艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
皆さんすみませんが、とりあえずお話進めさせて下さい。
「……はぁっ」
翔鶴の話が終わると、僕は深くため息を吐いた。
予想しなかった訳じゃないし、綾波の先例もあるし…心構えは出来ていたと思う。
「(でもこれは…想像以上だな?)」
先ず要約すると、翔鶴は艦娘騎士団崩壊により誕生した「異能部隊」の一員だった。でも…何者かの罠に掛かって彼女は…大切な妹(この世界では仲間)である瑞鶴を喪ってしまった。
現場にいたのは、同じ異能部隊であるサラトガ、プリンツ、酒匂、陰湿指揮官のナベシマとかいう人、それと…閉鎖された南木鎮守府の中で未だに健在であろう、選ばれし艦娘最後のヒトリの長門。
…成る程、長門なら長良たちの言ってた「規格外」の強さも頷ける。それにしても鉱石を身体から生やすとは…今更驚かないけどね?
──これが翔鶴の過去、か。でも話の展開的に「アイツ(ドラウニーア)」が裏に居ることは間違いない。しかしそれ以上に不可解な点が多すぎる。
・南木鎮守府に居たとされる「白衣の男」の正体。
・任務前夜に瑞鶴たちの様子がおかしかった。
・任務当日に由良が居なかったのは?
・まるで見計らったように現れた長門も怪しい。
・そもそも鎮守府崩壊の直接の原因も分からない。
その白衣の男がドラウニーアなのだろうか? 僕は直接会ったことはないから何とも言えないけど…。
瑞鶴やサラトガの様子が変だった、というのも聞き捨てならない。この二人は任務前日に自分たちの身に迫る危険性を感づいていたけど…それと何か関係が?
由良の不在、そして長門の存在からも察するに…矢張り裏で「何かがあった」と思う、翔鶴の与り知らないところで…彼女の運命を歪ませた何かが。
「(…翔鶴)」
僕は翔鶴の方にそっと目配せをする、彼女は──恐いくらいに落ち着いていると思われるが、その眼に淀む「絶望」は誤魔化せない。
これは
あくまで僕の価値観から言えば、人はどんなに愛想よく振る舞っていても周囲の人間が「怖い」んだ、他者から傷つけられたくない、拒まれたくないと思うからこそ、多くの人々は否定を退けるために自分も人に優しくするのだろう──酷い言い方になるけど、善意的な行動を批判する輩は少ないからね。それが…愛する人に相応しい人物になりたいから、というなら尚更だ。
──それが心からの優しさなら良いんだ、でも…どんなに言い繕っても「自分本位」な人間は存在する。悪い意味とかじゃなくて「それが自分」なんだ、定められた自分は誰にも変えられない。…例え大衆にとっての「悪」であったとしても、ね。
相手にとって理想の自分を演じても、そこに「自分」が居なければ長くは続かない、人に気に入られたいからとそれこそ「人形」のように、何も考えず従順に…そんな「他人ありき」の生き方だと、ココロの奥に居る自分が押し潰されてしまうんだ。
そんな生活を送り続ければ、当然精神は摩耗し続けてやがて限界が訪れる。そうなれば後は爆弾を着火するだけだった、そのタイミングで瑞鶴が失われた、彼女を喪ったショックは爆弾の点火には十分だった。
もちろん彼女の生き方は否定出来ない、それは当たり前の考えなのだから。
──こんなこと起こるなんて、誰も思わないのだから。
「…これが、私の過去よ」
翔鶴の低いトーンから発する言葉は、深い影を感じさせた。
彼女の日常は音もなく根こそぎ奪われた、その感覚は僕も覚えがあるので理解出来る、でも…ただ居場所を奪われただけではない。裏切られ、喪い、狂い、そして──否定された。
決して僕と彼女は似ている、などと軽く言えない。似ている部分もあるかもしれないが…彼女の淀み、深さは「それ以上」だったのだろう。
…それを理解している、だからこそ胸は締め付けられ同時に不安が過ぎる。僕は…彼女を救えるだろうか?
「南木鎮守府が崩壊して以降、私はアサヤケ海域を離れ深海棲艦の討伐隊に志願した。瑞鶴を討ったヤツらを根絶やしにするために…復讐するためだけに今まで生きてきた」
「…復讐か、じゃあ仮に…君は深海棲艦を滅ぼした後…どうするつもりだったの?」
僕は刺激しないよう慎重に言葉を紡ぐ、しかし…彼女は深い闇を湛えた瞳を僕に向けると、怨嗟を呟く。
「──シぬつもりだった、というより…ヤツらとの戦いの中で討ちシねば、早く彼女に会いに行ける。瑞鶴だけが最期まで私の側に居てくれた。彼女の居ない世界に未練なんて無い、そんな思いも…あったわ」
「っ、翔鶴…!」
取り返しはつかないか…僕はどうするべきか悩んだ、しかし──
「──でもね、今は少しだけ向き合っていけてる…かな?」
「…え?」
意外にも翔鶴は、自身の絶望的な過去と向き合える余裕が出来た、と爽やかな雰囲気を纏っていた。あれだけのココロを抉る出来事を受け入れた…?
何故? そう理由を問いかける僕に対し翔鶴は、人差し指を僕に向けて差した。
「…僕?」
「そう、ハジマリ海域で任務に当たった時。レ級の砲撃を貴方が身を挺して受けてくれたあの時…私は瑞鶴の元に行くため敢えてあの凶弾を受けようとした」
「…そんなこともあったね」
「あら、素っ気ないわね? まぁ…あの時は本当にどうして庇ってくれたのか分からなかった。私にとってニンゲンは…身勝手で信用ならないモノたちだったから。それでも貴方は力強くこう言ってくれた──」
『──綺麗事だからなんだよ! 命もらったら生きろよ普通に!! 君に何があったか知らないけど、僕についてくる気があるなら、二度とこんなマネするな!!』
あぁ…あったねぇ。あれは…いつものその場の勢いというか…子供染みた言動だったって自分では思っているけど?
「あれから…私は貴方を「かつての提督」と重ねるようになった。もちろん性格は大分違うんだけど…もし、彼が今の私を見てくれていたなら…同じこと言ってくれたのかな? …なんて、勝手な妄想して」
「そんなことないよ、きっと提督さんも同じこと言ってくれたよ。だって…聞いてて彼が君たちを嫌うような要素があったとは思えない。同じ艦娘を慕う者として…それだけは理解出来る」
「…ん、ありがとタクト」
「良いんだよ、本当のことだし…ね?」
「…ふふっ」
僕に対して柔らかな笑みを浮かべる彼女は…未だに影が見えるものの一筋の光を見出そうとしていた。
そうか…知らない間に僕が彼女の「支え」になっていたようだ。良かった…これで──
「──…待てよ?」
ここで僕はあることを思い出す。…そう、アンダーカルマ。
妖精さんよれば、過去を語ることで好感度が無理やり上がり「アンダーカルマ」が表示される。それにより僕は絆を紡いだ艦娘たちの心情を感覚的に知ることが出来る。
翔鶴の様子を見るに、彼女の過去は全て語り尽くした。翔鶴が何かを隠しているとも嘘をついているとも思えない、何も違いはない筈。…明らかにおかしい。
「妖精さん…は居ないし、こんな時は…」
僕は目を瞑り集中する…すると、頭の中にぼんやりとした「キーワード」が浮かんだ。流石「アカシック・リーディング」だ、頼りになる能力だなぁ。
「…タクト?」
「あぁごめん翔鶴。…あのね、今から突拍子もない話をするけど…いいかな?」
「…何かしら?」
翔鶴は僕に向けて身体を寄せて聞く姿勢を作った。僕は…彼女の「改二」について話した。
「…っ! 私にもカイニが…?」
「そう、それも原作でも上位の強さを誇る空母になるんだ。だから…この世界でも君の改二改装が出来たら、きっとこれからの戦いを有利に進めることが出来る。でもそのためには…ある一定の条件が必要なんだ」
そう前置きをすると僕は、この世界の改二になる条件…艦娘との好感度、そしてアンダーカルマについて話す。…気のせいだろうか聞けば聞くほど彼女の顔が呆けていっているような、まぁ無理もないが?
「…という感じで、君が僕に対して…こ、好意を持てばもつほど改二に繋がるんだ。それに加えて「アンダーカルマ」にも向き合わなくちゃいけない」
「…なんというか、出来過ぎているわね。ダレかの思惑というか…歪んだ思考を感じるわ」
「うん、言いたいことは解る。でもこれが多分見ている人たちのニーズに答えていると思うんだ」
「意味は解らないけど、その「見てるヒト」っていうのがどうしようもないヤツらだということは解るわ」
「辛辣だなぁ…まぁ否定しないけど」
「…そう、
「え!? そ、それって…?」
「もう、だから言いたくないのっ」
そっぽを向く翔鶴は頬が赤みを帯びているのが確認できた。…そういう事だよね、最近は慣れたとはいえ…やっぱり気恥ずかしさは拭えない。
…僕は一つ咳ばらいをすると、気を取り直して話を続けた。
「なら矢張り「アンダーカルマ」だ、本来なら君が今過去を語った時点で僕の前に「君の過去」が表示されるはずなんだ」
「その…会議で天龍たちが見たっていう光る板のこと?」
「そう、でも…今僕の前にそれらしい板は見当たらないんだ」
「えっ!? わ、私嘘は言ってないわよ?!」
「もちろん僕もそう思ってるよ、でこれは僕の予想なんだけど…これは君が改二で持つ「能力」に深く関わるからじゃないか…と思うんだ」
「それ…どういう意味?」
翔鶴の疑問を聞き、一呼吸置くと僕は「頭の中の結論」を話す。
「君は知らなくちゃならないんだ、あの日…南木鎮守府が崩壊したあの時、君の周りで何が起こっていたのか、君の日常を奪った要因を…君自身の手で調べなくちゃいけない。そうでなければ…アンダーカルマも好感度も上がらないんだ」
「…っ、つまり…あの事件の埋まっていない「ピース」を集めて私自身の過去を完成させなくちゃいけない…ということ?」
翔鶴の的を射た答えに僕は静かに頷いた。すると──彼女はみるみるうちに顔に陰を作っていく。
「…どうしたの?」
僕は彼女に尋ねる、翔鶴は青ざめ不安の色を隠せない顔を僕に向けた。
「タクト、私怖いの。あの全てが変わった過去に全力で向き合うのが、私を嫌っていたヒトが居た。私を裏切ったヒトが居た。私に…呪いを植え付けた娘が居た、そんな過去に向き合うのが…怖いの」
「翔鶴…」
完全に過去が自身のトラウマとなったようだ、翔鶴は身震いすると両腕を交差させて震えを止めようとしていた。
過去に向き合える余裕が出来たとはいえ、彼女にとって受け入れ難い事実であることに変わりはない。誰しもが物語の主人公のように前に進むことは出来ないんだ。
「解るの、私はまだ「あの頃のまま」なんだって。誰にも受け入れられない自分を抑えて、それでも我慢出来なくなって傷つけて…そんな自分から今まで逃げていた。私…あの時のシスターたちみたいに…ダレかを傷つけるのが…怖い…っ!」
「…そう」
僕はその言葉を聞いた直後──衝動的に彼女の横へ近づくと…震える身体を「抱き寄せた」。
「大丈夫、君は何も悪くない…悪くないんだ。例え…ダレかが君を傷つけても、君がダレかを傷つけても、僕は…君の味方だから」
「…っ、タ……クト…っ!」
翔鶴は僕の胸の中に埋(うず)まると、まるで小さな子供のように…泣いた。
彼女の背中を優しく擦りながら僕は思いを馳せた…やっぱり、彼女と僕は似ているみたいだ。
『──ごめんなさい…』
頭の中で思い浮かぶ「彼女」を喪った恐怖が…僕に熱を帯びさせた。
「(必ず乗り越えるんだ…翔鶴や皆のためにも、必ず…!)」
翔鶴の「恐怖」を僕の過去に重ねながら、僕は自分に言い聞かせるためにそう心で呟いた。
・・・・・
──クロギリ海域の任務開始前日、僕は連合鎮守府のカイトさんの元を訪れた。
「君が一人で尋ねてくるなんて珍しいね? …それで、用件を聞こうか」
「実は──」
僕はカイトさんに「翔鶴の過去」を話す、僕の言葉で間接的に翔鶴の辛い出来事の数々を聞いたカイトさんは…深いため息を吐く、僕と全く同じリアクションをする。
「…そうか、彼女が連合を目の敵にしていた理由はそれか」
「はい、それで…カイトさんは長門が請け負っていたという任務について何か知りませんか?」
僕の質問に対し、ショックを隠し切れないカイトさんは頭を掻いて回答した。
「残念だが…当時から連合総帥から受ける任務は「機密事項」であり、任務を受けた者以外にその情報が回ってくることがないんだ。それこそ君の推測通りなら、彼女の任務は恐らく「ドラウニーア関連」と見て間違いない。ヤツはどこから情報を手に入れてくるか分からない以上、安易に知られるわけにもいかないだろう」
「…歯痒いなぁ、仕方ないことだとは分かるけど」
「そうだね。…それで用件はそれだけかな?」
「あ、いえ。もう一つだけ──」
そう言うと僕は「あること」をカイトさんに頼んでみた。
「──面白いね?」
「翔鶴はあんまり喜ばないだろうけど…彼女の力を最大限解放するために必要なことなんです、お願い出来ますか?」
「分かった、掛け合ってみよう。…彼女のためか、中々成長したじゃないかタクト君?」
「はは、カイトさんには敵いませんよ…では、よろしくお願いします」
「あぁ、任されたよ」
僕はカイトさんに挨拶を済ませると、そのまま部屋を後にした。
「…すっかり人が変わったようだ、まるで人見知りの少年だった彼が…感慨深い」
さて、僕も負けないぞ。僕の耳にカイトさんがそんな風に大声で喋っているのが聞こえた…。
・・・・・
──クロギリ海域、道中。
翌日、僕たちはクロギリ海域へ赴いていた。
それまで晴天だった空は次第に黒く染まっていき「曇天」となり、風も強く吹き荒んでいく。僕らは周囲を警戒しつつ黒の海域を駆ける。
当面の目的は南木鎮守府の現状の把握だ。南木鎮守府周辺には黒い霧が漂っているから近づけないけど…翔鶴の話から「異能部隊の生き残り」がこの海域の何処かに居るらしいから、彼女たちに話を聞こうと思う。…ボウレイ海域の例があるから、すんなり見つかればいいけど?
調査隊メンバーは当然のように僕、そして金剛、翔鶴、天龍、綾波、野分、そして…"舞風"。
望月はユリウスさんと共に「対黒い霧装備」開発の最終調整に入っている、調整自体時間がかかるものじゃないので2、3日で合流予定だそうだ。
「………」
僕は隊列の後ろに配置されていたので、彼女たちの様子を確認する。
金剛、天龍、綾波の三人はキビキビと先頭を走りながら周囲を警戒、目配せとジェスチャーで連携しつつ異常がないか見張っている。
翔鶴は偵察機を出してくれているが…やっぱり肩に力が入ってるみたいだ、緊張してる…まぁするなと言う方が無理な話か?
でも…一番目に入ったのは野分と舞風だった。
「…はぁ」
「野分〜どうした〜〜元気ないぞぉ〜う!」
「…マイマドレーヌ、貴女が元気ならボクはそれで充分です」
「私が野分が元気じゃないならヤなのー! もうしっかりしてよぉ、はいっニィーーー!」
明らかに落ち込んでいる野分を、舞風が無理やり指で口角を引っ張って笑顔を作って励ます。しかし…それでも野分はため息を吐くばかりだった。
「…どうしたの野分?」
「っ!? あ、いえっ。コマンダンのお手を煩わせるわけには…!」
「そうそ、なーんにもないから! 心配しないで〜なはは〜〜」
二人がそう言って苦笑いを作るが、見たら分かるけど「空元気」もいいとこだ。何か隠してる…というより「言えない事情」があるんだろう。
「(アカシック・リーディングは──…ん、駄目だ応答なし。肝心な時に使えないなぁ)」
色々理解出来るから野分たちの隠してることを…って思ったけど何も分からなかった。理解出来る範囲が曖昧で分かりにくいんだよなぁ、まぁ本人たちが大丈夫と言っているし…?
「…んー?」
ふと僕は野分を注視する、不意に見つめる僕に対して何処かビクビクしながら不安の眼を向ける野分。
「な、何か…?」
「ん、良い帽子だね?」
「ドキィ!?」
「ま、舞風! …あぁはは、決戦に向けてボクも決意を新たに変えたいと…?」
「ふむ、正に「サ○ァイア」ですな?」
「…え?」
「宝石ですか?」
「いや、僕の居た世界でね。架空の存在だけど「男装の麗人」的な美少女がいるの、その娘のトレードマークが「大きな帽子」と「大きなリボン」だったんだよ」
「は、はぁ…?」
「良いねぇ…うん、良し。今日から君のあだ名はサ○ァイアだよ」
「え」
「今日から君は──サ○ァイアだっ!!」くわっ
「「ええぇ〜〜〜っ!?」」
「…おいタクト、野分が元気ないからと意味不明な言動で笑いを取ろうとするのは止めろ」
僕の渾身の一発ギャグを天龍に見透かされてしまった。
「ショック〜」
「司令官はお優しいですね。野分さん、どうか元気を出して下さい?」
「うんうん、元気が一番だヨー!」
綾波と金剛も野分を励ます、彼女は気恥ずかしそうに「ありがとうございます」とだけ言って嬉しそうにした、僕もその様子を見て静かに微笑む。…しかし。
「(…言えるワケない、そんな…ボクが深海棲艦になるなんて、お優しいコマンダンや皆さんに…っ)」
どこか苦しそうな表情をして、野分は下を向いてしまう。
天龍と舞風はそれを見て…何かを察したような哀しい顔をする。
「…天龍、何があるかは聞かないけど…せめて野分を、守ってあげてね?」
「っ! …あぁ、分かっているよ」
僕は天龍の微笑みと信頼を込めた言葉に満足そうに頷いた。…野分、彼女のことも翔鶴と一緒に注意しておかないと。
「…っ! 前方に影あり!」
翔鶴の口から、翔鶴航空隊の伝令が伝わる。僕らは目の前の海を注視する──
「……」
「来た…っ!」
海上の水平線に現れた人影は、初めは小さな豆粒のように映るも、近づくほどにその等身とシルエットを表す。
黒のノースリーブワンピース、茶髪のポニーテール、ついでに長いエルフ耳。間違いない「サラトガ」だ、またボウレイ海域の時みたいに虱潰しを覚悟してたけど、向こうからやってくるとはね?
翔鶴の情報では、彼女はプリンツと酒匂と共にクロギリ海域に残り、長門の帰りを待ちつつ危険海域と化したこの海に入る者たちに警告を入れる、謂わば「門番」のような役割をしているみたいだ。
彼女からこの海域の現状と…願わくばあの時に起こったことを洗いざらいしてくれると助かるんだけどなぁ?
「…懐かしい艦載機が飛んでいると思い急いで駆け付けましたが…やっぱり貴女だったんですね、翔鶴?」
「…っ」
サラトガは…ん? 嬉しいような哀しいような…よく分からないな、ポーカーフェイスになっていて考えが読み取れない。翔鶴に対する複雑な感情を表しているのかも?
対して翔鶴は──力んでいた肩が更に持ち上がる、どこか恐怖の色が垣間見える。…サラトガを前にして、過去が蘇ったのだろう。
「(…このままじゃ駄目だ)」
僕は危険がないと判断し、金剛たちを掻き分け前に出る。…お、大きい。いや勿論背丈がね? 本当に大きいんだ…普通の女性の一回りは大きいな、スラっとした立ち姿が僕に緊張を持たせた。
「…貴方は?」
「僕は翔鶴たちの指揮を取らせてもらっている「色崎 拓人」と言います。貴女が…サラトガさんですね」
「っ、そう…貴方が翔鶴の? …フフッ、彼女との交流はさぞ大変でしたでしょう?」
「えぇまぁ、それは否定出来ませんが」
「ちょ、ちょっと!?」
サラトガとの会話が変な流れに入りそうになることを見かね、堪らず翔鶴は制止を入れる。…んー、でもこの際言っちゃおう、向こうの警戒も解きたいし?
「最初は本当にどうなるかと思いましたよ、マジで殺されるんじゃないかってぐらいに睨みつけてくるし」
「…っ!?」
「すぐ僕のこと「これだからニンゲンは~」って馬鹿にして、でも眼を離したら沈もうとするし…そりゃもう大変でした!」
「まぁ…」
「うぅ…もういっそコロして…!」
翔鶴は、まるで黒歴史をほじくり返されたみたいに顔を真っ赤にしてた。金剛たちも苦笑いしてる、僕も言い過ぎかなとは思う。
でも──
「──でも、それでも彼女の力添えがなければ、僕はここまで来れなかったと思っています。彼女には…感謝してもしきれません」
「…っ! タクト…」
僕は今までの翔鶴の活躍を反芻しながら、心からの言葉で彼女へ謝意を表す。その様子を見てサラトガは──
「…そうですか、それは本当に良かった。本当に…翔鶴に親身にして頂き、ありがとうございます」
サラトガはそれだけ言うと、深いお辞儀をして感謝を体現した。僕もそれを見てお辞儀を返した。
──うん、この人は「良いヒト」だ。良いヒト過ぎて…他人から疑われるぐらいの善人だ。
向こうも何かを感じ取ったのか、頭を上げると朗らかに笑う。
「…フフッ。良い指揮官に巡り合えたようですね翔鶴? 提督も…お喜びになるでしょう」
「サラトガさん、僕たちは…」
「タクトさん、どうか私のことは「サラ」と呼んでください? …貴方がたがここに来た理由は分かっているつもりです。場所を変えましょう、ついて来て下さい!」
僕たちを信用してくれたのか、柔らかい笑みを浮かべるとサラトガは僕たちを話し合いの場へ案内してくれるようだ。
「…タクト」
「大丈夫だよ翔鶴、サラさんは良いヒトだ。裏表なんてないよ? 僕が保証するから…ね?」
「…うん」
いつものツンケンした態度とは打って変わり、今の翔鶴は震える子犬のように僕の後をついて来る。
…この海域に眠る翔鶴の過去、彼女がそれと向き合えるまで──
「──僕は…彼女の味方で居る、絶対に…!」
サラトガに導かれながらも、僕の熱は決意へと変わっていった…。