矢は多少ブレはしたが、問題なく虹村先輩の方向へ飛んでいった。飛んでしまったのだ。残心――、それは反省の時間。しかし、今俺は冷静に自分の射を分析できる余裕はなかった。
ギリギリまでしなった弓が、その反発力で、手の中を回転しながら、弦で矢を弾く。その瞬間、世界はスローモーションになった。
矢の速度は、約時速200キロほど。弦を離してしまえば、瞬く間に矢は目的地に到着してしまうのだが、俺は確かに弾き飛ばされていく矢を視認した。
恐怖は人間の体内時計を加速させると聞く。俺はやはり先輩に矢を放つことに対して、恐怖していたのだろう。
ゆっくりと、しかし確実に矢は進む。そんな鈍い時間の流れを元に戻したのは、虹村先輩の掛け声だった。
「狙撃兵! その矢を撃ち落せェーーッ!」
兵隊たちはその掛け声を待っていた。既に銃口は矢の少し先、次の瞬間にそれが通る場所を向いており、一瞬にして全員が引き金を引いた。
一斉に鳴り響く銃声。そして生じる小爆発。俺が放った矢は呆気なく撃ち落とされたのである。
「どんな能力か気になりはしたが、ただの弓と矢だったなんて、とんだ期待外れだな――――これはッ!?」
そのとき、この場にいた全員が驚愕した。
何かが、凄まじい速さで、黒煙の中から飛び出したのだ。
「これはッ! 俺がさっき撃ち落とした矢の破片!?」
そしてそれは、一切速度を削ぐことなく、虹村先輩の体に傷をつけた。
少量の血が地面に垂れる。しかし、虹村先輩は後ずさりさえもしておらず、まだその場に佇んでいた。
「まさか、お前のスタンド能力が、『追尾』で、俺の体に一つでも傷をつけるとは思わなかったぞ。白石……ッ!」
虹村先輩は俺を睨むながら、怒鳴る。完全に頭に血が上っているらしく、今にもスタンドを使って攻撃してきそうである。
「お前のそのちっぽけな能力で、俺の完璧だったはずの作戦に傷がついたってことが何よりも気に食わねぇッ!
アパッチ! 白石の頭を吹っ飛ばせッ!」
その号令で、仗助に追撃をいれようとしていたヘリ共が、こちらを向く。そして、俺に逃げる暇も与えてくれることなく、ヘリはミサイルを四発俺に向けて打ち出した。
「クレイジー・ダイヤモンドッ!」
その掛け声で、あのピンクと水色の筋肉質なスタンドが姿を現した。どうやらそれが仗助のスタンドの名前らしい。
「うぐッ!?」
そして、クレイジー・Dは高速で腕を振るって、二発のミサイルを払い落とそうとするが、ミサイルはスタンドの腕に触れた瞬間爆発し、仗助は腕を負傷してしまった。同時にダメージを受けたせいか、スタンドのビジョンは薄くなり、消え去ってしまった。
迫り来る二つのミサイル。咄嗟に自身の弓型のスタンドで防ぐが、ミサイルの威力は思った数倍強力で、爆発で俺は壁に叩きつけられた。
「馬鹿な後輩の介入で少しばかし計画が狂ったが、東方仗助――お前がそいつを庇ったおかげで計画は元通りになったぞ〜〜?
お前の負けだッ! 東方仗助ェーッ!」
バッド・カンパニーが仗助の周りを囲む。地雷で負傷した仗助に逃げることはできない。腕を負傷してしまった仗助に防ぐ術はない。
そんな窮地に立たされた仗助は、何を思ったのか、胡座をかいた。
「どういうつもりだ、東方仗助? 諦めの境地か? 見逃してほしいとでも言うのか〜? フンッ、駄目だね! 全体! 撃てェーッ!」
慈悲なく告げられる号令。
それに従い、兵士たちが引き金を引こうとした寸前に、ゆっくりと仗助が口を開いた。
「おれの作戦はよー、既に終了したんだよ―。」
床に散らばっていた破片たちが集まり、形を作る。
それはミサイル。さっき仗助の腕にダメージを与えたミサイルを、クレイジー・Dで治したのだ。
「なにィ〜〜!! さっき白石を攻撃した、このオレのミサイルをッ!」
完成したミサイルは、真っ直ぐに虹村先輩に向かっていった。
しかし、一瞬だ。ほんの紙一重の差で、虹村先輩が仗助の行動に気づくのが速かった。虹村先輩は自身の横の空間に思いっきり、飛び込んだ。つまり、避けた。
「まずい!」
今まで虹村先輩に隠れていて気づかなかったが、どうやら先輩の後ろにはあの背の小さい少年がいたらしく、そこがミサイルの軌道上であったため、俺は声を上げた。
しかし、そんな心配はいらなかったんだ。なんせミサイルはこの狭い部屋の中で大きく迂回したのだから。
「なぜこの俺の方向にッ!?」
まるで、虹村先輩をミサイルが狙っているかのような軌道。仗助が何か仕込んだことは明らかだった。
「さっきテメーが撒き散らした矢の破片を、ミサイルを治すときに一緒に埋め込んだ……」
俺が射った矢は虹村先輩に撃ち落とされて、そこら中に散らばった。多くはその追尾能力で虹村先輩に向かっていったが、仗助は自分の方向に飛んできた破片を受け止め、今までその手に握っていたのだ。
つまり、今虹村先輩のミサイルは俺の矢の破片が動かしていた!
「俺たちの『自動追尾弾』だぜ」
「まにぁわーっ」
奇妙な断末魔の叫びを爆音が掻き消す。ミサイルの威力は近くの木のバリケードが破壊されるほどであった。
微妙。