって「水辺の女神」と称されてもおかしくない。しかし…惜しむらくは彼女の顔には「鋭く光る眼」と「釣り上がった眉」があり、それが彼女を険しい表情にさせていた。
最初期はまるで人を寄せ付けない態度とキツイ言動で、拓人たちとも距離を取っていた彼女。しかし…良い意味で明るいキャラクター性のある拓人、金剛、その他メンバーと触れ合いを重ねていく内に、物腰も徐々に柔らかくなっていき、キツイ言動こそ変わらないものの協調性も見せるようになっていった。
翔鶴は穏やかな足取りで、辺りを見回しながら優雅に散策していた。気分転換のつもりだろうか?
「…あら?」
暫く歩いた後、翔鶴は彼女から見て正面遠方にて、複数人が集まって何かをしている場面を見つける。
近づいてみると、そこには大きな日傘の下、ホワイトウォッシュテーブルに広げられたティーカップとお菓子、そして椅子に腰かけてテーブルを囲む「綾波」たちの姿が。
「綾波、何してるの?」
「っ! 翔鶴さん。はい、今姫様たちと歓談を嗜んでいたところです」
翔鶴に問われ振り返る綾波は、嬉しそうに回答した。見るとテーブルを挟んで綾波の前にウォースパイト、二人の間に不知火が座っていた。
「Hi,Shokaku. ご機嫌いかがですか?」
「えぇウォースパイト。それから不知火も」
翔鶴の来訪にウォースパイトは笑顔で答え、不知火は無言だが穏やかな表情でお辞儀をする。
「歓談か、良かったじゃない。一時は本当に仲が悪そうだったもの」
「えぇ、お恥ずかしい限りです。でももう大丈夫ですよ、私も不知火も綾波に隠し事はもうしたくないもの、ねぇ?」
「…そうですね。これからは一心同体で事に当たりたいと思います、それこそ…あの頃のように」
ウォースパイトも不知火も嬉しそうに微笑む、穏やかな海風が吹くと、彼女たちの髪はふわりと持ち上がる。…綾波が勝ち取った、ひと時の平穏がそこに在った。
「(…少し、羨ましいわね)」
翔鶴はそんな彼女たちを見て、寂しそうに表情を暗くした。綾波は翔鶴の小さな変化に気づくと、翔鶴に声を掛ける。
「翔鶴さん、宜しければこちらで休んでいかれてはどうですか?」
「え…?」
「まぁ! それはいいわね? 椅子もちょうど一席空いていますよ」
ウォースパイトはそう言うと、彼女と綾波の間にある白い椅子を示した。彼女たちは特に気にしている様子もないので、このままお邪魔しても…そんな淡い期待のような思いもあった。だが──
──最低…っ!
「…っ!」
「…翔鶴さん?」
翔鶴は在りし日の思いに駆られると、頬に冷や汗を垂らしながら綾波の声に反応する。
「っへ? ぁあ何でもないの。…ごめんなさい、少し気分が悪くなったから。部屋に戻って休むわ」
「そうですか? 大丈夫ですか、ご自愛くださいね?」
「本当に大丈夫よ、ありがとう。…じゃあね?」
翔鶴は申し訳なさそうに謝意を表すと、踵を返して鎮守府へと戻っていった。綾波はそんな彼女を心配そうに見送っていた。
「…っ」
綾波たちから離れた翔鶴は、一人身体を寒気立てていた。…震えが止まらない、あの日の映像を頭で再生する度、反芻するたび…恐怖が沸き上がる。
「…駄目ね、このままじゃ…折角…前を向く切っ掛けが出来たのに…!」
震え慄く我が身を両腕を交差させ抑えつける。そしてその後…何かを願うように、晴天を見上げる。
「…天龍、綾波、そしておそらく金剛も、自分の「過去」と向き合ってる。私も…いい加減向き合わないと、かな?」
翔鶴はそんなことを呟きながら、来るべき「自身の過去」との決着を覚悟した。
○深海細胞
艦娘が憎悪の念に晒された時、細胞レベルで肉体に大きな変化がある、その時憎悪が宿ることで白く変色した細胞こそ「深海細胞」だ。
艦娘の肉体は人体と違い感情に左右されやすい、よって最も凶悪な感情の一つである「憎悪」は、彼女たちの肉体を「別モノ」に変えてしまうほどに影響力がある。
かつての海魔大戦により多くの命が水底に沈んだ、その残留思念には無念や怒り、行き場のない悲しみが含まれると予想出来る。つまりは艦娘が沈むと深海棲艦に成るというのは(少なくともこの世界では)必然であった。
多くの場合、深海棲艦になる艦娘を元に戻す方法は確立されていない。君たちや拓人君なら「倒せば元に戻せる」と言うだろうが、それも「確率」の問題だろう。
野分が深海化しているようだが、彼女たちは果たしてこの問題にどう向き合うのか…見ものだな?