艦これすとーりーず ―僕が異世界版艦これの提督になった件について― 作:謎のks
クロギリ編も漸く終わりが見えて来たかな?
──デイジー島、作戦会議詰所(テント)
僕たちはテントの中央の机に拡げられた海域の海図を、机の周りを囲んでそれを見ていた。これから「ドラウニーア」をどうするのかを決める会議が開かれる。
テントの中には僕と、長門さん、ユリウスさん、ナベシマさん、そして…僕の映写型通信機から映し出された「カイトさん」が居た。
『ではこれより、クロギリ海域の現状を整理した後、ドラウニーアの動向を踏まえた作戦会議を開きます。では…長門、早速概要を説明してくれ』
カイトさんの指示に頷くと、長門さんは説明を始める。
「改めて情報を整理しよう。ドラウニーアは現在シルシウム島へ逃げ延びている、島の周りには深海棲艦が見張りをしているため、忍んでヤツに近づくのは不可能だ。だが現状ヤツが行動を起こす素振りは見せていない、シルシウム島に立て籠もっているようだ。鳥海たちが動向を見張っているがそれらしい情報は出ていない」
「…諦めたのかな?」
僕の呟きに、ユリウスさんが反応して回答する。
「いや、ヤツは誰よりも諦めが悪い。ドラウニーアはゼロ号砲と穢れ玉を利用して艦娘を完全機能停止させようとしたが、計算では穢れ玉の一つが完全に砕かれた以上、世界中の艦娘を機能停止に陥れるほどの力はもう発揮出来ない…しかし、穢れは我々人間にとっても毒であることに変わりはない。ヤツが錯乱して出鱈目にそれらの害悪エネルギーを射出しようものなら…それだけで各海域に甚大な被害が及ぶだろう」
「恐ろしい話ですな…」
ユリウスさんの話に、ナベシマさんは慄いていた。確かに南木鎮守府の惨状を見たら…世界中があんな風になるかもしれないと考えると、背筋の冷える話だ。
長門さんはそれに頷いた後に話を続ける。
「シルシウム島とその他三島には、穢れ玉のエネルギーを抽出する機械設備が建てられている。それらは南木鎮守府を包囲するように配置され、中心である南木鎮守府の屋上に「ゼロ号砲」が建てられている。このゼロ号砲に設置された「巨大零鉱石」は、マナの穢れそのものを生み出す恐るべき特質がある、ドラウニーアはそれに穢れ玉に溜められたマナの穢れエネルギーを浴びせることにより、特性をより凶悪にしようと画策したようだな」
「黒い霧は人間の内の生命を根こそぎ奪い周辺の環境にも影響を与える、それは巨大零鉱石及びドラウが実験的に作成した複数の零鉱石から発生していると見て良いだろう。先ほども言ったが穢れ玉の一つが喪失した以上最悪のケースは免れたが、何にしてもこれらをそのままにするのは見過ごせないな」
ユリウスさんの補足に、僕らはそれぞれのリアクションで反応する。
溜め息、頭を掻く、顎を撫でる。そうしてこの事件の元凶をどうすべきか意見を考えていると──カイトさんが口を開いた。
『ドラウニーアが次に何を考えているにしろ、南木鎮守府にゼロ号砲と巨大零鉱石がある以上、僕はそれらの「破壊」を優先すべきだと思うね? 仮にそんな危険な代物を置いてヤツに王手を掛ければ…』
「アイツが何らかの方法で僕らから逃れたとして、また南木鎮守府に戻ってゼロ号砲を撃たれる可能性がある…ですかね?」
僕の回答にカイトさんは「半分正解だ」と言って微笑んだ。
『完全な包囲が出来たとしても、遠距離からゼロ号砲を起動させられる可能性もある。要するに「不確定要素は早々に潰していく必要がある」…ということだね?』
「しかし、それだけに重点を置けば彼奴に逃げられてしまうかも知れませぬ。南木鎮守府攻略と同時にシルシウム島にも突入すべきでは?」
ナベシマさんの案に対し、僕らは頷いて肯定する。
「シルシウムを含めた他四島の機械設備…仮に「穢れ注力装置」と名付けるが、それの存在も気になるところだ。アレはゼロ号砲の比ではないにせよ、穢れの魔力が溜められている以上エネルギーが射出されれば、着弾地点及び周辺の被害も少なくはないだろう。穢れ玉は一つ破壊済みだから、どれか一つは穢れ玉が無いモノとなる。先ずは設置済みを優先的に無力化したいが…長門、その辺りはどうなっている?」
「うむ、シルシウム島は先ほど申したとおり近づけなんだが、他三島のうち一島内の装置には、穢れ玉らしきものが見当たらなかったと報告を受けた。状況から差し引いてもシルシウム島に穢れ玉があるのは間違いないだろう」
因みに三島の穢れ注力装置はステルスで見えなくなっていたとの話だけど、連合がデイジー島に設置したレーダーによって「穢れ玉の反応」も感知できるようになったとのこと。鳥海さんたちは改めて「ステルス無効ゴーグル」の目視で穢れ玉を確認出来た訳だね? …うん、TW機関もだけど、連合も大概オーバーテクノロジーだよね?
ユリウスさんと長門さんの会話を起点に、僕らは状況を整理しながらどうするべきか案を出し合っていく。
「要はドラウニーアが余計なことをする前に、ゼロ号砲や三島の穢れ注力装置を壊しておきたい…ということか? となるとその四箇所に艦隊を事前に配置したら頃合いを見て一斉に突入して、一気に破壊する流れになりますか?」
「いや、五箇所だな。デイジー島に敵が攻めて来ないとは限らない、拠点に沿岸警備隊は付けておきたい」
『四部隊を攻略地点へ配備し、一部隊を警備隊として守りを固める。向こうの動向も気になるところだが、それしかないだろうね?』
「ふむ、ならば艦娘たちをそれぞれ割り振らねばですな。現在この場に居る艦娘たちの総数から、計五箇所に派遣するとして…単純に「四人一組編成」になりますかな?」
『そうなるね、偵察に出向てくれている鳥海の隊はそのままで、第一次増援部隊に舞風を加えた「ウォースパイト隊」に、クロギリ海域を見張ってくれていたサラトガ隊、サラトガ隊は三人だから誰か一人入ることになるが、僕は「長門」に入ってもらいたいと思う』
「…っ!」
『長門、言いたいことは分かるが先ずは一回概要を説明し切りたい。…それとタクト君たちの主力部隊を「シルシウム島突入部隊」と「南木鎮守府突入部隊」に分けたい。シルシウム島部隊に「三人」と加古と長良を加える形だね?』
「僕たちでシルシウム島と南木鎮守府の両方を攻略する形ですね? …ん? 三人? それってシルシウム部隊を「五人編成」にしたいということですか?」
『駄目かな? シルシウム島はドラウニーアが居る以上警戒が厳重になっていると予想できる、港湾棲姫以外の姫級との戦闘も想定される。出来れば…天龍君と綾波君を入れて「現状最高戦力」としたいのだけど?』
カイトさんは涼しげな顔で無茶な要求をして来た。いや分かるけど…何かあるか分からないし南木鎮守府を三人で攻略は…ちょっと不安だなぁ。
僕が悩んでいると、ユリウスさんがそれに対する回答をする。それは比較的「シンプル」なものだった。
「では、南木鎮守府部隊に「タクト君」を戦力として加えるのはどうかな。これで南木鎮守府攻略隊は「四人」となる、どうだろうか?」
『うん、それが最適だね』
「(ちょっとっっ!?)」
何か話がすごいことに…つまりシルシウム島突入は天龍たち改二艦を含めた「現状最高戦力」に、南木鎮守府突入部隊は残りの仲間と…僕、になるの?
「宜しいのですか? タクト殿は人間なので戦力としては」
『そうはいかない。貴方も彼の南木鎮守府での活躍の報告は受けているはず、ならばナベシマさん…この非常時に彼だけ戦力外とするのは、タクト君にも失礼でしょう?』
「むぅ…;」
ナベシマさんが疑問(助け舟)を出してくれるも、それっぽいこと言われて反論が出来ないようだ。
はぁ…カイトさんがこう言い出すと聞かないからな、戦力も足りないのだろうし今までだって散々振り回されて来たし今更か。
「分かりました、それで構いません。それだと部隊分けは「天龍、綾波、金剛、加古、長良」と「僕、翔鶴、野分、望月」になりますか?」
『…いや、望月は天龍隊に加えよう。望月はドラウニーアの考えを寸前で見抜いたみたいだからね、彼女が居た方がアクシデントがあった時に良いだろう』
「それが賢明だな。…しかし、野分君を南木鎮守府に行かせていいものか? 彼女の容態は確かに安定しているが、他の娘に任せることは出来ないものか?」
ユリウスさんが野分のことを心配してくれてる。僕も気になっていたので改めて聞いてみる。
「ユリウスさん、野分の様子はどうですか? 確か望月と一緒に身体検査したと聞いて」
「あぁ、問題はないよ。彼女の体調及び精神は非常に安定している。深海細胞の体内侵食も止まっている、君の深海棲艦の知識を拝借すれば、彼女は自身の「個」を意識するようにしていると言っている、それが功を奏しているようだ」
「良かったぁ、では任務自体に支障はないんですね?」
「あぁ、だが何かあってからでは遅いと思うのだが…どうだカイト?」
『…ふぅ、残念だけどその相談は受けられないね。この二箇所は他と比べても攻略難航は予想に難くない。だったら今まで様々な海域を攻略して来たタクト君たちこそ信頼できる』
「だがな…」
ユリウスさんが言い淀んでいると、カイトさんはもう一つ理由を付け加えた。
『君たちの演習を僕も見せてもらったんだけど、ああゆう型に嵌らない出鱈目な動きで統率も取れている艦隊は君たちぐらいだ。危険も任務難易度もある以上他の娘には任せられないな…解ってもらえるかい?』
「はぁ…そこまで言うなら仕方あるまい。望月が何か言い出しそうだが、まぁ何とでも言ってみるさ』
カイトさんの意見に、ユリウスさんは少し不安げだけど了承しているようだ。まぁ灼光弾改で黒い霧を打ち消すって聞いたし…とはいえ僕も不安は拭えないけど、敵も強くなっている以上はね?
敵の構成としては変異したドラウニーア、レ級、それと港湾棲姫──金剛たちは「僕たちの救援中に交戦したけど、途中で逃げ出した」と言っていた──が居る。アイツのことだから他にも隠し玉が居てもおかしくはない。ここまで考えても届かないんだから…本当に、ある意味で恐ろしい敵だよ?
でも決めない訳にはいかない、僕たちは出し合った意見をまとめていく。その結果…こういう配分となった。
〇デイジー島哨戒
・鳥海隊(鳥海、吹雪、五月雨、漣)
○ シルシウム以外の二島攻略
・ウォースパイト隊(ウォースパイト、不知火、舞風、早霜)
・サラトガ隊(サラトガ、酒匂、プリンツ、長門)
○シルシウム島攻略
・天龍隊(天龍、綾波、望月、加古、長良)
○南木鎮守府攻略
・タクト隊(拓人、金剛、翔鶴、野分)
「これでよろしいでしょうか?」
僕の言葉に大方は異存なしと頷いてくれたけど、ここで漸く長門さんから待ったが掛かる。
「待て、私は前線に出なくとも良いのか? サラたちが心配なのは解るが私も天龍隊に加わるべきでは?」
その疑問は誰にでもあるだろうけど、それについては提案者であるカイトさんが答えてくれた。
『本来ならそうしたいのだが、アイツはどう動くのか全く解らない。故に何かあった時のために戦力はある程度均等にすべきだと思うよ。それに君も数年間の潜入任務を終えたばかりだ、君にその自覚はなくとも戦いの途中で身体の限界が来ることも有り得る。無理はさせられないよ』
「しかし…っ!」
カイトさんはこう言っているが、本心は長門さんを「喪いたくない」のだろう。前の会議の時に零した「叶うことなら助けたい」にはかなりの気持ちが入っていたからね、それに数年も戦い続けておいてまた最前線へ…だなんて流石の連合の立場からも言えないんだろう。
僕としては「まぁ、クロスロードだし?」って身も蓋もない考えはあるけど、僕はあくまで理性的に長門さんを諭してみた。
「長門さん…お気持ちは察しますが、やっぱり貴女にはサラさんたちを守ってあげてほしいんです。彼女たちに何かあれば…翔鶴も、他ならぬ貴女も悔いが残ると思われます。だから…僕を、天龍たちを信じてあげてほしいんです」
戦略だけじゃない、彼女たちのために護ってあげてほしい。僕がそう言い添えると長門さんも「やるべきこと」を理解した様子で頷いた。
「承知した、ならば…ドラウニーアのことは任せたぞ」
「はいっ!」
僕は長門さんに勢いよく返事した、それを聞いてカイトさんが話を纏めた。
『話はひと段落したかな? では部隊配備はこれで決めよう。作戦決行は明日、指定配置につき次第その場で待機。合図と同時に攻略部隊は全突入し目標を破壊する、それで良いかな?』
「うむ」
「問題ない、それで決めよう」
「いよいよですな…!」
「はい、この戦いで…今度こそ決着をつけましょう!」
僕らは何年にも及んだ世界を賭けた戦い、その最終決戦を感じ取り各々決意を固めた表情で頷く。
漸くか…僕が感慨に浸っていると、テントの中に誰かが入って来た……鳥海さんだ、凛とした表情の彼女はこの場に来た理由を話す。
「──お話の途中失礼します、急ぎ御耳に入れておきたい事態が起こりました」
「っ! もしかしてドラウニーアが?」
僕の疑問の言葉に、鳥海さんは首を横に振った。
「いえ、シルシウム島哨戒の途中で南木鎮守府より「通信」がありました」
『何だって!?』
鳥海さんの言葉に、僕らの間に激震が走った。
『南木鎮守府にはジャミング波が…いやそれ以前に、ドラウニーアが居なくなった以上今の鎮守府は「無人」のはずでは…!?』
「通信自体は特におかしい部分は無かったので、ジャミング波の影響は無くなったものと思われます。ドラウニーアもシルシウム島から出ては居ない様子でした」
『…一体何が起こっているんだ?』
「鳥海さん、通信で相手は何と?」
僕の質問に鳥海さんは、息を整えてはっきりした口調で語り出す。
「通信はモールス信号でした、幸い私は意味を理解出来たので訳(やく)は問題ないはずです。内容は──"ナギチンジュフニテマツ、カコノシンジツヲカタル"…です」
『…真実? まさか…?』
「それって…翔鶴の過去と何か関係が?」
何故今翔鶴なのか、翔鶴と関係あるのか? そう言われたら違うかもしれないけど…でも、僕の目の前にはまだ「IP」はまだ現れておらず彼女の好感度も上がっていなかった。その事実と照らし合わせて、ここに来ての「過去の真実」という言葉は、無関係とは思えなかった。
南木鎮守府崩壊事件には、ほぼ事実が解明しているとはいえまだ不明瞭な部分は確かにあった。それを知っている人物(?)が南木鎮守府に居るのだとしたら…!
それらを明らかにしない限り、翔鶴の改二改装は出来ない。僕は皆に一応どうにか出来ないか持ち掛けてみる。
「カイトさん、ユリウスさん。僕らが先行して南木鎮守府に潜入して、内部で何が起こっているのか確認するのは、可能でしょうか?」
『うぅん。罠だから止めておきなさい、じゃ納得しないよね? 過去というワードが出たのは、君がやろうとしている「翔鶴のカイニ」を向こうも知っていると見て良いだろう。だが…一か八かにはなりそうだねぇ、連合としては選ばれし艦娘クラスの戦力が手に入るなら、願ったりなんだけど?』
確かに、ここに来てドラウニーア以外の敵対勢力が居れば、ややこしい事態になりそうだ。行くべきかどうか…僕らが悩んでいると、意外な声を上げる人物が。
「──良いんじゃないか? 行ってあげなさい。それがきっと彼女のためになるだろう」
ユリウスさんだった、いつもの彼ならこういう場面は訝しむはずなのに、今日はやけに肯定的だった。
『ユリウス殿、何か考えが?』
カイトさんの問いかけに、ユリウスさんは静かに頷いた。
「こんな遠回りなやり方をする人物に、私の知己で一人心当たりがある。おそらく彼が…いや、半信半疑ではあるがな。ドラウの協力者だった彼は、もう始末されているモノと思っていたが」
『…そうか、貴方がそう言って下さるなら、やってみる価値はあるかもね?』
何だか二人だけで納得しているみたいだけど、本当に大丈夫なのかな? 意見を言ったのは自分だけど。
『ではそれを踏まえて改めて作戦の概要を説明しよう、当日に指定位置に計五隊を配備、三島担当隊は敵の動向を見張りながら待機、先ず南木鎮守府隊が先行して突入する。灼光弾改で黒い霧を無効化した後、内部に潜入し謎の人物と邂逅し、その真意を確認してくれ。それが済み次第ゼロ号砲破壊に向かい、完全破壊が確認取れ次第、警戒を厳としつつ三島隊もそれぞれ突入し穢れ注力装置を破壊する…どうかな?』
「異存ありませぬ」
「同じく」
「うむ、それで行こう」
カイトさんの説明に、三人とも納得してくれたみたいだ。
「ありがとうございます、謎の人物と接触してから必ずゼロ号砲を破壊してみせます!」
『よろしく頼むよ。言うまでもないと思うけど決して焦ってはいけないよ、ゼロ号破壊に見えない壁があるとしてそれを打ち破れるのは、翔鶴のカイニであることはこの場の全員の見解だからね?』
カイトさんの言葉に肯定して頷くナベシマさん、長門さんにユリウスさん。僕は彼らに深い感謝を込めて頭を下げるのだった…。
・・・・・
──翌日、作戦決行当日。
僕たちはドラウニーアの野望を完全に打ち砕くため、ゼロ号砲がある南木鎮守府へ、そして他の皆はシルシウム島を含む三島にて警戒しつつ待機して、僕たちがゼロ号砲を破壊した後にドラウニーア捕縛及び穢れ注力装置の破壊を敢行する。
先ずは僕たちだ、僕と金剛、翔鶴、野分は黒霧に包まれた南木鎮守府を前に、いつでも突入出来るように準備を進めていた。
最初は事前にガスマスクを着ける、望月にお願いしてガスマスクは人数分揃えてもらった。次に敵影の有無…翔鶴の航空隊が彼女の下に戻って来る。それを踏まえて翔鶴は僕たちにジェスチャーを送った──異常なし、突入は大丈夫みたいだ。
「──こちら「タコシノ」異常なし」
通信で異常がないことを皆に伝える。タコシノとは通信が傍受された時のための、僕らの隊名を隠す暗号、でも意味は単純に「構成メンバーの名前一文字目」から取っている。意外にバレないんじゃないかな…と思いたい。
『テモアカナ、異常なし』
『ウォシハマ、異常ありません』
『ササナプ、異常なしです』
『チササフ、異常なし』
三島攻略部隊とデイジー島哨戒隊も音声通信で状況を伝える、全員異常なしか…それぞれ確認すると、カイトさんが号令を掛ける。
『これより決行とする、タコシノは行動を開始せよ。どうぞ?』
『了解、タコシノは状況開始します。通信終了』
僕は通信を終えると周りを再確認して、金剛たちに「突撃」の合図を出す。金剛たちは頷いて僕の後について来る…いよいよ南木鎮守府突入だ!
・・・・・
──暫くして、黒霧の立ち込める中僕は皆と海上を駆けながら金剛に指示を飛ばした。
「金剛、お願い!」
「オッケー! 灼光弾改装填済み、砲塔角度修正…良し! 行っくよーー! ファイヤーーっ!!」
金剛は砲塔から白く輝く光の弾を射出した、それは打ち上げ花火のように高い音を出しながら空高く上がる──そして。
──カッ!
南木鎮守府上空に達すると、月の光のような淡い輝きが広がる。鎮守府を覆っていた闇を掻き消した。強い光ではないのでわざわざサングラスをかける必要はない。
僕らは光が空中に溶けるのを確認すると、恐るおそるガスマスクを外す。……っふぅ、空気が美味しい。大丈夫みたいだ。
『灼光弾改の効果は1日が限度だな、余裕はあるが油断しないことだ。それまでに零鉱石の破壊…っと、その前に謎の人物とのコンタクトだったね? この二つの任務を速やかに遂行してくれ!』
「分かりました、ありがとうございますユリウスさん!」
『健闘を祈るよ、タクト君』
僕は通信でユリウスさんにお礼を言って、そのまま南木鎮守府へと突撃する。
・・・・・
──それから少し時間が経過した。
大分進んでみたいだけど、深海棲艦の気配がまるでないなぁ。やっぱり零鉱石の影響もあったみたいだね? 静かで良いけどどこか不気味だなぁ。
そうして前を駆けていると、開けた場所へ出て大きな建物が目に見えた。ここが…南木鎮守府みたいだ。
僕らは入り口正面の海面から伸びている4~5段ぐらいの階段を見つけると、足をつけてそのまま駆け上がる。入り口前で立ち止まって南木鎮守府の建物を見上げる…大きい、やっぱり海魔大戦時の主要鎮守府だけあって、造りがしっかりしているみたいだ。所々焼け焦げていて外装も劣化してひびが酷いけど、それを差し引いてもある種の荘厳さ──という名の不気味さ──が感じ取れた。
「…懐かしいわね、任務帰りにこの入り口でこれからどうしようかって皆で話してたな。酒匂とプリンツが食堂のおばちゃんと仲良くって、帰ったらデザート食べるんだ~って燥いでて。それをシスターと由良に窘められて…最初は皆で報告に行こうって決まって、私も瑞鶴もお腹空いてたから早く報告しようって…子供みたいに廊下を走って」
「……翔鶴」
翔鶴は思い出に浸っているみたいだが、ここでそんな時間は取れない。残念だけど…僕が一言窘めると、翔鶴は柔らかな笑みを浮かべて謝罪した。
「ごめんなさい、攻略優先よね? 回想は全部終わってからにするわ」
「僕の方こそごめん、本当はじっくり思い出話を聞かせてほしいぐらいなのに…」
「もう、何言ってるの。…さぁ、行きましょう。通信が入ってるとしたら作戦指令室が怪しいわね、先ずはそこへ」
翔鶴が南木鎮守府の水先案内人となってくれるようだ、僕たちは翔鶴の案内に任せ彼女の後を付いていく…すると。
「…っ? 何…人影? 人が居る」
僕が目前の入り口で見たのは、白い軍服を見事に着こなした背の高い謎の人物だった。肩幅が広いから男性なんだろうけど、顔が軍帽を深く被ってるせいかよく見えない。何者なんだ…?
僕らが疑問を隠せないでいると、翔鶴は…口を両手で覆い身体を震わせ、ひどく驚いた様子で「衝撃の一言」を発した。
「──…っ!? 嘘……てい、とく……っ!」
「何だってっ!?」
何と、翔鶴は目の前の人物を「南木鎮守府の提督」だと確かに言ったのだ。まさか…由良の話だと彼女に胸を貫かれて「絶命した」って…!?
「ワッツ!? でも南木提督って…もう」
「ま、まさか幽霊なのですか? ウゥララァ…;」
「これは…「本物」なのか?」
僕と金剛、野分がそれぞれのリアクションを取っていると、立ったまま僕らをじっと見つめていた南木提督(?)は…背を向けて鎮守府内部へ入ってしまった。
「待って!!」
翔鶴は急いで南木提督を追いかけ、僕らも慌てて翔鶴を追いかけ鎮守府内部へ潜入する。
「提督! 提督!! どこに居るの…?」
「…っ! 見てあそこ!! 廊下の向こう側!!」
金剛が指差したのは正面玄関から入ってすぐの長い廊下、その曲がり角を白い影が曲がるのを僕たちは確りと目撃した。
「提督!」
「追いかけよう!!」
僕らは一斉に走り出して、南木提督…? の後を必死に追跡する。歩いているような歩幅なのにスピードがすごく早い、うっかりしてると見失いそうだ。
廊下の曲がり角から、少しして右の階段を上がり、三階に登ったところで廊下を右へ、見ると上に「執務室」と書かれた名札が見える部屋を…通り過ぎた?
「執務室の奥には作戦会議室が、そこじゃなかったら一番奥の「作戦指令室」よ!」
翔鶴が叫んで僕たちに、南木提督の向かおうとしている凡その場所を伝える。
彼女の言ったとおり、南木提督は作戦会議室を通り過ぎると、一番奥の部屋へ入っていった。暗がりだが中から電光が見える、誰か居るのか…?
僕らは作戦指令室へ入り、入り口付近にある照明のスイッチを押す。すると──目にしたのは整然と並べられた数台の事務机に、正面の壁一面には数多のコンピューター機械が敷き詰められるように立て掛けられ、液晶画面で薄暗い部屋をほのかに照らしている光景だった。
良く分からないけど画面内には独りでに「C言語?」が打ち続けられている。そのすぐ下にはパソコンのキーボードパネルのような文字の羅列した入力キーがズラッと並んだ「入力装置」を発見した。
南木提督はその装置の前に立って僕らを迎えてくれた、何にも喋ってくれないけど。どうしたものかと辺りを見回すと……南木提督の足元、床に「赤黒いシミ」が見えたので、視線を移すと──
「──…っ!!? うわぁ!!!?」
「タクト!? どうしたの…っ!?」
僕の驚く声に金剛が反応すると…彼女も「見てしまった」ようだ。
──床に倒れ伏す、既に息絶えた男の「亡骸」を…!
「し、死体…誰かの「死体」がある!?」
「何と!?」
「何ですって!? …? この白衣の男、何処かで?」
僕らがいきなりの死体発見に戦慄している中、翔鶴は疑問を浮かべながら死体を見ていた。
どうやらこの部屋で何かの「事件」が起こったようだ、そしてユリウスさんの予測を元に考えると…どうやらこの白衣の人はドラウニーアの「協力者」おそらくは南木提督たちが匿っていた研究員の一人だろう。何故死体になっているのかは謎だったが…?
一体何があったのか──そんな風に混乱する思考を整理している時だった、今現在のこの状況、この場にそぐわない「底抜けに明るいような声」が響いたのは。
『──よく来てくれたネェ、ぼくの通信に気づいてくれたようだネヴェイビー!』
「…っ!!!?!」
「この声は…貴方は誰なの!?」
翔鶴の驚きの声に応じるように、壁の無数のコンピューターの一つが砂嵐を起こす。少しの間ざぁざぁと鳴り響くと…画面の中に青い背景を背にした「ボサボサ頭の男性」が現れた。
『やぁヴェイビーたち、ぼくこそが君たちを呼んだ張本人。元TW機関研究員の「マサムネ」サ! よろしく頼むヨヴェイビー!』
僕たちの目の前に現れた、謎の人物「マサムネ」。
このふざけた男が、翔鶴改二の鍵を握っているとは…呆けている僕らはまだ気づけなかった。
だって「ベイビー」って書いてあったし…。