艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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────感謝を込めて。

 ──南木鎮守府内、海上。

 

『■■■■■---ッ!!』

 

 機獣の穢れ玉を持ち出し逃げ出したドラウニーア、そのドラウニ―アを追う拓人と翔鶴。

 しかし彼らの行く手を阻むように、深海棲艦の群れが襲い掛かってくる。

 

「くそっ、邪魔しないでくれ!」

 

 拓人はブレスレットを携帯砲へ形変えると、そのまま砲を構えて砲撃を放つ。水面に着弾すると水柱と爆炎が広がる。衝撃は深海棲艦を悉く吹き飛ばす。

 

『■■■■■---ッ!!』

 

 しかし矢張り数が多いか、撃てどもうてども敵が減るどころか益々増えていく。まともに相手をしていたらキリがない…どう切り抜けるか、拓人がそう考えていると翔鶴が提案を口にする。

 

「タクト、ここは私が一掃するわ。貴方は先にドラウニーアを追って!」

「えっ、でも翔鶴は…!?」

「私も直ぐに追いつくわ。それに…さっきの魔導弾を平気で受け切ったアイツの姿を見てたら、私が行ってもどうにもならないと思うわ、運命とかよく分からないけど…それを操るアイツと似た力を持つタクトが行った方が、まだ勝機があるかもしれない」

 

 実力で言えばもちろん艦娘である翔鶴の方が上、だが敵は単純な強さでは測れない力を持つ以上、対抗出来る能力の拓人が向かった方が良い、それが翔鶴の判断だった。

 

「…分かった、僕に何が出来るか分からないけど…やってみる!」

 

 拓人の言葉を受けた翔鶴は頷くと、そのまま弓を構え矢を放った。

 

「攻撃隊発艦、目標前方の敵艦隊! 行きなさい!!」

 

 翔鶴の矢は炎を纏うと、次の瞬間に鉄翼の編隊へと変わりふわりと空へ上がる。敵の対空砲火を縫い一気に距離を詰める。そして…敵頭上より爆弾の雨を降らす。

 

『■■■■■---ッ!!』

「…行って!」

 

 翔鶴の号令に従い、前方に開けられた道に向かい駆け出す拓人。

 

「(…嫌な予感がする、急ごう!)」

 

 その胸中には、必ず黒幕を捕まえるという気概の他に「悪寒」に似た直感も走っていた…その真相とは?

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──南木鎮守府内、拓人より先の水上にて。

 

「はぁ、ハァ…ッ」

 

 黒霧の中潜む影が一つ、周囲を警戒しながら右手に視線を移すと、右手に握られた「禍々しい黒玉」が見えた。

 

「──ふ、フハハ、フハハハハ!」

 

 穢れ玉の邪悪な気配、畏れをその身体全体に感じ取ると、ドラウニーアは穢れ玉を天に掲げ、狂気に満ちた顔で高笑いを上げた。

 

「遂に……ついニッ! 我が悲願が達成される、おぉ…何と強力な邪力か、これなら他の蓄力装置の不足分を、補って余りアル! いいゾ、ヒュドラを数年もこの場に放置した甲斐はあった、今こそ変革の時! 艦娘たちが滅びた暁には、俺が深海棲艦を率いて人類を滅ぼしてくれる!! フハハハッ!」

 

 頭の中で世界滅亡までの図を描く、上手く行きすぎではないか、そんな言葉はこの男には通用しない。男の野望を叶えんとするように、世界の運命(システム)は動くのだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何故ここまで神の如き権能を行使出来るか?

 

 それは定かではないが、ドラウニーアの頭の隅には「ある出来事」が想起される。

 

『君は────になるんだ、世界はきっと、そう望んでいる」

 

「…っ」

 

 自身を囲む大多数の人間、その中心に居座る人物。険しい表情に深い皺、嗄れた声が頭の中でループする。

 在りし日の記憶、それが彼をここまでの凶行に及ばせた理由だった。一時期はそれらを忘れ去って、研究者として実験に勤しむ毎日を送っていた。

 だが、ある日自身の「使命」を思い出し、以来それを成し遂げるために非道の限りを尽くした──それが「世界を滅亡の危機より救う」というものだった、それだけの話。

 

「そうだ…俺はそのために、だから──だからこそ俺は、屍を乗り越えてでも成し遂げてきた」

 

 震える声で、自身の行いを肯定する。定まらない視線は、自身の行動の真実を見ようとしない。

 理解してはいけない、これが──だと思うことは、己の全否定に繋がるのだから、だからこそ──

 

「だからこそ! 艦娘たちは滅びなくてはならない、世界を…再創造しなければならないのだっ!!」

 

 再び天高く穢れ玉を上げると、誓いの宣言──世界滅亡を声高に叫んだ。

 

「愚かなる神よ! 貴様の好きにはさせん、俺が世界を創り直し…真に幸福なる世界を築き上げるのだぁっ!!」

 

 

 

 

 

『──それガ、貴方の歪んだ"願い"なんだネ?』

 

 

 

 

 

「…っ!?」

 

 耳元に届く「声」を一瞬で理解して、ドラウニーアは青ざめた。

 

 穢れ玉を急いで下ろす、すぐに声の響く後方を振り向く、矢張りそうであったかと、眼前に見えるその姿に驚愕する。

 

 その一瞬の隙を突くように、得物を構えた人物はそれを振り下ろす──

 

「しま…ッ!?」

 

 思わず身構えたドラウニーア、左手を頭の前へ持って行きガードする。

 しかし狙いは彼ではない、謎の人物の矛先は──中途半端に掲げられた、()()()()()()()()()()

 

 

 ──パキンッ!!

 

 

 勢いよく振り抜かれたそれは、ドラウニーアの持つ穢れ玉を完全に「粉砕」する。瞬間黒玉は無数の小さな欠片を散らし、穢れの残滓が黒霧となり空に掻き消えた──刹那の出来事であった。

 

「──────ぁ…?」

 

 絶句。

 ドラウニーアは数秒の沈黙の後、思考が現状を完全に理解すると…喚き叫んだ。

 

 

「ぁ…ぁあ、あああ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!?

 

 

 膝から崩れ落ち、黒玉の無い両手を見つめる姿勢、直ぐに顔を上げるとまるで全てを喪ったような慟哭を天に向かって叫んだ。

 ドラウニ―アの目的は完全に潰えた、彼の行動はそれを如実に語っている。だが不可解なのは──それを阻止した人物の存在。

 

『………』

 

 それは「由良」であった、先ほどドラウニーアに海魔石で操られ、拓人たちと敵対さえした彼女。現に彼女の胸は未だに「紅い輝き」を放っていた。彼女が何故ドラウニーアを止められたのか?

 

「…何故だ、なぜ貴様ガ。貴様は俺ガ…確かに…っ!」

 

 ドラウニーアも同じ疑問を抱いていた。言葉に余る「怒り」を露にしながらそれをぶつける──しかし彼女から返ってくるのは、要領を得ないものだった。

 

『分からないヨ、私ニモ。でも…翔鶴チャンたちガ頑張ってイル声が聞こエテ…「私が皆の仇を取る」ッテ…その意味を理解したら、翔鶴チャンにダケ重い荷物は任せられナイって、復讐するのは私だけで十分だッテ、そう思ったラ…意識が醒めタノ』

 

 由良は翔鶴の想いに呼ばれ意識を覚ました、だが…ドラウニーアの目を欺くため、敢えて操らたフリをして拓人たちの元を離れドラウニーアを追いかけたのだ。

 

「何…何だそれはっ、そんなことが…あってたまるカ……っ!!」

 

 ドラウニーアは悔しさの涙に打ち震え、歯を食い縛って憤りの形相を見せた。

 そう、有り得ないのだ。普通はこのような展開は奇跡が無い限りは「起こり得ない」のだ、だからこそ失念していた。だが──散々その「有り得ない」を利用して動いてきた、更に言えば自身と同じ「能力」を持つ者が居る以上、予期も出来た筈…完全に「油断していた」、それ故の「展開」なのだ。

 

 ”運命”という綱を最後まで離さなかったのは、拓人…そして意志を共にする仲間たちだった。

 

 ドラウニーアは…最後のさいごで「鍔迫り合い」に押し敗けたのだった。

 

『お前ノ夢は多くの人々のイノチを弄んだ、ダカラ…その代償ヲ払ってモラウ。お前ノ「独り善がりの願い」を打ち砕く…それで無くなったモノたちは戻らナイ。それでも…これで、皆の「尊厳」は、取り戻シタ』

「…っ」

 

『これが私の「復讐」。報いヲ受けなサイ…ドラウニーア…ッ!!』

 

 由良は己の覚悟を湛えた凛々しい顔つきで、復讐を宣告する。何年もの間…南木鎮守府の面々の仇を取るために生き永らえてきた。彼女の敵討ちは終わりを遂げたのだ。

 

 

 ──だがそれは、いつだって新たな「恨み」を生む。

 

 

「報いィ…報いダトォッ!!!

 

 遂に憤慨し立ち上がると、ドラウニーアは「この世の全てを恨む」貌で由良を睨んだ。

 

「貴様ニ…貴様に何が解ルっ!? 俺は世界を救う…救わなければならなかったノダ。出なければ俺は…なんの為に生まレタっ!!?」

『…ッ!?』

「人の命を弄ブ? それを貴様が言うカッ?! 世界中に戦争の種を蒔き続けた貴様らガ!! 貴様らさエ…貴様らさエ居なければアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 怒り任せに駆け出し、由良に向かい左拳を振り上げるドラウニーア、その怒りの終着先は──紅く光り続ける彼女の「胸」だった。

 

 

 ──グチャァ

 

 

『カハ…ッ!』

「ぐうううううおおおおおオオオっ!!」

 

「──由良っ!!」

 

 由良のイノチが風前の灯となる中、黒霧の中から姿を新たに姿を見せたのは「拓人」だった。

 拓人が目にした衝撃の光景──それは、ドラウニーアが由良の胸を「貫き」、彼女の命と言える「紅く光る石」を、今にも握り砕こうとするものだった。

 

「やめろおおおおおおっ!!」

 

 何故由良が殺されそうになっているのか、彼女はドラウニーアに操られていたのでは?

 そんな小さな疑問より先に、拓人の「仲間を助ける」慈悲が行動を起こす──彼が右手を翳すと「光るIP」が現れる、それは勿論「A・B・E」の承認画面である。承認の有無を考えることなく、一心不乱に「YES」ボタンを押そうと指を伸ばす。

 

「────え?」

 

 だが──拓人がそれをすることを拒むように、急に体に「金縛り」が走る。伸ばした指は何もない空間で堰き止められていた。

 届かない…どうしても「A・B・E」を発動することが叶わなかった、果たしてこれは何モノの「意志」か?

 

「関係ない、動け、動け…動け動け動け動け動けっ!!」

 

 必死にボタンを押そうと試みるも、矢張り押せなかった。それは拓人がこの現状を()()()()()()()()を表していた。

 

「そんな…どうして…っ?」

「オオオオオオオオおおおおおおおおッ!!」

「…っ!」

 

 

 ──バキッ

 

 

『──────ッ!』

 

 拓人がボタンを押せないまま、無慈悲な現実は動き出す。

 ドラウニーアが腕に力を込めると、握っていた紅く光る石に「罅(ひび)」が入る。同時に由良の身体が仰け反ると…次第に脱力し始める。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 認めない…拓人は心でそう呟き、叫ぶと海面を蹴って駆け出す、その勢いのままドラウニーアへ体当たりして由良から引き剥がす。

 ドラウニーアは堪らず腕を引き抜き握っていた鉱石を手放す、拓人はそれを掴むと同時に崩れそうになる由良の身体を支えた。

 

「──タクト! …っ!? 由良…そんな……っ!!?」

 

 拓人の後に続いた翔鶴も姿を見せるも、力なく拓人に抱えられた由良を見て、悪い夢を見ているような絶望の表情を浮かべた。

 

「由良…ごめん、間に合わなかった…っ」

 

 拓人もまた由良に迫る「シ」を受け入れられず、由良を抱きかかえたまま、ただ己の無力感に打ち拉がれる他なかった。

 

「特異点んン、貴様ァ…最後まで俺の邪魔をするカアアアアアッ!!」

 

 怒り任せにドラウニーアは拓人に向かっていくが、頭が一杯いっぱいの拓人に咄嗟の反応が出来る筈もなく、そのままドラウニーアの凶手が伸びる──

 

『──アギャアアアアッ!?』

 

「何ッ!? ぐぅおぁ!!?」

 

 その時、黒霧の影から弾き出されたのは──何モノかに吹き飛ばされたであろう「レ級」。ドラウニーアは飛ばされた彼女にぶつかると、自身も後方へ飛ばされる。

 

「──タクト君、大事ないか!?」

 

「…長門さん?」

 

 拓人は小さく震える声で応えると、彼を呼ぶ人物の方へ振り返る──そこには艤装も格好もボロボロになりながらも、悠然と立つ巨大な身体の持ち主…選ばれし艦娘その一隻(ひとり)である長門が居た。

 

「…っ、由良……」

 

 長門は拓人に駆け寄ると、無惨な姿となった由良を目にする。

 拓人の絶望を湛えた瞳を見て、何が起こったか理解した長門は…悔しげな表情を一瞬浮かべるが、直ぐに凛とした表情を作り黒幕に向き合う。

 

「この様子では、由良をやったのはお前だな…ドラウニーア?」

「ッ、選ばれし艦娘…長門カ」

「そうだ、お前を捕らえるため長い間この海域で戦ったモノだ。漸く…その本懐を遂げられそうだな?」

「…ッ、クソが……クソガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 多勢に無勢と恐れたか、ドラウニーアはレ級を抱えると拓人たちに背を向けて走り出した。

 

「逃さんぞ、だが…何の道カイトのことだ、既に包囲網は敷いてあるだろうが? ヤツは…この海域から外には出られないだろうよ」

「…長門さん、追ってください。逃げられなくても…せめてアイツが何処に逃げたかだけでも」

 

 拓人の言葉に長門は少し驚いた顔で見やるも、やおら真剣な面持ちになると、彼の冷静な判断を賞賛するように言葉を投げる。

 

「…任せても、良いのだな?」

「……はい」

「解った、全てが片付いたら何があったか話してくれ。私も…私の全てを語ろう」

 

 長門の言葉に拓人は黙って頷いた。

 

 ──長門がドラウニーアを追ってその場を後にすると、暫くの間静寂の時が流れる。

 

 拓人は由良を抱きかかえたまま呆然とし、翔鶴も現状を理解出来ず立ち尽くす他なかった──やがて、その直ぐ後か大分間が空いたのか…彼らの耳元に響いて来る新たな水を滑るような足音。

 

「──タクト!」

「コマンダン、ご無事ですか!?」

「司令官!!」

 

 金剛、野分、綾波の三人がその場に駆けつけた。どうやら港湾棲姫をやり過ごしたように見えた。

 三人が見たものは、全てが終わり佇む拓人たちと、拓人の抱えるヒトリの「艦娘」だった。

 

「…っ、タクト……っ」

 

 金剛たちもまた、その凄惨な光景に口を噤むしかなかった。

 誰しもが鎮痛な面持ちで立ち尽くしていると──不意に、ダレかの言葉が空間に木霊した。

 

『──タ、クト…さ、ん。しょ、か……く、チャン…!』

 

「…っ! 由良…?」

「由良っ!」

 

 今にも消えそうなか細い声、それが由良であると知覚した後、誰とも言わず彼女の周りに集まり始める。

 拓人に抱えられながらも苦しそうに息をする由良は、彼女を囲む艦娘たちを一人ずつ確認していく──やがて翔鶴に目を向けると、儚げな笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。

 

『しょう、かく、チャン。やっ、たヨ? 私…皆の、仇ヲ…!』

「うん、分かった、分かったから。由良…お願い、私を置いていかないで。瑞鶴だけじゃなくて、貴女までなんて…っ!」

 

 由良のシを間近にした姿に、翔鶴は悔恨の言葉と涙を流した。由良はそれを見て…そっと彼女の右手に自身の左手を添えた。

 

『ゴメン、でも、これで良いンダヨ? 復讐からは…復讐しか生まれナイ。解ってイタ…こうなるコトも。それでも…あの時、艦娘とシテの私は「シンでいた」ノ、復讐を誓ッテ、今まで…生き恥を、晒してマデ生きて、漸く、果タスコトが出来た。その中デ、もう一度貴女や酒匂チャンに出会えて…良かッタ。モウ…ココロ残りは、何もナイ』

「由良…っ」

『ダカラ…私のコトは、モウ気にしなイデ? 貴女タチには、ズット、笑ッテいてホシイ…から。私ヲ…笑ッテ、見送って、ホシイ……ナ?』

 

 掠れた声で紡がれる、由良の最期になるであろう言葉に、翔鶴は涙を止めることは出来なかった。由良は最後まで…彼女の周りに気を掛けたのだ。

 

「由良…無理よ、私は……貴女が居なくなったら、ダレが私とシスターを引き合わせるのよ。私ヒトリじゃ…っ」

『…大丈夫、今ノ貴女ナラ、過去ト向き合エル。操らレタ私を呼び覚まシタのは…翔鶴チャン、なんだカラ。貴女ノココロは、きっと前よりモ、強くなっテル。自信ヲ持って……ネ?』

 

 由良の激励に、翔鶴は止めどなく溢れる悲しみを拭き取らず、少しだけ笑って肯定の意を返す。それは翔鶴が由良の「喪失」が止められないものだと、本能的に理解した証だった。

 

「ありがとう…由良?」

『ウウン。ア……デモ、ココロ残り、あるとシタら……シスターと、プリンツちゃんニ、会えなかったナ? どうしヨウ…?』

 

 困ったような顔で微笑む由良、翔鶴はそんな由良にシスターたちの様子を、震える声で簡潔に伝える。

 

「大丈夫、シスターもプリンツも元気だった。いつもと同じで明るく笑っていた、貴女が心配することは──何もないわ」

 

 目に涙が潤みながらも──ガスマスク越しでも解る──いやに固い笑顔を由良に向ける翔鶴。由良を想ってこその、現状精一杯の笑顔だった。そんな翔鶴に対し由良は──何か察したように、また微笑を浮かべた。

 

『じゃア、伝エテ? 皆の仇…私が取ったコト。もう何も心配することはないッテ、貴女の口から…ネ?』

 

 由良の──まるで背中を押されたような──優しさの全てが詰まったような言葉の意図に気づき、翔鶴はクスリと笑うと、それに応えた。

 

「うん、約束する。シスターたちに貴女が頑張ったって、必ず伝える! だから……由良…っ」

 

 努めて笑顔を作ろうとするも、どうしても悲しみが顔に出てしまう。翔鶴の不器用な優しさを垣間見て、由良は満足そうに晴れやかな笑顔を向けた。

 

『……良かッタ、翔鶴チャン。最期ニ…貴女ガ、居てくれテ……よかッタ、ほんと、ニ──』

 

 

 

 ──ありがとう…!

 

 

 

 ──パキンッ!

 

 

 

『────……』

 

 感謝の言葉を述べた、微笑んで、全てに悔いはなくなった。

 その時、役割を終えた鉱石は砕け散り、復讐鬼となりしヒトリの英傑は──ゆっくりと瞼を閉じ、友に添えた手を…力無くし離した。

 

 ──そこにはただ、魂を無くした「遺体(ぬけがら)」が在った。

 

 

「由良…由良あああああっ! うわあああああああああああ……っ!!」

 

 

 翔鶴は旅立った彼女の身体に、顔を伏せて号泣した。

 その場に漂う悲しみの匂い、それを間近に見た周りのモノたちは…伝染するように喪失の涙を流した。

 

「…由良……っ」

 

 拓人もまた、同じように顔を伏せて滝のように哀しみを流す、一時の短い間だったが…彼もまた由良の気高い精神に敬意を表していた。

 

「こんなのって、ないよ…っ!」

「………っ」

「彼女は自身の役割を立派に果たされたのでしょう、その証拠に…あの安らぎに満ちた顔。きっと…本望だったのでしょう」

 

 金剛と野分が涙を流す傍ら、綾波は戦士として由良の生き様をココロから祝福した。その言葉を肯定するように、由良の顔は穏やかな寝顔のようで、今にも起き上がりそうに喜びに溢れ、静かに微笑んでいた。

 彼女の生き様は復讐という褒められたものではない、しかし…深海に堕しても己を見失わず、最後まで仲間の仇のために抗い続けた。その尊くも儚い一生を垣間見て、人知れず「救われた」モノが居た。

 

「(あぁ…ボクは馬鹿だった。深海棲艦に堕ちてしまえば理性の無い「怪物」になる、そう思い込んでいましたが…()()()()()()だったんだ。由良さんは…それでも自分を無くさず戦い続けた、ボクにも…出来るだろうか、彼女のように──美しく生き抜くことが)」

 

 涙の粒を一雫流しながら、野分は由良の生き方から「光」を見い出す術を学ぶのだった。

 死はあらゆるモノに影響を与えていく──拓人、翔鶴、野分。彼らの”心”に由良のシは確りと刻まれていった。

 

 

 故に──何人たりとも、その”旅路”を邪魔してはならない。

 

 

「由良、ごめん。僕が…もっと早くこの場に来ていたなら…っ」

 

 拓人は後悔の言葉を零すも、彼の握りこぶしに手を重ねると、翔鶴はそれを否定する。

 

「何言ってるの、貴方にここに行くよう指示したのは私よ。一人で抱え込まないで?」

「翔鶴…」

「貴方はよくやったわ。それに…辛い想いはさせたくない。由良もきっとそう願っているわ、だから…お別れしましょう、笑顔でね?」

「……うん、分かった」

 

 拓人が悲しみを背負っても立ち直る姿を見て、翔鶴は満足そうに頷きを返した。

 

 もう会えないと理解した…それでも、彼女の「想い」を確かに受け取った翔鶴、拓人たちは…口々に感謝を伝えた。

 

 

「由良…助けられなくて、ごめん。僕は君のこと…忘れない」

 

 拓人は、由良を救えなかった自身の後悔の念と、せめて彼女の勇姿を留めようとする思いを籠めて。

 

「貴女は立派だったよ…私には、それしか言えないや。ごめんね」

 

 金剛は、大往生を果たしたであろう彼女を賛美した。

 

「…希望を見させて頂きました。ありがとうございます」

 

 野分は、深海化しても尚色褪せない彼女の美しいココロに、深い謝意を表した。

 

「安らかにお眠りを…後のことはお任せ下さい」

 

 綾波は、最後まで戦い抜いた彼女に、労いと祈りを乗せて。

 

 

「由良…ごめんね? それから…ありがとう……っ!」

 

 

 最後の翔鶴の言葉には、今まで彼女を助けられなかった悔しさ、それでも精一杯生きてくれた。そんな思いが詰まっていた。

 

 ──こうして、黒霧の中の激闘は…ヒトリの艦娘のイノチを犠牲に幕を閉じた。

 

 戦いはまだ終わらない…それでも今だけは、旅立つモノに──

 

 

 

 

 

 ────感謝を込めて。

 

 

 

 

 

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