艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について―   作:謎のks

97 / 146
長門の証言──裏切りのウラ側で

 長門さんが僕らの前に現れた…ということは、ドラウニーアの所在が分かったということ。そう思い僕が声を掛けようとした矢先、ナベシマさんが長門さんを見て驚いて声を上げた。

 

「あ、貴女は長門殿!? まさか…生きておられたのか!」

「お久しぶりです、ナベシマ指揮官。貴方の愛情が翔鶴に伝わったようで…本当に良かった」

 

 あぁそっか、改二のこと知らないと「幽霊が出た」みたいに思うよねそりゃ、黒い霧の中で生き抜いていたなんて思うわけないし。というか…?

 

「長門さんはナベシマさんのことを知っていたんですか?」

 

 僕の素朴な疑問に、長門さんは頷いて肯定した。

 

「うむ、実は南木提督を含めた私たち三人でドラウニーアの足取りを追いかけていたのだ」

「そうだったんですね…!」

「私も長門殿はてっきり南木鎮守府の深海棲艦を倒した後、黒い霧に呑まれてしまったと考えたが…生きておられたか。連合でも貴女が生きていると考える者は誰一人として居なかった、これは…奇跡ですぞ!」

 

 ナベシマさんが現実を噛み締めて喜びの表情を見せると、長門さんも静かに微笑みを返していた。

 

「長門さん、ドラウニーアは?」

 

 感動の再会、という状況じゃないよね? 僕は改めて長門さんに質問をする。

 

「案ずるな、ヤツは現在シルシウム島に避難しているようだ。深海棲艦が島の周りに配置されている故迂闊には近づけんが、我々の眼が黒い内はヤツに逃げ出す隙は与えん」

「そっか、良かった」

「シルシウム島…長門、確かあそこは」

 

 翔鶴の問いかけに長門さんも黙って頷いて肯定した。

 

「君たちが見たあの巨大機械設備は、我らの目を盗んでドラウニーアが設置したものだ。シルシウム島を含めて計四島に建てられたそれは、南木鎮守府の周りを囲うように配置されている」

「改めて考えるとあの機械…一体何のために造られたの?」

 

 長門さんと翔鶴が疑問を呈していると、僕の頭の中で「答え」が浮かび上がる。

 

「──多分、望月の言っていた「穢れ玉」を使って世界を滅ぼすのと関係があるんじゃ?」

 

「…っ! そうか…確かにさっきの話し合いの中で「穢れ玉のエネルギーを南木鎮守府のゼロ号砲に浴びせる」って言ってたわね、それで威力を底上げするとか…?」

「成る程…つまり四島の機械は威力増幅のためのエネルギー射出装置であったか」

「おそらくそうでしょう、でも望月が言うには「穢れ玉が四つ揃わないと世界を滅ぼす力にはならない」って言ってました。本当に…由良には感謝してもしきれませんよ、こうしてアイツの野望が阻止出来たのは…彼女のおかげです」

 

 僕たちが故人を懐かしむ憂いを帯びると、長門さんは気を引き締めるよう注意して来た。

 

「油断は出来んがな、ドラウニーアは最後のさいごで盤上を覆す。君も知っているだろう…ヤツの得体の知れない「運を引き寄せる能力」を、だからこそ最大限の警戒を以って望むべきだ」

「そうですね…すみません」

 

 僕は自分の軽率な言動を謝るも、長門さんは然程気にしていない様子で話を切り替える。

 

「タクト君、ドラウニーアを追う中でカイトに連絡を取ったのだが、君たちは南木鎮守府の過去を暴こうとしているのか?」

「あ、はいっ。翔鶴の改二改装に必要なことで」

「成る程…ならば私の経緯(いきさつ)も語るとしよう、もう隠すこともないだろうし、約束だからな」

「お願い出来ますか?」

「承知した、では場所を変えよう。連合の増援部隊が野営地を築いていると聞いた、話はそこでしよう。ついでにドラウニーアの潜伏場所を見張るよう指示する、それで良いか…翔鶴?」

 

 長門さんが話を振ると、翔鶴は長門さんを真っ直ぐ見つめて頷いた。

 

「えぇ、お願い長門。私はもう…過去から目を背けたくないの」

 

 翔鶴の覚悟を垣間見た長門さんは、片側の口角を上げて笑う。

 

「強靭な精神を手に入れたか、安心した…あの時の君には、本当に済まないことをしたからな」

「おかげさまでね、でも…もう心配要らないわ。行きましょう?」

「あぁ…」

 

 こうして僕らは、長門さんと一緒に野営地へと向かった…。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 浜辺からすぐに入った森の中、サラさんたちの掘立て小屋の隣に大きなテントを張っている人たちが見える。どうやら連合から派遣された人員みたいだ、僕らは今しがた出来たというテントの中へ案内される。

 テントの中は広々としていて明かりも「ライトスタンド」のおかげで暗くなかった。ライトは主に中央の大きな机の上を照らしていたけど、これってテレビでよく見る「簡易作戦会議室」かなぁ? ドラマとかの武将たちが囲んで話し合いするヤツ。

 

「この場はドラウニーアをどうするか話し合う会合場となる予定と聞く、何度も出入りすることになるだろう、慣れておいた方が良い」

「分かりました」

 

 僕は辺りを見回していると、自然と中にいる皆と目が合う。翔鶴、長門さん、ナベシマさん。それと…サラトガさん。

 

「いよいよ話されるのですね、長門。貴女が何故この場に居るのか」

「あぁ…」

「サラさんと長門さんは、どういうご関係で?」

 

 僕としてはどうしても「クロスロード」という言葉が出てしまうが、本人たちとしてはどうなのか、何となく聞いたが…大した理由ということでもないようだ。

 

「昔同じ部隊で働いていて、その時はよくバディを組んでいたんです」

「えっ、そうなんですか!?」

「うむ、昔は選ばれし艦娘それぞれが率いる部隊があってな。海魔大戦終結から結成して以降、英雄の象徴として持て囃されたが、部隊だと有事の際に素早く動けないとして解体され、現在の単独から少人数の部隊になったのだ」

 

 長門さんの説明だけど、選ばれし艦娘単体の方が良いって…なんだかんだ親しくさせてもらってるけど、やっぱり皆規格外なんだなって。

 

「その部隊が解体されて間もなく、私は異能部隊に転換が決まったのです。だから…あの時貴女が現れたときは、本当にビックリしたんですよ?」

「済まない、訳は今話す故許してほしい」

「もう、またそんな素っ気なく。いえ、それこそ貴女なんですが、ウフフ♪」

 

 サラトガさんは本当に嬉しそうに微笑んでいた、不謹慎だけどにわかオタクとして一応言うよ。…ながサラ、良き。

 彼女も事件のあらましが気になるようで、僕たちと一緒に長門さんの話を聞くみたいだ。

 

「じゃあ、話してください長門さん。貴女が何故翔鶴たちのピンチに駆けつけられたのかを」

 

 僕は話の音頭を取ると、長門さんは漸くといった具合に重い口を開いた。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 ──始まりは連合総帥より伝えられた「任務」だった。

 

 内容は「TW機関研究員を全員捕縛せよ」…とのことだ、機関は我々の与り知らぬうちに非道な研究を繰り返したと聞く。それを知られると研究員は我先にと逃げ出し各方へ散らばったという。

 ムーンチルドレン計画を始めとしたこれらの研究は、機関への不信だけでなく連合の地位を揺るがすものだと、総帥は危機を表して対処するよう私に言伝した。

 最初は順調だった、言ってしまえば数合わせの下っ端研究員ばかり捕まったが、研究の主犯である「ドラウニーア」の情報が集まればそれで良いと甘く考えた…ヤツの超科学とやらで捕らえた研究員が殺されるまではな。

 数十人の犠牲が出てしまったが、それ以降はこちらのリスクも高すぎると情報を聞き出せなくなってしまった。故にヤツを直接捕まえることしか道はなかったが…それこそ出来れば他愛ない話だった。

 ヤツは世界中の海域を飛び回り、我々の捜索を事前に探知したように姿を消しては別の海域へ逃げ延び、その地に潜む。その繰り返しだ。神出鬼没…捕らえることは事実上不可能だった。

 だからだろうな…南木鎮守府に未だ捕まっていない研究員の一人が投降したと聞いた途端、私は焦りを隠せず急ぎ南木鎮守府へ向かった。

 

 そこで君たちの提督に出会った、彼のことは噂で聞いていた。あの異能部隊の創設者である切れ者だと、連合でも話に度々上がったからだ。

 

「研究員は現在南木鎮守府で預かっている、彼はこれまで有益な情報を提供してくれたが、彼の命が奪われることはなかった」

「どういうことだ、敵がこの事態を知らぬはずあるまい…罠か?」

「おそらくは。だが嘘もついていないようだ、彼の情報を基に捜索したところ、ハジマリ海域でドラウニーアの研究施設らしき建物を発見した。例の如く参考になる資料はなかったがな?」

「…出来過ぎているな、だがヤツの情報源となることは確かだ」

「こちらもそう考えた、だから捕まえた研究員は重要参考人として丁重に扱おうと思う。向こうも「罪を軽くしてもらえるのなら」と言って来たからな」

「ふん、足元を見おって。しかし背に腹には代えられん、減刑は私から総帥に言伝しておこう」

「よろしく頼む」

 

 こうして研究員の情報を基に、私と南木提督、そしてナベシマ指揮官を加えた三人は極秘の捜査を執り行った。

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 南木鎮守府に出入りして数か月が経った。

 私は一部の職員しか知らない裏道から、提督執務室へ顔を出しては南木提督と情報の共有を欠かさず行った。しかし…矢張りあの男、自分以外に計画の仔細を話すことが滅多になかったようだ。研究員に問い詰めても、それらしい情報を得ることは出来なかった。

 

「収穫はないか…どうすべきか」

 

 私が頭を悩ませていると、大きな音を立てて執務室の扉が乱暴に開け放たれた。

 

「た、大変だ皆!」

「提督殿!? 落ち着いて下され、とにかく扉をお閉めに。長門殿が…」

「わ、悪い。つい勢いが…;」

「構わない、して如何したのだ?」

 

 南木提督は扉をそっと閉めると、事の次第を話し始める。

 今しがた研究員の尋問をしたところ、彼が「この海域にドラウニーアが潜んでいる可能性」を指摘したのだ。

 

「何ですと!? それは本当なのですか?!」

「あぁ。各海域に拠点を作っているなら、この海域に拠点を構えても何もおかしくはないと言い始めてな」

「待て。仮にもこのアサヤケ海域は異能部隊を抱える南木鎮守府がある、それではまるで捕まえてくれと誘っている様ではないか?」

 

 私は当然の疑問を口にしたが、南木提督は彼から聞いた全てを語る。

 

「ドラウニーアには魔術を応用した「ステルス迷彩」という超科学による術がある、それはある特定の物体を背景と一体化させ、あたかもそこに何もないように見せることが出来、レーダーにも映らないと言っている。研究員はアイツの性格を考えると、拠点と共にこの海域に潜んでも何もおかしくはないって…っ!」

 

 あまりに出来過ぎた話に聞こえたが、その話が本当ならそうも言っていられない。ヤツは数多の奸計により艦娘騎士団をも滅ぼしたと聞いた。遂にこの海域にも毒牙が…我々の後ろに氷柱に触れたような冷たい悪寒が走る中、南木提督はナベシマ指揮官に指示を出した。

 

「ナベさん、すぐに周辺の島に異変が無いか調べてくれ! 無人島やただの岩礁も含めて全部、今すぐだ!!」

「りょ、了解しました!!」

 

 ナベシマ指揮官は急いで執務室から駆け出すと、自身の指揮下の部隊に周辺の捜索を徹底させた。

 

 

 ──翌日、ナベシマ指揮官は海域地図を持ち出し執務室でそれを広げた。

 

 

「このシルシウム島を始め、計4ヶ所からステルスに隠された謎の機械の設置が認められました。他三か所は背景に微妙な歪みがあり発見されたのですが、何故かシルシウム島のみステルスが張られておらず肉眼でも視認可能でした。更には人影も見たという報告も」

「何の装置かは解るか?」

 

 南木提督の言葉に、ナベシマ指揮官は首を横に振る。

 

「断定は出来ませんが、先端に穴の開いた機械が取り付けられていたので、何らかの兵器ではないかと」

「大砲か、レーザー砲か。何れにしても…そんなものをこのアサヤケ海域で造るとは…ん?」

 

 南木提督は言葉を止めると、何かに気づいた様子で地図を凝視し始める。その表情は…驚天動地と青ざめていた。

 

「おい…これは」

 

 南木提督がマーカーペンを取り出し、シルシウム島含む4ヶ所を点としそれらを線で繋ぎ合わせていく…すると、線は見事な円形を描きその中心に「南木鎮守府」が置かれていることに気づいた。

 

「な…っ!?」

「嘘だろ…いつの間にっ!」

「これは…厄介だな」

 

 これが何を意味しているにせよ、敵は誰に気付かれることなく我々を「包囲」しているという事実があった。四方に設置された機械から何らかの攻撃をされようものなら…幾ら鉄壁の防衛力を誇る南木鎮守府であろうと、ひとたまりもないだろう。

 

「っ、野郎…!」

「落ち着け、これが罠であることは確かだ。ならば…それを逆手に取るしか方法はない」

「それは…?」

 

 ナベシマ指揮官が疑問を呈する、私は自身の意見として考えを表明する。

 

「このシルシウム島に君たちの「異能部隊」を寄越す、そして何らかのトリガーを誘発させ敵が鎮守府に攻撃を加えようとしたら、それを防いだ後カウンターを仕掛ける。南木鎮守府に予め防御策を張りすぐに四島へ迎えるよう部隊の配備、それと連合にもヤツが逃げられないよう事前に包囲網を敷くよう手配しよう」

「おぉっ! 成る程…異能部隊。罠の可能性が拭えない以上、彼女たちであれば何かあっても抜け出せます。これしかありませんぞ!」

 

 私の考えにナベシマ指揮官が同意してくれるも、南木提督は…どこか浮かない顔をしていた。

 

「どうした?」

「いや…もっと危険のない方法はないものかと」

「ふむ、ならば私が彼女たちのサポートに回ろう。何かあれば私が彼女たちを守る」

「提督殿、彼女たちが心配なのは分かりますが今は致し方のない状況です。待ち伏せの可能性もありますが…どうか」

 

 ナベシマ指揮官は提督を説得し始めるも、提督は私にある疑問を投げてきた。

 

「長門、確か最近「深海棲艦」だとかいう化け物が出ると聞いたが…ドラウニーアがそれらを「操っている」可能性は?」

 

 確かに彼の言う通り、そう言った声が上がっているのは事実だった。しかし当時は数も、目撃例自体少ないものだった。脅威とは思えない…それがかつての私の感想だった。

 

「仮に深海棲艦が出たとして、私なら対処も出来る。何が不満なのだ?」

「…研究員の話を聞いていると、ドラウニーアが深海棲艦に指示を出しているようなニュアンスの言葉を度々聞くようになってな、確か…海魔石だったか? あの紅い魔鉱石で操ることが出来るとか?」

「作り話ではないか? 海魔石とはかつての人類の「負の感情」を封じ込めた代物だ、深海棲艦とは何も関係が…」

 

「じゃあ…深海棲艦が「艦娘の成れの果て」だと言ったら?」

 

「…っ!?」

 

 私は一瞬怖気を感じてしまう、我々艦娘と深海棲艦との関係性は当時から囁かれていたが、都市伝説のような扱いで誰も信じていなかった。それが現実だとすれば…!

 

「研究員が言うには、艦娘は沈めば深海棲艦となり胸の艦鉱石も「海魔石」になっちまうらしい。あまり知られていないが、艦鉱石である程度艦娘に命令を刷り込むことが出来るようなんだが、逆も同じらしい。つまり…深海棲艦は海魔石で命令出来る、更に沈んだ艦娘が成ったというなら、かつての戦争で亡くなった艦娘はそれこそ「数百」はいるだろう。俺たちの思っている待ち伏せと…果たして「規模」は同じなのだろうか?」

 

 成る程、彼は「深海棲艦の大群」に彼女たちが襲われるのではないか、そう考えたらしい。奇襲で得体の知れない化け物が群れを成して襲ってくる、そんな状況経験が無ければ混乱は必至…か。

 彼の言いたいことは尤もだった、だが…だからとはいえそれを考慮して、とは言えない状況でもあった。

 

「言いたいことは解った、だが我々が話し合っている間にも、ドラウニーアが策謀を巡らせていることは確か、早いうちに対処しなければこちらも危うい」

「しかし…っ」

 

 彼から不安が除かれることはなく、表情は曇ったままだった。私は仕方なく語気を強めて彼を問い質した。

 

「君は彼女たちを自分の娘と勘違いしているようだが、彼女たちはあくまで「兵器」だ。私を含め彼女たちは戦うために設計された。つまりだ…今ここで存在意義を果たして貰わねば、連合としても迷惑なのだ」

「っ! 分かっているそんなこと!! だが…艦娘たちを「愛している」と言ったら…俺はおかしいのか? そんな彼女たちを、確実に死ぬ目に遭うかも判らない場所へ行ってくれと?!」

「提督殿…お気持ちはお察しします、私とて同じ気持ちです。ですが今は…」

 

 南木提督の迷いの咆哮に、ナベシマ指揮官が冷静に諭していくが…矢張りまだ苦い顔が見えた。

 

「…君の言い分も理解出来るし、私も連合も叶うことならそうしてやりたい。だが…今は耐えてくれ。ドラウニーアは世界秩序の要である要素を潰していっている。艦娘騎士団、そして今度はこの南木鎮守府。もしこのままヤツを好きにさせていれば…何れは「世界滅亡」に繋がることも明白だ。奴らがそういった研究を続けていたと、君も理解しているだろう」

「……っ」

「もし何かが起こっても、私が彼女たちを守り抜いて見せる。だが…それでも足りないと思うなら、どうか恨むのは私だけにしてくれ。全ての責任は…こんな無茶な作戦しか立てられない私に在るのだからな」

 

 緊急事態だ、仕方のない状況だ。

 私は南木提督をそう説き伏せると、彼も黙って頷いてくれた。

 

「…分かった、だが貴女だけの責任には出来ない。俺も…彼女たちを送り出す覚悟を決めるよ」

「済まないな」

「ありがとうございます提督殿。…であればこのことは彼女たちには内密にすべきかと」

 

 ナベシマ教官の提案に私は頷く、ドラウニーアがこの海域に居る以上何が起こるか分からんからな。シルシウム島への偵察だと誤魔化し、後は逐次君たちで判断してほしい──そう私が改めて伝えると、南木提督は了承してくれた。

 

「了解した。それと…皆を頼む」

「あぁ…任された」

 

 斯くして、シルシウム島への偵察任務を装った「ドラウニーア捕縛作戦」が開始された。

 

 

 

 

・・・・・

 

 だが…結果は君たちも知ってのとおりだ。

 ドラウニーアは我々の更に裏を掻いていた、南木提督が予想した以上の深海棲艦の大群、私がそれらの対処に時間を割いている間に…翔鶴の妹が、犠牲になってしまった。

 南木鎮守府にも被害が及んだ、どうやら「内側」から攻撃を仕掛けられたようだ。誰の仕業か分からなかったがおそらく「ドラウニーア、もしくは研究員」が何かしたのだろうとは分かった。

 

 …分かっていたのだ、何もかも。

 

 罠だということも、敵の術中に嵌っていることも。だが…私はそれを理解しておきながら、連合のため世界のためと…君たちを危険な目に遭わせ、全てを喪う切っ掛けを作ってしまった。

 

 もっと冷静に話し合えていれば、こんなことにはならなかった。私にも後悔があった…だからこそ、あの時の翔鶴の怒りも正しいものだと感じたし、私が何年も敵を押し止めようとも全て後の祭りであることに変わりはない。

 

 後悔も、贖罪も、許しを乞うことも…意味はない、理解している。それでも──

 

 

 

 ──済まなかった…!

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 長門さんは謝罪の言葉を述べた後、深々と頭を下げた。

 

「長門さん、貴女はあの鎮守府崩壊の夜に、南木鎮守府へ向かった後に由良と出会った…ということですね?」

 

 僕の補足を含めた疑問に、長門さんは頭を上げ肯定の意を込めて頷いた。

 

「あぁ、南木鎮守府にて深海化した由良と出会い、行動を共にしていた。彼女の有り様を見てドラウニーアの真の狙いを思い知った、してやられた…まさか由良を利用して鎮守府を中から崩壊させるとは」

 

 僕は彼女の顔が辛そうに歪むのを、黙って見ていることしか出来なかった。彼女は顔を引き締め直すと、話を続ける。

 

「ヤツは南木鎮守府を崩壊させた後、鎮守府屋上に何かを造り上げていた。君たちの話から察するにそれがゼロ号砲とやらなのだろう。私も何度かヤツの姿を見かけたが、捕えようとする度にヒュドラと深海棲艦に阻まれてしまった。私と由良だけでは多勢に無勢で、今までヤツに近づくことさえ敵わなかった。だが…そんなことで屈しはしない、私と由良はそう誓い合って、深海棲艦とヒュドラを外に出さないよう見張りながらヤツに一矢報いるチャンスを窺っていた」

「そうでしたか…今まで翔鶴たちとの約束を守るため、戦われていたんですね。下手な言葉ですみませんが…お疲れさまでした」

 

 僕は長門さんの何年にも渡る健闘を讃えると、長門さんは大したことはしていないと謙遜…いや、()()()()()()()()と言った。

 

「我々の行動によって君たちの間に亀裂が入ったのは事実、翔鶴に至っては妹までも沈められた…本当に、特攻で沈めたれば良かったのだがな…私には、敵に沈められることも黒霧で意識を失うことも、許されていなかったようだ」

「長門さん…」

 

 彼女は感情の起伏のない、常に冷静沈着な性格であることは見れば分かる。だが…それでも後悔だけは、彼女の内でもどうにも処理出来なかったみたいだ。

 本当はあの時「シぬつもり」だったんだ、でも…改二である長門さんは黒霧の中でも性能が落ちることはなく、更にヒュドラを前にしても彼女の装甲が破られることはなかった。だからせめて何年もの間戦い続けた。僕たちのような…ドラウニーアの計画を打ち破れるような存在が現れるまで。

 それが事の顛末か、成る程…長門さんの証言のおかげで、大体の流れが見えてきたぞ。

 

「長門さんと南木提督がドラウニーアを追っていて、その中でアイツがこの海域に潜んでいて、いつの間にか罠にかかっていたことを知らされた。長門さんたちはそれを焦って何とかしようとして…」

「まんまとアイツの思う壺に嵌った…と?」

 

 翔鶴は腕を組んで長門さんを睨んでいた、長門さんはそれを受け止め重く頷く。それを見かねたナベシマさんは仲裁に入る。

 

「長門殿を責めないで上げてくれ、あの時の我々はいつ攻め入られてもおかしくなかった。加えて連合もドラウニーアを何としても追い詰めようと必死だったのだ」

 

 ナベシマさんの尤もな意見に、待ったをかける長門さん。

 

「ナベシマ指揮官、あの時も言いましたが全ての責任は私に有ります。言い逃れはしません…君の全てを奪ったのは、私だ。本当に済まない、私は…」

 

 長門さんが懺悔の言葉を述べていると、翔鶴はずかずかと長門さんの前まで入り込むと──

 

 

 ──パシッ!

 

 

「…っ!?」

 

 長門さんの頬を、例の如く思い切り引っ叩いて見せた。

 いや、由良の時とは訳が違うからねこれ?! こればっかりは仕方ないとは思うし、仮にも選ばれし艦娘なのに…そう思い僕と、隣に居るサラさんは青ざめた表情でこれからどう展開するのかとひやひやしながら見ていた。

 

「…これで終わりにしましょう? 私の復讐も、貴女の迷いも…何もかも」

「っ! …良いのか?」

 

 おぉ、成長した彼女は一味違った。彼女の赦しに長門さんは驚きを隠せない表情だけど、翔鶴はスッキリしたといった笑顔で言ってのけた。

 

「もちろん。私も同じ立場ならどうしようかって迷っていただろうし、決断を迫られていた状況で即断即決出来たのは、誰に真似出来ることではないと思うわ」

「翔鶴…」

「私ね、自分のことしか考えてこなかった。皆の気持ちを一つずつ理解していく内に、自分が如何に短絡的だったのかって解ったの。だから…私の方こそごめんなさい、貴女の気持ちを考えずに…酷い罵倒を浴びせてしまった」

 

 翔鶴の謝罪を受けて、長門さんは…涙こそ流さないが「とても安堵した」表情を浮かべていた。

 

「…ありがとう、翔鶴。本当に…受け入れられるとは思ってもみなかった」

「そう? 私の馬鹿な言葉をきちんと受け入れて、言った通り私たちが来るまであの化け物たちを塞き止めてくれた。貴女は凄いわ…何も言い返せないくらいね?」

「そうか…何よりだ、本当に」

 

 二人の間に流れる清々しい雰囲気、全てが終わった眩しい日の光を浴びたような空気に、その場にいた僕たちは安心して溜息を吐いた。

 

「はぁ…良かったよ本当に」

「心配かけてごめんね皆、後は…」

 

 翔鶴はそう言うと、サラトガさんに目を向けた。

 そうか、目に見える翔鶴の関係者で気持ちをぶつけていないのは、サラトガさんだけだ。サラさんはまさか自分が指名されるとは思わなかった、そんな驚きの顔で翔鶴を見ていた。

 

「しょ、翔鶴。私は別に…」

「今更逃げないでよねシスター。私…貴女が嫌いだって言ったこと、今だって変わってないんだから」

「そんなぁ…;」

「翔鶴、これからどうするつもり?」

 

 僕の問いかけに翔鶴は、目を瞑って両腕を胸の前で組む。暫く考え込んだ後…ハッとした表情となり、同時に握った左拳を右手の平に打ち付けた。

 

「タクト、皆を集めてくれる? 金剛たちと…あと、酒匂たちも」

「わ、分かった!」

 

 そう言い残して僕はその場を後にして、金剛たちを呼びに行った。

 

 その間に翔鶴とサラさんは…無言で見つめ合っていたそうだ;

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。