艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
本編の文で「苦し紛れの表現」をしています、分かりづらかったらすみません;
──翌日、デイジー島にて。
僕と艦娘たちはカイトさんが送った増援部隊の到着を、海岸沿いで待っていた。
「…あっ、あれかな?」
僕が指差す先には、海の向こうからやって来る小さな点のような影。あれがきっとカイトさんの言ってた「増援部隊」か、彼女たちが望月の霧対策装備を持っている手筈だけど…?
こちらに徐々に近づくにつれ、その輪郭が明らかになっていく。一体どんな……あれ?
「み、皆…!?」
「姫様、不知火ちゃん、それに…早霜ちゃんも?」
綾波は目の前に現れた艦娘の名を呟いた。
増援部隊の艦娘たちは、何と我らが名無し鎮守府の残りの艦娘である「早霜・ウォースパイト・不知火」であった。
「お待たせしました…タクトさん」
「我らタクト艦隊、これで全員集合ですね。ふふっ♪」
「………」
三人がデイジー島の岸に上がるとそれぞれに挨拶した。
「えっ、待って僕らの鎮守府は? 確か今望月とユリウスさんが居るはずだけど…大丈夫なの?」
「はい、ですが…この戦いでドラウニーアとの因縁に決着がつくかも知れないと、カイトさんが私たちを増援として呼んで下さいました。それに下手に初対面の娘を寄越すより、タクトさんと気心が知れている私たちの方が良いだろうと。因みに私たちの鎮守府は連合から派遣された艦娘が見てくれています」
早霜が僕の疑問に答えてくれた。
成る程、文字通り総力戦だということか。いやでも…この人数で? 幾らドラウニーアでもちょっと…ねぇ?
そんな怪訝な顔をしている僕に対し、ウォースパイトと不知火が付け加えた。
「ご心配には及びません、私たちは謂わば第一次増援部隊。第二次増援部隊は数日すれば此方に辿り着く予定です」
「その間に霧対策装備も本格実装されるでしょう。というか…タクトさんは理解されているのでは? 第二次増援部隊には…」
「っ!? っしー! (不知火、確かに薄々は分かってたけど…とにかくその先は言っちゃ駄目!)」
「(な、何ですか急に…まぁ、分かりましたよ)」
不知火にヒソヒソと話して、僕はそっと翔鶴の方を振り返った。…うん、ちょっと元気なさそうだけど聞こえてなさそうだから良し。
「(…あの、タクトさん。少し質問があるのですが)」
「(ん、何?)」
「(あの…早霜ですか? さっきから何故か私の方をチラチラ見ていて…私も彼女を見ていると、その…気になってしまって)」
ん? 不知火の言葉に僕は早霜の方をチラ見した。確かに不知火の後ろ姿をジッと見つめてる気がする。…っあ、そうか。不知火と早霜って…!
僕は「前世」での彼女たちの関係性を不知火に話した。
「綾波の言っていた「別世界の私」ですか?」
「そうそう、確か座礁した早霜を助けようとして敵軍の攻撃に晒されて…そのまま沈んでしまったんだ」
「…成る程、それなら合点がいきますね。お互いに悔いていた部分があって、それが別世界の私たちにも影響を与えている…か」
「うん。不知火あれだったら早霜に声かけてみなよ、きっと喜ぶよ?」
「えっ、いえ別世界で関係あれど私たちはあくまで…」
「そんなこと仰るんですね…悲しい…です…」
「っうわぁあああ!?」
いつの間にか不知火の背後に回り込んでいた早霜の
「い、いつから後ろにっ!?」
「うふふ…いつもニコニコ…貴女の側に…」
「這い寄る混沌ですね、分かります。」
「た、タクトさん…茶化さないで何とか言って下さい」
「うーん、そこまで言うんだったら「知り合い」から始めてみたら? ここから仲良くなってあわよくば百合ィな展開を…」
「貴方に頼んだ私がどうかしてました!!」
「うふふ……不知火さん…うふふ……」
「ひいぃ?! ひ、姫様…!」
「諦めなさい不知火。私たちはタクト艦隊の仲間です、艦隊の連携のためにも仲良くなっておきましょう♪」
「…もう………好きにして下さい」
ウォースパイトのトドメの一言に、不知火は遂に観念して頭を項垂れた…。
「早霜…若干テンション上がってない?」
「何故かそれなりにアガッてます。それはそれとして…タクトさん」
「…? なに早霜?」
「暫く見ない間に…逞しい顔つきになりましたね? 貴方のオーラも安定している様子…安心しました」
早霜は僕のことを彼女なりに心配してくれていたようだ。まぁあの時はねぇ? …でも。
「早霜…嬉しいんだけど褒めすぎじゃない? なんか最近皆から「変わった」とか「成長した」とか言われて…このままだと
「事実を言ったまでなのですが…あとタクトさん、何かは存じませんがそれは言わない方が宜しいのでは?」
あっしまった。ついつい気になっちゃって、この話自体そう思われてもおかしくないし…。
「いつものことでしょう? 全く。…そうだ、タクトさんこれを」
不知火は何かに気づくと、手に持っていた「ガスマスク」型の機械を手渡した。
「これは…もしかして霧対策の?」
「はい。望月さんから渡すように手渡されました、その機械を顔に着けると霧の中でも移動が可能のようです。我々にはそれ以上のことは分からないので、望月さんから仕様書も預かりました」
そう言って今度は早霜から霧対策の機械と小さい紙束(説明書)をもらった。
「ありがとう皆、これで調査が捗るね。…へぇ、このガスマスク「ヘッドライト」付きなのか。これで暗闇でも安心…かな?」
僕は手にした説明書を読んで一人納得していた。
何でもこのガスマスクの口部分には「艦鉱石」が埋め込まれた装置が施されており、艦鉱石の魔力により酸素を「造り」それを口から吸引し体内に送るのだ。額部分のヘッドライトで多少の暗闇も何とか出来る…らしい。
「…素朴な疑問だけど、これ大丈夫だよね? 口から霧を吸うことはないだろうけど、素肌で直接触れるのは良いの?」
「説明書に書いてませんか? そのガスマスクは装着するだけで「魔術防膜」が展開する仕組みになっている模様ですよ? 私も同じことを疑問視して望月から回答を得てます」
不知火の言葉に僕は説明書を凝視した。
…あ、本当だ。ページの最後に「特性の魔術マスクだ、着けるだけで長時間魔術防膜が出来上がる」って書いてある。なるほど納得。
短時間しか保てないはずの魔術防膜を長時間か…頑張って調整したんだろうな望月、そりゃ量産出来ない筈だ?
「ガスマスクか…前にボウレイ海域でやった「灼光弾」は無いのか?」
今度は天龍が灼光弾について言及する、確かに望月なら黒い霧そのものを払う武器造るだろうから…前もそんな風に言ってたし?
それを受けてウォースパイトが申し訳なさそうに答えた。
「それなのですが…望月によると灼光弾は魔術の組み上げの関係で、量産はおろか一つ開発するだけでも相当な時間がかかって、更に「黒い霧」は通常の水霧とは違うので穢れを相殺させる術式も組み込まないと意味がないらしくて」
「どうしても余計に日数がかかってしまう、か。前は翔鶴が居たからすんなり行けたが、今回はそういう訳にもいかんのだろう」
天龍の補足を聞いて、僕は納得して頷いた。
「あぁ成る程。もう時間もないし翔鶴を置いていくわけにもいかないし、ガスマスク量産した方が早かったのか」
「はい、間に合うか分かりませんが…彼女によるとガスマスクの量産と並行して灼光弾の改良型も開発しているようで。もしそれが完成すれば黒い霧そのものを霧散出来るのでガスマスクも必要なくなるでしょう」
ガスマスクに灼光弾か…望月も大変そうだなぁ。確か開発が完了次第こっちに向かうって言ってたから、タイトスケジュールになりそうだな。
「僕たちも出来ることを地道にやるしかないみたい。ねぇ翔鶴?」
「…ん、そうね?」
僕の問いに、視線を合わせず何処かを呆と眺めながらも返答した翔鶴。…心此処にあらず、か。
「タクトさん、これからどうなさりますか?」
早霜が僕に今後の行動を尋ねて来た、翔鶴も気になるけど答えないと…。
「うん、とりあえず霧の中の様子を確認したい。鎮守府には近づかない感じで周囲に何があるのか確かめたい」
「うむ、俺と綾波はその機械がなくても良いから、金剛と翔鶴そしてタクトに着ける。鎮守府周囲の調査はそれで十分だろう」
僕と天龍の説明に納得して頷く早霜たち、しかしそれを聞いていたサラさんは一言申し出た。
「タクトさん…黒い霧の中に入られるなら、翔鶴を連れて行くのは…あ、心配なのはもちろんなんですけど。空母にとって艦載機周りの景色が見えないのはどうかと…?」
あ、そうか。霧そのものを払い除けられないから、艦載機から見たら暗いままなのか?
うん、確かにサラさんの言うことにも一理あるし、何とでもなりそうだけど翔鶴もこの調子じゃあなぁ? 置いていくか…ガスマスクは一つ余るから、一人ダレか連れてくか?
「私は…申し訳ないのですが、駆逐艦の娘たちから出してもらえたらと思います」
「…っ!?」
──サラの言葉に天龍の身体が僅かに反応する、傍から見れば少し身震いした気がする程度なので幸い拓人は気づいていない。しかし"野分"のことを考えると余計に冷や汗が止まらない──
「(不味いな…)」
「うーん、でも南木鎮守府までの道のりを教えてくれるサポートが欲しいし…酒匂とかプリンツはダメですか?」
「…すみません、彼女たちは。南木鎮守府はもう昔のように安全ではない以上、何が起こるか分からない場所に送り込みたくありません。…それこそ「あの時」のように彼女たちを喪うことになることは…私にはもう耐えられそうにないんです」
「シスター…」
「ぴゃ…」
「すみませんタクトさん、協力すると言った手前私の我儘で…」
「いや、こちらこそ配慮不足でした。ならこの映写型通信機の予備を渡しますから、それで外からナビゲートお願い出来ますか?」
「そのくらいでしたら、お安い御用です! ありがとうございますタクトさん」
「いえいえ。…ふむ、じゃあ必然的に野分か舞風になるけど…?」
「…っ!」
「っあ! だったら私が行くよ、野分ばっかりに良いカッコさせられないし!」
「うん、頼めるかな舞風? 一応確認だけど道中が深海棲艦とかでいっぱいだろうし、姫級も出てくることが予想出来るから、物凄い任務難易度になるだろうけど…それでも良い?」
「うにゅ!? う…が、頑張る!」
「無理はするなよ。(…すまんな?)」
──舞風が艦隊残りの一枠に立候補した、天龍がアイ・コンタクトを送ると舞風も同じように視線をそっと送った。これで一安心…だが野分の胸中は清々しくはなかった──
「(天龍さんや舞風たちにこれ以上迷惑は掛けられない、道中の難易度はこれまでの戦い以上の激しさかもしれない。何より…ボクはコマンダンの信頼に応えたい、幸い偵察だけなら…数時間だけなら…!)あ、あの…──」
野分が何か言いかけたけど、それを遮るように翔鶴が進み出た。
「…構わないわ、私を調査隊に入れて頂戴。いつまでも休んでいられないし…霧で周りが見えないなら霧の外から島を見張れば良いだけだし」
「で、ですが翔鶴…貴女は」
「もう放っておいて。…今更気遣いなんて要らない、あの時の貴女の評価は正当だった。最低な私は最後までボロ雑巾のように働くのが良いに決まっているわ」
「っ!」
「翔鶴…それは」
「──翔鶴」
翔鶴とシスターが言い合いになっていると、それまで黙って一連の話を聞いていた金剛が前に出た。
「サラさんの言う通り、今の貴女は…言葉が悪いけど「おかしい」わ。無理をされて途中でどうにかなっても私たちには責任が持てない、それよりも身体とココロを休めて、これからのサラさんたちとの関係とか自分の気持ちの整理とか…身の振り方を決めてもらわないと、ハッキリ言うと「迷惑」よ」
「…何ですって?」
「え…ちょっと二人とも?!」
まるで煽るように言葉を紡いだ金剛に、翔鶴が怒りを孕んだ形相で詰め寄る。一触即発の雰囲気…ヤバイ。
「貴女に何が解るの? ニンゲンだった貴女には…兵器である私たちの悩みや絶望なんて分からないでしょ?」
「そう? 私には皆同じように見えるけど。貴女は過去にトラウマがあって、それをどうにかしようと必死に藻掻いて…天龍や綾波に他の艦娘たちだって、そうやって生きてきた。…人間も同じだよ、辛い過去とそれぞれのペースで向き合っているの。何が違うの?」
「…っ!」
「もうっ、止めなって二人とも!!」
煽りにあおり返して言葉の応酬になって来たので、僕は声を張り上げて二人のやり取りを制止する。僕がここで決断しないと「深い溝」になりそうなので、仕方なく回答する。
「…解った。翔鶴、やっぱり今の君を調査隊に加えることは危険すぎるよ。今はゆっくり休んで…頭を冷やしたらまたお願い出来る?」
「…っ」
やんわりと言ったつもりだったけど逆効果だったみたい、翔鶴は悔しそうに背を向けるとそのまま森の奥へと走り去ってしまった…。
「翔鶴ちゃん!」
「ま、待って酒匂! …一人にしてあげよ?」
「…ぴゅぅ」
翔鶴を追いかけようとする酒匂を引き留めるプリンツ、酒匂は犬耳を垂らして哀しそうに俯いた。
…何か、艦娘たちの関係がドロドロしてるなぁ。この状況の起点はおそらく翔鶴そして野分、二人の問題をどうにかしないと…一番の問題は翔鶴なんだよなぁ、どうしようホントに?
僕が一人悩んでいると、金剛が近づいて来るなり謝って来た。
「タクト、ごめんなさい。余計なこと言っちゃった…」
「気にしないで、僕自身翔鶴に甘くなっちゃってるから、君がああやってハッキリ問題点を言ってくれて良かったよ。…君に嫌われ役を押し付けちゃったけど?」
「ううん、それこそ全然大丈夫! …タクト、翔鶴は平気かな? ちょっと言い過ぎちゃったし…」
「まぁ…確かに冷静な状態じゃないから、翔鶴も少し時間を置けば…うん、きっと大丈夫さ」
「そうだと良いけど…」
僕と金剛は二人で翔鶴の入っていった森の方角を見つめる、大丈夫って言ったけど…どうなるかなぁ?
「…ふぅ、これでなんとかなったね野分?」
「あ、ありがとう舞風…(コマンダン…くっ……!)」
──状況の変わり様に思わず言葉を飲み込んだ野分、彼女は…自身の本懐を果たせないことに、胸の内で歯痒い思いを抱いた──
「はぁ、こんな時「由良」が居てくれたら…」
「……」
悲しげな顔で翔鶴を案じているであろう酒匂の隣で、プリンツはこの場に居ない娘の名前を呟いた…。
・・・・・
その夜、僕は島の海岸を散歩していた。
サラさんたちの掘建て小屋だと人数が入りきらないので、サラさんと酒匂、プリンツはそのまま小屋に。僕らはそれぞれテントを張ってそこに寝泊まりしていた。
自分のテントで寝ていた僕は、頭が冴えてしまって眠れず少し夜の散歩に洒落込んでいた、といっても空は曇天で少し強めの風が吹く調子の出ない天気だけど。
「とりあえず程々に歩いたらテントに戻ろうっと…ん?」
その時、僕の視線の先── 朧月の光に照らされた二つの影、翔鶴と…不知火?
「…では、確かに渡しました」
「もう不要かもしれないわよ?」
「いえ、貴女に必ず渡すよう望月より言われてますので。それに…戦場では先の展開は読めませんので、万が一の時に」
「…分かった、ありがとう」
そう言って翔鶴は砂浜を去る不知火を見送った。彼女は直ぐに海岸に目を向けると、雲の上から照らす月光を浴びていた。
何だろう…まぁ聞くのも野暮かな? 暫く頃合いを見て僕は翔鶴の様子を確かめるため彼女に近づく。
「翔鶴? どうしたのこんな天気なのに、早く寝ないと風邪引いちゃうよ」
「…貴方もでしょ?」
「い、いやぁ僕はね? 寝付けなくってさ…?」
「そう? 私も眠れないの。良かったらしばらく話し相手になってくれない?」
「う、うん」
成り行きでまた翔鶴と話すことになった。見た目は落ち着いたようで安心だけど…うーん、今日のこと聞くべきか…金剛も心配してたし?
「…タクト、昼間はごめんなさい」
「えっ!?」
と思ってたら翔鶴から素直に謝ってきたので、思わず面食らう僕。
「驚かないでよ…私だって言い過ぎたってくらい解ってるわよ」
「あははゴメン、でもそれなら僕じゃなくて金剛やサラさんに…」
そう言って僕は彼女たちにも謝るよう諭すが、翔鶴は俯いてただ黙っていた。
…そうか、何となくだけど分かるな。要するに「意固地」みたいなものなんだろうね、本人たちの前ではどうしても素直に振る舞えないんだ。
無理もないか、金剛は元は今まで自分を蔑んできた人間、サラさんは事件の時に深い溝が出来てしまってそのまま。今更笑顔で「助け合いましょう!」…なんて逆に「気持ち悪い」よね?
どうしてそうなるのか僕も不思議だけど…やっぱり人間特有の「理性ある行動」の悪い部分なんだろうね、そこは。
「…ごめんなさい、金剛ならまだしもシスターは…またあんな風にイヤな態度取るかもしれない、自分を抑える自信がないの」
「そっか…。翔鶴はサラさんは嫌い?」
「…昔だったら迷わず「嫌い」と言ったわ、でも今は…このままじゃ駄目だって思える、まぁそれであんな態度取ってたら世話ないんでしょうけど?」
「まぁまぁ、誰にでもあることだよ。きっとね?」
「そう…タクト、もし良かったら金剛に「私が謝ってた」って伝えてくれる? 面と向かって謝れるか怪しいし…彼女の言う通り、私はおかしくなってるわね。この海域に来てからは…特に」
「翔鶴…」
「あはは、宜しくお願いね。じゃあ…」
翔鶴は不安を零しながらも笑顔を作り、そのまま足早に立ち去ろうとした──しかし…ふと立ち止まったと思うと、そのまま疑問を投げた。
「ねぇタクト…私は何に見える? 兵器? それとも「ニンゲン」? 金剛の言ってたこと…違いはないかもしれないけど、明確な違いが分からなくって…」
どうやら金剛の言葉が彼女に良い「価値観の変化」を与えているようだ。なら…僕はこう言うしかない。
「君は間違いなく「人間」だよ。だって…君はそうやって自分を変えようと悩んでいる、それで良いんだよ
「…
「うわっ、僕のカッコいい決め台詞取られた!」
「もう、ありきたりなのよ。うふふ…っ!」
僕の軽口冗談に振り返った彼女のあどけない笑顔が、きっと彼女の「本質」なんだろう…それを感じ僕は嬉しくてつい頬が緩んでしまっていた。
「あはは…ねぇ、僕ももうテントに戻るから。一緒に帰ろ?」
「えぇ…!」
こうして、僕は翔鶴の気持ちを再確認することが出来た。
不器用な彼女が再び仲間たちと触れ合えるその日まで…僕は彼女の側にいる。それだけは何があっても変わらない…!
・・・・・
「じゃあ明日はゆっくり休んでね?」
「えぇ、タクトも無茶したら駄目よ?」
「分かったよ、それじゃお休み〜」
「お休みなさい」
僕のテントの前でおやすみの挨拶を交わすと、翔鶴は僕に背を向けて歩き出した。僕もテントの中に入る──
──その時、僕はあることに気づいた。
「…ん、んん?……あれぇ〜〜〜っ!?」
僕は大袈裟に驚いて見せる、それもそうだ…。
枕元に置いた筈の「ガスマスク」が無くなっていたのだから…!!
「タクト、どうしたの?」
僕の声に気づいて翔鶴が戻って来てくれた、翔鶴にガスマスクが無くなっていることを話す僕。
「何処かに落としたとか、その辺のモノの下敷きになってたりは?」
「いや、分かりやすい場所に置いとこうと思ってそのまま枕元の横に置いてたから…荷物も隅に置いてるし」
「ダレかが黙って貴方のガスマスクを取ったってこと? そうだとしても…そんな分かりやすい場所に不用意に置いておくのが悪いんじゃない? 全くもう…」
「お、仰る通りです。まぁでも僕的には調査隊の艦娘たちが居れば、僕の分がないからって──」
と、和やかな雰囲気も束の間。テントの外から足早に近づいてくる音が響く…それは──
──僕が大きな「ミス」を犯した証になった。
「タクトさん! すみません酒匂を見ませんでしたか!?」
「えっ、サラさん? …うーん、見てないけど?」
「酒匂がどうしたの?」
僕と翔鶴がサラさんの慌てぶりに驚いていると、サラさんは事の次第を伝える。
「あの娘夜中に出かけたみたいで、小屋に居ないので辺りを見て周ったのですが…島の何処を探しても見当たらないんです! どこに行ったのか見当もつかなくって…!?」
「何ですって…っ!?」
どうやら酒匂が行方知れずになったみたいだ、一体何処へ…?
「落ち着いて下さい。サラさん…昼間酒匂に何か異常はありませんでしたか?」
「えっ? そういえば…昼間に「由良」がどこに居るか聞かれたのですが…?」
「由良? それって異能部隊のヒトリの?」
由良は例の任務に赴く直前に行方知れずとなった、翔鶴たち異能部隊の仲間。探していたのか…何のために? 僕が顔に疑問の色を浮かべていると、翔鶴とサラさんが補足してくれた。
「多分だけど、私たちの今の関係を由良なら改善出来ると思ったんじゃないかしら? プリンツや酒匂が喧嘩してシスターの言うことも聞かなくなったとき…彼女の「諭し」でその場が治まることが多かったの」
「えぇ、彼女は表立って部隊を律することはありませんでしたが…その柔らかな雰囲気で皆のココロを癒し、相手の良いところを褒め悪いところを正し…そうして彼女のゆったりとした口調を聞いている内に、怒りが自然と収まって行くのです。彼女は本当の意味で部隊に無くてはならない存在でした」
サラさんの話に翔鶴も黙って頷いた、仲違いしている二人がそれでも意見を一致させるなんて…本当に由良は慕われてたんだろうな?
しかし…それでどうして居なくなってしまうんだ? 島に居ないのだとしたら何処に──そう考える僕の頭に「答え」が浮かぶ。
──鎮守府 由良 探す──
「…っ! ま、まさか…」
「どうしたのタクト?」
「タクトさん…?」
「彼女は…由良はどういう訳か
「なっ!?」
「そ、そんな…っ!」
予想外の展開に僕たちは驚天動地の表情になる。一体何が起きているんだ…?!