艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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由良の証言──真実と嘘の境界線

 ── 鎮守府崩壊事件前、南木鎮守府廊下にて…。

 

 私は翔鶴ちゃんたちと一緒に任務説明を受けた後、提督に呼び止められていた。

 

「新薬の治験…ですか?」

「あぁ、この薬は連合が開発したのだが、艦娘用に造られた「強化薬」らしい。飲んだモノの身体能力を飛躍的に向上させることが確認された、まだ試作段階だが…今回の任務で何かあるかも分からないからな、もし良かったら試してみてほしい」

 

 提督の言葉を聞いて、私は思わず頷きそうになった頭を堪えて冷静に考えてみる。

 

 私は──提督のことが好き。

 

 もちろん私は艦娘という兵器の立場だから、その気持ちを伝えたりはしない。でもだからこそ私は、提督の命令ならどんなことでもしてあげたい。

 でも…新薬の治験、というワードがピンと来なかった。私は元は連合で働いていた艦娘だが、強化薬の話など聞いたことなかったし、仮にごく最近出来たモノであったとしても、提督が艦娘にまだ危険性も分からない薬を使わせるとは思えなかった。

 

「提督…この新薬には副作用はありますか?」

「ん? そうだな…少し体調が悪くなると聞いたが? 俺も実際に使用したモノを見てないからな、何かあるかもしれん」

「…そう、ですか?」

 

 私はあからさまに怪訝な顔をしてみせる、どうにも彼の言動に不明瞭な点が目立つからだ。

 本当は…提督の言うことならどんなに怪しくても聞いてあげたい。でもこれがもし彼の「意思でない」なら…そう思うと懐疑心が生まれて頷くことが出来ない、最近では連合本部からの圧力もあると聞くし…無理やり言わされているかもしれない。

 彼がココロから望んでいることでないなら、私はそのまま彼の命令を鵜呑みにするのは違うと思った。だから…もしそうでないなら、そう考えた私は本当のところを提督に聞いてみる。

 

「…提督、私に何か隠していることありませんか?」

「何を…? どうした突然、俺はただ」

「もし、連合から無理やり命令されているなら、もう一度考え直して貰えませんか? 危険かも分からない新薬を飲んで任務中に何かあれば…それこそ一大事ですよね?」

「っ、由良…」

「提督、貴方はとても優しい…兵器として生まれた私たちにもそれは変わらない、そんな貴方の命令なら喜んでやりたいです。だからこそ、貴方の本意でないことを承諾するわけにはいきません。どうか…貴方の気持ちをお聞かせください」

 

 私のココロからの言葉に、提督は…何処か困惑したような表情を浮かべると、頭を掻いて喋りづらそうに沈黙する、そして──暫くの間を置いて本当のことを話してくれた。

 

「…すまない、確かにこれは俺の意志ではない。先程言ったようにそれはまだ試作段階なのだが、上層部が実戦で試したいと言って聞かなくてな…それに」

「それに…?」

 

 提督は私に数歩近づいて顔を近づけると、声を潜めて私の耳元であることを告げた。

 

「明日君たちが受ける任務は「シルシウム島の機械設備の偵察」だが…どうも「罠」の可能性があるらしい」

「…っ!?」

 

 提督が耳で囁く衝撃の事実に私は耳を疑った。

 

「どういう意味ですか…?」

「シルシウム島に隠れ潜んでいるのは、連合が長年追い続けている凶悪犯らしいのだが、例の機械設備を造ったのもソイツのようだ。ソイツは神出鬼没で幾年にも渡り連合の包囲網を掻い潜り続けた、姿すらまともに見た者は居ないらしい。狡猾な輩だと聞くので…何がしかの「罠」を張っている可能性がある」

 

 話を聞けば聞くほど事の重大性が見えて来た、さっき瑞鶴ちゃんたちが任務の違和感を訴えてたけど、それが当たった形だ。

 

「つまり…謎の機械設備偵察は建前で、本当はその凶悪犯を捕まえたいのですね?」

「あぁ、だからこそ何かの罠があった時にその薬を用いれば、窮地を突破出来る可能性がある。俺としてはもちろん反対だが…すまんな、騙すような真似をして。出来るだけ内密にと釘を刺されていたんだ。試作段階の薬を渡したのも試す時間がなかったのだと察してほしい」

「…成る程、この薬は私たちが全滅しかねない程の大規模な罠の時、使用すれば宜しいのですね?」

「そうだな…確か肉体に多大な負荷がかかるらしいから、事前に一粒飲んで身体に馴染ませる必要があるらしい」

「分かりました、ちょっと怖いけど…そういうことなら、使わせて頂きます」

 

 危険な任務であるため、万が一の対策をする必要がある。…今更危険だからとかの理由で反論することはしない、私たちは兵器、仕方のない事情があるならそれを対処するまで。何より…提督が仰っているなら本当のことなのだろうと信じられた。"恋は盲目"…そう言われてもしょうがないけど、私が提督の役に立ちたい想いは真実だ。

 

「ありがとう、では頼んだよ。あぁ分かっていると思うが、他の娘たちにもこのことは言わないでくれ。何もなければそれに越したことはない」

「了解しました」

 

 改めて内密にすることを話し合うと、提督は錠剤入りの小瓶を私に手渡そうとする。右手で受け取ると…提督が左手でそっと私の手を握った。

 

「提督…?」

「本当にすまない、由良…君にこんなことを言う資格が俺にはないのかもしれない…責任を君に押し付けているだろう。でも、君だからこそ出来ることだと俺は判断した。どうか…無事任務を終えて帰って来てほしい、武運を祈る」

「…っ!」

 

 提督に目で見つめられ、私は胸の高鳴りが抑えられなかった。信頼されている…そう思うだけで、私はそれだけで幸せだった。

 

「…はいっ、お任せください!」

 

 朗らかな笑顔を向けて、私は彼の優しさに応えた。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──しかしその夜、私は自分の「愚かさ」を呪った。

 

「…っ、ゔっ、っあ……っ!」

 

 深夜、あの薬を飲んだ後ベッドで就寝する私、けれど身体に異変を感じ意識を取り戻す。

 熱い、身体が芯から熱くなる。熱さが脳から足先まで感じ取れた、意識も頭が呆として考えが纏まらない。まるで「私の身体ではない」みたい。

 

「…はぁ……っ」

 

 ベッドから身を起こして、私は部屋の中にある洗面所へ向かった。

 任務前で身体が冴えてしまったのか、それとも薬の副作用か…どちらにせよここまで異変があるのでは任務に差し支える可能性がある。先ずは顔を洗って…それからどうするか考えよう。

 そう思い私が洗面台の水で顔を洗い…ふと顔を上げる──

 

「──…え?」

 

 本来映し出される私の顔…確かに私に違いないが……その「肌」は灰色に近い病的なまでの白色となっていた。

 

「……何、これ…?」

 

 よく見ると、口の中で牙が鋭く尖っていて、目も赤みを帯びて妖しい輝きを放っていた。まるで「魔物」のような風貌に言葉を失う…一番目を引いたのは。

 

「…っ! これ……角…っ!?」

 

 私の額右側から生えた「角」が、とうとう私に理解させた──私は「人外」になってしまった…と。

 

「あ……ああぁ…っ!?」

 

 膝から崩れ落ちる私、鏡から目を離していたけど…きっと絶望の染まった顔をしていただろう──

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──任務当日。

 

「う〜ん、見つからないねぇ?」

「ぴゃあ、匂いもしないし何処に行っちゃったんだろ? 早くしないと間に合わないよ〜」

「だねぇ。…ん、何か変な匂いしない? 濁った水みたいな…ちょっとほんのり〜って感じだけど?」

「ぴゃ? …クンクン、確かにするぅ。でも誰かが任務で湿地帯とかに行ってたんじゃない?」

「あ〜、此処って任務で色々なとこ行くし有り得るかも。…むぅ、もう時間もないし、どうしよう…」

「きっと鎮守府のどっかに居るんだよ、でも変な匂いのせいで居場所が分からないし…」

「う〜ん…仕方ない! 今は任務に行かなくちゃ、皆待ち草臥れてるだし由良も任務優先って言うだろうし?」

「ぴゃ? 良いのかなぁ〜?」

「うん、偵察だけみたいだし大丈夫だよきっと。…あぁ、もうこんな時間、急がないと!」

「ぴゃ、待ってよぉ〜〜!?」

 

「………」

 

 プリンツちゃんと酒匂ちゃんの姿が見えなくなるのを見計らい、私は廊下の角から顔を出す──…居ない、ホッと一息を吐く私。

 二人はおそらく私を探していた、本当は声を掛けたかったけど…プリンツちゃんたちの話を聞いてたら、出にくくなっちゃった。

 私の匂いがせず、代わりに泥水のような香りがした…匂いまで変わるなんて、本当に別モノになってしまったみたい。

 

「…っ、どうしよう……」

 

 私は恐怖で体が震えていた、それもこれもこの…白い肌の化け物の姿のせいだ。

 皆のためだったとはいえ、こんな姿で任務などに出られるわけない。原因はあの薬であることは間違いない、副作用があると提督も言っていたし…。

 

「提督…っ!」

 

 私はこの時正常な判断が出来なかった、ぐるぐる回るような感覚と焼き焦げる頭を抑えて…私は提督の元へと駆け出した。

 

「はぁ…はぁ……っ! 提督なら…私を理解してくれる、どんなに変わっても……私を見つけてくれる、この状態もきっと何とかしてくれる…っ!!」

 

 我ながら安直な考え、でも…どんなに冷静な行動を心掛けても、ダレであろうと…この「予想外の最悪」には対応出来るモノは少ないだろう。

 理解していた、提督は「怪しい」と。彼からもらった薬からこうなったことは明白であり、今不用意に彼に近づくことは…それこそどうなるのか、と。

 でも──ココロが彼を疑うことを否定した、提督がこんな酷い仕打ちをするはずない、何か事情がある筈だ。私たちの提督は…そんなことしない。そう祈るように思考する。

 

 愛情…その感情が自らを滅ぼすことになるとは知らずに──

 

「…っ! 提督!!」

 

 そんな中、私は無人の廊下に一人静かに佇む提督の後ろ姿を見つける。私は提督を視認した瞬間、無我夢中になって駆け出す、そして彼を大声で呼ぶ──

 

「提督! ……っ!?」

 

 ──次に私が見たのは、視界を覆うほどの「赤い光」だった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 そこからの記憶は途切れとぎれで、自分がどうなったのかも何をしていたのかも覚えていない。

 

 ただ、覚えているのは──

 

「誰だ…っ!? 由良ちゃん…その顔は──」

 

 監視塔の見張り員の人が、私の顔を見て酷く驚いていた場面。

 

「由良ちゃん…なの? 貴女は…本当に──」

 

 鎮守府入り口で警備をしていた艦娘たちの、信じられないような酷い絶望に染まった顔。

 

「由……良…っ」

 

 血に濡れた自分の手。

 

 そして──

 

 

「──御苦労」

 

 

 ニヤついた顔で私の肩を叩く、不敵に嗤う知らない男。

 

 この時点でも私が「何らかの罪」を犯したことは、どんなに記憶が曖昧でも理解出来た。

 

 でも、一番私のココロを揺さぶったのは──

 

「──由良、ごめんな…」

 

『…ッ! テ、イト、ク………?』

 

 私が

 

 

 

 提督の腹部に致命傷を負わせていた時──

 

 

 

『…ソ、そんナ………!?』

 

 私の右腕は、気づいた時には既に提督の腹部を貫通していた。

 

 燃え盛る鎮守府内にて、私は動かなくなった提督を抱いて…呆然とするしかなかった。

 

『う……うウ………うわあああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

 絶望の咆哮が地獄に木霊した…同時に、私は復讐を誓った。

 

『…あの男ガやったンダ…提督を、私ニ殺さセタ……許せナイ…!

 

 私に全ての罪を着せて今ものうのうと生きているあの男、名も分からないあの男に…必ず報いを味合わせると……!

 

 

 

 

 

・・・・・

 

『これガ、鎮守府崩壊の真実だヨ。自分の意思だったわけではないケド、私が…南木鎮守府崩壊のキッカケを作ったンダ』

 

「………」

 

 沈黙がその場を支配する。

 本当に一部分だけって感じだから、分からないこともあるけど…要約すると由良は何者かに操られて南木鎮守府に敵勢力を招き入れてしまった…ということか? その過程で彼女は「深海化」してしまったようだ、推察だけど深海棲艦の姫と同じ特徴だし。

 この話で分かるのは「由良を騙して深海化させて、手駒として動かした人物が居た」という事実。由良が手渡されたその「新薬」とやらが、きっと彼女を深海化した原因なんだろう。

 深海化した艦娘を操る、そんなこと出来るのはアイツしか居ないけど…しかし、分からないのは提督さんだ。彼の一連の行動はサラさんとの証言と微妙に食い違っている部分がある。

 深海化する薬の譲渡、まるでアイツを手伝うような裏切り行為、それをアイツの行方を追っていた筈の彼が渡したのが謎だ──ここに重大な何かがあると僕は「直感」したが、それ以上は分からなかった。

 

「…っ、ぅ…はぁっ……!?」

「……っ」

 

 翔鶴は息を詰まらせながら、驚愕と悲哀が入り混じった表情で彼女を見つめる。酒匂も何も言わないが辛そうに俯いていた、二人とも明らかに動揺していた。

 

 彼女たちは理解したのだろう、由良が…彼女こそが鎮守府崩壊のトリガーを引いた張本人なのだと。

 

 それだけじゃない、翔鶴にとっても大切な人である「提督さん」がドラウニーアと繋がりがあるかもしれない、更には由良が提督さんの命を奪ったという衝撃的な証言。まだ怪しい部分はあるけど…嘘を言ってはないだろう、それでも翔鶴たちには到底受け入れられない事実に変わりない。

 当の由良本人はどうかというと、真剣な、それでいて神妙な顔をしていた。どんな風に罵倒されようとそれを受け入れる覚悟が表れていた、僕は…そんな彼女たちを見て居た堪れない気持ちになる。

 ここまで艦娘たちの運命を狂わせて…世界の破滅を願うなんて、本当に理解出来ない。アイツは…何を思って…?

 

『…翔鶴チャン、ごめんなサイ。謝ってモ貴女の受ケタ傷が癒エルわけじゃナイ、でも…言わないト私の気が済まナイノ。私のエゴでしかないケド…一つの区切りとシテ、謝罪するコトを許して欲シイ』

 

 由良は頭をゆっくりと深く下げると謝罪の言葉を述べる、一方の翔鶴は──

 

「──ふぅ………っ」

 

 深く息を吸い、気持ちを整える。翔鶴は…憎しみの衝動に揺られることなく、理性を保って事実を受け入れようとしていた。

 

「翔鶴…大丈夫?」

「…大丈夫よ、少し驚いたけどね?」

 

 僕は彼女が心配で声を掛けた、しかし翔鶴は身体は震えているも徐々に落ち着きを取り戻していく。

 

「…怒らないの?」

「えぇ。本当は怒り任せになった方がいいかもだけど、やっぱり…どんなに見た目が変わっても由良は由良だし、話を聞く限り本意ではないんでしょ? だったらそれを信じるわ。それに…仲間を疑うことを提督はしてほしくないと思うし」

「っ! 翔鶴…!」

 

 この海域で翔鶴は自身の過去と向き合い、そしてそれらを克服しようと足掻いて来た、その度に泣いて、叫んで、自分の気持ちを晒け出して…そんな彼女のココロは、七転八起を繰り返して強固となりつつあった、彼女は…着実に成長を果たしている。

 

「…やれやれ、少し心配してたけどこれなら大丈夫そうだね? ふふっ♪」

「えぇ、まだ受け入れられない部分も確かにある。でも…私はもう「否定」して後悔したくないから…!」

「翔鶴ちゃん…ぴゃ、そうだよね!」

 

 翔鶴から溢れ出るココロの輝き、そんな彼女を見て、僕も酒匂も誇らしい気持ちを湛え笑った。

 僕たちのやり取りを見て由良は──何処か羨ましそうに──翔鶴に懺悔の思いを込めて呟く。

 

『翔鶴チャン…私ハ』

「由良、貴女が謝ることじゃないわ。貴女が責任を感じることはないの」

『でモ…』

「大丈夫、貴女がそんなこと好きでする娘じゃないって解ってる。提督もそう思っていらっしゃるわ、きっと…貴女を騙したのにも、何かの事情があったのよ?」

『翔鶴チャン…』

「由良…さっきの話からの推測だけど、ドラウニーアのこと知ってるの?」

 

 僕は気になったので翔鶴たちの話に少し割り込む。そんな僕の問いに深く頷く由良、話によると南木鎮守府崩壊後に長門さんと知り合い、ドラウニーアのことを知ったそうだ。

 

『長門サンは極秘の任務デアノ男の行方を追ってイルらしいノ、私の話をシタラ「君がこうなったのは、ドラウニーアの仕業だろう」ッテ教えてくレテ?』

「なるほど、それでドラウニーアに復讐を…ってことか」

『ソウ、私はアノ男に復讐スル、提督や皆ノ仇を取るッテ決メタ。…どうシテ提督サンがアノ男に加担スルようナことをシタのか、それハ今デモ分からナイけど…アノ時の「ごめんなさい」ヲ、私は信じてるカラ』

「…そっか」

 

 僕は由良の悔しいような、悲しいような顔を見てそれ以上追求することを止めた。翔鶴はそのタイミングで再び由良と会話する。

 

「由良、貴女は騙されただけ。誰も悪くないの…全てはそのドラウニーアが」

『……そうだネ、でも…それとこれトハ話が別…じゃないカナ?』

「っ、由良…」

『あの時…私がもっト提督の言葉ヲ疑ッテいたラ、皆…死なナカッタ。あの時の私は確かニ…崩壊の槌を下ろしたンダ』

 

 翔鶴の言葉を遮り由良は自身の罪の意識を吐露した、翔鶴はすかさず彼女を擁護する。

 

「貴女がその薬を受け取ったのは、提督の期待に応えたかったからでしょう? 同じ立場だったら私もそうしてたし、提督が大事だと思う気持ちは私にもよく分かる。私たちは何も気にしていないわ、貴女が無事なだけで…」

『違う…違うンダヨ、翔鶴チャン』

 

 またも翔鶴の口を止めた由良、そこから自身の口を閉ざすと次の言葉を慎重に選んでいる様子で黙考する、そして──意を決した表情を浮かべ口を開く。

 

『…ウン、そうだね。()()()()()()()、誰よりモ…愛してイタと思ウ。でモ…皆も提督が好きッテことモ解ッテタ。翔鶴チャンも…そうなんでショ?』

「っ、それは…」

 

 胸中を当てられ思わず言い淀む翔鶴、由良は自身がこの話を振った意図を翔鶴に言い聞かせるように話す。

 

『提督を殺したノハ私、それダケじゃナイ。私は貴女の居場所を壊シタ、そのキッカケを造ッタ。言い逃れをスルつもりはナイ、私は貴女に恨まレテ当然の罪ヲ犯シタ。貴女ハ…私ニ復讐する権利がアル』

「ぴゃっ!?」

 

 由良の物騒な物言いに酒匂は思わず声を上げて驚いた。

 でも…そりゃそう言うよね? 翔鶴が全てを喪った原因を作ったのはドラウニーアだけど、そんなヤツの片棒を担いだのは事実らしいから。彼女がどんなに悪気がなかったとしても、利用された側にも問題はあるかもしれないから…自分で言ってて嫌になるけど。

 

『私はそのドラウニーアとイウ男に復讐を果たすマデ沈まナイと誓ッタ、でモ…貴女はキット私以上にアイツを沈メルことを望んでいる、翔鶴チャンにナラ皆の仇を任せらレル。なら…もしモ貴女が私を恨んでイルナラ、私がしたカッタことヲさせてアゲル。…どうスル? 貴女ハ私が…殺しタイぐらい憎イ?』

 

 由良は務めて穏やかに問いかける、それは翔鶴にとっては選べない二者択一であった。

 翔鶴にとって、あの日起こった出来事は自身の居場所を無くしたと同時に、その穴を埋めたであろう大切な人たちまで喪ってしまった、文字通り「最悪」の日だったはず。

 彼女にとって拭い難い苦痛の切っ掛けを作ったのが由良だというなら…確かに普通なら「殺してやる」って言うぐらい食ってかかるのが、感情を持ったモノの行動だと思う。

 

 ──でもね、それと同時に湧き上がる"感情"も確かにあるんだ。

 

「──どうして、そうやって何でもかんでも遠慮するのよ」

 

『……エ?』

 

 次に翔鶴の零した一言は、低く唸るような「怒り」の込められた声だった。由良は予想外だったのか、呆けた声で疑問を返した。

 

「そう、解っていたのね。私が提督を好きなこと、でも…流石に私が貴女を「疎ましく」思っていたことは、気づいてなかったみたいね?」

『…ッ!?』

「しょ、翔鶴ちゃん。駄目だよ今そんなこと言っちゃ…!」

「…酒匂」

 

 翔鶴の酷い言い方に流石に止めに入ろうとした酒匂に、僕は待ったをかけた。

 今は彼女たちの本音を語る時だと思う、彼女たちの好きに言わせてあげよう。僕がそう諭すと…酒匂も渋々受け入れて口を閉ざした。

 そして…翔鶴の一方的と思われる口撃が始まる。

 

「そうやって何でもかんでも遠慮して謙虚にしてれば、皆仲良くしてくれるって思ってるの? 貴女のそういう良い娘に見られたいって姿勢、正直気持ち悪いとさえ思ったわよ。でも私だってそうだったし、それが私の傲慢さの考えだったから、貴女を傷つけることが解ってたから言わなかっただけ。自分がこんなに思われてたなんて分からなかったでしょうね、後ろ向きな考えしか出来ない貴女には。どうなの!?」

『ふぇ、そ、そうダネ…?』

「大体ねぇ…私より凄いことしてるって解ってる? 艦娘の一部である艤装や艦載機の修理やメンテナンスが出来るのなんて、ドワーフの因子を持ってる貴女ぐらいよ。それなのに、何? 自分に出来るのはこのぐらいしかない? 貴女にしか出来ないことを当たり前みたいに言わないで、嫌味にしか聞こえないわ!」

『ご、ゴメン…;』

「提督のことだってそう、貴女だって提督のこと好きだったんでしょ、仇を取りたいって思ったんでしょう!? どうして一緒に敵討ちしようって言えないの?!」

『だ、だッテ…翔鶴チャンは私を恨ンデ』

「あぁそう! そんなに復讐されたいの!? だったら…!」

 

 翔鶴は徐に立ち上がり由良との距離を詰める、そして──

 

 

 ──パシッ!

 

 

 由良の頬を、手の平で思いっきり引っ叩いた。

 

「…これが貴女への復讐よ、どうよ、ざまあみろだわ! 一回貴女をこうしてやりたかったの!!」

『…っ、翔鶴チャン…?』

 

 翔鶴はどこか吹っ切れたように由良に罵倒雑言(?)を浴びせる、流石の由良もキョトンとして彼女の顔を見つめるしか出来なかった。僕と酒匂は翔鶴の怒りの捌け口のとなった由良に憐みの視線を送った。

 

「ぴゃあ…痛そう;」

「うっはぁ、やるねぇ?」

「ふん、これで目が覚めたかしら?」

 

 どうやら翔鶴なりに、おかしくなり始めた由良の目を覚まさせようとしたようだった。翔鶴の一言でその意図を察したのか、ハッとして正気に戻る由良。それでも…彼女は震えだす身体を両腕で抑えながらまたも懺悔を口にする。

 

『…そう、だよネ。私は…後ろ向キで本当の気持ちも言えナイ臆病モノ、翔鶴チャンに疎まレテ当然なんダヨ、ダカラ…ダカラ私はあの時だッテ、提督を……っ、もう…分からないヨ。提督は…どうして私を…? 何デ私は提督を……? 分からない、分からないんダヨ。私が…どうしたいのカモ』

「由良…」

『コンナ化け物みたいナ姿で、本当は居たくなかッタ。ダレかに…沈メテほしカッタ。でモ…嫌、イヤだよ、沈みたくナイヨ…ッ。私が復讐を誓ッタノハ…提督のためだけじゃナイ、私自身ガ「沈みたくなかった」カラ、その理由が…ほしカッタカラ…!!』

「…うん、そう…そうね」

 

 由良は泣きながら自身の複雑な気持ちを、少しずつ紐解くようにポツリぽつりと話していく。翔鶴は彼女の本心に触れ、今度は穏やかな優しい笑みを浮かべて彼女の全てを聞いていた。

 

『私…私、悔シイヨ…ッ。どうシテ……どうシテ私ガ……コンナ目に…ッ!?』

「…そう、それで良いのよ。みっともなくて良い、それが貴女の想いなら……思う存分吐き出しちゃいなさい、私たちが…受け止めるから」

 

 そう言って翔鶴は、今度は由良の身体を両腕でふわりと抱き締める。

 

「貴女は私と同じだった、言いたいことをココロに押し込めて、隠して…でも、ずっとそれじゃ疲れちゃうから、今度は本音で語り合いましょう。今の私たちなら…きっと出来るわ」

『翔鶴、チャン……ッ』

「…一緒に仇を取りましょう、提督や皆の仇を!」

『…ウンッ』

 

 こうして、翔鶴と由良はお互いの理解を深めていく…二人が流した涙は、きっと今までの「苦しみ」が落ちていっているんだ、涙が止まった後は…二人はもっと強くなっている。

 

「雨降って地固まる…かな?」

「ぴゃあ、タクトちゃん”いんてり”っぽい!」

「いやいや、ぽいじゃなくてそうなんだよ、ねぇ?」

「…どうかしらねぇ?」

「ちょーっと待って翔鶴さーん!?」

「うふふ♪」

「ぴゃはは!」

『ふフ………!』

 

 僕の冗談に皆して笑い合い、その場の雰囲気は陰鬱な黒い霧の中でも和やかに変わっていく。

 

 

 ──…ズドオオォォォオオン!!!

 

 

「…っ!?」

 

 その柔らかな時間は、一つの轟音によって一瞬で掻き消された。

 

「な、何だ…!?」

「爆発音。いえ、砲撃? まさか…外で何かがあったの!?」

「びゃ、長門ちゃん…ダイジョブかな?」

『…ッ!』

 

 僕たち四人は、その音が告げる「戦いの予感」に身構えるのだった…!

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