艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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美醜一体の君は、それでも守護を望む

「ギィヤァああああああああ!!? が、あ"ぁあああああ…っ!?」

 

 翔鶴の放った「火炎魔導弾」の一撃を受け、火達磨となりながらも黒幕は悶絶し、絶叫が響き渡る。

 炎がドラウニーアを包み込み、その身体を焦がし尽くす。人が炎から逃れる術などない。海面下で逃げられようとも致命傷は免れない。

 

 ──これぞ「王手」。悪鬼は今正に「地獄の業火」で灼かれていた。

 

「よし良いぞ、金剛たちが居なくても何とかなりそうだ。すごいよ翔鶴!」

「これで…終わりだ。そのままくたばれ! ドラウニーアッ!!」

 

 翔鶴は高らかに勝利を叫ぶ、しかし…その確信すら打ち砕くのがこの男だった。

 

「があァ……ッ、お、俺が…こんな、ところでぇ……くたばる、ものかああああっ!!」

 

 己の身体が燃える中、悪鬼は吼え猛りながら懐から何かを取り出した。それは──液体の入った「注射器」であった。

 それを左腕にプスリと差す、すると──突然ドラウニーアの上半身が異様に膨れ上がる、白衣とベスト等は弾け飛び、勢いよく肉が膨張し自身を蝕む業火を消し飛ばした。

 

『グッ、オ"オ"オ"オオオオオッ!!!』

 

「っ!? あれは一体…?」

 

 まるで怪物のように変貌したドラウニーアの肌は、身体の左側から徐々に白色の肌の面積が広がっているのが見えた。

 

「アレって百門要塞地下で使ってた「深海細胞」?! そんな…人間は深海化出来ないってアイツが言ってたんだぞ!?」

 

 拓人はその光景を見て、かつてトモシビ海域にてドラウニーアが言い放った「深海細胞」と「深海化」を思い出す。おそらくだが深海細胞を自身に打ち込み、深海由良よろしく自己再生機能で──それを踏まえても異常な回復力だが──ダメージを無効化したのだ。

 拓人には深海細胞の詳細は解らないが、名前から察するに「深海棲艦となる細胞」であることは明らか。だとしてそれを験すために要塞の住人たちを利用した人体実験は全て「失敗」していた筈だった、人間の身体では深海細胞に適応することは「不可能」だったのだろう。

 だのに、どういうわけかドラウニーアは、深海細胞をその身に宿してなお、身体は硬直せず深海棲艦の異能も行使可能のようであった。

 

「ハアァ…! 俺はもう、誰にモ、止められ…ナイッ!!」

 

 ドラウニーアは炎の壁に向かい駆け出すと、そのまま火の中へ飛び込む。拓人たちは追いかけようにも由良は一向に引き下がる様子はない。

 

『──………』

「このままじゃ…っ」

「っ、炎が邪魔して見えない?! 狙いが定まらない…っ!」

 

 翔鶴も自身の攻撃で生じた炎が、逆にドラウニーアの視界を遮る。

 

 ──そして。

 

「おおおォッ!」

 

 次にドラウニーアが炎の中を突き破り現れた時、左手に持っていたのは──禍々しいオーラを放つ黒玉であった。

 

「っ、穢れ玉が!?」

「フ…フ、フ。フハハハハハッ! これで全て揃った…世界は終わりを告げる、全ての艦娘を壊して、新たな世界を創り上げるのだ!!」

「っ! くそぉ!!」

「させないわ!!」

 

 敵が姿を見せたところで、翔鶴は弓を構えて新たな艦載機を撃ち出す。稲妻が矢を疾ると電気魔導艦載機が発艦、ドラウニーアに向けて電気魔導弾を落とす。

 迸る電流音が鳴り響く、電気魔導弾はドラウニーアに確りと当たった…はずだった。

 

「ッ、この程度…最早どうということモないッ!!」

 

 ドラウニーアは片腕で周りの電気を振り払う、すると電流は完全に絶たれた様子、同時に電流が焦がした肌傷もみるみる内に塞がっていく…ダメージはない、擦り傷すら残さない恐ろしい回復速度だった。

 

「そんな…っ!」

「なん、だって…っ!?」

 

 拓人と翔鶴だけでは、もうどうすることも出来ない。ドラウニーアは──完全に人間の範疇を逸脱したのだ。

 肌の傷が全て癒えると、ドラウニーアの肉体の膨張が収まっていく。元のサイズに戻ったドラウニーアは、高笑いして今度こそ勝利を確信する。

 

「フハハハハッ、これで終わりダ! いよいよ艦娘たちの世が終わル。世界の再創造など後で幾らでも出来る、先ずは忌まわしいガラクタどもヲ…全て葬り去るのダ!!」

『………』

 

 ドラウニーアはそう言って、常人では考えられない高さまで跳躍しその場を飛び去った。それを見てか由良もまたドラウニーアの後に続いた。

 

「…っ! 逃がさないぞ!!」

 

 拓人と翔鶴はドラウニーアの後を追って海を駆ける、果たして…この戦いの結末とは?

 

 

 

 

 

・・・・・

 

「はぁ…っ、はぁ…ぴゃあ、シツコイよぉ〜っ!」

 

 一方、出口に向かい舵を取っていた酒匂たちであったが、その道中であるアクシデントに出くわす。

 

『…ッ!!』

 

 額の一角に両手の巨大な鉤爪、虚な眼で酒匂たちと距離を詰めようと追いかけるのは「港湾棲姫」であった。

 酒匂が天龍の肩を担ぎ、綾波の手を取りながら、ゆっくりと出口まで水面を滑っていると、突然航空爆撃を仕掛けてきた港湾棲姫。何とか爆撃を避けながらも、出口を目指して駆け出したところだった。

 

「っ、矢張り簡単には行きませんね?」

 

 そう言って綾波は、左手を港湾棲姫に翳すと「能力」を行使しようとする。酒匂は慌ててそれを止める。

 

「ぴゃ、ダメだよ綾波ちゃん。それ使ったらまた具合悪くなるでしょ! 大丈夫だよ、あのコもあれ以上「詰め寄れない」と思うから!」

「しかしっ。……いえ、確かに酒匂さんの仰る通りですが」

 

 二人は港湾棲姫のある一点を見つめる、そこには──太腿付近に深々と突き刺さる「石片らしき鋭利物」だった。

 

『…ッ』

 

 港湾棲姫は酒匂たちを追いかけているわけだが、太腿の痛みなのか時々フラついては体勢を崩しかけていた。何故引き抜かないのかは謎だが、その数秒のタイムロスが酒匂たちと港湾棲姫との距離を離していた。

 

「きっと長門ちゃんがやってくれたんだよ、私たちが追いかけられると思って」

「ですね、彼女はおそらく「命令以外の行動が出来ない状態」なのではないでしょうか? でなければあの石片を突き刺したまま追っては来ないでしょう」

「ぴゃあ、でもいつ追いつかれるか分かんないから、早く外に出よう!」

「はい、もしもの時はお任せ下さい。私の能力で…」

「それはダメなの!!」

「ぅ、申し訳ありません…;」

 

 酒匂は天龍を肩に背負い、綾波に檄を飛ばしながらも外へ急ぐ。拓人たちを助けるために、金剛たちに中の状況を伝えるために。

 

『──ッ!』

 

 しかし、無惨にもその想いを打ち砕くように、港湾棲姫は新たな深海艦爆機を撃ち出す。

 爆撃機は上空にて酒匂たちを確り捉えると、流星群のように爆弾を降り注いだ。

 

 ──…ゥゥウウウ、ズドオォオン!

 

「ぴゃあ!?」

「っ!?」

 

 あまりの激しさに、酒匂は綾波の手を離してしまった。

 酒匂が後ろを振り返ると、綾波の後ろから猛追する港湾棲姫の姿が見えた。酒匂は綾波に早く来るよう呼びかけた。

 

「綾波ちゃん、早くはやく!」

「………」

「ぴゃ、綾波ちゃん?」

 

 綾波は──酒匂に背を向けると、港湾棲姫と対峙するため背中の大斧に手を掛けた。慌てた酒匂は制止するよう叫んだ。

 

「綾波ちゃん、無茶だよ!」

「いえ、少しの間の時間稼ぎなら、能力を使わずとも行えます。もうすぐ出口ですよね? なら酒匂さんは急ぎ金剛さんたちの元へ!」

「で、でも…っ」

 

 言い淀む酒匂を見て、綾波は振り返ると微笑んだ。

 

「心配いりません、私も皆さんと同じ気持ちです。必ず…かならず命を投げるような真似はしないと、ここに誓います」

 

 綾波の覚悟を垣間見た酒匂は、少し哀しそうに顔を曇らせるも、すぐに笑顔を形作ると応えた。

 

「ぴゃ! ゼッタイだよ、すぐに応援を呼ぶからね!」

「はい、お待ちしてます!」

 

 そうお互いに意志を確認し合うと、酒匂は背を向けて走り出す。

 出口を指す「光」はすぐそこに見える、少しの辛抱だよと、酒匂は綾波を助けたい気持ちを抑えるため、胸の内で自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──南木鎮守府前、海上にて。

 

 一方、望月から連絡を受けた金剛たちは、南木鎮守府前にて待機していた。

 

「もっちーが言うには、少ししたら酒匂ちゃんたちが出てくるはずだけど…?」

「あぁ…神さま…っ!」

 

 金剛の隣で、両手を組んで空に向かい祈りを捧げるサラトガ、その更に横にプリンツ、そして辺りを警戒している野分と舞風の姿も見られた。

 

「大丈夫かなぁ…?」

「平気へーき! 拓人たちなら上手くやってるって! ねぇ野分?」

「……はい」

 

 舞風の呼びかけに対し、野分は何処か上の空といった具合の、暗い返答を返してしまう。そんな野分の胸中を理解出来るからこそ、舞風は寂しそうな表情を作ることしか出来なかった。

 

「──…っ! 来た!!」

 

 金剛の指差す方向──南木鎮守府入り口である洞より、酒匂と彼女に担がれている天龍の姿が。

 

「酒匂!」

「酒匂ぁ! 無事で良かったよぉ!!」

 

 サラトガとプリンツは彼女の無事を喜び手を振る、酒匂も彼女たちに気付いて手を振り返す。

 ゆっくりと近づいていく酒匂は、遂に何事もなく金剛たちの元に辿り着く。

 

「あぁ、酒匂! 無事で安心しました!!」

「ぴゃ、シスター苦しいよぉ」

 

 サラトガは無我夢中で酒匂を抱きしめる、苦しそうだが何処か嬉しそうな酒匂は、程なくシスターの抱擁を解くとプリンツに気絶している天龍を託す。

 

「うわぁ、すごくボロボロになってる…;」

「ぴゃ、鎮守府の中にはおっかない化け物がいて、天龍ちゃんはずっとそれと戦ってくれてたんだ! っあ、そうだ金剛ちゃん! タクトちゃんたちと綾波ちゃんを助けてあげて、中でまだ戦ってるの!!」

「うん、もちろんだよ。望月から大体の事情は聞いてる、酒匂ちゃんガスマスク貸して! 私がタクトたちを助けに行って来る!!」

「ぴゃあ!」

 

 金剛は凛とした態度で酒匂のガスマスクを要求する、酒匂もまた力強く頷くと、ガスマスクを外し始める。

 

「…っ、マドモアゼル、テンリュー…っ!」

 

 野分は天龍の様子を見て、内心絶句していた。

 カイニという新たな力を身につけた天龍は、以降拓人たちを勝利に導いてきた。そんな天龍がこれほどまでの傷を負うとは…中で何が起こっているのか。

 ただ言えることは…金剛ヒトリが救援に行って、果たしてどうにかなるのか? という疑問があることだった。ここまで手酷い傷を負わされた天龍を見ていると、ついそう邪推してしまう。

 とはいえ、望月も先ほどの通信で「ガスマスクをそっちに送れるように準備する」と言っていたので、何とかなる…筈だ。そう考えたが…同時に「歯痒い」気持ちが大きくなっていく。

 この海域にて野分は、まるで何も出来ない庇護対象のような扱いであると、自身に対し憤りを感じていた。事実野分は深海化の兆候がバレるのを防ぐために、舞風たちから庇われていた。

 自分は人々の美しいココロを守るために戦い続けてきた、しかし…肝心なところで役に立たないなど、自分は艦娘失格ではないか? そう蔑むことさえ胸中で思い始めた。

 

 ──そんな時、野分は不意にあの時の言葉を思い出す。

 

『野分…君が今何に悩んでいるのか、僕には分からないけど…絶対大丈夫さ。絶対なんてないのかもしれないけど…僕はそう「信じている」よ?』

 

「っ、コマンダン…っ!」

 

 信頼の眼差しを向けられた、あの日を思い出す──その度に胸は熱く燃えていた。

 今の欺瞞に固められた自分を、拓人は信じてくれた。だが…今自分はそれを返すことが出来ないでいた。どうすればいいのか、考え、考え、かんがえ──

 

 ──そうして考えあぐねる野分の耳に、ある情報が入る。

 

「ぴゃ、そういえばねシスター。驚かないで聞いてほしいんだけど…」

 

 そう前置きをおいて、ガスマスクを外した酒匂は、南木鎮守府内に「深海化した由良」が居ることが告げられた。

 

「ワッツ!? 本当なのですか酒匂!」

「うん、ドラウニーアってヤツに深海棲艦みたいにされちゃってたけど、ちゃんと生きてたよ! 翔鶴ちゃんとも一緒にお話もしたし。まぁ…長門ちゃんもだけど、マスクなしに霧の中に居たから、ちょっと驚いちゃったけどね? アハハ」

「まぁ…由良も、長門も無事だったのですね。良かった…本当に」

 

 そう言ったサラトガは、遂に感極まった涙を流して喜びを露わにした。

 

 

 ──その時、野分はあることに気がつく。

 

 

「(…待てよ、由良さんは深海化して何事もなく黒霧の中に居た…? それは…!?)」

 

 それは、同じように深海棲艦になりつつある自分も()()()()()()()()()()()()()()()()? という愚直な解答だった。

 

「──っ!」

 

 そうしてそこに至って(しまった)野分は、弾かれるように飛び出すと、真っ直ぐに南木鎮守府へと向かっていく。

 

「っ!? ちょ、野分! 何処へ行くの! 野分ぃーーーっ!!」

 

 舞風の投げる言葉は、野分には届かず虚しく空間に木霊した。野分の頭は…拓人たちを助けることで頭が一杯になり、冷静ではなかった。

 

「コマンダン…コマンダン……っ!!」

 

 野分の突然の行動に、一同はただ見送ることしか出来なかった。

 

「野分…」

「っ! 酒匂ちゃんごめん!」

 

 金剛は酒匂からガスマスクを受け取ると、そのまま野分を追いかけ始める。

 

「金剛、野分は!」

「分かってる。野分は感情的になっても自分からシにに行くような真似はしない、大丈夫だと思ったから…タクトたちを助けに行った、違う?」

「そ、それは…そうかもだけど。…あの、ごめん。私…私たち野分に無理してほしくなくって、だから」

 

 舞風は不意の出来事に頭が回らす、言葉を紡げない様子だった、金剛は一旦止まって舞風の方へ振り向く。

 

「何か隠してたんだね?」

「っ、ごめんなさい…本当に、ごめん」

「大丈夫、野分のためにやったことなんでしょ? 私はタクトが良いと思いそうなことを否定しないよ!」

「金剛…」

 

 金剛が和(にこや)かに明言すると、舞風は安堵したのか少しだけ落ち着きを取り戻す。金剛は舞風の様子を見て話を続けた。

 

「でも…野分も貴女たちに守られてばかりな自分に、耐えられなかったみたいだね。解るよ…あの時の野分も、皆を守るために戦っているって言ってくれたから」

「っ! …そっか、野分って真面目なとこあるから。根を煮詰め過ぎちゃったのかも」

「きっとそうだよ。だから…私も野分と一緒に、タクトたちを助けに行ってくる。それまで…少しだけ待っててあげてね?」

「…っ、うん…野分を、お願いします!」

 

 舞風の想いを託された金剛は、彼女に向けてサムズアップをして了承を伝える。そのまま背を向けて南木鎮守府へと海を駆ける。

 

「──神さま、どうか戦うモノたちに祝福を」

 

 サラトガはそう言うと再び両手指を結んで、金剛やタクトたちの無事を祈った。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 綾波はヒトリ南木鎮守府内に残ると、港湾棲姫との戦いに臨んでいた。

 大斧を両手に握ると、港湾棲姫の懐に入り込もうと真っ直ぐ跳躍する。

 

『──ッ!!』

 

 しかし、港湾棲姫の航空爆撃にどうしても足を取られてしまい、距離を思うように詰められない。

 更に能力の使い過ぎにより、身体が思うように動かない。相手も姫級なので油断すれば「轟沈」も有り得る、綾波は張り詰めた空気に身を引き締めた。

 

「くっ、どうすれば…っ!」

 

 綾波が状況改善のため頭を回すと、その度出てくる回答が「能力」による足止め。しかし…短時間使っただけで身体が引き裂かれるほどの痛みに襲われる、その上で何度も使用している以上、今度こそどうなるか分からなかった。

 

「…っ」

 

 大斧を背に収めると、右手をスッ…と前に翳し、能力発動を準備する。…しかし。

 

「──…ふぅ、もう気負う必要もないか」

 

 引き絞った気を自ら緩めると、突き出した右手をそっと下ろした。それは綾波が「仲間を信じる」と決めた証だった。

 

「増援はおそらく金剛さんだけの筈、彼女だけでは多勢に無勢もありましょう。私も共に戦う…司令官と、彼らと生きるために。そのためには力の温存は必要…か」

 

 かつての綾波は、自身の罪に溺れ周りが視えないこともあった。だが今は…頼りがいのある仲間に囲まれている、そう思うだけでも自然と体の奥底から力が湧いてくるようだった。

 もう独りではない、罪を共に背負うと言ってくれた仲間がいる限り…彼女が身を削る戦いをすることは、もうないだろう。

 

「さて…どういたしましょうか?」

 

 とはいえ切迫した状況であることには変わりない、どうしたものかと再び考えていると、その隙を突いてのつもりか港湾棲姫は新たな航空爆撃を、深海艤装から射出する。

 

『ケケケケケーーーッ!!』

「何とかするしか、ありませんね…!」

 

 深海艦載機の不気味な笑い声が木霊する、綾波は対空警戒のため砲を構える──

 

 

「──うぉおおおっ!」

 

 

 すると、綾波の後ろから砲撃の音が響き渡る。対空砲撃…港湾棲姫の深海艦載機は、爆発霧散した。

 

『ケゲーーーッ!?』

『…ッ!?』

「この声は…まさか、野分さん!?」

 

 綾波が驚きざまに振り返ると、そこには──この死の黒霧の中ガスマスクも付けずに居る「野分」の姿が。

 

「野分さん…大丈夫ですか、マスクは…?」

 

 綾波は野分の様子がおかしいと思いつつも、心配の声を上げる。対する野分は自分の両手を見て、黒霧の中でも行動出来る己を実感する。

 

「…はは、本当に…ボクは艦娘ではなくなってしまったみたいだ」

「艦娘ではない? どういう意味ですか野分さん」

「…ぁあ、もう耐えられない。これ以上皆さんに隠しごとなんて、ボクには出来ません。だからお話しします、マドモアゼル。ボクは──」

 

 そう言葉を区切ると、野分は徐に帽子のツバに手をかけると…ゆっくりと脱いで額を見せる。

 

「…っ、その角は…っ!?」

 

 綾波が凝視するその先には──野分の額左右に生え揃う「二本の角」があった。角の長さは港湾棲姫の"一角"と比べると大分短い印象だが…野分が「深海棲艦」となった証としては十分だった。

 

「ボクは──深海棲艦に、なってしまったようです」

 

 重い口を上げて、一つ一つの言葉を噛み締めるように、真実を吐露する野分。綾波は呆然とした様子だったが、直ぐに切り替えると野分を真っ直ぐ見つめる。不安に駆られながらも野分も綾波を見つめ返す。

 

「……良かった、何ともないようですね?」

「は、はい。…あの、驚かれないので?」

「ええ、驚きました。ですが…野分さんの意思はまだ消えてはいません、今まで隠されていたようですが、私は野分さんに変わりなければ、それでよろしいと思います」

「…っ!」

 

 綾波の信頼の言葉に、野分は涙ぐむも右手で涙を拭うと、再び彼女の目を見つめて宣言した。

 

「綾波さん…ありがとうございます。そして、こんなボクですが…貴女を、何よりもコマンダンを…助けさせてもらえませんか?」

 

 野分の誠意を見た綾波は、力強い頷いた。

 

「もちろんです、ありがとうございます野分さん。助かりました!」

「…はいっ!」

 

 二人は微笑みを交わしながらも、互いの信頼に応えていた。

 

『──ッ!』

 

 その最中、港湾棲姫は深海艤装から艦載機を発艦させると、再び航空爆撃を始める。

 

「くっ!」

 

「──野分!」

 

 その時、背後から金剛の声が聞こえてくる。同時に金剛の放った三式弾が、深海艦載機群を壊滅させていく。

 

「マドモアゼル・コンゴー!」

「金剛さん!」

 

 後ろを振り返る綾波と野分。ガスマスクを被った金剛は急いだ様子で野分に駆け寄ると、野分の身体に異常がないかチェックしている。

 

「…何ともないみたいだね、ふぅ……って、その額の角って?!」

 

 野分の角を見て一瞬驚いた金剛であったが、直ぐに舞風の言葉を思い出すと、努めて笑顔になる。

 

「そっか、それは流石に言い出せないよね? でも…気づけなくて、ゴメン」

 

 今度は真面目な表情になると、金剛はそのまま頭を下げて謝罪する。野分は慌てた様子で金剛を宥めた。

 

「こ、金剛さん。悪いのは不覚を取って余計な心配をさせてしまったボクです、だから…」

「そう言ってくれると、嬉しいよ? ありがとう…それで、あの姫を倒したら、何があったか話してもらうからね!」

「はい、もちろんです!」

「では、話が纏まったところで…参りましょう」

 

 三人はそれぞれ頷いて意思を確認し合うと、金剛、野分、綾波は港湾棲姫へと向き直った。

 

『…ッ!』

「皆…行くよ!」

「はいっ!」

「了承」

 

 遂に黒霧の戦いも終わりに近づく──その先で、何が待っているのか?

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