艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

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 テイ○ズシリーズ最新作、発売しますね?
 作者もシン○ォニアを始め、多くのシリーズ作品をプレイしました。懐かしいですね…やっぱり「ア○ス」が最高です、続編まだですか? 何十年経っても待ってまぁす。
 因みに艦これすとーりーずでは、小ネタとしてRPGゲーム(作者経験済み)のネタや要素を盛り込んでいます。野分のネタとかね? このお話の何処かにもありますので、楽しんで下さい。(絶対解ると思う)


過去を振り払い、鶴よ翔び立て

 ──少し遡り、デイジー島浜辺。

 

 翔鶴は拓人たちとは反対方向の浜辺にて、プリンツと向き合って話をしていた。由良の遺言を果たすために、彼女たちが南木鎮守府で見たものを伝えていた。

 プリンツは翔鶴の話を黙って聞いていたが、やがて…深い溜息を吐くと、重い口を開けた。

 

「…やっぱり、かぁ。薄々は気づいてたんだよね…提督がもう居ないことも、由良がどうにかなってるんじゃないかってことも」

「ごめんなさいプリンツ、シスターから貴女や酒匂が詳しい話を聞かされていないことは聞いているわ。でも…もう隠しても仕方ないと思って、シスターから貴女たちに真実を伝えることは了承してもらってるわ」

「あはは、ごめんね迷惑かけて。私もさ…あの時のこと、怖いと思ってて。シスターの大丈夫って言葉に甘えてた、提督たちはまだ何処かで生きてるんだって…気づかないフリしてた」

「プリンツ…」

「翔鶴、私のことは良いけど酒匂は? 酒匂にも話したんでしょ?」

 

 プリンツは自分のことより酒匂の心配をしていた、そんな彼女に翔鶴は、微笑んで杞憂であることを示した。

 

「心配要らないわ。酒匂はさっき話してたんだけど──」

 

 

『──ぴゃ、提督と由良ちゃんが居ないのは悲しいけど…でも、泣いてばかり居たら、由良ちゃんが心配しちゃうよね!』

 

 

「…ちゃんと受け入れていたわ。由良のこともあって、あの娘なりに強くなってるみたいね」

「そっかぁ、良かった! 酒匂が受け入れたなら、私だけ文句を言うことは出来ないね!」

「ウフフ、そう言ってもらえてこっちも気が楽になったわ」

 

 二人して笑い合っていると、不意にプリンツは顔を暗くしてそのまま頭を下げた。

 

「翔鶴…ごめんなさい、貴女があの時私たち以上に傷ついていたことは解ってた。でも、私は貴女に…怒りを剥き出しにしてる貴女に、どう声をかけていいか分からなくて…本当に、ごめんなさい」

 

 頭を下げた体勢から、更に背を曲げ深く謝罪をするプリンツ。翔鶴は彼女の大きな罪の意識を感じ取り、それを受けて発言した。

 

「悪いのは私よ、貴女たちのことを何も考えずに暴言を吐いて、恥知らずだったわ。私こそ本当…本当にごめんなさい!」

 

 翔鶴もまた、プリンツと同じように深く頭を下げて謝罪した。

 全てを喪ったあの日、彼女たちの運命を狂わせたあの夜の出来事。翔鶴は周りに疑心暗鬼をぶつけ、サラトガはそれを強い言葉で詰った。

 あの時引き裂かれた絆は、最早修復は出来ないほどの深い溝となった。それでも…互いを理解し合えたとき、ヒトは再び手を取り合えるのだろうか? 彼女たちは…それを試そうと藻搔いていた。

 

「…ふぅ!」

「フフ…!」

 

 同時に頭を大きく上げる、お互いの顔を覗き込む翔鶴とプリンツ。その顔は…迷いの晴れた爽やかな笑顔だった。

 

「ありがとうプリンツ、これで私も前に進めそうよ」

「うん! …翔鶴、シスターのこと許してくれた?」

 

 プリンツはそう問うと再び影を見せる表情となる、対して翔鶴は…不安を隠せてはいないが、それでも薄らと笑みを浮かべる。

 

「まだ分からないかな? それでもこれから向き合っていこうとは思ってるから」

「っ! …そっか。それだけ聞けて良かった、これからもよろしくね!」

「えぇ。こちらこそ宜しくね?」

 

 そう言って、翔鶴はキリの良いところで話を終えると、プリンツに別れを告げて浜辺を歩き出した。別れ際にプリンツと互いに手を振り合うと、二人とも朗らかに笑っていた。

 

「さて、これからどうしましょう?」

 

 浜辺を少し散歩しながら、翔鶴は次の行動を考える。もう寝ようか…そんなことも思い浮かぶが、直ぐに別の気持ちが表れる。

 

「…フフッ、そうね。タクトのところに行ってみましょう」

 

 翔鶴は浜辺から繋がる森の中を歩き始め、拓人の居るであろう反対側を目指した。

 この海域に来てから、拓人は翔鶴に寄り添い彼女のココロの支えとなった。翔鶴はそんな拓人に惹かれて好意を抱き、それは苦楽を共にする内により強い感情となった。

 

 

 過去を振り返ったあの時も。

 

 南木鎮守府の真実を知ったあの時も。

 

 酒匂が居なくなり、周りが大慌てになったあの時も。

 

 そして──由良がシんだあの時も。

 

 

「…タクト!」

 

 拓人を想い、思わず駆け出す翔鶴。

 彼には感謝している、自分がここまで立ち直れたのは、間違いなく彼のおかげ。彼が居なければ自分は今も過去と向き合うことが出来なかった、そう思うだけで胸は高鳴りココロが踊る。

 怒りも、憎しみも、悲しみさえも拓人は受け止めてくれた。そんな彼の力になりたい──大切な仲間のシの悲しみを押し流すほどの「恋」に、翔鶴は溺れていた。

 

「タクト…一緒に世界を救いましょう、その暁の先に…私は、私は貴方に!」

 

 世界を賭けた戦いの最中、こんな気持ちを抱くのはそれこそ恥知らずかもしれない。過去に恋ゴコロを持ったかつての提督に、顔向けできないことかもしれない。それでも──自分の素直な気持ちを抑えることは出来なかった。

 

 

 ──その時、翔鶴の耳に届いた「涙を流す声」が、彼女を現実に引き戻した。

 

 

「…っ、ぅう………くっ……っ!!」

 

「…っ!」

 

 足を止め、木の陰に身を隠して浜辺の様子を窺う。そこには──人目も憚らず咽び泣く拓人、そしてそれを優しく抱き愛撫する金剛の姿が。

 

「大丈夫、次はきっと上手くいく。だから…泣いてスッキリして、また頑張ろう? 今度こそ…守れるように!」

「……うん」

 

 夜を柔らかく照らす焚火の炎、その光は二人の愛に溢れた姿をハッキリと映し出した。

 

「……タクト」

 

 そんな二人を、翔鶴は暗がりの木の後ろから顔を少し出しては見ているだけで、声も掛けられないでいた。

 拓人はただの人間でありながら最前線で戦い続けた、弱音を吐くとこもあったがそれでも立ち上がり続けた。最近では少しの出来事では折れることはない精神力も見せていただけに、自分も含めて周りはそれに甘え続けた。

 辛くない筈はないのだ…つい先日まで激戦の中で「死」に直面したばかりだったはずなのに、だ。

 拓人の深い悲しみを、金剛は受け止めていた。それは彼にとって金剛こそが「自分の全てを曝け出せる人物」である証左だった。それを理解した瞬間──翔鶴は己の浅はかな考えを重く受け止め、後悔した。

 

「(馬鹿だ、私。勝手に彼の全部を知った気になってた。今までだって自分自身の考えの浅さのせいで、いっぱい後悔を作ったというのに、また…繰り返しそうになった)」

 

 思えば、南木提督の想いに気づかずに”勝手に”裏切られたと勘違いした。信じられたはずなのに、自分の激情に流されて判断してしまった。

 今までの自分を思い返すほど、その思慮の浅さが浮き上がる。それを考え至る度自身に苛立ちを覚える。

 

「…っ」

 

 翔鶴は木の皮に爪を立てて歯を食い縛る、これまでの夢見がちだった自分を根本から変えたい。そう思うと怒りの炎が身体を焦がし尽くした。

 そうして翔鶴が悔しさを見せていると、体勢を少しだけ動かした拍子に、砂を掻く音を立ててしまう。

 

「っ! …誰?」

 

 金剛はこちらに向かって怪訝な顔を向けている、影になって姿が見えていないのだろう。

 

「…お邪魔だったかしら?」

 

 翔鶴は息を整えて怒りを一旦抑えると、拓人と金剛の前に姿を現した。翔鶴を見た二人は驚きの顔を見せるとすぐに抱き合った身体を離した。

 

「翔鶴、どうしたの?」

 

 拓人は和やかな笑顔を翔鶴に向ける。この笑みに何度も救われた…そう思うと、また甘えそうになる自分が居た。

 

「──拓人、お願いがあるの」

「えっ…?」

 

 そんな甘い自分を律すると、翔鶴は拓人にとある提案を持ち掛けた──

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 僕は今、翔鶴の銀色の長髪を左手で握り右手に腕輪で変形した剣を掲げていた。

 艶やかな銀色の髪、焚火に照らされて綺麗な輝きさえ放つそれを「バッサリ切り落とそう」としていた。

 これは翔鶴自身の言い出したことだった、金剛も見守る中翔鶴は砂浜で正座をしてその時を待っていた。

 

「…本当に、良いの?」

 

 僕の問いかけに、翔鶴は深く頷いた。

 

「えぇ、私の気持ちを整理したくて。気休めでしかないけど、やらないよりマシでしょう?」

「そ、そう? じゃあ…行くよ!」

「ええ」

 

 翔鶴の比較的冷静な声色を聞いて、僕は──

 

 

 ──ジャキッ!

 

 

 翔鶴の長髪を、後ろから首が見えるくらいの位置から切り取った。

 

「……ふぅ、終わったよ」

 

 そう言って僕は翔鶴に切った銀の髪を見せた。翔鶴は…少し苦い顔をしてため息を吐く。

 

「ま、不味かったかな…?」

「ううん、これで良いのよ。…ちょっと貸して?」

 

 翔鶴は僕から自身の銀髪を受け取ると、海岸に近づき──海に向かってそれを手放す、銀髪はふわりと風に乗って海の彼方へと飛んで行った。

 

「──さよなら、今までの私」

 

 そう呟いたように聞こえた翔鶴がこちらに振り向く──その顔は、もう迷いはないと言わんばかりに晴れやかな笑顔だった。

 僕らの方に近づく彼女の姿は、自慢の銀色長髪が「短髪」になったものだが、今までの彼女のイメージにピッタリな髪型だった。

 

「…似合ってるよ、翔鶴」

「っ! …もう、そういうこと言わないでよ」

「え、酷いこと言ったかな?」

「…ううん、嬉しい。ありがとう…タクト。これからもよろしくね?」

「もちろん!」

「…うふふ」

 

 僕と翔鶴が笑いあっている姿に、金剛もまた満足そうに笑顔を向けているのだった。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 翌日。皆でデイジー島浜辺にて、鎮守府連合から来る増援本隊を待っていた。

 

「む、翔鶴。髪を切ったのか?」

「ええ、どうかしら。少しは落ち着いて見える?」

「ふ、そうだな」

 

 天龍と翔鶴の短い会話が聞こえる、彼女の迷いが少しでも断ち切れていたらいいけど?

 そんな時、水平線から小さな影が幾つか見え始める。次第に影が大きくなり、輪郭を帯び色が見え、人の形となった。

 いや…あれは? 艦娘であろう少女たちの真ん中、彼女たちが輪形陣を組んで警護しているのは…船? 何十人は入れるような大きな船だった。

 

「…ああ、そうだった」

 

 他の娘が疑問を浮かべている中、僕は一人納得していた。おそらくあの中に──

 まぁ先ずは船周りの艦娘たちだ、望月はもちろん居るけど、あとは──

 

「タクトぉ〜!」

「やっほー!」

「タクトさん!」

 

 選ばれし艦娘の加古、長良。そしてトモシビ海域で出会った「鳥海」さん、あとは彼女の部下の吹雪、五月雨、漣が居た。

 

「皆! 来てくれたんだ!!」

 

 僕は両手を広げて、決戦に駆けつけた皆を歓迎した。

 船が接岸すると、艦娘たちも浜辺に足をつけた。加古はこのメンバーである理由を説明した。

 

「あぁ、だが加賀と時雨はもしもの時のために、連合本部警護だとよ。加賀が「駆けつけられなくて申し訳ない」っつってたぜ?」

「そっか、でも十分だよ。ありがとう…鳥海さんも」

「はいっ、この場に駆けつけられたことを光栄に思います!」

 

 鳥海さんは朗らかにこの場に来れたことを喜んだ。これでこの場に居る艦娘は僕の艦隊を含めて「20隻」ぐらいか、ドラウニーアの手勢がどれだけ多いか分からないけど、今はこれで十分すぎるぐらいだ。

 皆と色々話したいとこだけど、僕は用事があるからと短く挨拶を済ませて、彼女たちと別れた。

 そうこうしている内に、船から梯子がかけられて、中から数人の人が降りて来た。その中に僕たちとは顔見知りの二人が居た。

 

「──タクトー!」

 

 声を張り上げ右手を大きく振る、フリルエプロンを着た少女──マユミちゃんだ。隣にはユリウスさんも居る。

 二人が駆けつけてくれたことは素直に嬉しいけど、この場合はどうなんだろう? ドラウニーアがまだ捕まってない以上二人の身にも危険が及ぶ可能性が…考え過ぎかな? その辺どう思うかそれとなく聞いてみる。

 

「マユミちゃん! 来てくれて嬉しいけど、大丈夫なの? ドラウニーアは」

「大丈〜夫! 私逃げ足は早い方だから、それにタクトたちが頑張っているのに、私だけ何もしないわけにはいかないよ。カイトさんにも無理言って来させてもらったんだ、自分の身は自分で守るって条件付きでね!」

「あはは…そっか。君らしいね? ありがとうマユミちゃん、それにユリウスさんまで。ありがとうございます、でも…よろしかったんですか?」

 

 僕は今度はユリウスさんに向かい問いかける、最前線まで来たことに不満はないかと。するとユリウスさんは静かに微笑んで頷いた。

 

「あぁ、ドラウを更に追い詰めたと聞いたが、ヤツが何をしてくるか分からない以上私がこの場に居た方が役立つかと思ってな? それに対黒霧装備…「灼光弾改」のメンテナンスも万全にしておきたい」

「ユリウスさんは役割があっていいなぁ、私はただの炊飯係だし」

 

 ユリウスさんの話を聞いて、マユミちゃんは何処か自信無さげに不安を零していた。

 

「そう? 僕はマユミちゃんが居てくれるだけで心強いけどなぁ。こう…身が引き締まるというか」

「……それ、私が鬼教官みたいって聞こえるんだけど#」

「あっ、これはね? ちょっとしたジョークというか;」

 

 僕とマユミちゃんがそんなやり取りをしていると、ユリウスさんは豪快な笑いをする。

 

「ハッハッハ! マユミ君はそのまま出来ることを考えて行動すれば良い。戦争とは何も矢面に立つのが全てではないからな、それに…食事を作るというのは、戦場において最も重要な事柄だ。何といったか…?」

 

 ユリウスさんが言い終わる前に、僕とマユミちゃんは同時に「頭に思い浮かんだ言葉」を口にした。

 

 

「「──"腹が減っては戦は出来ぬ"!」」

 

 

「そうとも! 一人ひとりが出来ることをする、それだけで物事は手早く進展する。それは何も戦場に限った話ではない、君はきみのまま…君の役割を果たせば良いんじゃないかな?」

 

 ユリウスさんはマユミちゃんに向け静かに笑みを浮かべる、マユミちゃんも答えを得て安堵の言葉を述べた。

 

「そっかぁ、良かった。ありがとうユリウスさん、やっぱり大人の男性は頼りになるね!」

「おいおい、甘え過ぎも程々にしてくれ給えよ? 子供とはいえ戦場に居る以上、君だけ待遇を良くするわけにはいかないからな」

「ふふん、心配ご無用! マーミヤンで鍛えた指揮力は伊達じゃないよ、お昼のラッシュだって馬鹿にならないんだから!」

 

 マユミちゃんの言いたいことは、マーミヤンで見た「お昼の行列」を捌く場面だろう。早霜や舞風をテキパキと支持して動かしてたアレ、確かにあそこも戦場だよな…。

 

「頼もしい限りだ、料理も期待してて良いかな?」

「もっちろん! 伊良湖ちゃんほどじゃないけど私も…」

 

 僕らがそうして話を広げていると、横から望月が近づいて来た。

 

「よぉ大将、久しぶりだな?」

「あ、望月。どうしたの?」

「あぁ、どうしてもアンタに挨拶しときたいってオッサンが居るんでね、相手しといてくれ。大将が呼んだんだろ?」

「っあ、そうだった! 翔鶴呼びに行かないと」

「タクト君、忙しいようなら私たちは一先ず下がらせてもらうよ?」

「すみません、後でまた情報共有しましょう。…じゃあねマユミちゃん!」

「うん、頑張ってねタクト!」

 

 そう言ってマユミちゃんとユリウスさんは、その場を去って行った。

 僕も彼らに背を向けて歩き出すと、翔鶴に声を掛けた──

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 僕たちは船の着岸地点から少し離れ、静かな浜辺である人物と向き合っていた。

 僕と、隣には翔鶴。そして向かい合って──かつて南木鎮守府で指揮官の一人を務めた「ナベシマさん」が居た。

 

「…貴殿がタクト殿ですな、お噂は予々(かねがね)聞いております。私が鎮守府本部勤務、元南木鎮守府指揮官のナベシマです。此度は指名をいただき、誠に有難う御座います」

 

 仰々しい物言いの後、ゆっくりと深いお辞儀をするナベシマさん。彼こそ翔鶴が全てを喪った「南木鎮守府崩壊事件」の生き残りの一人である。

 翔鶴は──彼の姿に緊張を隠せない様子だった、ナベシマさんもまた翔鶴を一瞥すると、顔を強張らせ俯いていた。僕は雰囲気を和らげるべく話を振った。

 

「そんなに固くならないで下さい、僕はただの若輩ですので」

「いえいえ、貴殿はハジマリ海域から始まりトモシビ、ボウレイ海域と、海域ごとに展開した様々な作戦を完遂させ、鎮守府連合幹部にまで昇り詰めた御方。連合に籍を置く者で、今や貴方を知らぬモノは居りませぬ」

 

 そんな風に思われてたんだ、確かに随分長い間戦い続けたものなぁ。あくまで感覚の話だけど?

 僕は話もそこそこに、早速本題を切り出す。

 

「ナベシマさん、ここまでご足労下さりありがとうございます。貴方にここに来てもらったのは、協力してほしいことがあるからです」

「ははっ、私なぞで良ければ何なりとお申し付けを」

 

 ナベシマさんは礼の姿勢をとって僕への助力を承諾してくれた。何にせよ向こうも乗り気みたいだから、僕はその内容を語る。とはいえ──すごく単純なことなんだ。

 

「ナベシマさん、貴方は南木鎮守府崩壊のあの時、翔鶴に怒りをぶつけられたはず。どうか…そのことを許してあげてほしいんです、それがドラウニーアを追い詰める切り札を作ることに繋がるはずなんです」

「っ! タクト…」

「どういう意味ですかな?」

 

 僕は怪訝な顔を向けるナベシマさんに対し、事の次第を説明する。

 翔鶴が今よりも強くなれること、それを行うためには南木鎮守府の過去を明らかにする必要があることを語る。僕が簡潔に事態を話し終えると──ナベシマさんは「驚き半分、嬉しさ半分」の表情を見せた。

 

「そうですか、翔鶴君が! なるほど…俄かには信じられませんが、彼女の潜在能力が高いことには、驚きはしませんよ」

「え…?」

 

 ナベシマさんの言葉に翔鶴は目を丸くしていたが、僕は構わず話を続けた。

 

「増援本隊が来る前、僕らは偶然にもドラウニーアの持つ主力級と対峙し、それを撃破しました。ですが…アイツは今もこの海域の何処かに逃げ果せているはず、僕はこの好機を逃したくない。何よりも翔鶴のために、彼女に過去を乗り越えていく強さを身につける必要があると思います」

「タクト…!」

「ナベシマさん、過去に彼女の知らない何かがあれば教えて下さい。そして願わくば…どうか、彼女のことを許してあげて下さい! お願いします!!」

 

 僕はその場で勢いよく一礼する、深々と背を曲げて頭を下げた…誠意が込もっていればいいと、少しだけ不安を感じながら。

 

 ──だが、彼から返ってきた言葉はこちらの予想を「良い意味で」裏切るものだった。

 

「お待ち下さいタクト殿、貴方が頭を下げる必要はありません。寧ろ…大罪は私にこそあります」

「っ、それはどういう…?」

 

 彼の不意を突く言葉に僕が頭を上げると、ナベシマさんは身体を震わせ、自分の四肢を砂浜につけ始める。それは──土下座の体勢だった。

 

「翔鶴君、すまなかった! 私は君に…強くなってほしかっただけなんだっ!!」

 

 そう謝罪するや否や、ナベシマさんは頭を砂に押しつけて謝罪の言葉を述べ、そうなってしまった経緯を説明し始める。

 

「あの時、私は君の能力に気づいていた。エルフの因子を組み込んだ君は、鍛えれば必ず艦隊の主力になれると。だが君は…それまで大した任務もやって来なかった、私はこれではいけないと君に難癖をつけ、より高い難易度の任務を請け負うよう流れを作ろうとした。結果的に…瑞鶴君のおかげで、私が思った以上に君は強くなってくれた。それが私には何よりも誇らしかった」

「ナベシマさん…」

「だが…同時に君たちが私をどれだけ憎んでいるのかも知っていた。それでも私は憎まれ役になったとしても、艦隊や南木鎮守府のためと思い、私の本心を悟られまいと振る舞った。……馬鹿だったよ、おかげで君の妹分を、むざむざ沈みに行かせたようなものだ!」

 

 砂に額を擦りつけていたナベシマさんが顔を上げると、その顔はくしゃくしゃに丸められた紙のように歪み、悲しみを湛えた涙が顔全体を濡らしていた。

 

「本当にすまなかった、あの時私が意固地を張らずに瑞鶴君の話を聞いていれば、こんなことにはならなかった! 瑞鶴君を沈めてしまったのは私の責任だ。許してくれとは言えない、だが頼む…君が望むのというなら、どうか私を殺してくれ!!

 

 悔恨の言葉を述べ終えると、ナベシマさんは土下座したまま下をむいて、砂の上に涙を零していた。

 彼もまた翔鶴と同じで後悔を抱えていた、真面目で厳しい面もあるが見えない愛情があった、ただ”価値観が違った”だけですれ違いが起きてしまっただけ。彼は体裁を守ることを第一としたあまり、艦娘たちと解り合おうとしなかった。…たったそれだけの話だった。

 彼が翔鶴たちを虐め抜いたのは事実だし、今更殺してくれとは勝手すぎると思う人もいるだろうか。でも…彼はだからこそ、翔鶴に復讐されるその日まで、自身の罪を償おうとしていたのではないだろうか?

 カイトさんと通信でやり取りしていた時に聞いたんだけど、ナベシマさんは南木鎮守府崩壊後は鎮守府連合本部で、鎮守府崩壊により骨組みがバラバラになった連合を立て直そうと、身を粉にして働いたと聞いている。彼の根回しのおかげで鎮守府が無くなった海域に艦娘を全配置出来た、と語っていた。

 カイトさんはナベシマさんを「自他ともに厳しいが、とても良識のある人物」と評していた、あのカイトさんが認めているのだ、本当に見栄えを気にしすぎているだけで、根は良い人なのだろう。僕としても思うところが無いわけではない、だが…目の前の後悔に泣く人を見ていると、そう思える自分が居た。

 

「…そう、だったんですね」

 

 翔鶴は激しく涙を噴き出している彼とは対照的に、柔らかな笑みを静かに浮かべる。ゆっくりとナベシマさんに近づき膝を曲げて屈むと、諭すように言葉を掛けた。

 

「ナベシマさん、瑞鶴は貴方と少しだけ本音を語り合ったあの日、私に貴方が「自分の日常に必要な人だ」…って言ってたんですよ?」

「っ! 瑞鶴君が…!?」

 

 ナベシマさんは顔を上げて驚きを見せると、翔鶴はにこやかに首を縦に振った。

 

「ええ、瑞鶴は貴方を認めていました。だからこそ彼女は…自分の全てを守るために、死地に出向いたんだと思います。例え貴方が止めたとしても、彼女は戦いに行った。だから貴方が責任を感じることは、何もないと思います」

「だが…私は君たちに酷い仕打ちを」

「そうかもしれませんね、なら…これからやり直しましょう。あの時瑞鶴に少しだけ本当の貴方を見せたように、私にも本音をぶつけて下さい。今の私なら…きっと受け止めて見せます」

 

 翔鶴の銀色の短髪が、海風に揺れてふわりと掻き上がる。薄っすらと口角を伸ばした眩しい笑顔に、ナベシマさんは再び涙を流して、翔鶴に詫びた。

 

「すまない…本当に、済まなかった…っ」

「ナベシマさん…()()()()()()()()?」

「…ぁあ……そう、だったな…?」

 

 翔鶴の赦しを含んだ言葉に、ナベシマさんは泣き顔に無理やり笑いの表情を作る。言ってしまえばすごく不細工だが、非常に清々しい顔をしていた。

 

「良かったね、翔鶴」

 

 僕がそう呟くと、翔鶴は徐に立ち上がり僕の方へ歩み寄る。

 

「タクト、本当にありがとう。あのナベシマさんと打ち解けることが出来るなんて、夢にも思わなかった」

「い、いや。僕は自分に出来ることを──」

 

 僕が翔鶴からのお礼の言葉に謙遜を見せると、彼女は──

 

 

 

 ──チュッ

 

 

 

「…っ!?」

 

 不意打ちと言わんばかりに、僕の顔に彼女の唇を近づけ──頬に接吻(キス)をしてきた。

 一瞬何が起こったか分からない僕は、目を丸くして固まってしまっていた。戸惑う僕を見て悪戯な笑みを浮かべる彼女を見て、僕は正気を取り戻して驚きを口にした。

 

「しょ、翔鶴! 何を…っ!?」

「ウフフ、タクト…今の貴方顔が真っ赤で可愛いわよ?」

「ちょっ!? 童貞の心を弄ばないでよ!!」

「フフッ、またワケ分からないこと言ってる…♪」

 

 僕らのまるでいちゃつく恋人同士の会話に、ナベシマさんも口を開けて呆然としていた。そりゃあそうなるよ、誰でも。

 

 ──そんな僕らに、後ろから声を掛けてくる人物が居た。

 

「──私からも礼を言わせてほしい、タクト君。君は翔鶴の深い傷を、数日間の間に癒して見せた。本当に…感謝するぞ」

 

「…っ! 長門さん!」

 

 それは、長い黒髪に黒のロングコート、頭のヘッドギアを着けた、威風堂々とした選ばれし艦娘「長門」さんだった…。

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