艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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 お待たせしてしまい申し訳ありません、一ヶ月の間が空いたのは単純に忙しかったからです。
 忙しいと頭が回らなくって「あれ、これ設定どんなだったっけ?」と失態を恐れるあまりクロギリ編を一から見直していた次第で。設定から設定が生えて収集つかなくなり始めてる…小難しい設定を追加しすぎた過去の自分を殴りたい(怒)。
 三月もそんな感じになると思うので、またお待たせすると思われます、すみませんがご了承下さい。


謀略の黒幕、暴虐の獣

 ──その頃、名も無き鎮守府研究室では。

 

 深夜の狭い室内、その中央に置かれた大きな研究机に、煙を焚いた怪しい薬品の入ったフラスコがズラリと並べられている。

 そのフラスコの中の薬品は、時折色を変えては煙を噴き出し、暫くしてまた色が変わり…灯りは天井から吊り下げられた電球のみのためか、どこか妖しい雰囲気がある。

 そんな研究室の中で、繰り返しの過程をマジマジと観察しながら唸る、白衣を纏う小さな科学者──望月。

 

 ──ガチャリ。

 

 ドアノブが回る音が静かに響く、扉が開いた先には浅黒い肌のスキンヘッドが特徴的な、それでいて理知的な雰囲気が漂う男が姿を見せた。

 

「望月、調子はどうだ?」

「…ん、よぉユリウス」

 

 二人はそんな風に短く会話する。

 長い言葉は必要ない、同じく研究を生業とするユリウスは、望月の険しい横顔を見て「研究が難航している」ことを察した。

 

「…君の用事を聞きたいんだが、時間は良いかな?」

「あぁ、まぁ…ホントはダメだって言いてぇんだが、アタシが呼んだんだしな? …ったく、一向に安定しねぇな、何が駄目なんだ?」

「深海細胞…だな?」

 

 ユリウスの言葉に浅く頷く望月、同時に口惜しそうに「何度やっても駄目だ」とぼやく。

 

「どんな薬を浸してもすぐ元に戻っちまう、試しに今フラスコ一杯の薬ん中ぶち込んでんだが、色が青にならねぇんだよ。赤だの緑だのを繰り返して…」

「深海細胞には驚異的な自己再生能力があると確認されている、その程度では元通りに修復してしまうのだろう、もっと根本的な解決法があればいいが…」

「原理が分からねぇんじゃどうしようもねぇな、こりゃ。…はぁっ、中止だちゅーし! 一旦話に移るぞ」

 

 観念した様子の望月はユリウスを丸椅子に座らせると、自身も椅子に腰かけ対面する。

 

「…それで話とは? 私も君に頼まれた改良型灼光弾の開発を急いでるのだが」

「そう言うなよ、ちょっとした疑問なんだよ。…早い話だが、あの「機獣」について、お前さん何か知ってるかい?」

 

 

 ──機獣。

 

 

 かつて海魔大戦の折に対深海棲艦決戦兵器として製造が計画された、大型の獣型兵器。

 動力は海魔(マナの穢れ)、穢れを捕食という手段(海魔ごと食べる)で取り込むことで動力を保ち、その強さはモデルとなった動物や当時の技術を凝縮した兵装に裏打ちされる。

 しかしマナの穢れが既定値以上になると"暴走"する欠陥があり、人だろうと艦娘だろうと見境なしに襲うようになる。このデメリットと艦娘の量産化に伴い、機獣は(試作以外の)製作予定だった「四体」の設計図を残し建造そのものが中止となった。

 ドラウニーアは持ち出した設計図を用いて機獣を使役し、幾度となく拓人たちの行手を阻ませた。

 

 機獣について…そう問われたユリウスは、意外そうな顔で驚きを表した。

 

「知ってるも何も、あの機獣はドラウニーアが機関から持ち出した設計図から造り出したモノだが?」

「アタシら…というか、邪魔者たちとのいざという時の戦闘を任せる役目のため…ってことか」

「そうだな、私はそう聞いているが。私の持たされたクラーケンもドラウの使者としてやって来たレ級から手渡されたものだ」

「……なるほど、ねぇ?」

 

 そう言って望月は、眉間に皺を寄せ小難しい顔をしながら、眉間中央の皺に親指を当てる。

 

「望月? どうした」

「…なぁユリウス、あの会議の時に詳しく聞いてなかったんだが、ドラウニーアのヤツの「ゼロ号計画」は、艦娘に黒い霧のエネルギーぶつけて「強制停止」させる…だよな?」

 

 艦娘は、黒い霧に含まれる「マナの穢れ」を体内に吸い込むと、身体機能を低下させ弱体化する。長時間黒い霧に晒されると、機能は完全に停止してしまう──これを利用してドラウニーアは艦娘たちを強制排除する、それがゼロ号計画の概要である。

 

「そうだ、マナの穢れはキミたちだけでなく、生き物にとって毒そのものだからな? …何か不明な点があるのか?」

「そうじゃねぇさ、ただ…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…そう思ってな?」

「っ、どういう意味だ?」

 

 核心を突いた一言に、困惑した表情のユリウス。望月は彼に自身の推理を聞かせる。

 

「アンタは零鉱石っつー黒い霧を生成する石を使って、艦娘たちを止めると言ってたな? だが…艦娘は各海域に点在する以上、全海域に黒い霧を散布しなきゃならねぇ。がそんなことするにゃあ莫大なエネルギーが必要だ。天変地異を起こすぐらいのバカデケェ”力”がな」

「…っ! そうか…君たちの言っていた「巨大魔鉱石」を零鉱石として造ったとしても、世界中に黒い霧をばら撒くには「足りない」…そう言いたいんだな」

「そうさ。それに仮に黒い霧を大量に散布出来たとしても、世界中に蔓延させるにゃあそれこそ膨大な時間が掛かる。まぁそれについてはアタシにゃあ気掛かりなことが一つあるんだが…先ずはアンタの話を聞きたくてな? アンタはアイツがどんなとんでもない兵器造ろうとしてるか…解るかい?」

 

 望月の疑問に対し、ユリウスは神妙な面持ちで首を横に振った。

 

「残念だが…ゼロ号計画の第一段階は、全てドラウ自らが遂行していた。私は概要しか知らされていない。君の言う「どうやって全艦娘を滅ぼすほどのエネルギーを用意するのか」は全てアイツの頭の中にあるだろう」

「成る程…だとしたらとんでもねぇ野郎だねぇ? これも計算の内だってのかい」

「望月…君はどう思っているんだ?」

 

 望月はメガネの淵を指で持ち上げると、ユリウスの質問に回答を示した。

 

「結論から言うと、アイツは…機獣の「穢れ玉」使ってより強力な穢れを生み出す「零鉱石」造り出そうとしてんじゃないか…そう考えてな?」

「…っ!?」

 

 ユリウスは望月の予想交じりの回答に、絶望に色濃く塗られた驚愕の表情を作る。

 

「零鉱石の黒い霧を作るエネルギーを生み出すため、穢れ玉を使おうとしている…というのか?!」

「あぁ、これはまだ予測の範囲だが、ヤツが造ろうとしてる兵器ってのは「増幅装置」だと考えるぜ? 巨大魔鉱石を零鉱石にして、そこから穢れ玉のエネルギーを利用して、零鉱石の魔力を増大させる。加速度的に高まった魔力を一気に解き放てば…世界を覆い尽くす程のマナの穢れが生成され、あっという間に全海域中に黒い霧を蔓延させるって寸法さ」

 

 穢れ玉とは機獣の予備エネルギーとして蓄えられたマナの穢れの塊、中には圧縮された濃度の高いマナの穢れが溜まっている。その穢れ玉が黒い霧を発生させる「零鉱石」と関係がないとは思えない──望月はそう考えた。

 

「科学的にゃ「共鳴理論」なのか「増幅作用」なのか…何にせよ同じマナの穢れ関連の代物だ、無関係たぁ思えなくてな?」

「……まさか、ドラウニーアはそのために機獣を」

「あぁ…スキュラの機体は連合が回収したが、その際に穢れ玉が抜き取られていることが確認された。セイレーンもレ級が穢れ玉持ち出したとこをアタシも見てたから「黒」。クラーケン時だって…アタシはその場に居なかったが、綾波がクラーケンから穢れ玉引っこ抜いて持ち逃げしたヤロー(レ級)を見たって言ってたぜ?」

 

 望月の推測からの結論、しかしそれが的外れな考えとは思えなかった。だからこそユリウスは…自然と頭を抱えて猛省する。

 

「……盲点だった。確かにただ零鉱石を生み出すだけでは、全海域中に散らばる艦娘たちを機能停止に追い込むなど、とてもじゃないが無理だ。穢れ玉三つ…いや四つか、そのぐらい極大のエネルギーが無ければ不可能、そのための巨大魔鉱石(うつわ)か」

「やっぱ…気づいてなかったのか、アンタともあろうヤツが」

 

 望月の──勿論悪気はないが──詰るような言葉に、ユリウスも深いため息を吐いて後悔した。

 

「本当にすまない。機獣の穢れ玉を使って零鉱石を強化するなど、考えにも及ばなかった…アイツの近くに居たのに、酷い為体(ていたらく)だ…」

「いや、アタシもそこまで言えた義理はないさ。まさかとは思って今まで頭の隅で考える程度だったが、どうも引っ掛かってな? アンタとの会話で確信した…コイツぁ間違いなく「きな臭い」ぜ」

 

 望月とユリウスはお互いの知識と推理判断で辿り着いた思惑に、確かめ合うように頷き合った。

 

「アタシもあのヤローの狡猾さは嫌でも見てきたからよぉ…アンタに重要なこと伝えずにいりゃあ自分がやろうとしてること、全部は見透かされねぇっつー寸法だろ?」

「おそらくな…君の推理が正しいだろう、しかしまさか穢れ玉の魔力で強力な零鉱石を造ろうとは。アイツらしい大胆な発想だ、今まで気づかなかったのが不思議なぐらいに」

「ったく…偶然だとしてもなんつー悪運の良いヤローだ、おかげで不味い状況になったぜ」

「あぁ…機獣は全部で「四機」あると聞いている、君たちが倒してきた機獣は「三機」だったな?」

「そうだ、スキュラにセイレーン、クラーケンで三機。多分だが大将たちの居るクロギリ海域に残り一機が居る、何も知らねぇ大将たちが機獣倒して、後一機分の穢れ玉が向こうに渡っちまったら…!」

「それこそ…世界の終わり…!」

 

 二人の識者はその先に待つ予測された未来に、背筋が震える思いが走った。

 

「やべぇな…大将たちに連絡は?」

「やってみよう、今は夜だがそうも言ってられない」

 

 素早く立ち上がるとユリウスは、右手にはめた腕時計型の装置のダイヤルを回す──しかし応答がない。

 

「タクト君は眠っているのか? ならエリ君に…」

 

 タクトへの連絡を諦め、今度は違うダイヤルを回す。程なくしてホログラムが映し出される。

 

「エリ君、夜分遅くに済まないがタクト君は居るかい?」

『ユ、ユリウス! こっちから連絡しようと思ったけど、丁度良かった。今こっちは大変なことになってるの!』

「ん? 何かあったのか?」

 

 そう疑問を投げるユリウスに、エリは「酒匂が単独で南木鎮守府へ赴き、現在彼女の捜索隊が南木鎮守府へ向かった」ことを伝えた。

 

「何!? 成る程…タクト君は鎮守府の中なんだね?」

『う、うん。でも…私たちもタクトたちに通信しようとしてるけど、全然「繋がらない」んだよ!』

「おそらく外からの電波を遮断する「ジャミング波」が発せられているのだろう、ドラウの仕業か…何にしても不味いな? 連絡が取れないとなると」

『そうなの、それに中から「蛇の鳴き声」やら砲撃の爆音が聞こえて…どうにかして連絡出来ないかな?』

 

 蛇の鳴き声…そのワードにユリウスは内心冷汗をかくも、努めて平静に金剛を諫めようとする。

 

「…分かった、此方からジャミング対策が出来ないかやってみる。それまで君たちは待機していてくれ!」

『えっ、ちょっとユリウス!?』

 

 やはり焦りからか会話を半ば無理矢理切ると、ユリウスは通信を切断した。

 

「…本当に不味いことになったな」

「どうすんだよぉユリウス?」

「詰まるところ、タクト君たちが機獣ヒュドラを倒す前に連絡を入れなければ…ドラウニーアの「思う壺」…ということか」

「マジかぁ…開発だの悠長なことしてる場合じゃねーってか」

 

 ユリウスの話に、望月は進退窮まったように苦い表情で頭を強く掻いた。

 

「んあ”ぁーっ! っくしょー…アタシらが揃いもそろってこんなポカミスするなんてよぉ!?」

「落ち着け望月、何を言っても始まらないだろう。それに…こうなることは目に見えていた気もするんだ、私は」

「あん?」

 

 望月はユリウスの突拍子もない一言に一瞬固まるが、彼は続ける。

 

「ドラウニーアは今まで不可能とも言える事柄を容易く成し遂げてきた、それこそ今まで連合から逃げ続けながらの計画遂行など、幾らアイツが狡猾だからといっても限度があるだろう? まるで…何か底知れぬ「力」がヤツを後押ししているような」

「…そういやいつも大将の肩に居た妖精が、いつだったか言ってたか?」

 

 

『──ドラウニーアに関することだけはイレギュラーで、どこで何をしているのか、全く見えないんです…』

 

 

 かつて妖精さんの呟いた一言を想起する望月、妖精さんが「全知全能の存在である」ことは知り得ていたので、彼女が分からないということは…それだけでドラウニーアが「脅威」であるということであった。

 

「私もアイツの出自も、未来の出来事を予知したとはいえ、何故世界の破滅を望んだのかも…何も分からないんだ。情報不足ですまない」

「謝んなよ、こればかりは仕方ねぇってよく分かったからよ? …しっかし、知れば知るほど闇が広がって見えねぇな。ホント…何者なんだいアイツぁ?」

 

 未だに全貌を見せないドラウニーアに、望月とユリウスは頭を悩ませた。まるで手の平で踊らされている気分だが、それでも今は出来ることをやるしかなかった。

 ユリウスは「通信手段の確保」を最優先として、望月と共に開発に取り掛かる──二人掛かりであるがそれでも数時間はどうしてもかかるだろう。

 

「大将…なんとか凌いでくれよ?」

 

 望月は自身の司令塔の手腕を、ただひたすら祈るしかなかった…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「………」

 

 所戻り、南木鎮守府敷地内の湿地帯にて。

 巨樹の根元にある隠しスペースに潜む拓人たち、彼らを守るため水面にて仁王立ちしているのは、選ばれし艦娘たる長門。

 

「……む」

 

 長門は何もない暗い宙を見上げると、直ぐさま両手を前に突き出す。すると──両腕から淡く光る鉱物が現れ広がる。

 

 

 ──ズドオォォォオン!!!

 

 

 暗闇から突如放たれた砲撃を、鉱物を纏った両腕で受け切った。

 長門自身にダメージはなかったのか、平然とした様子で辺りを見回す。僅かの間を置いて暗がりから二つの影が視認出来た。やがて水辺に浮かぶ灯籠弾の灯りによって、人影は明確に照らされていく…。

 

「来たか」

 

『──キヒヒッ!』

 

 前方から現れたのは黒フードの小さな死神レ級と、それと対になるような白の一角魔人である「港湾棲姫」。

 長門は拓人たちから、レ級たちは天龍たちに預けて来たと聞いていた。だがこの様子だと何かあったことは間違いない、この南木鎮守府周囲には機獣ヒュドラが潜んでいるので、おそらく戦闘中に襲われたのだろう。レ級はその隙を突いて拓人たちを追いかけて来たのだ。

 

「(タクト君から天龍たちは我ら(選ばれし艦娘)に匹敵する能力を有していると聞いたが…果たして沈んでいなければ良いが?)」

 

 どうあれ、目前に敵が現れたなら迎撃する他ない。

 長門は両腕を腰辺りまで持っていきそのまま腰を深く落とした──戦闘態勢、背中には長門が喚んだ巨大艤装が装備され、砲塔は狙いをレ級に定めていた。

 

『──…ッ!』

 

 港湾棲姫も同じ要領で右腕を上げる、長門と同じく背に喚んだ深海艤装を装着する。艦載機用の滑走路に加えて生物的な牙と口を有する不気味なデザイン、それが口を開き唾液らしき液体が糸を引く、同時に港湾棲姫の「第二航空隊」と言わんばかりに深海艦載機が放出された。先ほどの第一陣とは造形が違い、色も黒光りしていた。

 

「航空爆撃か…厄介だな」

 

 黒い飛行群は編隊を組んで、長門の頭上目掛けて爆撃の雨を落とす。長門はすかさず身体に鉱物を生やすと敵の爆撃を防ぐ。

 

『キヒャア!』

 

 隙を窺っていたレ級は、素早く自身の得物を構えると突進、黒の大鎌を長門の首に向けて振り下ろした。

 

 ──ガキィン!!

 

『ッギ!?』

「その程度では…我が装甲は切り裂けない」

『ギャァ!!?』

 

 レ級の鎌は確りと長門の首を捉えた、しかし鉱物の鎧を刈り取ることは出来ず、長門に尻尾を掴まれ放り投げられる。

 

『…ギギャ!』

『…ッ!!』

 

 投げられざまに距離を取り、体勢を立て直し砲撃に転じるレ級。それに合わせて港湾棲姫の制空爆撃。それら敵の猛攻を自慢の鉱物の鎧で防ぐ長門、致命傷こそないが隙の見えない海と空からの挟撃に、流石の長門も防戦一方か?

 

「この程度なら大事ないが…どうしたものか?」

「──長門さん!」

 

 長門がレ級たちの対策を思案していると、陸地奥から拓人たちが姿を見せる。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 僕たちは砲音の響く戦場へ急ぐ、すると…沼地からほど近い水面に長門さんの後ろ姿が見える。その奥にはレ級と港湾棲姫の影も映る。

 おかしい…レ級は天龍たちが相手していたはずなのに、どうして? その思考の奥に浮かぶ「最悪の予想」を振り払い、僕は長門さんの名前を叫んだ。

 

「タクト君か?」

 

 彼女は返事してくれたけど、僕たちの方へ振り返らずレ級たちの様子を伺っている様子だった、僕は改めて彼女たちの緊迫した状況を把握すると、レ級たちに目を向けた。

 

「やっぱりレ級だ…彼女たちがこの場にってことは、天龍たちに一体何が?!」

「タクト君! 天龍たちはおそらく機獣に襲われている、機獣ヒュドラだ! レ級たちは混戦に乗じて此方に追って来たのだ!!」

 

 長門さんの言葉に、僕は即座に理解した。

 機獣ヒュドラ…此処に来て最後の機獣か、どちらにしても天龍たちは沈められたわけじゃないのか。

 

「それでもピンチに変わりないだろうけど…早く助けに行かないと!」

「でもまずは…レ級たちを退けないといけないわね?」

 

 翔鶴の言葉に、僕は長門さんに集中攻撃を仕掛けるレ級たちを見て苦虫を噛んだ。

 どうする…? 仮に長門さんにこの場を任せたとしても、レ級の狙いは明らかに僕だ──ドラウニーアが僕を優先的に殺せって言ってるだろうし──脇目も振らず僕に向かって来るだろう。港湾棲姫は…どうだろう、どの道長門さんが何とかしてくれるかもだけど、レ級は僕が囮になっても最低限の攻撃手段しか持ってない僕じゃあ足手まといでしかない。

 この場に残って全員でレ級たちを相手するか? でも天龍たちもどうなっているか、綾波も「力」の使い過ぎでどうにかなってるかもだし、とはいえこのまま行けばレ級が…。

 

「む、難しい…っ。ど、どうしよう…望月が居たら画期的なアイデア出してくれるんだけど……!?」

 

 僕が一人頭を悩ませていると、近くに居た由良が耳打ちする。

 

『…タクトさん、あのフードの娘少し周りが見えてないみタイ』

「え…?」

 

 驚きの言葉に思わず由良に目を向ける、由良は頭の角に触れながら話す。

 

『私がこの姿になってカラ、この角に深海棲艦の「意志」を感じ取れるようになッタノ。よく分からないケドこの角は彼女たちの意思を測る「電波塔」の役割があるみたいナノ』

「え!? それは…レ級たちの考えが分かるってこと?」

 

 レ級はいつも狂気染みた表情を浮かべていて、行動の指針はともかく彼女自身が何を考えているのかは分からずじまいだった。まぁ…それでも分かりやすいところはあるけど、彼女の考えがある程度解れば打開策が思い付くかも…?

 僕は由良に彼女たちの考えを聞いた。

 

「由良、レ級と港湾棲姫は何を考えてる?」

『そう…フードの娘は今長門サンに実力差を感じて、それを認めたくないとイウ「驕り」がアル。さっきカラ彼女が長門サンを攻撃してイルのも、それが原因』

「レ級が…?」

 

 由良の言葉を受けて改めてレ級を見る、言われてみれば直線的な攻撃が多く、顔も目が血走り余裕のない印象だ。

 

『あと…あの角の女のヒト、何も考えてナイと思う。頭の中に「戦え」って言葉が響いていて、それに従ってイル。おそらく何らかの手段で操られてイル…と思う』

「港湾棲姫か…彼女が操られているのは何となく分かってたけど、身もココロも制御されているのか?」

『そこまでは何トモ、でも感情の機微とイウかココロの動きそのものは感じられナイよ?』

 

 成る程…港湾棲姫は「言われたことしか出来ない状態」なのかな? だとしたら…実質レ級が港湾棲姫の「手綱」を握っているんだ。そのレ級もどうやら頭に血が上っている感じだから、彼女たちが僕たちを追いかけて来ることは…ないか?

 

「タクト君、そういうことならばここは私に任せて、君たちはこの場を離脱しろ!」

 

 僕たちの話を聞いていた長門さんがそう声を張って、僕らを逃がそうとしてくれる。でも…。

 

「っ!? そんな…だ、大丈夫なんですか? 幾ら長門さんでも1対2じゃ…」

「この長門を侮るな。確かに手数ではあちらが有利だがこの程度の攻撃、耐えてみせよう。それに…心配なんだろ、天龍たちのことが。我ら艦娘は守るモノが傍に居ればそれだけで力を出せる、行ってやれ!」

「長門さん…!」

 

 彼女の言葉は、何年もこの暗闇で戦い続けた彼女だからこその力強い説得力があった。

 僕は長門さんにお礼を告げると、そのまま翔鶴たちの方を振り向く。

 

「…良いかな?」

「えぇ。長門なら少しの間なら大丈夫でしょうし、天龍たちも心配だわ」

「ぴゃ、天龍ちゃんたちってどこで戦ってるの?」

「えっと…鎮守府の入り口付近だと思う、そこから動いてなきゃいいけど」

『なら急ぎまショウ、頃合いを見テ酒匂チャンも帰してあげないとネ? …あ、私もついて行って良いカナ?』

「うん、機獣はどれも強力な性能をしてたから、君が来てくれるとありがたい」

 

 僕たちは互いの意志を確認し合って頷き合うと、タイミングを見計らって水面を駆けだす。

 

「──今だ!」

 

『…ッ! ギギャア!!』

 

 僕たちがこの場を離れようとすることを理解したレ級が、当然のように妨害しようと身を捻るも長門さんの砲撃がレ級の行く手を阻んだ。

 

『ギ! ギャア…ッ!』

「貴様の相手は私だ、さぁ…来い!!」

『ギィ……ギギギギギッ!!』

 

 長門さんの堂々とした振る舞いに、青筋立てて怒りを露にするレ級は僕らから視線を逸らし、再び長門さんに向かって行く。

 

「よし! …待っててね、天龍、綾波…!」

 

 僕らはそのまま、機獣ヒュドラの待つ場所へ急いだ。そこで戦う仲間たちの身を案じながら──

 

 

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