艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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 すっかり春になってしまった…。お待たせして申し訳ありません。
 とはいえまだ先延ばしになりそうな予感がします、仕事もGW直前だし何より宿毛があるので…。
 気長にお待ちください〜。


嗤う鉄蛇、暗霧(もや)に紛れ

『Shaaa---ッ!!』

 

 大蛇の獲物を逃さんとする執拗な「狩り」。

 その巨大な口と牙に呑み込まれるか、はたまた胴体に締め付けられ骨を砕かれるか──天龍と綾波は正にその窮地に陥っていた。

 

「…っ! まさか機獣が潜んでいたとは。…いや、ここは敵陣の真ん中。機獣が居ても不思議ではないか…っ!」

 

 本来なら機獣の有無も調査によって解明するはずだった、だがアクシデントが重なった結果、奇襲を受ける形に至った。

 それでもこれだけの巨体の奇襲に気づかないとは、黒い霧で視界が遮られているとはいえ傭兵の名が泣いた…天龍は己の実力不足を嘆いた。

 

「俺もまだまだか…が、今はそんなことを言っている場合では…ないなっ!」

『Shaaa---ッ!! …Shrrrrrrr』

 

 大蛇の大きく開いた口と牙、迫り来る殺意に天龍は脇に綾波を抱えて得意の瞬足で逃げ切る。大蛇は黒霧に紛れては大きな舌をチロチロと出して、その眼は天龍たちに狙いを定めていた。

 

「はぁ…はぁ…っ」

 

 全身に酸素を送るため荒い息を吐く天龍は、何処か余裕のない状態であり、動きもぎこちなかった。

 というのも──先ほどの大蛇の奇襲から綾波を守る形で──大蛇の牙が天龍の肌を掠ったのだ。その証拠として彼女のジャケットの左腕部分が破られて、内側の肌に傷が出来ていた。

 蛇には体内に毒を持つ種類が居り、獲物に牙を突き立てては体内から毒を放ち、弱ったところを食す。通常であれば毒が全身に回れば「死ぬ」ので、天龍の身に危険が迫っていることは言うまでもないが、幸いか艦娘は──人間と根本的な構造が違うので──多少の毒に耐性はある。

 それでも死に至らないだけで弱体化は免れないようだが、天龍は己の身体の不調を鑑みて、そう一人得心して頷いた。

 

「…っ、天龍さん、すみません。私のせいです…私が全力を出せていれば…っ!」

「気に病むな、致し方ない事態だからな…っ」

 

 そう言った天龍だが、彼女の体内を駆け巡る「神経毒」は、確実に自身の戦闘能力を大幅に削いでいた。

 更に大蛇の猛攻から綾波を助けるためとはいえ、彼女を抱えた片手を自由にしない限り「空間断絶居合斬り」は出来ない。

 大蛇もそれを理解してか、巨体に似合わない俊敏な動きで攻撃を仕掛けては、間合いを空けて黒い霧で姿を隠すを繰り返していた。

 決定打を持たない天龍と大蛇は、互いに中々隙が突けずこう着状態が続いていた。

 

「あの大蛇…中々の実力のようだ」

「はい。私も強い殺気を感じるまで、アレの気配に気づきませんでした」

 

 綾波の言葉に頷く天龍は、改めて新手の機獣の強さを実感する。

 今までの機獣──スキュラ、セイレーン、クラーケン──と比べても威圧感が違う、更に距離を取り霧の暗闇に紛れ込めば、その強い気配は一瞬にして無くなる。

 黒い霧という視界のハンデを、蛇の能力──ピット器官による熱探知──により逆に地の利とする様は、正に「海千山千」の手練れであった。

 

「灯籠弾の灯りの届かない場所へ的確に移動している、姿が見えないのでは出鱈目に斬ることも出来ない。とはいえ近づくことも危険、か。…厄介だな」

 

 天龍は目前の脅威を言い表しながら、大蛇の次の一手を警戒するように睨んだ。

 

『Shaaa---ッ!!』

 

 瞬間──大蛇の口から吐き出された大量の「液体」、それを視認したフタリは、刹那危険性を察知した。

 

「くっ…!」

 

 天龍は綾波を抱えると、またも瞬足で駆け出し「毒液」を避けた。天龍たちの居た場所には、液体がシュー…という音と共に泡を出して海に揺蕩う光景であった。

 

「溶解液か…今更こんな小細工に怯むこともないが」

 

 確実に裏がある──そう直感する天龍だが、それが「当たり」であることは直ぐに解った。

 

『Shaaa…?』

 

 大蛇はニヤリとその重い口角を持ち上げると、長く大きな尻尾の先から「火」を吹いた。見ると鱗の裏から火の粉が出ているので、着火装置が隠れているのだろう。

 

『Shaaa---ッ!!』

 

 大蛇の巨木のような身体を撓(しな)らせて勢いよく尾先を振り回した、すると──

 

 

 ──ゴオオォッ!!

 

 

 巻き上げられた火の粉が先ほどの毒液に引火する、火は忽(たちま)ち天龍たちの行く手を遮る「柱」となった。

 

「成る程…障害というわけか、あの蛇…悪知恵も働くとは益々厄介な」

 

 天龍は海に燃え立つ炎の柱を見やる、このまま毒液からの発火を何もせず無視し続ければ、彼方此方(あちらこちら)に火の手が上がり何れ燃え盛る火炎に行手を阻まれる。行く先々に障害があれば如何に素早い天龍でも回避は難しい。

 行動の制限が目的であることは確か──だが()()()()()()()()

 

『Shaaa---ッ!!』

 

 鉄蛇は毒液吐きからの着火を繰り返し、辺り一面に火柱を立たせた。天龍もその度綾波を抱え非難するも、炎は辺り一面に燃え広がり暗闇が炎の煌めきで照らされていく。

 鈍色の大蛇は狡猾な嗤いを崩さずに此方の様子を窺っている様だった、次はどう出る? まるでそう言わんとして口を大きく開いて嗤って見せた。

 時間が無いことは確かだが、矢張り気掛かりは晴れず天龍は深く思考した。

 

「(俺がこの状況を打破するためには、ヤツの弱点(コア)に一撃必殺を叩き込む必要がある。しかし…俺の場合は瞬足を活かした「近接斬撃」になる、抜刀は隙が出来やすいから敵の反撃に綾波が巻き込まれる可能性がある、砲撃でも効かないことはないだろうが、敵が何処まで「視えているか」分からん以上不用意な攻撃は控えるべきだ。そして──)」

 

 仮に斬撃を繰り出すにしても、こんな分かりやすい「罠(トラップ)」を仕掛けてくるのだ、敵が何も考えずにいるとは思えなかった。

 

『Shaaa---ッ!!』

 

 見ると、大蛇は黒霧の中で威嚇すると同時に胴体を上げる、その首元には──これまた如何にもな球体が光るのが目に止まった。

 

「(ヤツのコアか…明らかに罠だな)」

 

 このまま行けば「喰われる」。

 天龍は長年の戦闘経験と、同じ狩人としての「勘」で大蛇の思惑を見切った。

 

「天龍さん…」

 

 綾波もまたその邪な悪意を感じ取った、不安げな表情を隠せずに天龍を見上げた。

 天龍は綾波を一瞥すると状況を整理し始める、ただでさえ毒による弱体化がある以上、近づいて攻撃するだけではやられることは明白、先ずは…蛇の「能力」を考える。

 蛇は体温を察知するピット器官、並びに「嗅覚」により獲物を識別している。即ち──どのような状況であろうと、体温や匂いで「そこに獲物がいる」と理解している。

 

「(ならば…その習性を突くことが出来れば)」

 

 天龍は意を決した様子で脇に抱えた綾波を降ろすと、前を睨んだまま一言。

 

「──…綾波、動けるか?」

 

「っ! 何を…?」

 

 嫌な予感を感じた綾波は、天龍に対し疑問を投げる。天龍は──久しく見せていなかった──死地に赴く顔つきで答えた。

 

「今からヤツに向かい特攻を仕掛ける、お前は出来る限り離れていてくれ」

「……っ!?」

 

 彼女のその言葉、そこに隠れた「異様性」に綾波はひどく驚いた。

 綾波はまだ身体が痛みはするも、動くことに支障はないと思われた。時間を置けば痛みも引く、それは()()()()使()()()()()()綾波も戦闘は可能であることを示唆していた。

 だからこそ綾波は、天龍の「次に起こすであろう行動」を見過ごすことは出来なかった。

 

「天龍さん、もし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のなら…私も共に戦わせて下さい。毒に侵された貴女を置いて、私だけ背を向けて逃げ延びるなど、艦娘騎士として恥です!」

「っ! …綾波」

「能力は行使できませんが、武器を振るうことなら出来ます。だから私も──」

 

 綾波はまるで自身の過去をなぞるような光景に、必死に訴えた。力不足により大切なモノを喪うことを──綾波は耐えられなかったのだ。

 彼女の言葉に天龍は一瞬驚いて見せるが…次に彼女の顔に向かって微笑んで、自身の「犠牲」を否定した。

 

「要らぬ心配を掛けたのなら謝罪する、お前の危惧するようなことは決してしないさ。俺だけ死に目に遭えばタクトに何を言われるか分からんからな? それに…試したいことがあるだけなんだ」

「それは…?」

「見ていれば自ずと解る、とにかくお前は離れていろ。万一の時は…頼むぞ!」

 

 それだけ言うと、天龍は瞬足で海面を蹴り大蛇に向かって行く。

 

「天龍さん!」

『Shaaa---ッ!!』

 

 天龍の行動に満足気に嗤うと、大蛇は先ず溶解液を吐き散らかす。

 予測していた天龍は空中で華麗に身を捻り避ける、大蛇もそれを予測し巨大な口を開き()()()()()()()()するも、天龍の瞬速を捉えることは出来ない。

 

「…っ」

 

 それでも天龍の身体は鉛のように重く、剣を持つ腕も震えていた。長くは戦えない…早期の決着が求められていた。

 

『Shaaa---ッ!!』

 

 狩人は弱った獲物を仕留めるべく、執拗な攻撃を仕掛け続ける──毒液を吐き、噛みつき、時に撓る尻尾を叩きつけ…辺りの枯れた木々は大蛇の猛攻に次々と圧し折れていく。

 大蛇の執念の「狩り」を自慢のスピードで避け続ける天龍、まるで何かを待ち続けるように大蛇の周りを跳ね飛び回る。そして──

 

 ──キラッ

 

「──そこだっ!」

 

 大蛇が首を持ち上げ、急所のコアが光る瞬間──天穿つ龍は相手の弱点目掛けてその牙を振り下ろさんと迫った…!

 

「もらった…!」

 

 天龍が片手の剣を構え、大蛇の首元に差し掛かると…一気に振り抜く──

 

『──Shaaa…♪』

 

 

 ──大蛇はその一瞬を見逃さなかった。

 

 

 まるで石柱のような尾先を持ち上げると、それを海面に叩きつける。身体能力の鈍った天龍は打ち上がった水飛沫をまともに受ける。

 

「…っ!? 目眩しか…っ!」

 

 天龍が一瞬目を閉じた時、大蛇は持ち上げていた首を素早く降ろして身体を丸める。

 

「…っ!?」

 

 見ると、大蛇は長い身体で蜷局(とぐろ)を巻いていた。

 蛇にとって蜷局を巻くことは「最強の防衛戦術」であり、長い身体を螺旋状に巻くことで敵の動向や状況把握、即座に攻撃に転じることも可能。つまり── 彼女を見え透いた挑発で誘い出し、至近距離となった瞬間にカウンターを喰らわせる、天龍を確実に「刈り取る」ため、この状況を作り出した。

 低く構えた頭に遮られ、コアの位置も把握出来ない…何よりこの状況は正に「蛇に睨まれた蛙」だった。

 

「成る程…!」

 

 天龍はその狡賢さに、思わず唸った。

 

『Shaaa---ッ!!』

 

 勝利を確信したように、大蛇の巨大な穴のような口が迫る──万事休すか、そう思われた。

 

 

「──矢張り罠だったか、ならばこちらも策を講じよう」

 

 

 しかして天龍もまた、狩人の眼光を絶やさなかった。

 

『…ッ!?』

「そんなに食い足りないなら、とっておきを馳走してやる…()()()っ!!」

 

 天龍は懐からあるアイテムを取り出すと、それを大蛇の大きく開けた口に向けて投げつけた。

 それは布に包まれた何かであった、大蛇の「舌」の上で布が弾けると、明らかな「異臭」の漂う──黒霧の中でも良く見える──茶色の煙が立ち上がり、大蛇の顔全体を包み隠した。

 

『…ッ!? Shaaa---ッ!!?』

 

 大蛇は臭いを探知したと思いきや、苦しそうに暴れ始める。

 距離を取った天龍は水面に着くと、黒霧の中でも理解出来る大蛇の無様な姿を視認する。

 

「天龍さん、ご無事ですか!」

「…ああ、問題ない」

「良かった…! それにしても…急に苦しみ出しましたね、天龍さん一体何を投げたのですか?」

 

 近づいてきた綾波の疑問に、天龍は何ということもないといった顔で答えた。

 

「あれは俺特製の「臭い袋」だ、動物の忌避する強烈な臭いを内包してある。機獣が来ることを予測して用意したが…効果はあったようだな」

「成る程…確かに…少し…臭いますね?」

 

 綾波の鼻をつまみながらの台詞に、天龍は頷くと自身の行動の意図を語る。

 

「蛇は舌で匂いを探知して、ピット器官と合わせて獲物を認識すると聞いた。そこにあの臭い袋を投げ込めば…激臭に身を悶えると踏んだんだ」

「成る程、動物の能力を逆に利用しているのですね?」

「あぁ。動物には嗅覚の優れたものが多い、俺たちは人型だから少々の臭さに感じても、あの蛇にとってはそれだけで耐え難いものだ。そうなるよう調合もしてるしな?」

「流石ですね…私もよく森で野宿をしたことはありましたが、そこまでの知識は身に着けていませんでした」

「自然の法則を理解するのは、サバイバルの基本だ。動物の習性もまた然りだ」

 

『Shaaa、Shaaa---ッ!!?』

 

 見ると、大蛇は臭いを振り払おうと辺りをのたうち回っていた、勢いよく振り回される尻尾に、またも周囲の枯れ木が薙ぎ倒されていく。

 

「あの様子だと、周りが見えていないようですね?」

「ああ、蛇の能力を忠実に再現したのが仇となったな。弱点も分かりやすくて助かる」

 

 天龍は綾波を降ろすと、刀の鞘に手を掛ける。大蛇は海面に背を向けコアを丸出しながらも、苦しみ藻搔いていた。

 敵に隙が出来ている以上斬り捨て御免に限る、ある程度の距離があろうと()()()()()()()()()問題ない。

 

「カイニの俺たちに挑んだのが運の尽きだったな、行くぞ…瞬速抜刀──」

 

 言うや否や天龍は抜刀の構えで大蛇を捉え、そのまま瞬く間の斬撃をお見舞いしようと剣を振り抜こうとする──しかし。

 

 

「──E・G・P(エマージェンシー・プログラム)起動、モード「狂化(バーサーク)」…狂い踊れ!」

 

 

『…ッ!?』

「っ、この声は…っ!?」

 

 何処からともなく聞こえる声が響く、天龍がその声に一瞬気を取られていると、大蛇の様子が一変した。

 

『──E・G・P 起動、擬似本能AIを削除、モード狂化(バーサーク)──戦闘プログラム「狂獣本能(ビースト・ダンス)」に移行します』

 

 ──ボッ! ゴオオォッ!!

 

 機械音声が流れたと思った矢先、大蛇の身体から紅蓮の炎が吹き出す。ゆらりとその長い巨体を起こすと、野生に呑まれた狂い声が木霊する。

 

 

 

『Shrrraaaーーーッ!!!』

 

 

 

 先ほどより重圧のある威圧感を放つ、大蛇は今や凶悪な「邪龍」となった…!

 

「な…っ!?」

『Shrrraaaーーーッ!!!』

 

 獄炎に包まれた巨大な尻尾を力強く振り回すと、炎の壁のように天龍たちに差し迫ってくる…天龍は素早く綾波を拾い上げると、瞬足で邪龍から距離を取り難を逃れた。

 

「一体何が起きた…?」

 

 天龍が疑問を零していると、空間に聞いたことのある声が反響する。

 

『フン、馬鹿が…浅知恵でしてやったりと驕るな、感覚を消去すれば嗅覚も何もあるまい』

 

「…っ! 矢張りこの声は…!」

「天龍さん、この声の主はまさか…?」

 

 綾波の問いに答えず、天龍は姿を見せない声の主に対し叫ぶ──答えは明白なのだ。

 

「矢張り、この場所に潜伏していたのか…()()()()()()!!」

 

『…フハハハ! 流石に身元までは知り得たか? 何とも愚図なことだがなぁ!」

 

 黒霧に紛れ、悪意ある嗤いを上げて、影は高らかに宣言した──この一連の事件の戦犯ドラウニーア、声もくぐもっていないことから、ロボットを介して…ではなく「生身」でこの場に居ることが窺えた。

 暗闇に潜む黒幕は、遂に天龍たちの手の届く場所にその身を晒した。相変わらず姿は見せないものの、ここまで追い詰めればそれも些事なことか…?

 

「(いや、油断出来ない。…あの大蛇の変わり様もそうだが、アイツがこの場に現れたことも怪しい。自らの姿を見られることを徹底的に避けてきたアイツが、土壇場とはいえ今この瞬間に出てきた…何か目的が無くては絶対に有り得ない…っ!)」

 

 天龍はそうして疑念を整理して身構える、ドラウニーアを今すぐにでも捕縛したいところではあるが、目前の脅威の駆逐が最優先である。

 

『さぁ、機獣「ヒュドラ」よ! お前の真の力…ガラクタ共に存分に見せつけてやれっ!!』

 

『Shrrraaaーーーッ!!!』

 

 ヒュドラと呼ばれた邪龍は、その口を開くと体内から「灼熱の炎」を噴き出した…!

 

 ──ゴオォッ!!

 

「ちっ…!」

 

 天龍は再び綾波を抱えると、瞬足で炎の射程範囲から抜け出す。

 見ると、天龍たちの後ろに在った枯れ木の群は、豪炎に呑まれると同時に消し炭となり、跡形もなく消え去っていた。

 

「不味いな…アレを少しでも喰らえばひとたまりもない、どうにか…」

「…っ! 天龍さん!!」

 

『Shrrraaaーーーッ!!!』

 

 天龍が事態の収束の方法を考え込むと、獄炎を纏ったヒュドラが牙を研ぎ澄ませ天龍たちに猛進してきた…!

 

「くっ…!」

 

 天龍は綾波を手放すと、そのまま瞬足で駆けだす。ヒュドラモそれに倣い天龍を追いかけるように身を翻す。

 

『Shrrraaaーーーッ!!!』

「矢張り…動くモノを追いかけるか、獣の性だな。余計な知恵が無くなった分やりやすいな」

 

『フンッ、減らず口を…その獣に貴様は敗れるのだよ。如何に足が素早かろうと…獣の「執念」には敵うまい!』

 

 暗闇から嘲笑する声が響く、その言葉通りかヒュドラは、天龍がどんなに素早く逃げても距離を詰めて来る。

 口からはマグマのように熱された灼炎を、それを躱せば炎を纏った巨大な尻尾が目の前に押し迫る。どこへ逃げても邪龍の牙は天龍を捉えて離さない。

 

「はぁ……はぁ…っ!」

 

 毒に侵された身体ということもあってか、徐々に体力と集中力を削られていく。こうも距離を詰められては「空間断絶居合斬り」の構えも取れない、コアを狙おうにも敵にその隙は見当たらない。

 

「一か八か、空中で居合を──…っ!?」

 

『Shrrraaaーーーッ!!!』

 

 天龍が博打に打って出ると思われた時、ヒュドラの獄炎放射が彼女の半身を捉えた…!?

 

「…ぅぉおっ!!」

 

 天龍は火事場の力で瞬足を発揮すると、何とか窮地を脱した──ように思われた。

 

「──ぐっ、あ”ぁ…っ!?」

 

 見ると天龍の左腕は──黒炭となって焼けただれていた。

 あまりの熱さと痛みに、思わず膝を突きそうになる天龍…炎によって燃えたジャケット腕部分からは、彼女の左腕の見るも痛々しい火傷が。

 

「天龍さん!?」

『無様だなぁ、これで終わりだ…ヒュドラ、止めを刺せ!!』

 

『Shrrraaaーーーッ!!!』

 

 ヒュドラは口を大きく開くと、口の奥から紅炎の如く燃え盛る獄炎が見える。

 天龍は察する──どんなに素早く動こうと、アレを避けるのは「困難」であると。あの量の焔(ほむら)は一度放たれれば、辺り一帯を焼き尽くすであろうと。

 せめて綾波を担いで逃げたいところではあるが、レ級たちから続いてヒュドラと連戦続きで、満身創痍の身体の自分では逃げ切れるか怪しい。

 

「…はっ、カイニになったとはいえ…ここまで力の差が出来るとは…油断した、な…?」

 

 もうここまで来れば諦めの境地が見える…しかし天龍は、それでも諦めきれない自分が居ることを察していた。

 

「信じているぞ、相棒──」

 

 全てを焼き尽くす焔を前に、天を仰いだ龍はココロに「思いビト」の姿を思い浮かべる…。

 

「天龍さああああん!!」

 

『Shrrrrraaaaaーーーーーッ!!!』

 

 綾波の絶叫が虚しく木霊する中、邪龍は極大の炎を放たんとする──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──チャージ完了、フルバーストっ!!

 

 

 

 

 

 その時…何処からともなく「一筋の閃光」が煌めいた。

 

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