「大丈夫なのか? あんた」
俺は血だらけだったはずの男に声を掛ける。
ガラの悪い青年だった。様々なバッチで装飾された学ランに、不良のような目つき。いや、もしかしたら、不良なのかもしれない。
男は鳩が豆鉄砲を食ったかのような目をして、口を開けたままにしていた。
「なぜ、なぜあいつは俺の傷を治したんだ〜〜?」
俺の質問に答えることなく、男は物思いにふけっていた。
しばらくすると、突然立ち上がり、直接訊いてくると言わんばかりに、館へ入り込んでいった。
一人取り残された俺は迷う。さっきの青年を追うべきなのか。それとも、面倒事は避けて通るべきなのか。
眼前に描かれた血の線。さっきの青年が言っていた「治した」という言葉から俺は、やはり青年の顔に傷は確かにあったことを確信する。
だとすると、その傷を治したのは恐らく、あのリーゼントヘアーの少年だろう。あの少年の能力は傷を癒やす能力ということなのだろう。
思い起こされる記憶の節々が、この屋敷の奥にいる黒幕の存在を明らかにしていく。
「先程の青年のあの動揺の仕方はおかしかった。おそらく敵なのに治してくれたってとこだろう。それはどう見ても、悪人がすることじゃねぇよなァ」
この血は、誰かが負傷したところを引きずられたということを顕にしている。ならば、俺にとって、それをしたものこそが圧倒的悪であった。
さっき屋敷に入っていた青年が加われば、あの少年は不利になることだろう。そう踏んだ俺の足は勝手に動いていた。
「グレートだぜ……、億泰!」
階段を登ろうしたとき、その声は俺の耳に届いた。
状況がよくわからないが、さっきの頭が悪そうな方の青年が顔に影を作り階段を降りてきたので、即座に隠れる。
そして、青年が通り過ぎたことを確認すると、古びて、一歩踏むたびに軋み、乾いた音を立てる階段を登る。
その音で、少年は俺に気づいたらしい。
「あんたは、さっきの……」
リーゼント頭の少年が口を開く。先程までの焦りはもう見えない。横にスタンドを出して、緑の学ランを着た少年を癒やしているあたり、すでに友達は救出できたのであろう。
「さっきの…億泰って名前なのか? そいつの傷をなんで癒やしたんだ?」
少年は小声で「またこの質問っスか」と苦笑いしながら呟いた後に、こう答えた。
「なにも死ぬこたあねえ、さっきはそう思っただけだよ。そんであんたはその質問をするためだけに、ここに来たんスか?」
予想通り、この少年はいい人だ。そして俺は思った通りのことを、言葉に乗せる。
「力になりたいと、思ったんだ。」
この先に潜む黒幕がどんな人物なのか、俺はまだ知らなかったからこう言えたのかもしれない。俺が黒幕と対面したとき、驚愕することは言うまでもない。
主人公の思考回路可笑しいですね。普通なら問答無用で逃げるはずなのに。