艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
──デイジー島、海岸沿いの海面上にて。
僕らは翔鶴の提案により、僕の指揮する「タクト艦隊(めっちゃ恥ずかしいネーミング)」とサラトガさん率いる「クロスロード艦隊(仮)」との"演習"を執り行うことになった。
というのも、翔鶴は僕に艦娘たちを呼んできてほしいと頼んだ後、全員の居る前で「艦娘同士が仲良くなるには、どうすれば良いか?」と問いかけて来た。色々意見は出たけど結局最初に翔鶴の言い出した「演習」になった、戦いで自分たちの気持ちをぶつけた方が早いと考えたようだ。
本当はそんな余裕はないかもだけど、カイトさんに相談すると「連合本部からもそっちの動向はある程度分かるから」と、演習の間のドラウニーアの見張りは任せて大丈夫らしい。
どうやらデイジー島到着時に設置されたレーダーがクロギリ海域全体の動きを察知して、情報は本部で共有されているらしい。鳥海さんたちも見張ってくれているみたいだし、安心かな。
さて、視点を演習に移そうか。僕は今浜辺から演習の行方を見守っていた、隣には他の艦娘たちやマユミちゃん、ユリウスさん、ナベシマさんも艦隊演習を眺めていた。
浜辺からすぐの海上で両陣営が睨み合う、僕らは金剛、天龍、望月、綾波、野分、翔鶴の六隻。対してクロスロード艦隊はサラトガさん、酒匂、プリンツの三隻だ。
「ごめんなさいね天龍、綾波に野分も。まだ本調子じゃないのは分かってるけど、ここまで来たらシスターたちに今の私を見せたくって」
翔鶴はそういって三人を心配そうに見つめるも、それぞれ力強く丈夫さを言い表した。
「問題ない、この程度の怪我で休んでばかりでは傭兵の名折れだ。それにお前のためでもあるのだろう、良いリハビリと思うさ」
「私も一晩寝かせて頂きましたので、体調は万全です。能力は使えませんが我が身で盾になることは出来ます」
「ボクもマドモアゼル・ショーカクのためなら、どのような壁だろうと華麗に乗り越えてみせます!」
「ウフフ、野分は相変わらずね? 安心したわ、ありがとう」
翔鶴はそう言うと三人に感謝を伝えた。しかしそんな中望月は野分に対し苦言を呈した。
「天龍はほぼ傷が治りかけてるから何も言わんが、アタシとしちゃ野分は本当は絶対安静なんだがな?」
「申し訳ありませんマドモアゼル、しかし翔鶴さんはどうしてもこの六隻で演習をしたいと言っております。ここで応えなければ仲間として彼女の隣に居ることは、恥が重なり出来なくなるでしょう。ボクは大丈夫です! 絶対に無理はしません」
野分は自身の額に生えた角を指して、そう自分なりのポリシーを説いた。望月は溜め息を吐きながらも、それを承諾する。
「ったく、まぁ良いけどな。アタシも翔鶴に頼まれたからねぇ、今更さ? ただ気をつけているか確認したくてな、悪ぃ」
「いえ、これも貴女なりの優しさだとボクも信じることにしました。コマンダンのように!」
「ウフッ、確かにタクトなら言いそうね? 私も改めて謝るわ望月、私の我儘に野分を付き合わせてしまって」
「まっ、お互いに気を掛けておきゃ心配ないんじゃね? ヒヒッ」
皆の話が落ち着き始めたが、次に金剛から当たり前の配慮が上がる。
「あのさ、今更だけど6対3って…大丈夫なの?」
「っあ、そういえばそこまで考えてなかったわ」
まぁ確かに数の暴力は良くないよね? 翔鶴たちはどうするべきか迷っているとき──海面に足を着ける影が。
「──そういうことなら、私がサラたちに加勢させてもらう」
「っ!? 長門さん…!」
サラトガ隊に選ばれし艦娘の一隻たる長門さんが加わった、これは「真・クロスロード艦隊」と名付けよう。長門さんなら人数分のハンデを補って余りある、ナイスだね!
「ありがとうございます長門、久しぶりにバディ再結成ですね♪」
「ぴゃ、長門ちゃんが一緒に戦ってくれるなんて、心強い〜!」
「わわっ、すごい。シスターの知り合いが選ばれし艦娘だったなんて!」
「フッ、君たちのことは私が守る。安心してくれ」
良いねぇ面白くなって来た、彼女の参加は浜辺で応援する皆も大興奮、声援も熱を帯びていた。
「おぉ、マジか! 久々に長門の戦いが見れるのか!!」
「あの人の耐久力は尋常じゃないから、それをどう崩すかが問題だね!」
加古と長良が長門さんの戦いに胸を熱くしている。その横で舞風や不知火たちがタクト艦隊(恥)へエールを送る。
「皆さん、我らがタクト艦隊の健闘を願ってSupportしましょう! 声を大きく、せぇの! Hip hip hooray!!」
「フレー…フレー…」
「頑張れー! ノワツスキー!!」
「綾波、艦娘騎士の底力を見せつけてやれ!!」
ウォースパイトさんの号令で外野から艦隊へ応援の声が届く、え? 二番目のセリフ早霜なの!? それ逆に呪い送ってない?!
「皆頑張れー!」
「エリちゃん負けるなー! 負けたらタクトが泣いちゃうよー!!」
「な、泣かないし! マユミちゃん適当なこと言わないでよ…;」
「フッ、さて…選ばれし艦娘同士の金剛と長門の対決…金剛はニセモノかもしれないが、興味深い戦いだな?」
僕らも精一杯の声を張り上げて金剛たちを応援し、ユリウスさんは戦いの行方を楽しそうに見ていた。
浜辺から外野の声が響く中、望月は周りの仲間たちを見回して呟いた。
「それにしても…こうして全員一緒に戦うのは久しぶりだねぇ?」
「あぁ、加賀との演習を思い出すな?」
「我々も…随分様変わりしましたね?」
望月、天龍、綾波の思いを馳せる言葉に全員頷くと、野分、翔鶴、金剛の順で続いた。
「ウィ。しかしこれがボクたちの真の姿、より絆が深まった形…ではないでしょうか?」
「真の姿、ねぇ。金剛もすっかり人が変わっちゃったし、そうかもしれないわね?」
「ヘェーイ! そんなことはノープロブレム、ワタシはいつだって金剛デース!!」
金剛から久々のデース口調が出たけど、周りの仲間たちは…うん、もう良いんじゃない無理しなくても? という白け顔だ。皆の総意に金剛は…「素」を出して困惑する。
「うぅ…だって今更私のままって言われても…デースの方が良いでしょ?」
「ヒヒッ、それこそ今更だろ?」
望月の言葉に、金剛以外の皆は力強く頷いて肯定した。
「ほら、私たちのリーダーは貴女なんだから。しっかりしなさいよ!」
「わ、分かったよ!? …うん、ありがとう皆!」
翔鶴の叱咤に驚きつつも、金剛は皆に感謝を伝える。
「…翔鶴、本当に良い仲間に出会えたみたいですね。良かった…本当に…」
サラトガさんはそんな翔鶴たちを見て大いに喜んでいたが、どこか寂しそうに見つめているようにも見えた。金剛もそう思ったのか翔鶴に向かって指示を出した。
「翔鶴、リーダーとして命令します。演習の宣戦布告としてサラさんたちに何か言って来なさい!」
「えっ!? 急すぎるわよ!!」
「良いからいいから~ほら、行ってみヨー!」
「ヒッ、そいつぁ良いな。テメェのキレイ顔に風穴開けてやるぐらい言ってやんな!」
「フフッ、それはそれで向こうも驚くだろうがな?」
「翔鶴さん、お願いしますね?」
「美しい決意表明をお願いします、マドモアゼルショーカク!」
「えぇ…もうっ、分かったわよ!」
皆に背中を押されて翔鶴は前に進み出ると、サラさんたちと金剛たちとの丁度間ぐらいの位置で止まる。
目を瞑り、深呼吸して気持ちを整える。どう言い表そうか考えてるんだと思う、そして──ゆっくりと目を開くと、声を高らかにサラさんに向けて自分の意思を示した。
「──シスター! 私は貴女が嫌いよ!!」
「…っ」
「誰にも愛想を振り撒いて、皆に好かれようとする姿勢が嫌い。そんな貴女の意見に提督が耳を傾けていたのが、どうしても許せなかった。だって私も提督に愛されたかった、だから…貴女が羨ましかった。貴女のような皆に好かれるヒトになりたかった! でも、やっぱり私は無理。私はわたしらしくならないといけないって気づいたの! それで良いって言ってくれる仲間が出来たの!!」
「翔鶴…」
「だから、私は貴女と戦いたい。今の私を貴女に見せつけて、過去に踏ん切りをつけたい! 私からの挑戦状…受け取ってくれる?」
翔鶴の自信に満ち溢れた凛とした表情に、サラトガさんも不安な顔から徐々に「決意を固めた表情」へ変わっていく。
「はい、お受けします。貴女が妬んだ私がアナタの壁になります、見事私を「越えて」、貴女が未来を掴む姿を見せて下さい!」
サラトガさんの啖呵に、翔鶴は「上等よ」と顔に書いて不敵に笑って見せた。
「皆宜しいかな? ではこれより翔鶴隊とサラトガ隊の演習を執り行う。審判は翔鶴君に頼まれた私、ナベシマが務めさせて頂く。では…両陣営、合戦用意!!」
ナベシマさんの号令に、二部隊は即座に行動し陣形を整えた。
サラさんたちは先頭から酒匂、プリンツ、長門さん、サラトガさんと列を組んだ。単縦陣だね、数が少ないから最初から全力で行くみたいだね? 金剛たちは──
「…? 何だ、それは」
長門さんは金剛たちの並びを見て疑問を呟いた。それもそのはず彼女たちの並びは決まった陣形を整えているものではないからだ。
戦闘に野分と綾波、かなり距離が離れている。その後ろに天龍が三人で「トライアングル」のなるように間に位置取る。
更に後ろに望月、一番奥に翔鶴と金剛が並び立つ。これはきっと…皆で最初に戦った、加賀さんとの演習の時の…!
「この位置が私たちにとっては「戦いやすい」のよ!」
「イエス! これが私たちの…ベストな陣形デース!!」
奥の方で金剛と翔鶴たちが叫ぶ。翔鶴たちは別に勝つために演習をしているわけではない、サラトガさんに今の自分たちを見せつけるために戦うことを選んだのだ。なら必要なのは…「原点」を思い返すことなんだ!
「…一体どんな手を使ってくるのか、皆警戒を怠らないで下さい!」
「ぴゃー!」
「分かったよ!」
「面白い…こちらも遠慮はしない!」
サラトガさんたちも士気十分の様子だ、なら…後は「合戦の合図」を出すだけ。
「ではこれより演習を始める、用意──始めぇっ!!」
ナベシマさんは力強く戦いのゴングを叫んだ。サラトガさんたちは合図と同時に金剛たちとの距離を取り、周囲を回り始める。だが最初に仕掛けたのは──
「バーニングゥ! シュウウウウトッ!!」
──ズドオォオン!!
金剛だった! 金剛たちも合図と同時に動き始めていた、しかしそこに艦隊行動の四文字はなく各々の好きに動いていた。
金剛の砲撃によって発生した水の柱によってサラさんたちが見えなくなった瞬間、天龍と野分、そして望月のゴーレム「ベベ」が一斉に動き出した…!
「ゴゴアァーーーッ!!」
べべは水の壁に映し出された一つの影に向かって、鉄拳を振り下ろした…しかし!
「──ぬんっ!」
水壁から飛び出した大きな腕が、べべの一撃を受け止め、ベベの腕をがっちり掴んで離さなかった。
「ゴアァッ!!?」
「侮るなっ!!」
長門さんだ、長門さんの艤装の砲塔から放たれる「ゼロ距離砲撃」が、べべにクリーンヒットし…べべは粉々に砕け散った!?
「──と思うじゃん? 戻ってこいベベ! ウェポンシフト「k-bo」だ!!」
望月の声に反応し、べべだった砕け散った欠片たちは一人でに動き出すと空中で形を変えながら…望月の手に収まる。その手には「弓」が握られていた。
「行くぜ?」
「了解よ! …空母機動部隊、翔鶴、望月航空隊──」
「「──発艦、始め!!」」
望月、そして翔鶴の掛け声と共に弓から矢が放たれた。それは炎を纏い──艦載機隊となり、一緒に空へと舞い上がった。
「ならばこちらも…サラの娘たち、お願いします!」
サラさんも負けじと弓を構えて矢を解き放った、矢を光が覆うと──星のマークが入った艦載機隊へ変貌した。
翔鶴と望月、対してサラトガの航空隊は牽制し合うように空中を回り始めた。ドッグファイトってものかな? 次に攻撃を仕掛けたのはサラさんの方だった。
「先手必勝!」
機銃で先制攻撃しつつ、翔鶴望月航空隊の上空へ浮き上がる。そして──機体から何かを落とした!
──ゴオォッ!!
おぉっ、火炎魔導弾か! そういえばサラトガさんもエルフだった! 翔鶴望月航空隊の何体かに炎がかかってしまう…不味い、エンジンに引火して爆発する!?
「──ぬぅん!!」
天龍は上空へ跳び上がると、高速で身体を捻り空気の渦を作る。すると──炎が消えた! 艦載機隊も飛ばされることもなく編隊を組んで距離を取った、良かった…と言ってる暇もないか?
「流石ですね! でも甘いですよ…アタック!」
サラさんは今度は天龍の頭の上に飛んで、火炎魔導弾を投下した! 容赦ないな…しかし天龍も読んでいたようだ。
「はぁっ!」
天龍自慢の二刀流から繰り出される「気の斬撃」で火炎魔導弾を何もない空中で爆破させる、爆発の反動で天龍は無事着地するも…今度は酒匂たちから砲撃の雨が降る。
「撃てーーっ!」
「ぴゃー! ぴゃーーっ!!」
このままじゃ天龍が大破判定になる…しかし、天龍の前に綾波が立ち塞がり大斧で砲撃を一掃する。高速の一閃に薙ぎ払われた砲弾は、巻き起こった暴風に爆発四散し爆炎を上げた。
「済まない、綾波」
「ご無事で何よりです、天龍さん」
「す、すごーい…!」
綾波が天龍を庇っているのを見ている酒匂とプリンツ、彼女たちは…自分たちに近づく「影」に気づかなかった!
「…っ! ユージン、酒匂! 敵が来てますよ!!」
「はっ! しまったっ!?」
「ぴゃあ、酒匂だってやっちゃうよ! かかってこーい!!」
酒匂は勇み足で前に躍り出ると、近づいてくる影に向かって駆ける。その影は──野分だ!
「ブラーヴァ、お見事ですマドモアゼルアヤナミ。ならばボクも輝いて見せる…! どちらの信念が輝くか…勝負!」
「ぴゃっ!」
酒匂は懐から…えっ!? 手甲に着ける「鉤爪」を両手に装着した! イメージが湧かないなぁ…確かにワービースト? なのかもしれないけどさ。
「行っくよー!!」
酒匂は艤装の砲塔から砲撃を繰り出す、野分の動きを制限すると…勢いをつけて跳び上がった! 爪で艤装にダメージを与えるつもりだ、だとしたらこの攻撃を躱さないと…!
「ぴゃーーっ!」
「──なんの!」
野分は自分の「気」を得物の細剣に込めると、酒匂の鉤爪の攻撃を右回転…周り踊るように躱して懐に入ると、酒匂の艤装に「突き刺した」。艤装は煙を上げ、野分が剣を引き抜くと同時に爆発した。
酒匂の艤装は爆発したけど、小規模といった具合で酒匂に影響はないようだ。でも…これで酒匂は中破判定の筈だ!
「ぴゃっ!?」
「酒匂!? …このぉ!」
次はプリンツが野分に迫る、野分もまたプリンツに狙いを定めると、剣を顔の前に構えて、払い、一歩踏み出すと…”跳んだ!”
──しかし、ここで予想外の事態が…!
「──…っ!?」
「っえ!!?」
プリンツの目の前には、かなり距離が離れていたはずの「野分」の姿が。一歩分の跳躍力じゃない…まるで「ワープ」したみたいだ!?
どういうことだ…外野でもざわざわと動揺が隠せない感じだけど、僕たちの隣の白衣の人物は、状況を冷静に分析する。
「野分君に深海化した兆候が出ているようだな、野分君の場合今まで体の変化もごく一部だったので影響も最小限だったが…黒霧の影響で深海細胞も活性化し、身体能力にも影響が出るほどになったようだ」
「そんな…野分は大丈夫なんですか?」
「いや、影響とは言ったがあの程度なら問題ないだろう。爆弾を抱えていることに変わりないが、本人が細心の注意を払いさえすれば、戦いでは深海棲艦の能力は寧ろ「プラス」になる。言い方は悪いが考え方次第だな?」
ユリウスさんの言葉にも一理ある、僕も深海棲艦の存在理由を語った以上無闇に否定出来ないし…でも、大丈夫かな?
「…なるほど、ならば──この呪いすら鮮やかに彩って見せよう!」
野分は何が起こったのか瞬時に理解した様子で、空中でくるりと回るとその勢いのまま、すれ違いざまに払い斬撃を繰り出す。プリンツの艤装右の砲塔を「切り落とした」…小破だ!
「ぬぬぅ…まだまだ!」
プリンツも負けじと振り返りながら砲撃で反撃する、流石の野分も反応出来ず、着水した瞬間にプリンツの砲撃をもろに受けてしまう…あぁ、大破だ…っ!
「っく、は…!?」
「野分君、大破判定とする! これ以上は無用だ、岸へ上がりなさい!」
ナベシマさんの言葉に衣服がボロボロになった野分は、そのままゆっくりと岸へ戻ろうとする…彼女は金剛たちを一瞥すると、健闘を祈って叫んだ。
「すみません皆さん、後はお願いします!」
「オッケーイ! 任せてネー!」
「ええ、ありがとう野分!」
「早いこと退場で、寧ろ助かったぜ。…ゆっくり休んどきな!」
金剛、翔鶴、望月の三人が彼女に応える、良かった…本人も吹っ切れたみたいだ。
さて…ここからどうなるのか…と言いたいとこだけど、長くなっちゃいそうだから、終盤まで飛ばそうか?
・・・・・
──数十分後。
結論だけ言うと、最後に残ったのは金剛と翔鶴、サラトガさんに長門さんだった。
天龍と綾波で酒匂とプリンツを撃破した…までは良かったんだけど、流石選ばれし艦娘の長門さん。天龍の斬撃も綾波の一撃も、全て──身体に鉱石を纏った絶対防御で──受け切って砲撃のカウンターで倒している。
望月もサラトガさんの魔導航空隊に自身の航空隊がハチの巣にされ、氷結魔導弾で身動きを取れなくされて、長門さんの砲撃を受けて大破になっている。…うーん強い、流石ビッグセブンの一隻。
「はぁ…しんどかったぜぇ」
「お疲れ望月、最後までご苦労さま!」
「おぅ大将、あんがとよ。…ふぃー、これで戦いも終盤かねぇ?」
僕の隣に望月、天龍、綾波、野分の四人がそれぞれ並んでいる、望月の言葉に皆して頷いた。
「長門さん強すぎるよぉ~、最強は金剛なんじゃないのぉタクトぉ!」
「マユミちゃん…無茶言わないでよ、最強なのは前の金剛であってウチの金剛は…;」
「そうだぜぇ、そう簡単に選ばれし艦娘名乗れると思ったら、大間違いだぜ!」
「私らが威張ることじゃないと思うよ、加古…まぁ嬉しいのは分かるけどね!」
マユミちゃんは長門さんの強さに焦り、加古と長良は同じ選ばれし艦娘としてどこか誇らしげだ。
そんな外野から飛び交う言葉は知らず、遂に護衛艦の壁が剥がれた両陣営は…空母を後方に、戦艦を前にして一触即発の雰囲気を形作った。
睨み合う戦艦長門、そして戦艦金剛。その後ろに居る翔鶴とサラトガさんは、それぞれを見つめていた。
「…勝負よ、シスター!」
「えぇ、来てください翔鶴!」
お互いに戦意を確かめると、同時に弓と矢を構えて臨戦態勢。それを合図に長門さんと金剛も前に駆け出し両腕を突き出す、互いの指を組むと力比べの体勢になる。ここまで来たら…艦隊運動とか細かいことは言いっこなし、だよね!
「く…っ!」
金剛は長門さんの腕力に押されそうになり背中が仰け反り始める。それを見た長門さんは冷静に言葉を紡いだ。
「…ふむ、カイトの言ったとおり君はあの金剛とは違うようだ」
「当たり前、でしょ? 前の金剛に比べたら…私なんて、なんてことないでしょ?」
「そうだな、彼女ならこの程度の力合わせは「片腕を捻る」だけで勝負がつくからな」
「でしょうね、っていうか…ホント、力強いね? なら私は…「頭」を使うわ!」
金剛は反った背中をわざと後ろに倒すと、その勢いのまま前に頭を突き出し「頭突き」を繰り出した。しかし──
──ゴンッ!
「…っ!?!! いったーーーーぁっ!!!?」
あまりの痛さだったか、両手を離して距離を取ると額を抑え始めた金剛。頭突きをした金剛の額には「赤く腫れあがった痕」が出来ていた。痛そう(小並感)。
「済まんな、その程度では痛みは起こらん。どうやら私の能力に合わせて頭も硬いようだ」
「石頭なんだね、っていやそういう問題じゃないデショ絶対!? ぁあもう、負けないよ!」
「待て」
長門さんは金剛に待ったを掛けているようだ、彼女が制止した直後に二人の頭上を「艦載機群」が横切った。
「これから先の決着は彼女たちのものだ、我らは行く末を見守ることに徹しようじゃないか」
「おぉ…良いの?」
「これは演習だ、君の実力は見せてもらった故私に君と戦う理由はもう無い。そして…彼女たちの邪魔立てはするべきではない。そうだろう?」
長門さんが硬い表情を解くと、金剛も緩んだ笑顔で頷いて何かを承諾している。どうやら翔鶴だけで戦わせるようだ。
それを察知したのか、翔鶴とサラトガさんは一対一の構図で互いを睨み合いながら、いつでも「大二次隊発艦」出来るように弓を引いて海面を滑っていた。
先手を打ったのは翔鶴だった、彼女は発艦済みの魔導航空隊へ突撃を命じると、サラさんの頭上に「氷結魔導弾」を落とした。
「きゃ!? 動けない…やりましたね!」
続いてサラさんは翔鶴に「火炎魔導弾」を落とした。爆発した途端水面に火柱が乱立する、翔鶴は火炎に身体が触れてしまい、衣服の一部分が焼け焦げてしまう。
「何するのよ!!」
翔鶴は負けじと第二次魔導航空隊を発艦、今度は…「電気魔導弾」だ! 強烈な電撃がサラトガさんを襲う、電撃の威力にサラさんの衣服も少し焦げた様子だ。
「きゃあっ! 最低です!!」
サラトガさんも第二次航空隊から「電気魔導弾」を落として、翔鶴に電気ショックをお見舞いしている。…うーん、途中から「キャッツファイト」になってない?
「ひゃあっ!? …また最低って言ったわね! 私がそれにどれだけ傷ついたと思っているのよ!!」
「そ、それは…貴女が暴走して酷いこと言ってたから、正当防衛です!!」
「正当防衛って言えば何もかも許されると思っているの?! この頭お花畑!!」
「何ですって!!? 貴女こそ暴言オンナじゃないですか!!」
「言ったわね? もう容赦しないわよ!」
「そっちこそ、覚悟してください!!」
罵倒雑言を浴びせ合う双方から、飛び交う航空隊とそれが落とす魔導爆弾の雨、それらが巻き起こす火災旋風、霜焼け、落雷の地獄絵図が描かれた。お、女ってコエー……っ;
「ホントに、止めなくてイイの…?」
「うむ、あのぐらいやってもらった方が二人の「恨み紛いの気持ち」も晴れるであろう」
「そ、そうかなぁ…?」
長門さんと金剛が見守る中、翔鶴とサラトガさんの一騎打ちは彼女たちの長い間掘り返されたままだった「溝」を、少しづつ、すこしづつ土を盛るように埋めていった。
──やがて、天変地異のような騒音が静まり返る。
二人は衣服もボロボロ、息も上がって肩を動かして身体に空気を取り込んでいた。
「ハァ…ハァ…ッ!」
「…翔鶴」
サラトガさんは翔鶴の前まで、ゆっくりとしたスピードで近づくと…彼女の前で微笑んで見せた。
「素晴らしいファイトでした。強くなりましね?」
サラトガさんの翔鶴を褒め称える言葉に、翔鶴は驚いた様子を見せたが…フッと体の力を緩めると、サラさんに微笑みを返した。
「全く…負けたわよ貴女には。ここまでお人好しだったなんて?」
「あら、私は真面目だった貴女がこんなヒトだったとは、思いもしませんでしたよ?」
「でしょうね。…呆れたでしょう? 私は提督に好かれたい一シンで猫を被っていたの、本当の私は…提督どころか、貴女や皆にも顔向け出来ないくらい醜いオンナだったのよ」
「それは違います!」
翔鶴の自虐を含んだ言葉を遮り、サラさんは遂に自分の本音を翔鶴に語った。
「私だって、貴女が思っているような「善ニン」ではないんです。皆に好かれたいとも考えてましたし、そのために普段から周りを気に掛けるようにして…でも、私もそこまで淑女ではありません。瑞鶴や由良の存在もあって、私は貴女と本当の意味で解り合うことをしてきませんでした。現状を良しとして周りに甘えていたんです。それが…あの夜起こった惨劇に繋がったと思うんです。だから…悪いのは──」
「──シスター」
今度は翔鶴がサラさんの言葉を遮ると──両手を彼女の頬に当てて、彼女の顔を真っ直ぐ見つめる。
「それこそ違うわ、貴女は正しかったの。本当に悪いのは──私よ。貴女の行動をココロから信頼出来なかった私が…私の「ココロの弱さ」が全てにおいて間違いだった! 提督にも、瑞鶴にも、貴女にだって…否定されたくなかった。本当の私を見て…受け入れてくれる自信がなかったの、だから…っ!」
言葉を紡ぐ途中で、翔鶴は目に涙を浮かべ始めていた。そんな翔鶴を見たサラさんは…翔鶴の目に浮き出た涙の粒を、自分の指で掬い上げる。
「馬鹿ですね…仲間がどんな性格だからって、受け入れないワケないじゃないですか。でも…私もあんな状況で、突然怒りに呑まれた貴女に、何と返せばいいのか分からなくなって…あの時、貴女のココロに酷い傷をつけてしまった…っ。あの悪夢は…今でも私のトラウマなんです…っ!」
サラトガさんはそれだけ言うと、翔鶴の身体を「抱き締めて」贖罪の涙を流し始める。翔鶴もまた…サラさんを抱き締め返して同じく悲しみを込めた涙を零した。
「ごめんなさい…ごめんなさいシスター」
「私も…ごめん、なさい。ずっと貴女に…謝りたかった…っ!」
あの夜に起きた翔鶴にとって最大の傷跡…彼女のココロの痛みは、涙と共に癒されていく。
僕たちはそれを見て…彼女が「淵」から救い出されるこの瞬間を、心から祝福した。
「良かった。でも…何だかあっさり解決しちゃったなぁ」
僕がそう零していると、隣のユリウスさんが付け加えてくれた。
「元々は簡単に終わりに出来る事柄だったのだろう、だが…あの惨劇の恐怖が、彼女たちを過去と向き合うことから遠ざけた。だから…ああして抱き合って許し合えるようになれたのは、君のおかげではないかな…タクト君?」
「うんうん、絶対そうだよ! だって…今の翔鶴ちゃん初めて会った時よりスッキリしてるもの、タクトが頑張らなかったら、こうはなってないよ!」
マユミちゃんも僕が翔鶴を支えたからこそ、導き出せた結果だと喜んでくれた。でも…少し違うと思うな、僕としては。
「僕は切っ掛けを作っただけ、それを活かして成長したのは…翔鶴自身が頑張ったからだよ」
僕はそう思う…その言葉に二人は深い頷きを返して同意すると、海上で涙に濡れる二人を見つめるのだった…。
・・・・・
──しかし、僕らはまだ知らなかった。
翔鶴の過去の物語はまだ「