ユグドラシルより来たりて   作:あきちゃま

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第1話

 大人気DMMO-RPG『ユグドラシル』。日本で発売されたそのゲームは様々な人物が現れては消えていった。

 しかし、サービスが終了するその最後まで続けていた者も少なくない。彼、極振り限定ギルド『バカは世界を救う』のリーダーにしてPvP勝率75%を超えるガチビルドキャラクターを作成した『ユグドラシルの悲劇』こと『FRANC1SCO』もその一人であった。

 

「ユグドラシルで最強は誰かという匿名掲示板でのスレでは何度も名を挙げられ、晒しスレでも晒され続けた俺が今ではこのゲームが無くなるのが恋しいとはな。」

 

 彼の目の前には『ユグドラシル』の広場として活用されている狩場に集まった人々が和気藹々と語り合っていた。ある者はこのゲームがいかにクソであったかを語り、ある者はこのゲームの良かったところを語り、またある者はこの場にいる『FRANC1SCO』(俺)について語っている。

 極振りを極めた結果、超位魔法レベルの威力を持った攻撃力を持ってしまったのだ。誰もが恐れる筈である。

 

 職業『暗黒騎士』でありながらレイドボスである八竜の内一体を単独撃破、極振り仲間の『くまった。』による超位魔法「星に願いを」によってペットとなり、『竜騎士』の職業を運営から頂いてしまったのである。

 そもそも、ワールドエネミーを個人に譲ってるんじゃねぇよって話なわけだが。

 

 PvPの勝率75%以上とは、このペット『わんと言え』による撃破が殆どであり、自分一人での撃破は意外と多くはない。その殆どが集団を相手にしたものだったとしても。

 

「FRANC1SCOさんは次はどんなゲームするつもりですか?」

 

 感傷に浸っていたら、俺にわざわざ話しかけてきたプレイヤーがいた。スライムを選んでいる彼は異業種プレイヤーであり、一時期は異業種狩りというPKが横行したものだ。異業種プレイヤーの頂点はギルド『アインズ・ウール・ゴウン』だろう。まあ、うちにもLUKにしか振らないオークで常に「くっ!殺せ!」を吐き捨てる業の深い女がいたが、あれは特殊すぎるだろう。誰がオークを抱きたいと感じるのだろうか。普通に萎える。恐らくその辺りも狙ってやっていたのだろうが。

 

「次はFPSでもやろうかな。かなり古い時代背景だけどWW2を舞台にした物とか最近出たらしいし?日本兵でバンザイアタックを敢行しようかなって。」

 

「極振りを行うとかやってたり、単独でワールドエネミーを撃破したりとやっぱり狂ってますね!」

 

「いやー、それほどでもないよ。」

 

「褒めてません。」

 

 その時、俺の中で電流が走る。

 今まで放置していたワールドエネミーを全て殺して『ユグドラシル』の最後に名を納めるのはどうだろうか?サービス終了まであと3時間近くもある。この辺りにいるプレイヤー全てを動員すれば不可能じゃない筈だ。

 

 俺はすかさず課金アイテムである拡声器を使用して、この狩場にいるプレイヤーに呼びかける。

 

『ギルドバカは世界を救うのFRANC1SCOだ!今からここにいるメンバーでサービス終了までにワールドエネミー撃破をしたい!ユグドラシルも終わることだし、みんなでバカやってみないか!』

 

 俺の宣言で皆が黙る。

 そして、幾ばくかの静寂を打ち破るかのように雄叫びが響く。

 

「うおおおおおおおお!やるぞおおおおぉおおお!」

「面白そうじゃねぇか!」

「俺も参加させてくれ!」

「ちょ!掲示板でこれ晒してくるわ!人集まんだろ!」

「ギルメン呼んで参加するわ!」

 

「来い!わんと言え!」

 

 俺の呼びかけに答え、ワールドエネミーであるドラゴン『ニーズヘッグ』が登場する。存在するだけで他プレイヤーに対してステータスダウンのスタンを持っているガチ強ドラゴンだ。

 

「やっぱこいつ頭おかしいわ」

「なーんでワールドエネミーがペットなんですかねぇ」

「たまげたなあ」

「くたばれ!ズル!」

「ファッキュー!」

「ネーミングセンス」

 

 散々な言われようだが、俺は悪くない。悪いとすれば全部「くまった。」が悪い。名前からしてイラつくから相当な悪だ。多分リアルでは極道か電気屋の販売店員だ。格安と謳って中古品を割高で売り捌く悪徳販売員に違いない。

 まあいい。

 

 

「イクゾー」デッデッデデデデ カーン

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

「はぁ……はぁ……この戦い、我々の勝利だ!」

 

 ワールドエネミーに対してワールドエネミーをぶつける戦法からの必殺『舜天殺』でワールドエネミーを葬ってきた俺だ。というかぶっちゃけ、移動時間の方が時間掛かっているまである。やっぱクソゲー。

 この舜天殺って技だが、暗黒騎士のよく分からない憎しみとかで剣に悪感情を込めて斬るって技らしい。運営の人が言ってたってギルメンから聞いたから間違いない。

 

「TASさんでも見てる気分だ」

「攻撃当てられてないから経験値入らなくて笑うしかない」

「強すぎて草」

「チートでも使ってるのかよ」

「流石運営公認チート」

「これでロマンプレイヤーでもあるからタチが悪い」

「ワールドエネミーの扱い雑すぎ」

「ワールドエネミーの扱いというパワーワード」

 

 ボロクソに言われてるけど私は元気です。

 というわけでサービス終了まで残り1時間を切りましたがワールドエネミー撃破完了しました。

 やることがねえ。ということでワールドエネミー撃破記念に花火でも打ち上げておこう。

 

『運営からのメールです。』

 

 おっと?ここにきてからまさかの運営が動く?もしかして『ユグドラシル2』とか来ちゃったり来ちゃったり?オーブンβ版のテスターにでも招待されたのかな!

 

『ワールドエネミーを1日以内に全て単独による撃破を達成したので称号〈世界を駆る者〉を贈ります。

 ワールドエネミー撃破記念として、ワールドアイテム〈聖剣エクスカリバー〉及び〈エクスカリバーの鞘〉を贈ります。

 これからのご活躍を応援しております。』

 

 どうやら隠し要素を発見してしまったようです。

 そもそも、ワールドエネミーはその強さ故に1日で全てを駆る事を想定していない。つまり、達成不可能なクエストをサービス終了日に達成してしまったということになるらしい。

 

 ペットの背中に乗って俺は何も言わずに飛んだ。

 そんな隠し要素いらねえよとか思わずにいられない。てか本当にいらない。しかも称号の効果がやばい。全ステータスに25%の補正に状態異常の完全排除。はい、チートです。

 

 

「ばっきゃろー!!!!!」

 

 パワーバランスを考えないクソ運営に文句を言いながらサービス終了を迎えた俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 って、ゲームが終わらないんですが。

 まさか、俺の期待通り『ユグドラシル2』を隠し球として持ってて、何の告知もなしに始めてしまったのかな!

 とりあえずコンソールを……ない!運営に連絡……ない!ちょ!明日も仕事があるんですけど!電脳法的にこれはマズイぞ!うちの顧問弁護士集団が出張ってくるレベルでやばい!

 

 あ、でもその場合この会社の株式を買い占めて技術を徴収できるな。いいぞ、もっとやれ!(ゲス顔)

 

「主人よ、我はどこまで行けば良い?」

 

 キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!

 

 

 

 


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