艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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 皆さん、お伝えしたいことがあります。実は──















 明日仕事で大阪へ、日帰りで行くことになりましたっ!

 時間が無いので(誠に勝手ながら)明日投稿しようと思ってたこの話、今日投げ込みたいと思いまする!!

 こんな夜中にすみません、そして誤字脱字あればスンマソン!!!

 …あ、例の如く展開早めでぇす。


信じ抜く強さを、君たちから教わったんだ。

 僕はサラさんの話を聞いて、瑞鶴たちのやり取りを垣間見て察する部分があった。

 

「つまり…あの時の連合や提督さんは焦っていて、あの時の状況も本意ではなかった…ということか」

「はい、罠だということも重々承知の上で任務を承諾していたのでしょう。それだけ主犯を捕まえることを重要視して…出来なかったとしても何か足掛かりになるものが欲しかったのだと思います。決して…彼が好んで私たちを「あの地獄」へ放りだしたわけではないんです」

 

 サラさんの訂正に合点のいった僕は黙って頷いた。

 そっか…もう一人の研究員のことは、後でユリウスさんに聞くとして…どうやら深海棲艦が現れたのは、鎮守府崩壊事件が初めてじゃなかったみたいだ。

 瑞鶴の昔の部隊は深海棲艦に滅ぼされた…か。彼女は最初から任務の危険性に感づいて、それでも翔鶴たちを守るために…。

 翔鶴には酷な話だとは思うけど、提督さんの気持ちが知れたのは良かったと思う。涙を流すほど彼女たちを大事に思っていてくれたのか…。まぁ組織の上層部に居る者として、私情で行動出来なかったのだろうな…?

 

「あの…提督さんはその後どうなりました、何だか今生の別れみたいに言うから…はは?」

「………」

 

 …僕の問いにサラさんは答えず、深く俯いたまま何かに「謝る」ように佇んでいた。

 

「…サラさん?」

「あの鎮守府崩壊事件の後…私はナベシマさんと会話したことがあるんです」

 

 ゆっくりと、重い口をそれでも動かして…サラさんは事実を告げた。

 

「あの鎮守府崩壊事件当時、提督は…燃え盛る鎮守府で生存者を逃がしていたそうで。ナベシマさんがボートで逃げた際に一緒に来るよう催促したのですが──」

 

『──ごめん、責任取ってくるよ』

 

「…それだけ言って、鎮守府内に居残ったそうです」

「っ!? それって…!」

 

「はい、ユージンにも酒匂にも言えず仕舞いでしたが…おそらく提督は…もう…っ」

 

「…っ!」

 

 そんな…てっきりどこかに避難でもしていたと思い込んでいた僕は、ショックで堪らず呆けてしまった。

 提督さんはもう「この世には居ない」という残酷な現実。まさか…言い方が不味いかもだけど、プリンツたちならまだしも…もし翔鶴が今の話を聞いたら──

 

 

 ──ガサッ!

 

 

「…っ、誰!?」

 

 草むらから何者かの動いた音がした。僕とサラさんはその音のする方へ一斉に振り向いた、すると──森の奥に走り去っていく「銀白の髪」の人物が。

 

「まさか…翔鶴、今の話を…!?」

「っ、あぁもう!」

 

 驚くサラさんの横を咄嗟に駆け出す僕、森の奥に逃げた翔鶴を追いかけて行く。

 

 言わんことじゃない、とにかく今の彼女は不安定なんだから、誰かが傍に居てやらないと…!

 

 僕はそう頭で考えながら、震えているであろう彼女の元へ急いだ…──

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 僕は翔鶴を追って、デイジー島の森の奥へ足を運んだ。

 

「翔鶴!」

 

 そこは水の湧き出る泉だろうか? 木々に囲まれた水辺に一人佇む彼女を見つけて声を掛けた。

 …しかし案の定で、彼女はこちらを振り向こうとしない。泣き顔を見られたくないんだろう…。

 

「翔鶴…?」

「──馬鹿よね、私」

 

 いつものハキハキとした声と違い、儚げで今にも消えかかりそうな声で…翔鶴は独白を始めた。

 

「信じていたのに…提督は私たちを裏切らないと、絶対何かの間違いだって…そう思っていたのに、たった一回すれ違いが起きただけで裏切られたと勘違いして」

「…っ」

「…もう、嫌。嫌だよタクト、何で…私はこんなに「自分勝手」なの? 瑞鶴に引き留められた時も、提督が危険な任務だと知っていたと聞かされた時も、二人の気持ちを…考えられなかった、考えようとしても…頭が回らなかった。私は…二人を信頼出来なかった」

「(翔鶴…)」

「どうしてあの時瑞鶴を…提督を…信じてあげられなかったの? だからなの…だから二人は…シんで…っ!」

 

 不味い…どんどん悪い考えに落ちていってる、こんな状況じゃ無理は言えないけど。でも…何とか立て直さないと…っ!

 

「翔鶴…提督さんのことは残念だけど、今は…サラさんたちと協力して、この海域を何とかしないと──」

 

「分かってるっ!」

 

 僕の言葉を遮って翔鶴は、怒りだか悲しみだかが混ざった顔でこちらを振り向き、睨みながら声を荒げた。

 

「分かってるのそんなこと! 今はそんなこと考えている場合じゃないって!! でも…シスターの顔を見る度…あの時のことを思い出して…っ」

「…っ!」

「あの時…あの燃え盛る鎮守府に提督が居たなら、私…助けてあげたかった。なのに私は…身勝手に怒りを撒き散らして、挙句「最低」と罵られ…っ、どうすれば良かったの? ねぇどうしたら良かったのよ!! …答えてよ…特異点なんでしょ、貴方なら…あの時の提督だって…っ!」

 

 大粒の涙を流し声を震わせながら、翔鶴は怒りを僕にぶつけた。

 彼女は頭ではやるべきことを理解していても、その中では「憤り、悔恨、行き場のない感情」が渦を巻いていて、考えが纏まらないんだろう。

 

「翔鶴…」

「…っ」

 

 翔鶴は…泣きながら僕に近づくと、背を屈めて僕を「抱き締めた」。

 

「しょ、翔鶴…?」

「…お願い、何も言わないで。もう何も考えたくない、シスターのことも…提督のことも…っ!」

 

 彼女の身体は…絶望に打ち震えていた。

 僕は…何も出来ない自分を、何も言ってやれない自分を悔やんで、それでも彼女の言う通り黙ってされるがまま抱き締められていた。

 声を押し殺して泣く彼女…矢張り彼女にしてやれることは、何もないのか…? 僕は悔しさを抑えて、翔鶴の気の治まるまで側に居た。

 

「……」

 

 ──そんな僕たちのやり取りを、草むらから見つめる影があることを、僕は気づくことが出来なかった。

 

「…ぴゃ、翔鶴ちゃん…っ」

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 サラさんたちの拠点で寝泊りした翌日から、僕たちはデイジー島を中心に海域異変調査を本格的に開始した。

 翔鶴は…まだ元どおりとはいかず、彼女のことを考え僕たちだけで調査に向かい、少し休ませるにした──大切な人の死を目の前にして、早々に立ち直るのも無理な話だが。

 ここも…ボウレイ海域ほどではないけど幾つもの小島が点在していたので、取りあえず二つの部隊に分かれて海域の島々を調べた。

 

「…うーん、南木鎮守府周辺の島の自然は壊滅的だなぁ?」

「うむ、矢張りあの黒い霧は生命に影響を与えているようだな」

 

 僕は天龍と鎮守府周辺の環境が死んでいることについて議論した。鎮守府の丁度隣の小島は、草木や森が枯れ島の土肌が丸見えになっていた。

 あの黒い霧はマナの穢れと呼ばれる「生命を奪う」魔力で、艦娘や人間がそれを吸い込めば「弱体化」は免れない。あくまで一時的なものだが、長時間黒い霧に晒されるとどうなるか…僕らは死に絶え乾いた大地の島を見て、それを理解していた。

 それでも「ごく至近距離」でなければ──周囲を見た限りでは──影響はないようなので、それだけでも収穫ではあるが。

 

「この調子だと天龍と綾波だけで中の様子を…も止めといた方がいいみたいだね?」

「うむ、カイニは黒い霧の効力は効かないだろうが。二人だけだと中に何があるか分からん以上心許ない」

 

 調査隊の中で黒い霧の影響を受けないのは「改二」である天龍と綾波だけ。ドラウニーアが確実に何か仕掛けて来ることが分かりきっている以上、人数を揃えて慎重に行動するに限る。

 

「カイトさんに報告がてら、望月たちに対霧装備がどうなってるか聞いてみようか?」

「そうするか」

 

 僕は天龍に一言断ると、腕に着けた「腕時計」のような形状の機械を顔の前に持って来る。丁度腕時計を見るようにしてると「液晶画面」から光が出て、それは人の形になった。

 

『──こちらカイトだよ、タクト君進捗はどうだい?』

 

 ホログラム映像、望月が開発した「映写型通信機」による光景だった。僕はカイトさんの姿を確認すると、今日の成果を報告した。

 

「──という訳で、黒い霧の効果範囲は至近距離…直接触れたり霧を吸ったりしない限り問題ないと思われます。南木鎮守府の中も見ておきたいですが、望月たちの報告待ちになりますね」

『了解したよ、じゃあ霧装備が完成次第こちらに報告願うと望月に伝えてくれないかな。少し早いが増援をそちらに寄越そう、完成した霧装備を彼女たちに運ばせるよ』

「分かりました、通信終了します」

 

 カイトさんの報告を終えると、ホログラム映像の光は消えた。それを確認すると僕は液晶の周りに取り付けられた「つまみ」を回す。

 

「次は望月…っと」

 

 数字の番号が振られたそれを上の矢印に合わせてセットする。

 

『──はいよ。大将なんかあったかい?』

 

 今度は望月の姿がホログラム映像となり映る。寝不足なのか目に隈が出ていた彼女、頭を掻いて面倒臭そうに言葉を投げた望月に、僕は霧装備について尋ねた。

 

「望月ー? 黒い霧対策の装備開発どうなってる? こっちの調査もう終わったんだけどー?」

『うえぇ、早くないかい? 八割は出来てんだけど急過ぎて性能が正常に働くかまだ試せてねぇんだよ〜』

「成る程、ならば試作品でも構わないからこちらに寄越してくれ。お前が開発したのなら性能は間違いないだろう、現地でテストをしよう。南木鎮守府の中の様子を調べたいからな」

 

 天龍の提案に了承した望月。だけど少し心配なのか目を細め眉も顰めていた。

 

『りょ〜かぃ。まぁ大丈夫だろうとは思うけど、何かあったら早く連絡くれよなー。ナルハヤってヤツだ』

「あはは…それで、その装備はいくつぐらい届けられそう? とりあえず調査隊の人数分あれば…?」

『んー、いや「三人分」が限度だわ。調整が難しくってな…短時間で量産はムリだわ』

「おぉ、その分霧対策はバッチリ…だね?」

『まぁなぁ。…大将もどうせついてくんだろうから、姐さんと翔鶴を加えて三人分、天龍と綾波合わせて五人も居りゃ中の調査は十分だろ?』

「了解、それでいこう。…あ、カイトさんが霧装備を増援部隊に運ばせるって言ってたよ、後で連絡お願いね?」

『おう、分かった。通信終了な? …』

 

 僕との会話の終わり際、望月は視線を何処かに移していた。

 

『(野分を絶対南木鎮守府に近づけんなよ…何があるか分からんからな? 頼むぜ天龍)』

「(何を言わなくとも理解してるさ、分かっている…見張っているさ)」

 

「…望月?」

『ん? っぁあ悪い。んじゃな?』

 

 そう誤魔化すように言うと、通信を無理やり終了した望月であった…。

 

「ん? …まぁいいか。えっと次は…」

 

 通信機のつまみを回し、今度は別働隊として行動している金剛、野分、舞風たちに連絡を取る。通信に応じたのは金剛だった。

 

『──ヘーイタクト! 何かありまシタ?』

 

「ううん、黒い霧のデータは十分だから調査を一旦切り上げようと思って? 対黒い霧装備が届く手筈だから、それが届いたら南木鎮守府の現状を調べよう」

『分かったヨー! ノワッキーたちにもそう伝えるよ、通信終了〜♪』

 

 金剛はそう溌剌とした言葉で話を区切った。

 …金剛との会話、確かにこの「口調」が一番慣れたものだけど…ん〜〜…なんか、足りない感じが。

 

「うんうん、頼んだよ。…()()()()()()()(ボソッ)」

 

『…ッ!!?!?』

 

 起爆剤として僕は彼女に、本名と愛の言葉を囁いてみた。すると…面白いぐらいに顔が紅潮していき、あっという間に恥ずかしさMAXの真っ赤な火照り顔が出来上がった。ピーッて蒸気の音が聞こえそう、ウケる〜。

 

『タ、タクト! 愛してるっていうのはネ、お互いに好き合ってる人たちが言う言葉で、わ、わ、わ、私たちは…っ?!!』

「(キョドりすぎワロス。)えぇ〜僕は金剛のこと好きだけどなぁ? もちろん中身エリとしてね!」

『も、もうっ! だからってこんなとこで…っうぅ…天龍助けて…!』

「フッ、諦めろ金剛。コイツはお前の「素」が見たいだけだ、まぁ俺も今のお前の動揺ぶりは笑いが込み上げるが…ふw」

『は、鼻! 今鼻で笑った!? っむぅ〜もう知らない! 野分、一旦引き上げるよ!!』

 

 あらら、怒らせちゃったみたい。でも通信の向こうで野分に呼びかけてたみたいだし、これで大丈夫だろう。

 僕らが金剛の反応にニヤついていると、一人此方に近づくモノ…綾波だ、彼女は僕たちと一緒だったんだけど、深海棲艦が近くに居ないか見張ってくれてたんだ。

 

「司令官、ただ今戻りました」

「お帰り。どうだった?」

「はい、近くの島を周回したところ、深海駆逐隊と会敵しました。難なく撃破しましたが…矢張り黒い霧の影響でしょうか、他海域の駆逐級と比べ幾分か凶暴化しているようです」

 

 黒い霧は生命を奪う魔力であることは確かだけど…どうやら深海棲艦にとっては「増強剤」のようで、どんな雑魚敵であろうと実力がよりパワーアップしてしまうのだ、まぁ端的に言えば「エリート化」ですね。

 深海棲艦にとって黒い霧の影響力は凄まじいようで、例え黒い霧から離れていようとエリート化は免れない。このクロギリ海域全体に散らばる深海棲艦は強敵となっている、離れててもコレだから霧の中に居る深海棲艦がどんな風になるのか、最早話すまでもない。

 うん、そんな雰囲気じゃないんだけど敢えて言うと「まぁラスト間近だしね?」が本音。金剛は元々強いし天龍と綾波も改二化してるからそこまで苦じゃないだろう。でも…警戒は怠らないべきか。

 

「分かったよ、ありがとう綾波。…よし、襲撃があるかも分からないから、デイジー島周辺の見回りを強化しようか?」

「二艦(ふたり)で見張るのだな、了解した。今日の見回りは…野分か。俺も一緒に行こう」

「うん、お願いするよ天龍。…さて、じゃあ一旦帰ろうか」

「あぁ」

「了承」

 

 僕たちは綾波の報告を受けてこれからのことを話し合う、そしてデイジー島へと帰還する──

 

「(…翔鶴)」

 

 ふと僕は渦中に居る翔鶴について反芻した。

 

『どうすれば良かったの? ねぇどうしたら良かったのよ!! ──』

 

 …駄目だな、彼女のために頑張ろうと覚悟を決めたつもりだったのに、彼女の激しい感情を垣間見る度に自信が無くなる。考えないように明るく振る舞ってみたけど、どうしても考えてしまう。

 僕は…本当に彼女の力になれるだろうか、今も絶望の淵で泣いている彼女を…抱きしめてあげるぐらいしかない、それだけじゃ足りないんだ。彼女を助けるためには…──

 

「…司令官?」

「タクト、どうした?」

 

 そんな僕を見てか、天龍と綾波は心配そうに僕を見つめていた。

 

「…うん、何でもないよ。ありがとうね?」

 

 思えば、彼女たちもそうだった。

 天龍も綾波も大切なヒトを喪い孤独に押し潰され、狂いそうになりながらも前に進み…そして自ら崖から這い上がったのだ。

 そう、彼女たちが「証」なんだ。僕がここまで来れた──彼女たちを「救えた」証なんだ。翔鶴も…きっと大丈夫だ。

 

「本当に…ありがとう、二人とも?」

「ハハッ、急になんだ?」

「フフ…♪」

 

 感謝の言葉を口にする僕に、二人は微笑みを返してくれた…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──深夜、デイジー島の砂浜にて。

 

「…はぁっ」

 

 ──砂浜に腰を下ろし、膝を三角に曲げて両腕で抱える。深くため息を吐いてこの世の終わりのような顔で暗闇に揺らめく焚火を見つめる「野分」。

 彼女は前回の海域での任務でとある秘密を抱える事態になり、共に秘密を共有する仲間たちのため、何より自身が敬愛する指揮官に余計な不安を抱かせないため、秘密を今まで隠して来た。その秘密こそ──自身が深海棲艦(かいぶつ)となる最悪の未来である。

 美しきを尊び醜きを断じて来た野分、そんな彼女が自分たちが敵対する魔物となる可能性があるというのだ…動揺、衝撃、それ以上に彼女のアイデンティティを覆しかねない。ただただ不安な毎日を過ごしていた。

 

「…そろそろか」

 

 そう呟くと、野分は懐から錠剤の詰まった小さなガラス瓶を取り出す。そこから一粒白く丸い飴玉のような固形の薬を摘まむと…口に含む。

 …虚しい表情で傍に置いてあった水の入った水筒を手に取ると、水筒の水を一気に口に流し込む──ゴクリ、喉を鳴らし水が体内に薬を運ぶ。野分の内側にある「深淵」を…抑えるために。

 

「っぷはぁ。…ふぅ」

 

 また大きなため息を吐く。押し寄せる恐怖に耐える毎日、まだ始まったばかりだが…挫けそうになり思わず顔を俯ける。

 今までは彼女の周りには光が差していた。この道を行けば…きっと彼女にとって「正しい」未来に辿り着けると信じていた。そんな彼女に訪れた暗雲は彼女の信念を汚そうとしていた。

 

「(今マドモアゼルモッチーたちがこの症状を改善する薬を作ってくださっている。拮抗薬は一日たりとも飲み忘れてはいけない、おそらくこの戦いが佳境に入った頃合いに何か進展があるはず。でも…何も無かったら)」

 

 野分は手元に持つガラス瓶の中身を見つめる。

 時々、無性に感情が昂る瞬間が出来た。最近だと「悪夢」を見るようになる──タクトや金剛たち、今まで出会った全ての人々を…自らの手で「殺していく」自身の後ろ姿。その手は血に塗れて──

 

「…っ!」

 

 最悪の映像が彼女の頭を過ぎる、それを振り払うように頭を振る。

 艦娘が深海棲艦になる真実を前に、彼女は自分の今までの行動を振り返る。…人類を守るために戦って来た艦娘は、金剛(エリ)が言ったとおりヒトの居場所を奪っていただけではないのか、これまでの戦いは「間違い」ではなかったのか。…最早正偽は誰にも分からないが、破壊の権化とも言える怪物を前に、野分は自身が目指すべき道から踏み外れてしまっていた。

 

 ──信じる道を見失い、迷いビトは彷徨い続ける…いつかまた日向の道を歩めると信じて。

 

「…野分、見張りはどう?」

「っ! コマンダン…」

 

 ふと声を掛けられ後ろを振り返る。そこに立っていたのは──彼女の指揮官である拓人であった。

 野分は咄嗟に手元にあるガラス瓶を懐に戻すと、努めて笑顔になり拓人に話しかけた。

 

「コマンダン、マドモアゼルテンリューは?」

「ん、もう少し周囲を警戒してくるってさ。お前は野分と大人しくしてろだってさ? まぁ何かあっても彼女なら大丈夫でしょ?」

「は、はぁ…」

 

 拓人と天龍はデイジー島の近海を警戒していたが、拓人は途中で抜け出してきたようだ。

 隣いい? そう言われ許諾した野分の右に彼女と同じように体育座りになる拓人。

 

「…その帽子取らないの?」

「えっ!? …い、いえ。ボクの新たなトレードマークですので、おいそれと取ってもどうかと思いまして…;」

「ふぅん。そう? 確かに似合ってるしね、はは」

 

 拓人はいつものように笑って彼女の言葉を肯定した。

 …口八丁で誤魔化すたびに、胸が痛む感覚がした。ズキズキと奔るように駆け巡るそれは、彼女が敬う拓人に対し嘘を吐くしか出来ない自分の歯痒さかもしれない。

 

「…コマンダン、貴方はボクを「信じて」くれているのですか?」

「…? 当たり前でしょ。まぁ最初こそ何だコイツ? だったけど…今は、ううん。今も君は大切な「仲間」だよ」

「っ! コマンダン…」

 

 拓人の笑顔を見て、野分は確信したことがある──彼は自身の抱える秘密に勘づいていて、それでも自分を信じて黙って見守ってくれているのではないか…という事実を。

 

「(コマンダンは信じ続けたんだ…コンゴウさんのことも、テンリューさんやアヤナミさんのことも、今はショーカクさんだって…ずっと信じ続けて、それが今彼の「力」となって事態を大きく動かしているんだ。ボクのことまで…信じて下さるなんて…!)」

 

 野分は彼女なりに拓人の中の真の力──大衆を惹きつける「魅力」を感じ取り、改めて敬服するのだった。

 

「コマンダン…何故貴方は他人を信じようとするのですか? 何故怪しいと思わず信じ続けられるのですか?」

 

 野分は彼女の中に渦巻く疑問を拓人にぶつける。思わぬ質問に面食らう拓人だったが──

 

「えっ?! …う、うーん。そこまで大それたことでもないと思うよ? 僕だって疑うことだってあるし喧嘩だってするさ。それこそ前世で海斗君と──」

 

 そう言って口を止めると拓人は…何処か寂しそうに夜空を見つめて、独り言ちに改めて話す。

 

「うん…そうだね、ここに来る前は…僕は自分に自信がなかったんだ。大切な人を喪ってからは特に…でも、それだけじゃいけないって思って、変わろうって考えたんだ。絶望に晒されながらも必死に藻掻いている君たちを見て、僕も──頑張りたいって、信じたいって思えたんだ」

「…っ!」

 

 彼が何故他人を信じられるのか…それは他ならぬ「艦 娘(じぶんたち)」の生き様からそう感じ取ってくれていたから。

 野分は──目に涙を湛えて感極まっていた。会議の時の金剛が漏らした「艦娘の負の側面」…兵器として大勢のニンゲンの人生を狂わせる一方で、彼のように別の側面から視て胸を打たれる何かを感じるヒトも居てくれた…その言葉に、彼女の眼からは一滴(ひとしずく)の涙が。

 

「コマンダン…ボクの…ボクたちのやって来たことは、間違いではなかったのですね…っ?」

「そうだね、例え君たちの戦いを「意味がない」って頭ごなしに否定されても…僕は違うと思うな。君たちは自分を兵器だって考えているんだろうけど…君たちは誰よりも「人間」なんだって、僕はこれからも信じているよ?」

「…っ、コマンダン……っ!」

 

 折り曲げた膝に顔を埋める、閉じられた殻のような彼女の顔からは涙が止まらず、声を詰まらせながら泣いた。

 

「野分…君が今何に悩んでいるのか、僕には分からないけど…絶対大丈夫さ。絶対なんてないのかもしれないけど…僕はそう「信じている」よ?」

「…はい……っ」

 

 帽子のツバを抑え顔を上げると、野分は感謝を込めて──拓人に向けて静かに微笑むのだった…。

 

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