艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
──???
「──はぁ……はぁ…っ」
機械が立ち並ぶ重々しい空間で、光る画面に向き合う男が居た。
カタカタと軽快に指を動かし手元の入力装置にプログラムを打ち込んでいく。白衣の後ろ姿は「科学者か技術者」を思い起こすも、彼の場合は勝手が違っていた。
──その足元には、転がり息絶えた「死体」があった…。
「…っ、最後の最後で…裏切るとは……いつかはこうなると踏んでいたが…お陰で修正が……一苦労…だっ」
──タァン!
プログラミングがひと段落したようだ、画面に「Now loading…」の文字が表示されると、男は入力装置に背もたれ床にドサリと座り込んだ。
「ふぅ……ふん、まぁ良い。奴らが来る前に装置の修正は終わった、これで──」
ニヤリと嗤う男、周りを見回すと先ほどまで男と会話していた死体に目が行く。
「…残念だよ、ユリウスだけでなくお前までとは。…ふっ、お前のことだから事態が劣勢と見て鞍替えを狙ったのだろう? 浅はかよなぁ…計画は最終段階に入ったのだから、今更人手は要らんがな」
男は何処か懐かしそうに、楽しそうに独り言ちる。それはまるで旧友との会話か、はたまた「計画」の達成の予感に打ち震えたか──それでも男の「狂気」を湛えた嗤い貌は誤魔化せないが。
「くくく…ぐっ!?」
しかしそれも束の間、男は脇腹を抑えると苦痛に悶える。脇腹には「血」が滴り出ていた──
「…はぁっ、ぐ…くそっ。もう間もなく奴らが来る…時間が無い、この傷は致命的ではないが…こんな時に貰いたくなかった…っ」
そう言うと男は、懐から注射器を取り出すと「左手」で患部に向けて振り刺した。
「──ぐ、あ”ああ…っ!?」
激痛が男を襲う、脇腹から激しい炎のような熱が広がる、玉汗が肌から滝のように出ては落ちる。
──やがて、男は脇腹から手を放しそのまま空になった注射器を捨てると、何事もなかったように軽やかに立ち上がりその場を後にした。
「…やっと、俺の「使命」が果たせるよ……
男の狂気に取り憑かれた表情から一瞬垣間見えた柔らかな笑み──そこに居たのは、己が信念に燃える「青年」だった…。
・・・・・
──南木鎮守府周辺、黒霧の中…。
「…ぴゅ……何か…空気が吸いづらい…でも……探さなきゃ…!」
淡い光が一つの人影を包む、ガスマスクを着け艤装を展開して臨戦態勢で辺りを見回す、森林と暗闇の支配する水面の上を駆けるのは「酒匂」であった。
彼女はこの鎮守府に居るであろう旧友「由良」を探すためにこの場所に来た、由良は鎮守府崩壊事件後全く姿が見えず何処へと行ってしまったかに思われた、しかし──
「くんくん…うぅ…このマスクじゃ匂いが判らないなぁ。黒い霧を吸っちゃうとダメだから外の空気を吸えないようにしてるんだろうけど」
酒匂が自慢の鼻で由良の匂いを探知しようにも、ガスマスクがそれを邪魔する。由良の匂いが判らない…慌てて出てきたのでそこまで考えられなかった。
「でも…由良ちゃんは絶対ここに居る! だっておかしかったもん!!」
そう言うと、酒匂は自身の推理を頭の中で整理した。
確かに由良は鎮守府内に居なかった、しかし同時に外にも彼女らしき匂いが「なかった」のだ。一時期シスターたちと共にこの海域中の島を捜索したが…彼女のモノと思われる匂いはなかった、念のため他の海域も連合に頼んで探してもらったが、結果は同じであった。前日までは共に任務内容を聞いていたので遠くに行った訳でもないだろう、これらの結果から出る予測として──
「(何で匂いが分からなかったのか、そもそもどうして隠れてたのかは分からないけど…由良ちゃんは明らかに酒匂たちに見つからないように「逃げて」南木鎮守府に残ったんだ。由良ちゃんはドワーフだから、気配を消せる機械とか? 造れそうだし)」
まだ確証がないので曖昧な推理だが、状況証拠として解ることを繋ぎ合わせたのだ、一人にならなければいけない理由が見つからないがそれを「真実」として、酒匂が彼女を探さなければならないことに変わらない。
酒匂にとって由良はとても「頼りになる」存在だ、彼女の真心を酒匂の「犬としての感性」が見抜いていた、そんな彼女なら今も絶望の淵に居る翔鶴を何とかしてくれるかもしれない、そんな淡い期待があった…尤も、黒い霧の中で艦娘がこの場に居残れるのか、同じように南木鎮守府に居残った長門の生死も解らない以上由良もどうなっているのか分からないが?
「…ううん、由良ちゃんは絶対生きてる! 私が信じてあげないと…っ!」
首を横に振り最悪の結末を否定した酒匂は、由良をどうやって探すか考える。
──本当はこんなことしなくても、拓人たちも直に鎮守府を調査する予定だった、わざわざ自分が探す必要はない、それでも酒匂が一人で由良を探すのには二つ理由があった。
一つは、酒匂そしてプリンツが「ワービースト」の能力を持ち合わせているから。
プリンツは「ワービースト(キャット)」であるので、聴力は人間の「4倍以上」と言われ、酒匂に至っては「ワービースト(ドッグ)」であり、犬の嗅覚は人のそれの「一億倍」と言われている。由良に限らず南木鎮守府探索という点では彼女たちほど適任は居ない。
更に犬の感性は常人には見えないモノを捉える「直感力」に優れている、由良が南木鎮守府に居るという推理は「間違いではない」と酒匂は感じ取っていた。
…が、サラトガは彼女たちの同行を許さず拓人たちの遠方からのナビゲートという形となった。そうなれば南木鎮守府に隠れている由良を見逃す可能性がある、かと言って由良を探したいからとシスターを困らせる程の我儘を言える胆力を酒匂もプリンツも持ち合わせていなかった。
「もう嫌だもん、翔鶴ちゃんのあんな辛い顔を見てるだけなんて、でも…私も調査隊に加わりたいなんて言ったらシスター心配するし…ごめんねタクトちゃん、酒匂…こうするしかないのっ!」
もう一つの理由としては…酒匂の発言から解るように「翔鶴を何とかしたいあまり冷静な判断が出来ていない状態」であるからだ。
南木鎮守府が焼失したことも、由良が鎮守府に居た場合生き残っている可能性は極めて低いことも、それを踏まえても"ヒトリで仲間を捜す"という行為が「愚行」であることも、酒匂は全て理解するところであった。
だが…あの気丈であった翔鶴が、まるで子供のように泣きじゃくる姿を草むらから隠れ見ていた酒匂にとって、それだけで心を揺さぶられるには十分すぎた。
これ以上仲間の苦しむ姿を見たくない。その焦りが「シスターの目を盗み、ヒトリで探索を行う」という行動に表れたのだ。
「(匂いが判らないんじゃ…しょうがないよね?)」
そう思うと酒匂は今度は鼻から「耳」に神経を使う、猫ほどではないが犬もヒトより聴覚は優れていた。
「…んー、あちこちに波の揺れる音がする、結構激しい…誰かが移動してる……これって深海棲艦?」
南木鎮守府は「あの日」以来深海棲艦があちこちに潜んでいる魔物の巣窟と化した、文字通り深海棲艦が点在していても不思議ではない。
しかしそれは同時に酒匂一人で由良を捜す…などと悠長なことを言っている場合ではない「無謀」な行為であることを意味する。早く探さなければ…焦り逸るココロを抑える酒匂。
「波の揺れる音の大きさを聞き分けてみよう、結構大きめなのが深海棲艦………ん? 今鎮守府の方から物音が…まさか……ダレか居る?」
鎮守府からの足音に気づいた酒匂だったが、明らかに目に見えた「地雷」であることを流石の酒匂でも理解した。
「提督かな? …ううん、嫌な予感がする。鎮守府には近づかないようにしないと」
そう言って再び耳に神経を集中させる酒匂、すると…「違和感」に気づいた。
「…ん? こっちから右の方、波の音が小さい気がする。もしかして由良ちゃん!? …待っててね、酒匂が迎えに行くから!」
酒匂は艤装の速度を上げて由良が居るであろう場所まで一気に駆け抜ける、幸いかあの
──Shrrrrrrr…ッ!
「…っ!?」
その時、身の毛立つような獣の声が響いた。思わず動きを止めた酒匂は辺りを目配りし警戒する。
「な、何…っ?」
黒い霧により全体を完全に見渡すことは不可能だが…声の度合いから察するにナニカが「近くに居る」ことは明白だった。
「し、視線を感じる…いつの間にこんな近くに…!?」
酒匂は自身に音もなく近づき潜む「ナニカ」に戦々恐々とした…。
『Shrrrrrrr…?』
「…っ!」
ナニカが蠢く気配を感じながらも酒匂は咄嗟にガスマスクのヘッドライトを消す、そして…そのまま声を潜めその場を動かないようにした。霧により視界が遮られていることを踏まえた行動だが──
──この「地獄」でそんな安直な策が通用するはずは無し。
『──Shaaa---ッ!!』
「…っ?!」
瞬間──酒匂の真上を「巨大な柱」のような物体が過ぎった。
風圧で姿勢が崩れそうになるが何とか耐えた…突風が身体を吹き飛ばそうと吹き荒れたが、そんな暴風を巻き起こすほどの「力」が酒匂の目の前に居る…!
『Shrrrrrrr…』
仕留め損ねた…そう思ったのか、影に隠れた「ソレ」は酒匂の至近距離まで近づき遂に姿を見せる…。確実に暗がりの酒匂を「捉えていた」。
観念した酒匂がヘッドライトを点灯すると、そこには10メートルはあろう巨体が聳え立ち、胴体にびっしりと生えた鈍色の鱗、そして…酒匂を捉えて離さない大きな目には縦に長い瞳孔が見えた…。
「こ、これって…ナベシマのおじちゃんが言ってた…蛇の……化け物…?」
『Shaaa---ッ!!』
酒匂の疑問に回答を叩きつけるように、大蛇は大きく音を上げて威嚇した──
──これ以上手間を取らせるな、お前は俺の「獲物」だ。まるでそう唸っているかのようだった。
「ひ……っ!?」
あまりの恐ろしさに思わず縮こまる酒匂、深海棲艦より不味いモノに見つかってしまった。ここに来て酒匂は改めて己の行動の浅はかさを恥じた。
「(っ、シスター…プリンツちゃん…翔鶴ちゃん…ごめんなさい。だって…酒匂は…!)」
『Shaaa---ッ!!』
「…っ!!」
大蛇は巨大な尻尾を振り回し今度こそ酒匂にぶつけた、強い衝撃が酒匂を吹き飛ばし、雑木林の木に身体を打ち付けられる。大木には衝撃跡が残されるほどのダメージだった。
「か、は…っ!?」
『Shrrrrrrr…!』
大蛇は完全に動けなくなった酒匂に悠々と近づいて来る、酒匂も動こうと藻掻くが身体が言うことを聞かない、どころか艤装も今の拍子に調子がおかしくなったようだ…万事休す。
「ごめんなさい…ごめんなさい。酒匂…どうしてこんなに…力が…無いの……っ!」
『Shaaa---ッ!!』
酒匂がまるで辞世の句のように言葉を呟くと、大蛇は大きく口を開けて…彼女を丸呑みにしようとした。
「──っ!!」
目を固く閉じて己の最期を覚悟する酒匂。
走馬灯のように脳裏に蘇る彼女の思い出は…彼女の「死」の証であろうか──
・・・・・
「どうして酒匂を見張っておかなかったの!!」
「…っ!」
夜のデイジー島海岸の砂浜に集められた艦娘たち、居なくなってしまった酒匂を探すために話し合うことになったのだが…やっぱりと言うべきか、翔鶴が開口一番に酒匂から目を離してしまったサラさんに怒号を飛ばした。
無理もないか、酒匂が由良を探しに危険地帯である南木鎮守府へ向かったのは、他でもない「翔鶴を立ち直らせるため」。僕のアカシック・リーディングで理解したことだから間違いはないだろう。それを踏まえて翔鶴はまたしても憤りをサラさんにぶつけたのだ…酒匂がそこまで自分を気にかけてくれていただなんて、思い至れなかった自分を責めているのだろう。
しかし誰にも予想は出来ないことだ、何を言っても変わらない。そう思ってか堪らず綾波が仲裁に入るが──
「翔鶴さん、もうその辺りで。サラトガさんもまさかこうなるとは思わなかったご様子、サラトガさんだけ責めても事態は好転しません」
「分かってるわよ!そんなこと言われなくったって!! …悔しいのよ、酒匂は私を…ダレよりも心配してくれてたって気づくことが出来なかったのが。私は…また…喪ってしまうんじゃないかって…!」
「翔鶴さん…っ」
「…ごめんなさい、ごめ……なさ…っ、私…私が悪いの。私が酒匂の話を…ちゃんと聞いてあげてたら…っ!」
「違う…悪いのはシスターじゃない、私も…この場に由良が居てくれたらって……酒匂に言っちゃったから…だから…だからぁ…っ」
サラさんとプリンツが涙を零して自分たちの不甲斐なさを恥じた。
「…悔やんでも仕方ない、今はとにかく酒匂が無事であることを願って、あの南木鎮守府に捜しに行くしかない」
「だな。俺と綾波はいつでも行けるが…お前はどうするタクト?」
天龍に問われた僕は、少し考え込むと…舞風のところに近づく。
「舞風、君に渡したガスマスクを貸してもらえないかな?」
「えっ、いいけど…無理に行かなくても」
「いや、これは…酒匂が南木鎮守府に行くキッカケを作ってしまった僕に責任があると思うんだ。だから…ケジメをつけないといけないなと思って、もっと良い方法があるかもだけど…今の僕には酒匂を助けることしか思い浮かばない」
「タクト…分かった、無茶しないでね?」
僕の決意を汲み取って、舞風もまた引き締まった顔で僕に向き合いガスマスクを渡してくれた。
「ありがとう。…よし、じゃあ金剛もガスマスクを着けて来てね。調査隊は僕と金剛に天龍、綾波の四人で行くよ。残りの娘はこの場で待機していてね?」
僕の言葉に頷く艦娘たち、何故か野分と翔鶴に反応がなかったが…考え込んでいるのか?
「野分?」
「っ、だ…大丈夫ですコマンダン。僕は…大丈夫……!」
「…そう? 何かあれば言ってね。良し…じゃあ皆行こう」
「っ、待ってっ!!」
翔鶴は僕らを呼び止めると、目に涙を滲ませながら懇願した。
「…お願い、私も連れて行って。酒匂がこんなことになったのは…私のせいだから、私が彼女を迎えに行かないと…一生後悔しそうなの、だから…っ」
「翔鶴…気持ちは解るけど、君の艦載機は霧の中じゃ…」
僕が言い終える前に、翔鶴は砂浜に膝を付けるとそのまま頭を下げて両手を添えて、砂を額に押し付けた。
「…お願い、します。私が悪かったの…いつまでも変わろうとしなかった私自身が……っ。私は…私のせいで酒匂を喪いたくない、そのためなら…何でもします、だから…っ!」
「っ! 翔鶴…!」
翔鶴の突然の土下座に、僕はどうしても強く言葉を紡ぐことが出来なかった…それは他の娘も同じであった。沈黙の空間が時を刻んだ。
涙で濡れたであろう顔から落ちた涙が砂浜に染み込むのが見えた、身体も震えている…自分に出来ることで酒匂を助けたい、か…それは内心は自分のことばかり考えていた彼女が、変わろうとしてる証拠なのかもしれない…。
「…そう、それが貴女の覚悟だと言うなら」
金剛は短く呟くと土下座している彼女に近づき、自分のガスマスクを差し出した。
「このガスマスクを貴女に預けるわ、その代わり…必ず酒匂ちゃんを連れて帰って来てね? それからちゃんとありがとうって伝えること、良い?」
「…うん、私……酒匂を捜しに行く! 会って…謝らないと…っ!」
砂まみれの顔を上げて涙ぐむ翔鶴に「良し」と言いながら頷く金剛、そのまま手に持ったガスマスクを翔鶴に手渡した。
翔鶴はゆっくりと立ち上がると、右手で顔の砂を拭い決意を秘めた表情で僕に話しかけた。
「タクト…ごめんなさい。霧の中で空母がどれだけ役立てるか分からないけど…私も酒匂を迎えに行きたいから…っ!」
「…分かったよ。サラさんはそれで大丈夫ですか?」
「異存ありません。翔鶴…私のミスなのに申し訳ありませんが、どうか…あの娘を…酒匂を無事に連れ帰って来て…!」
「翔鶴…お願い、酒匂を…助けて…っ!」
「…えぇ、任せて!」
「──行こう!」
こうして、僕と翔鶴、天龍、綾波は黒い霧に包まれた南木鎮守府へと舵を切るのだった…!
・・・・・
『Shaaa-……ッ!?』
大蛇が酒匂にその大きな口を開けて捕食しようと迫る──しかし、喰われたという感触はない。
「…えっ!?」
様子がおかしいと恐るおそる目を開いた酒匂…彼女が見た光景は──
「──大事ないか?」
2メートルはあるだろう身長、黒の長い髪とロングコート、特徴的なヘッドギア、凛々しくそれでいて険しい顔立ち、その威風堂々とした立ち姿は──大蛇の閉じようとする牙を両手で抑えて離さなかった。
「貴女は確か…長門ちゃん!? シスターの言ってたとおり…ホントに…生きてたんだ…っ!」
英雄は沈まず…酒匂にとって今の長門は正に救世主だった…!
『Shaaa-……ッ!!』
「…ぬんっ」
牙を両手で防ぎながらも右脚の膝蹴りを大蛇の下顎にかます長門、大地を揺り動かす程の力強い衝撃に、呻きながらも後退りする大蛇。
『Shaaa-……ッ!?』
「懲りぬヤツだ…この辺りの深海ドモを平らげたというのに、まだ足りぬと?」
『Shaaa-……ッ! Shrrrrrrr…!』
大蛇は威嚇しながら長門の隙を伺うように辺りを這いずり回る、その眼は長門と酒匂を完全に捉えていることが理解出来た。
「暗がりなのに、どうして酒匂たちの居場所が解るの?」
「ヤツは機獣と呼ばれている大蛇、名は「ヒュドラ」という…蛇は丁度顔の真ん中に「ピット器官」と言われる熱探知機能がある、暗がりであろうと血の通った動物であるなら探知することは容易い。その辺りはニンゲンを模して造られた我ら艦娘も例外ではない」
「ぴゃあ…し、知らなかった」
「…それで、君は酒匂だな? 何故ここに来た…この場所は危険なのだとサラに習わなかったか?」
酒匂は急な展開に頭を悩ませながらも、長門に自身がここに来た理由と外で何が起こっているのか話す。
「…つまり、現在大規模な黒幕捕縛作戦が展開しているということか?」
「うん、酒匂は探してるヒトが居てこの南木鎮守府に来たんだけど…」
「そうか、だがこの地獄の様相となった南木鎮守府にヒトリでとは…あまり関心せんな?」
「うっ、ごめんなさい…どうしても由良って娘を見つけたくて…!」
「由良か…」
「…?」
「いや。それにしても遂に連合が動いたか、カイトもこの数年は気がキではなかっただろうな、迷惑をかけた…」
「長門ちゃんはどうして無事だって伝えに行かなかったの? 皆心配してたよ」
「然もありなん、しかし…私がこの場を動けばこのヒュドラは隙を突いて外に出て来る可能性がある。コイツの相手で精一杯であった…許せ」
「そっかそっか、でも…良かったぁ。シスターも皆もきっと喜ぶよ!」
酒匂は絶望の中で見つけた一欠片の希望の光に喜んだ、しかし状況が変わったわけではない。
『Shaaa-……ッ!!』
「酒匂、動けるか?」
「ぴゃ…ちょっと無理かも。身体さっきの衝撃で上手く動かないし、艤装の調子も悪いし…」
「是非無し、あのヒュドラの一撃を受けたのだ。酒匂、後ろの艤装を消してみろ。…良し。…ん」
長門は徐に酒匂に近づくと、彼女の身体をひょいと持ち上げそのまま両腕で抱きかかえた。
「ぴゃ!? …ん、何か恥ずかしいね?」
「少しの辛抱だ、我慢せよ。…さて、先ずはコイツを撒かねばな?」
『Shaaa-……ッ!!』
長門は自身の大砲を召喚すると、そのままヒュドラに向けて艦砲射撃をお見舞いする。
──ズドオォン!!
『Shaaa-……ッ!?』
水柱がヒュドラと長門たちの視界を遮る、それを確認した長門はそのまま全速力でその場を離脱した。
「ぴゃ!早いはやーい!」
「暴れるな、舌を噛むぞ」
「ご、ごめんなさい…」
「…無事で何よりだ、君に何かあればサラに合わせる顔が無いからな」
「ぴゃ…シスターと長門ちゃんの関係って一体…?」
「ん、それは機会があればな? …それより酒匂よ。由良に会いたいと言ったな?
長門の言葉に思わず目を丸くする酒匂、それでも答えは変わらない。
「──会わせて、酒匂どうしても由良ちゃんに会わせたい娘が居るの」
酒匂の覚悟の色を見た長門は無言で頷く、しかし…直ぐに虚しい表情になる。
「会わせても良いが…今の由良は君たちの知っている彼女とは違う、それでも…構わんか?」
「え…っ!?」
長門の言わんとする意図が読めず、酒匂は驚きを隠せず声を上げた。