艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
──拓人たちがその場を離れ、残されたのは改二改装改装済みの天龍と綾波、そして敵である深海棲艦のレ級と姫である港湾棲姫。
「さて…」
天龍は警戒しながら辺りに視線を移し状況を見極める。
正面に狂い嗤いを浮かべるレ級と虚ろな眼の港湾棲姫、黒い霧の支配する広大な湿地帯ではあるが、翔鶴の残した灯籠弾の灯りにより、双方の姿が鮮明に照らされている…視界は良好、戦いに支障はない。
後は火蓋を切るのみか…そう思われた時徐に綾波が天龍に話しかける。
「…天龍さん、どちらをお相手しますか?」
「む? 俺は港湾棲姫だとか言う姫級にしようと思うが。レ級はお前の相手だろう…綾波?」
「…ですね。しかしながら今の自分の力が彼女に「釣り合うのか」…そう思いまして?」
『…ッ!!』
綾波がらしくない見え透いた挑発を口にする、即座に反応を示したレ級を見てその「意図」を瞬時に理解した天龍。
「違いないが、あまり自身の実力を驕らない方が良い。戦いでは何が起こるか分からん、弱い故に「自爆特攻」も有り得る…だろ?」
「そうかもしれませんね? それでもカイニであろうとなかろうとも、私は負けるつもりはありませんが…ね?」
『…ギガ、ガギャア!!』
レ級は嗤いながらも青筋立てて目をギョロリと見開き睨みつける、目が明らかに血走り鎌を持つ両手も力強く握り締められた──あまり舐めると沈めてやるぞ、そんな声が聞こえてきそうだ。
「(上手くいきましたね?)」
「(ああ、これで此方に目が離せないだろう。万が一にもタクトたちの元に行くことはなくなった)」
「(はい、ですが…油断ならない相手だというのは確かです)」
レ級は幾多に渡り拓人たちの行く手を阻んだ強敵、例え改二になろうともそれは変わらないだろう。更には今回は姫級一隻も居るので尚更油断ならない。
「天龍さんならあの鬼姫も相手取れるでしょう、仮に何かあろうと私が何とかします」
「頼り甲斐があるな、だが俺も腐ろうとも独眼龍と呼ばれたモノ、心配には及ばん」
「ふふ、そうでしたね?」
『ギ、ギャァ!!』
二人が談笑する束の間、レ級は跳躍し真っ直ぐに綾波の元へ突撃する。
「──っ!」
綾波はそれを予期した隙のない動作で背中の大斧を抜く、戦斧でレ級の大鎌の第一撃を防ぐ、鉄のぶつかり合う音が響くと綾波は剛腕で戦斧を振り抜きレ級を振り払った。
──ガキィンッ!
『ギャ!?』
「貴女の相手は私です、いざ…参ります」
今度は綾波が海面を飛び駆ける、両腕で確り握る戦斧を振りかぶると──そのまま一気に薙ぐ。
『…ッ!?』
レ級はかろうじて大鎌の柄で綾波の一撃を防ぐ、しかしまたしても後方へ吹き飛ばされてしまう。
恐るべき力の余剰である、今まで何度も綾波と対峙したレ級だが──ここまで実力差を感じた試しは無かった、綾波は改二となって「異能」を手に入れたが、それと共に「基礎身体能力」も向上していた。つまり…本当に今のレ級では綾波を相手取れるか怪しかった。
『…ッ、ギャァア!!』
レ級は体勢を立て直すと、低い姿勢から鋭く跳び海上を駆ける。
両手で構えた大鎌を振り抜く、ふりぬく、乱れ振る。乱雑のように見えて確りと綾波の「首」を狙った、尋常ではない速さの連撃。驚異的な斬撃が綾波を襲う。
…が、その悉くを大斧で防ぐ綾波。彼女はレ級の黒鎌が自身の首を捉えた瞬間、戦斧の一撃で威力を相殺し軌道をずらしていた。しかもレ級の素早い斬撃連舞に合わせて、だ。
今までもこうして互いの力が拮抗する場面はあった、しかし今回はそれに加えて綾波側が一瞬の隙を突いた斧の斬撃を繰り出して来た。
『ギャッ!?』
慌ててレ級は鎌で防御する、先程と同様に後方に飛び退くと同時に「尻尾の深海艤装による砲撃」をお見舞いしようとする。
──ズゥン!
レ級の深海艤装──大蛇のような太い尻尾型砲塔──は大きく口を開けて火球を放った、狙いは綾波の顔面…当たれば頭は文字通り「消し飛ぶ」。
「──砲撃による不意打ち、私は「正当でない」と判断します」
綾波は機械染みた言葉を呟くと、右手をスッと静かに前に出す。
──ブゥウン…!
『…ギギャア!?』
瞬間、レ級の周りが歪んだと思うや彼女の身体に言い知れない「重み」がのしかかった。
レ級が撃った砲弾も勢いが無くなると同時に軌道が変わり海面に着弾する、爆発はせず静かに海の中へ入った。
綾波の「重力操作」は改二になって手に入れた能力だが、彼女は表立ってこの能力を使うことはない、一対一の一騎打ちなら尚更である…が、複数人との戦いや彼女にとって「卑怯、不当と思われる」行動をしたモノには躊躇なくこの力を使うだろう。
全力を出さない戦い方、そう思う者も少なくないだろうが…重力を操る力そのものも綾波にとっては「卑怯」なやり方と捉えている以上、相手方も同じような行動をしない限りは、易々と使うこともない。
『グ…ギギ……ッ』
重圧に身体が海面に押しつけられそうになりながらも、意地なのか立ち上がろうと抵抗するレ級。片膝が付くも耐えている様子だが…このまま行けば動きを完全に封じ込める、そう思われたが──
「──ゔっ…!?」
ここで綾波に異変が。急に苦しみ出したと思うと右手を降ろして能力を解除し、膝を付いてしまう。
「綾波、どうした!?」
「…能力行使の、限界値を…超えた模様です…っ、痛…っ」
「何? お前の能力には体への悪影響があるとは理解していたが、まだ数える程しか使っていないはずだろう…!?」
どうやら綾波は能力行使のデメリットとして、全身を裂くような痛みに襲われているようだ。
前回の海域で多く使い過ぎたか、それとも使えばつかうほど疲労が蓄積されていくのか…何れにしても明らかなのは、彼女が異能を使用すると全身に痛みが回るようになり、使う度そのインターバル間隔も短くなっている。つまり綾波の重力操作は「短時間」でしか行使できない──長時間又は連続使用は事実上不可能である──ということ。
『ギャア!!』
隙が出来た綾波に狂い嗤いを浮かべて迫るレ級、鎌を振りかぶり綾波の首を狙う──
「──させん!」
寸でのところで綾波の前に出る天龍、瞬間移動で綾波とレ級の間に入るとレ級に一太刀浴びせようと斬りかかる。
『ギィィ!』
レ級は空中で身を翻して天龍の斬撃を華麗に避ける、それでも綾波を守ることが出来た。
『──…ッ!』
だがまだ油断は禁物、港湾棲姫が右手を掲げると彼女の深海艤装──右側に取り付けられた艦載機用の滑走路から、まるで化け物のような不気味に嗤う白い浮遊球体が複数射出される。
『ケケケケケーーーッ!!』
「…っ」
右手を上げ能力を発動しようとする綾波に、前に居た天龍が静止する。
「止せ綾波、お前の能力は危険過ぎる。これ以上やればお前がどうなるか分からん」
「しかし…」
「ここに居るのはお前だけじゃない、仲間を頼れ…この俺を」
「天龍さん…!」
自分に任せろと断言する天龍だが、迫り来る敵艦載機を前に為す術はあるのか…?
「小手調べだ…ぬんっ!」
天龍は自身の艤装を展開すると、高角砲より対空砲火が放たれた。…が矢張り命中精度に難があるようだ、散開した砲弾は広方範囲に向かうも、敵艦載機には擦りもしなかった。
『ケケーーーッ!』
「成る程、矢張り当たらんか…当然だな?」
天龍は最初から自身の「砲撃命中精度の低さ」を理解しているので大して驚きもなかった。
縦横無尽に飛び回る敵艦載機を、どうすれば撃ち落とすことが出来るのか…? 天龍に勝機はあるのか──
「──やってみよう、実戦で使うのは初めてだが」
そう零す天龍は脚の装置以外の背中の艤装を一旦消し、徐に腰に据えた「刀」に手を掛けた。
「俺は…タクトの相棒になって新たな力を手に入れた、最初はただ「スピードが速くなる」だけだった。だが…」
──腰を深く落とし、右手に納刀した刀の鞘を持ち、刀の柄に左手を添える。
『ケケケーーーッ!!』
「”一瞬”に神経を集中し…俺の能力の全てを刀の「一振り」に費やせば…どうなるだろうな?」
意味深に言葉を呟くと目を閉じる天龍。
暗闇の中飛び回る敵を五感で捉える、次第に雑音がしなくなる──綾波の声も敵艦載機の空中を飛び回り何かを落としたような音も、何も聞こえなくなる…やがて頭の中を真白にして雑念が消え去った時──
「──…瞬速、抜刀」
────シュッ────
ただ、空気の擦れる音がした。
それと同時に空中に「一閃」が疾る。空中に幾重にも刻まれた線が、敵艦載機と敵の落とそうとした爆弾、それら全てを捉えて「
『ケゲーーーッ!!?』
抜刀した瞬間はダレにも見えず、まるで敵艦載機が一人でに爆散した様。絶刀の一太刀から繰り出された乱閃が数多の艦載機を一瞬にしてバラバラにした、正に敵と共に次元そのものを切り捨てた。
『…ッ!?』
「す…凄い…!」
天龍はどうやら居合の要領で全速の抜刀をお見舞いしたようだが、天龍の「速さの限界を超えた能力」との相乗効果により、どんなに遠くに離れていようと剣閃の直線上であれば斬り伏せることが可能となった、改二艦の抜きん出た実力を見せつけた天龍。
「…さて、次はダレだ?」
すかさず刀を鞘に納め居合の構えで敵を迎え討とうとする天龍、迂闊に間合いに入れば光速抜刀の餌食になることは明白、レ級は苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。
『ギ…ッ!』
近づけばどこからともなく抜刀の斬閃が来る、このまま近づかなくとも隙を見せれば「斬られる」。厄介な攻撃方法にレ級も手が出せないでいたが…?
『──Shrrrrrrr…ッ!』
「…っ、殺気!?」
「…どうした?」
膝をついた綾波は、突然何処からともなく何モノかの「気配」を感じて辺りを見回す、レ級ではなくおそらく霧に隠れているモノがいると知覚する。
それに気づいた天龍が一瞬気を緩め綾波を一瞥する、しかし──
『──Shaaa---ッ!!』
──狩人は闇の中、その「隙」を待っていたように牙を剥いた。
「…何っ!?」
森の奥深くから突如現れた最後の機獣「スキュラ」は、木陰から巨大な胴体をバネのように飛ばし跳躍する、目の前に急速に近づいて来る「大蛇の大きく開いた口と牙」に、天龍は思わず固まり更なる隙を見せた。
遠目の視界不良を利用した見事な
『──…キヒッ』
レ級はその瞬間を見て、狂気にほくそ笑むのだった…。
・・・・・
──まさか、こんなことになるなんて。
「…はい、これで良し。身体の怪我はこれで完治したと思うわ」
「ぴゃ! ありがと翔鶴ちゃん!!」
水辺の陸地に生えた枯れた大木の下、周りが木の根に覆われた少し湿った空気の漂う空間。僕らはそこで一休みしている、深海棲艦が近くに居るかもなので、長門さんには外で見張ってもらっていた。
「…凄いね翔鶴、回復魔法も使えるの?」
「私は腐ってもエルフの適合体よ? 消費するマナは常に体内に溜めてあるから、黒い霧の中でもある程度なら大丈夫よ」
やっぱりエルフは万能で頼りになるなぁ、まぁそれ以上に翔鶴だから信頼出来るんだけどね?
酒匂はここに来る途中巨大な大蛇? に襲われて怪我をして身体が思うように動かなかったらしいが、翔鶴のおかげで回復したみたいだ。良かった…でもその大蛇ってもしかしなくても…機獣、だろうね?
それについては後で長門さんに聞くとして…それ以上に分からないのは僕ら以外にこの場に居る「人物」の存在だろう。
『…フゥ、はい酒匂チャン、艤装もこれで直ったと思うヨ。簡易的な修復だケド多少の距離ナラ動けると思うカラ』
「ありがと由良ちゃん! この黒い霧の中だとマナが足りないし艤装引っ込めても回復しないから、助かっちゃった。さっすが南木鎮守府一の"めかにっく"だね!」
「本当に助かったわね、ありがとう…由良」
『…ウウン、私に出来ることハこのぐらいしかないカラ』
そう言って微笑む彼女…由良は普通の艦娘、という訳でなくその姿は「深海の姫」そのものであった。
白いフード付きコートを身に纏い、フードを深く被った顔に「鬼を模した能面」を着けている、今は能面を外してるけどその素顔には深海の姫の象徴である「白い角」と肌は「白に近い灰色」になり、よくある深海艤装があれば「新種の姫」と言われてもおかしくない様相だ。
どうして由良が深海化しているのかとか、色々ツッコミたいところはあるけどそれは今は置いておこう。改めて僕は由良の顔を横から見つめてみる。
…うん、少し疲れている感じだけど感情が不安定とかはなさそう。彼女は理性を保っているようだ、深海化したら大体が自身がナニモノか忘れちゃうんだけど、そういったことも心配ないみたい。
良かった…これで由良に正気がなかったら翔鶴たちには更にトラウマものだったけど、大丈夫みたいで安心した。寧ろ彼女が自身の正体を明らかにしてからも、翔鶴も酒匂も彼女を拒みはしなかった、酒匂は「カッコいい!」なんて言い出して、翔鶴も否定的な態度を表さず今の由良を受け入れた。
「ぴゃは!」
「ふふっ」
『…ふフ』
他愛ない会話で朗らかに笑い合う三人を見て、僕は彼女たちの確かな絆を感じ取った。彼女たちは長い間苦楽を共にした仲間だから当たり前なんだけど?
…それでも話は進めなきゃ、出来るなら分からない部分ははっきりさせたいし? 僕は──不謹慎なこと言うかもだけど──由良に対して疑問を尋ねてみる。
「由良…君が答えたくないなら無理に言わなくて良い、疑問を晴らしたいから聞かせてほしい。君は…
僕の問いに対し由良は…少し戸惑いの色が隠せなかったが静かに頷いた。
『そうだヨ、私は由良…だった。今の私は「復讐」のために生きてイル』
「復讐…?」
『…ウン、貴方は翔鶴チャンの新しい提督だよネ、なら…貴方にも聞いていてホシイ、ここに来たということハきっと貴方にも関係あるカラ』
「え…どういうこと?」
『私が復讐しタイと恨んでイル相手は、アノ南木鎮守府だった廃墟に居ル、彼ハ貴方の追っている人物デ間違いナイと思ウ』
「っ! それって…まさか」
由良はそれ以上の回答はせず、ゆっくりと翔鶴の方を向くと今度は彼女が翔鶴に質問する。
『翔鶴チャン、あの任務の時に私が居なくなってカラ、私はどんな扱いになってタ?』
「っ! ………あの時、貴女がどこに行っていたか私たちは探す余裕がなかった、でも…皆貴女がまだ鎮守府内に居ると考えてたから…南木鎮守府の燃えるところを見て…」
『…沈んだことになってタ?』
由良の回答に黙って頷く翔鶴。
彼女が居なくなったのは皆が「あの任務」に臨んでいた最中、僕は翔鶴の話からしか聞いてないけど…色々なことがありすぎて、探す暇なんてあるわけなかったのだろう。
翔鶴たちの中では、由良はあの南木鎮守府で「沈んだ」ことになっていた。それが暗黙の了解で今まで誰もそれを口にしなかった…無理もない話だけど?
由良は翔鶴の話を聞いて、肯定の意を返した。
『そう思われてモ仕方ないよネ。でもその考えは間違ってないヨ、私はもう…死んだようなモノだシ?』
「由良…貴女に一体何が?」
翔鶴の疑問に、由良は意を決した様子で翔鶴の眼を見つめて話す。
『今更何を言っても遅いと思うケド、翔鶴チャン…酒匂チャンの話だと貴女には本当に大きな迷惑をかけタ、だから貴女には…真実を伝えないといけないと思ッテ』
「真実?」
由良は話を一旦区切り立ち上がると、僕と翔鶴、酒匂と順々に目を合わせていく。
『あの南木鎮守府が何故陥落したのカ、どうして深海棲艦の蔓延る地獄と化したのカ、それハ──』
──私ガ、彼らを鎮守府内に招き入れたカラ。
「…っ!?」
衝撃の事実を口にする由良、しかし…それは到底信じられないモノ。
「由良が…そんなこと、貴女自身が言ったって信じられるわけないじゃない!」
「そ、そうだよ! 由良ちゃんが深海棲艦を鎮守府に…そんな酷いこと、由良ちゃんがするはずないもん!」
翔鶴と酒匂が当然反論する、僕としてもそれが真実であれ理由があると感じ取る。
『…ありがトウ、でもこれは拭い難い真実、私が…翔鶴チャンにとって一番恨まれるべき相手だということモ』
「由良……どうしてそんなこと」
『それを今から話すヨ、自分も何故こんなことになったカ…改めて整理したいシ?』
そうして由良は語り始めた…翔鶴たちが居ない間に彼女の身に何があったのかを。