魔法少女リリカルなのは ニュータイプ転生   作:戦地派遣学生

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主人公は見事に転生しました。時代は2003年。
大体、PS2の全盛期です。真・女神転生とかアーマード・コアとか。


1章:転生編
1話:どこにでもある日常(前)


「...シュッツ君。」

 

「はい。」

 

「君がここにいる理由は、分かるよね?」

 

今シュッツ・ミリテーアこと、俺は職員室に呼び出されている。そして、雰囲気から分かる通り怒られている。と言うよりは、呆れられている。何故だろうか?俺は何もしていないはず...。勉学は何故かわかないけれど、何もしなくても優秀。加えて、運動に関してもこの小学校の同級生...3年生に比べたら1歩抜きん出た成績を出している。そんな優等生な俺がなぜ、職員室に呼ばれ怒られるのだろうか。分からないので、素直に首を傾げる。

 

「.........。」

 

それを見た目の前の担任は、「はぁ...。」と溜息をつき、俺に人差し指を指しながら

 

「君、いくら野菜が嫌いだからって、残しすぎだよ。」

 

「......。」

 

野菜が嫌いで何が悪いのだろうか?残すのは作った人を思えば心が痛む。だが、食うか食わないか...となると俺は食わない。あんな味のなくて、食べたら口の中の水分を持っていきやがるものをよくみんなは食えるもんだ、と思う。

 

「ジャガイモとかキャベツ、レタスとかのみんな食べるものはちゃんと食べるのはわかっているよ。けれど流石に毎回毎回トマトとかを残しすぎだ。」

 

トマト、と聞いて俺は即座に言い返す。理性が、怒りに似たそれを抑えようとするがあいにく、まだ子供だ。感情の方が理性に勝ってしまう。

 

「先生、トマトは人が食うものじゃないと思います。」

 

「いやトマトは人が食うものだからね?」

 

トマト...それは人類が誇る最強の赤い悪魔。最強の生物兵器だ。生以外...例えばケチャップやピザの上の奴ならば、美味しく頂ける。なのに何故、生だとあれ程に不味いのだろうか。まず感触が...筆舌に尽くしがたい。もし切れ込みを入れず食べた日には生トマトの匂いで口内が蔓延してしまう。そうなってしまえば人は耐えられない。そう、吐くに違いない。次にあの独特な酸味...なのか、まあ味だ。なんというか、得体の知れない風味なのだ。あれもトマトを生で食べさせてくれない一因に違いない。他にも色々理由があるが生のトマトだけは口にしたくない。のだが、残念ながらドイツの給食には確実にサラダがあり...トマトが確実に乗っている。なら給食を辞めればいい、と言うだろうがお母さんが...許してくれない。

 

「トマトだけでそんなにコロコロ表情を変えるのは君だけだろうね。」

 

だって本当にトマトは不味いんだもん。同様の理由で基本的に俺はウリ系統を食べることができません。仕方ないね、人間だもの。好き嫌いが無いとかそれこそ人じゃないから、ほら。

というか、俺がこんな状況にあるのもすべて含めて...

 

「トマトが悪いです。即刻人類の歴史から叩き出す必要があると思います。」

 

「ケチャップとか無くなってもいいのかい?」

 

「......やっぱりトマトを生で食べる文化を根絶やしにする方向で。」

 

ケチャップが無くなったらダメだ。オムライスとかフライドポテトが美味しくなくなる。あとピザも無くなるじゃ無いか。それはダメだ。

 

「...はぁ。食べないならいいよ?けれど大人になったら苦労するからね?結婚した時とか野菜出されたらどうするの?」

 

「いやぁ、それは食べると思いますけど。食べるというか水で流し込む感じで。」

 

「............味わってたべなよ...。」

 

「いや、トマトを筆頭に野菜、本当に嫌いなんで。」

 

勿論、水で流し込む。愛した人の料理なら喜んで、食べるだろう......多分。その時になって見ないとわからない気がするが、多分俺なら食べる。悲しませたくないからね!......でも出来たら生野菜サラダだけは勘弁願いたい。それが一週間続いた日には俺はもうマクド〇ルドに頼らざるを得なくなる。そこ、食べろとか言わない。嫌いなものというか、俺の天敵が野菜なんだから仕方ないんだよ。......いつかは克服しないとなぁ。

 

「その食生活さえ改善したら君は本当に言うことなし、なのにね...、残念だよホント。」

 

溜息をつく先生。けど俺だって、野菜に溜息をつきたい。もっと美味ければ食べるのに。あ、でもバーベキューの時に、日本のテレビでやってたのを真似した、肉を大根を摩り下ろしたポン酢?に浸して食べるのは最高だった。恐らくあれこそが俺の求める野菜の有り様だ。サラダなどで表に出ず、けれど肉などのメインディッシュを引き立てる役割...それこそが野菜の本領であるべきだ。まあ、でも野菜なんてなければ食べる為のこんな苦労しなくていいんですけどね?

 

「この世に野菜が無かったら、俺だって苦労してません。」

 

「あのね?野菜嫌い嫌いって言うけど、ちゃんと栄養があるからね?」

 

栄養?それがどうした。そんなにバランスの取れた栄養が欲しければ和食を食べればいいじゃないか。コメ、魚、味噌汁...毎回これの3食でも問題無いのではないだろうか。けど、残念ながらここドイツの田舎にある町には和食を食べる為の調味料とかが無い。かと言ってわざわざ首都ベルリンに行くのも面倒である。...なので俺は地元のスーパーで野菜を食わない代わりに...

 

「サプリメントで取れるじゃないですか。」

 

サプリメントで栄養を確保しています。小学生から薬漬け(サプリメント)というのは、自分から見てもおかしいが...背に腹はかえられ無い。給食の時に、俺の食べれる野菜が無い時は、持ってきている市販のサプリメントで栄養を確保している。そんな俺の回答に先生は驚愕の表情で...すぐに元の表情に戻った。............あ、これやばい地雷踏み抜いた。確実に長時間の説教が待っている。

 

「小学生からサプリメント...だと...。いや、いい。もうね、先生さ君の野菜嫌いに堪忍袋の緒が切れちゃったよ。」

 

だが、やられるわけにはいかない。先生が言葉を紡ぐ前に、タイミングのいい所で言い返す。

 

「俺だってピンポイントでトマトとか、俺の嫌いな野菜ばっか出す給食にとっくに堪忍袋の緒は切れてますよ。」

 

「......。」

 

「......。」

 

お互いに譲れないものがある。だからその相手を射抜くほどの鋭い目線が交差し、火花が散る。どちらも1歩も引かず、逃げない。人があまりいない職員室に何故か緊張が立ち込め...そして、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

小一時間後、俺は家への帰路についていた。え?あのあと先生の説教がどうなったかって?よくぞ聞いてくれました。聞いて驚け、トマトとか野菜を俺が残したら宿題3倍になりました。.......こんなはずじゃないのに...。こんなはずじゃなかったのに。

 

「お前ってほんとバカだよな?」

 

隣を歩く、保育園時代からの腐れ縁が俺のことをバカにする。癪に障るので

反論してやった。

 

「うっさいわ。野菜さえなけりゃ俺は優等生だっつの。」

 

「でも、食えないから優等生じゃないんだろ?たられば、の話をされてもねぇ?」

 

ニヤニヤしながら、本当に俺のことをバカにしてくる。こいつはあれなのだろうか?人の傷口に塩を塗ったり、人の弱みを弄るのが楽しみな奴なのだろうか。いや、そう言えばそういう奴だったな、こいつ。

 

「お前は将来外道になるタイプだよ、レーヴェ。」

 

「あいにく、父さんから外交官になるにはそれが一番だって言われたもんでね。」

 

こいつは本当に小学生なのだろうか?外交官になりたい、なんて思う小学生が一体この世に何人いるのだろう。普通はスポーツのプロ選手とか、警察官とか消防士を夢見るはずだ。身近で憧れる存在といえば、そういうアメコミとかのヒーローに近い職業だろう。なのに、こいつは王道から外れて外交官......。頭でもイカれたのか。

ちなみに俺は警察、GSGー9に入りたいと思っている。小さい頃から「ルフトハンザハイジャック事件」の時の映像を何度も見て、憧れているのだ。人を守る為の部隊、人の為に命を張れる仕事につきたい、と俺は思う。

 

「シュッツはそういや警察だったな。......お前確実に事務方にむいてないから現場での仕事になりそうだけどいいの?」

 

「当たり前だろ?事務なんて軟弱する者のやる事だし、そもそも俺は肉体的労働の方が楽でいい。」

 

「さすが脳筋。」

 

「黙れ筋脳。」

 

清々しい罵りである。というか、俺は脳まで筋肉になった覚えはない。ただ、考えるのが面倒なので体を動かしていた方が楽なのだ。それにもし俺がデスクワーク...というか、エリートコースか。そっちに入れられてみろ。秒で机返しするわ。学校の授業ですら退屈で、机返ししそうになっていると言うのに。......いや、嘘を言いました。授業は基本寝てます。だって...退屈だから。まあそんなわけで、デスクワークは俺には全く向いていない。と、そんな事を考えながら歩いているとレーヴェが不思議そうに

 

「シュッツ、筋脳って何?」

 

「あー、筋肉まで脳みそって事だよ。」

 

「なるほどな!そりゃ俺への褒め言葉、なわけないよなぁ?」

 

ツッコミなのかケツキックを俺に入れようとしてくるレーヴェ。だが、残念ながらレーヴェは名前に反して、体が割とヒョロい。筋脳という言葉に相応しく、筋肉もあまり付いていないらしい。なので、そこまで蹴りの速度も速くなく......その程度避けることも造作もない。なので、煽るように言ってやった。

 

「フッ...そんな軟弱な蹴りを避けれないとでも?」

 

「......お前のお母さんに、野菜いっつも残してる事を告げ口してやろうか?」

 

軽く脅された。が、しかし残念。

 

「もうそれ、何回も担任から報告されてるから、その程度で脅されてもなー。」

 

何回も報告されたせいで家で大量の野菜が出て来るんだよな。俺に好きな物を食べる権利は無いのだろうか...。まあ、野菜が出ると言ってもサラダとかじゃなくて食べれるように調理してくれているから問題ないのだが。最悪、葉っぱみたいな野菜の種類ならドレッシングさえあれば食べれる。俺がちょっと遠い目をしてるのに気づいたのか

 

「...お前、割と苦労してるんだな。」

 

レーヴェが慰めてくれました。そんなこんなで歩いて、10分程度。先にレーヴェの家に到着した。このまま上がって遊んでやろうかと思ったが、今日は野菜を残し宿題3倍なので誠に残念ながら、遊べない。

 

「宿題3倍とか可哀想に。ま、頑張れよ。」

 

「友達を見捨てるのか!」

 

「ほらよく言うだろ?獅子の子落としって。積もり積もってお前の為になるんだから、頑張れ。あえて見捨ててやるんだ。」

 

「いや言わんからな?というか、お前絶対ざまぁみろwとか、思ってるよな?」

 

「うん。」

 

「表出ろ!ぶっ殺してやる!」

 

「おー怖い怖い。」

 

本当に殴ってやりたいが、一足先に筋脳野郎は既に玄関に入ろうとしていた。...まあ、こういうやり取りが俺たちの日常で、俺たちだけのコミュ二ケーションだから喧嘩とかにはならないのだが。

 

「んじゃ、また明日。」

 

「おう、明日な。」

 

と、適当に切り上げて帰る。レーヴェは挨拶した瞬間家にこもった。...あいつ絶対ゲームしてるぜ?

まあ、俺も早く帰って宿題をしないとゲームとかする間もなくなってしまう。...GSGー9に入るのに特訓しなくていいのか、と俺の夢を知る人は言うだろうが、小学3年から筋肉を鍛えて骨の成長を阻害させるのはアホだ。まあ、とりあえず今俺は、[真・女神転生3ーNOCTURNE]にハマっている。いやぁ、やっぱり日本のゲームは面白すぎる。おかげで日課の運動の時間がちょっと減ってしまった。...まあ、親に1日2時間と決められているので中々先に進めないでいるので、早く進めたいのだ。なので、ここから大体500メートルぐらい先にある俺の家まで走って帰りましたとさ。

 

 

「ただいまー。」

 

鍵の空いてる玄関を開けて自分の家に帰る。すると、多分台所で夕ご飯の準備をしていた母さんが、玄関まで来て俺を迎えてくれる。

 

「おかえりー、シュッツ。先生から聞いたわよ、また野菜食べないって。」

 

あの担任今日も電話しやがって...余計なことを、と内心毒づく。まあけれど、よくあることなので、いつものように母さんに返す。

 

「サラダ以外だったら食べるよ。サラダ以外だったら。」

 

「ちゃんと食べれるようにならないと、大人になってから苦労するわよー?お仕事のお付き合いとかで、そういう店に連れていかれた時に困るのは自分なんだからね、シュッツ。」

 

先生と同じ事を言う母さん...。まあでもそこに悪意は無い。2人とも俺のことを心配して、そう言ってくれているのだ。その気持ちは、本当に嬉しいのは嬉しいのだが...人にはいつだって譲れないものがある。俺はたまたまそれが

 

「生野菜だけは絶対に食べなくない。」

 

生野菜を食べたくない.........そんなしょうもないものだっただけである。子供っぽいと言えば、子供っぽい願い。果たしていつか、俺の譲れないものは変化するのだろうか、と若干大人びたことを思う。流石に大人になってからも野菜を食べたくない、はダサすぎて外に出られないくらいに恥ずかしいだろうから。だけど、母さんはそれを苦笑いで受け止め、

 

「もう...。今日の夜は野菜沢山入れたスープにするからしっかり食べなさいよ?」

 

「!」

 

ちゃんと対応してくれる。それにしても野菜スープと来たか。野菜をふんだんに使った料理の中でも一番好きかもしれない料理だ。何せ、トマトとかピーマンとかが入ってない。入っているのは俺が唯一嫌いではない葉っぱ類の野菜だ。そして味はみんな大好きコンソメ風味。......最高だ。そこにアジアでよく使われる食材、春雨が入っていればさらに最高だ。内心でガッツポーズをして、とっとと宿題を終わらせようと思う。

 

「じゃあ、母さん宿題やってるからご飯出来たら呼んで?」

 

「はいはい。じゃあちゃっちゃと終わらせて来なさい。」

 

母さんが玄関からキッチンに戻ったのと同じように、俺も玄関から自分の部屋に戻る。俺の部屋は二階にあるから、階段を上る。上って、すぐ右にあるドアが俺の部屋だ。

ちなみに俺の目の前の部屋は、父さんのものだ。...最近はよく休日にここにこもってなんかしているっぽい。が、今日は平日の水曜日なので父さんはこの部屋にはおらず、働く場所にいる。母さんは専業主婦なので、いつも家にいる。家事とかもしやすいように、と一階に、母さんの部屋はある。ちなみに海外だと共働きと思われがちだが、父さんが高給取りなので、共働きする意味が無いのだ。なので、母さんは家の守護神として専業主婦をなのだ。まさに玉の輿結婚だ。その夫婦仲は、と言うと......見ていて呆れるほどのイチャイチャ夫婦(両年齢30歳)の雰囲気を醸し出すレベルのアレだ。バカップルという奴だ。

 

「さて、と...パパっと終わらせるか...。」

 

カバンを適当に部屋にあるベッドに起き、課された宿題を出す。大量の紙束を引きずり出す...。百頁ちょいある紙束に軽く絶望仕掛けるが、チラッと見て余裕が出てくる。一頁二十問の算数だ。......いやいや、無理でしょ。つまり、一枚は四十問。それが百枚以上ある。そう、なんと驚きの最低でも四千問だ。小学三年にやらすような宿題の量じゃないだろうこれは。

 

(あの担任は悪魔だったか......!)

 

心の中でそう叫ぶ。が、パラパラとページをめくって悪魔ではないと思った。結構、簡単だ。同じ問題もいくつかあるし...何より大半が掛け算だ。これなら、割と余裕というか、パッと見ただけである程度答えは出せる。二桁の計算のやつは暗算...というか書かないと出来ないが、大体二時間もあれば解ける問題だ。

 

「ニシガハチ、クロクゴジュウヨン......ハチサンニジュウシ、ゴシチサンジュウゴ.........」

 

口から永遠と掛け算の呪文を垂れ流す。傍から見れば頭のイカれた奴か、頭のネジが飛んだ奴とか何かに失敗して怒られて誰かへの怨嗟を延々とぶちまけている可哀想な奴見たいな感じなのだろうが、仕方ない。そもそも誰かに見られる心配も無いし、見られたとして母さんぐらいだ。母さんなら、ちょっと引くぐらいで俺の姿を受け入れねくれるだろう.........多分。

と、やることをやっていると時間というものは過ぎるのが早いのが常。途中、ドアが空いて誰かの声が聞こえたような気がしたが、多分気のせい。そして残り五頁程に到達したところで、下の階から母さんの声が聞こえた。

 

「シュッツー。ご飯の用意出来たわよー。」

 

「はーい。」

 

返事をしながら時計を見る...帰ってきたのが五時頃。今はちょうど二時間も経って、七時ジャストだ。二時間もあれば解ける門数だ、とか余裕を持っていたけれど、思いのほか二桁×二桁が多くて時間がかかってしまった。まあ、残りはご飯を食べてからにしよう...いや、シャワーも浴びてさっぱりしてからにしよう。あとたったの数ページだ。30分もかからない。手を止めて部屋を出る。階段を降りていると恐らく野菜スープのだろう美味しそうな匂いが漂って来る。

 

「うまそー...」

 

降りながら、思わずその美味しそうな匂いに呟く。リビングのドアは開けっ放しだったのでそのまま中に入ると、母さんと、いつの間にか帰ってきていた父さんがいた。

 

「あれ?父さんいつの間に......ま、いいや。おかえり父さん。」

 

「やっぱり気づいてなかったか、我が息子。ほんの三十分前に帰って...お前の部屋に声をかけに言ったんだが。ただいま、シュッツ。」

 

なるほど、つまりドアが開いて声をかけられたのは気のせいではなく、現実に起こっていたものだったようだ。まあ、四千問を親の仇の如くぶち殺すように解いていったのだ...脳の処理の大半と集中力は全てこれに捧げていたのだから、周りで何が起ころうとそこに意識を飛ばすことはしなかった。一旦でも集中力切れたら貯め直すのがしんどいからね、やる事はいっぺんにやるのが一番楽だ。

 

「ごめん、気付かないで」

 

「気にしてないさ、シュッツ。父さんは別に挨拶無視された位で怒ったりしないさ。むしろ、勉強の邪魔して悪いと思ってるよ。」

 

とりあえず気づかなかったことには誤っておく。別に謝る必要はこれっぽちも無いのだけど、しておいた方が良い気がしたのでする。父さんもそれをわかってか、笑って受けてくれる。

 

「さあ、じゃあ食べましょうか。」

 

俺が席につくのを待っていた母さんが、食べるよう促す。食卓を見ると...今日の料理はメインがシュニッツェル、トンカツだ。後足す味付けはレモン。下味が恐らく濃いのでソースがいらないやつ...ウィーン風だと思われる。その上に塊で揚げたジャガイモと、パセリ。我らがドイツ定番の肉料理だ。それからパン。そして、ベーコンと野菜がたくさん入っている野菜スープ。

夜ご飯として充分な料理だ。この美味しそうな料理を見て俺はいつも思う。

 

「ドイツに生まれてよかった...。」

 

「あら?私達の元、じゃなくて?」

 

照れさせることを言わないで欲しい、母さん。何か言っとかないと、母さんは割とむくれるので

 

「いや、それはもう言わなくても。毎日俺を産んでくれてありがとうと思ってるよ。」

 

「あら?嬉しいわね、アナタ。」

 

「あぁ、そうだな。お前は我が家の宝だからな。俺達のところに生まれてきてくれてありがとうな。」

 

両親がちょっと意地悪してくる...。どうしてこう、普通にご飯を食べれないのか。いや、暖かい雰囲気になるから、いいのだけど...恥ずかしいでしょう?

まあ、それを置いといて、俺が言いたいのは食に感してだ。こればかりは、本当にドイツで良かった。もしこれがイギリスに生まれでもしていたら食生活が悲惨なことになっていただろう。フランスでも然りだ。さすがにエスカルゴとか食べたくないし、あんな少量の料理にバカ高い金をかけたくない。あと微妙な美味しさの癖にマナーだけは人一倍うるさいのもマイナスだ。イタリアならまあ、許せる。中国と日本は最高だ。中華...あれはドイツにも店があるが美味すぎる。量も多く質もなかなか。中国人は今までこんなものを食べていたのかと思うと嫉妬するほどだ。大して日本はと言うと、これがなかなか美味しい。寿司とかそういうものもあるが、全てにおいて高品質なのだ。カップヌードル然り、冷凍食品然り。恐らく日本は世界の食事の最先端をいっていると言っても過言ではない。

美味すぎる野菜スープを飲み干しながら父さんの方を見る。父さんの目はこっちに無く、テレビの方へ注目していた。父さんはシュニッツェルに舌鼓を打ちながらテレビを見ている。......どうやら、戦争の話だ。

 

「とうとう始まったのか...。」

 

「あれ何?というか、なんでアメリカが...えーっとイラクを攻めてるの?」

 

純粋な疑問だ。今更、何故アメリカが戦争を起こしたのか小学生の俺には分からない。分からないが、何故起きたのかを知りたい。まあ、子供特有のなんでも知りたさ、だ。知れば小学校で鼻高に自慢できるし、理解出来なくても、大変な事が起こっているんだな、ぐらいには思える。

問われた父さんはちょっと悩んで、けれどすぐに答えてくれた。

 

「あー...説明するのはちょっと難しいけど、要は前にアメリカで同時多発テロ事件があったのは覚えてるな?」

 

「あれは忘れようにも忘れられないわね。」

 

「あれは本当に悪夢だったと思う。」

 

同時多発テロ事件...9.11。事件から1年と半年が経っても未だに色褪せない世界に衝撃を与えた事件。ハイジャックされた飛行機がビルに突っ込んだ、恐ろしい事件。報道の前でワールドトレードセンターが崩壊したあれは、本当にこの世の終わり...と言える程の程の第三次だった。これが、関係しているということはつまり.....

 

「報復って言う事かしら?」

 

母さんが俺より先に言う。父さんはその答えに頷き、それに更に情報を追加した。

 

「それも、あるだろう。何せ今のイラク政府はテロ組織との繋がりも疑われている。そして侵攻の決め手となったのが、生物兵器保有の可能性だ。...シュッツ、将来GSG-9を目指しているならそういう知識も多少は、あるな?」

 

コクン、と頷く。俺の将来の夢であるGSG-9は、そういう相手から国を守るために組織された特殊部隊だ。国民を守るために存在する盾、無論それになりたいとは言え、小さい頃からテロ組織にとって、何が一番使いやすいかを調べたりする程の輩は俺ぐらいだろう。だから、生物兵器に関しては、多少ではあるけれどニュースとかで話すぐらいの知識は備えている。

 

「細菌とかウイルスを使った兵器...かな。有名どころだと天然痘、ペスト、エボラが挙げられると思うよ。」

 

「正解。......にしてもその知識って小学生で持つようなもんじゃないと思うんだがな...。」

 

「本当にそうよねぇ...。一体どこで調べてきたんだか。」

 

好きなことはとことん突き詰める...それが俺です。小学校の図書館にこういった本は全くないから、町の図書館に放課後よく通いつめて調べに調べました。携帯電話があればネット?とかで調べられるだろうけれど、まだ母さんと父さんは俺に持たせてくれない。まあ、小さいうちからそんなもの持たせてくれないよね。代わりにPS2買ってもらったし。

と、まあ図書館に通いつめて調べた知識は俺の頭に一応入っている。なぜ一応かと言うと、ところどころ理解出来ないところがあったり、そもそも読めない単語、専門用語とかがあったりするからだ。これらは、辞書で調べようにも数が多すぎで調べる余裕が無かった。ともあれ、俺が将来関わるかもしれない、武器や兵器に関しての知識は一通りある。

あ、このシュニッツェルめっちゃ美味しい。レモンをかけることであっさりして何個でも食えそうなほどの美味さだ。......やっぱり母さんの料理って最高だな、とシュニッツェルを頬張りながら思う。

 

「あ、それで結局イラクはその生物兵器を持ってたの?」

 

「それがわからないまま戦争に入ったらしいぞ?...これは、流石にアメリカも焦りすぎとしか言い様がないし、生物兵器がなかった時、世界はアメリカにどういう反応を示す予想はつくだろうに...。」

 

父さんが溜息をつく。つまり、証拠がないまま警察が逮捕するようなものだ。明らかに権力の発動としかいいようがない。しかも、だ。もしこれが無実だった場合どうなるか。確実に非難の対象にされるに違いがない。しかも話は戦争だ。そこに人の命が関わってくる以上、アメリカという国の権威が失墜するのは目に見えている。...まあ、これらの仮定は、もし生物兵器が無かったら...である。あったとしたら生物兵器を封じ込めた英雄的決断としてアメリカは、いやアメリカの指導者は讃えられるだろう。

 

「まあ、ドイツには関係ないけどな、この戦争。」

 

ドイツには関係ない...ドイツはこの戦争には関係していないらしい。ちょうどニュースキャスターが大統領の言葉を流していた。

 

『なお我々ドイツはこの侵攻に関して慎重な立場にあり、生物兵器が確認されるまでイラクへは経済制裁を行うこととーーー。』

 

「賢明な判断だな。あった場合は乗ればいい、無ければ無視すればいい。一番動きやすいところに収まった感じか。」

 

ドイツはこの侵攻に関して、積極的では無いらしい。隣のフランスもそうらしく、EUを牽引する国の中では唯一イギリスが実戦参加する形だ。......まあ、アメリカとイギリスはある意味一蓮托生だしイギリスはアメリカと一緒に行動しないと死ぬだけなので、当たり前だろう。と、更にもうひとつ重要なニュースが流れる。

 

『ここで中国で感染が拡大中の謎の感染症について情報が入りました。この感染症は肺炎と見られ、南部ではアウトブレイクと認定されました。しかし、未だこの感染症への具体的な対策は打てず、感染者は日々、増えています。』

 

今年は厄年では無いか、と思うレベルで世界的に不幸が起きていないだろうか。2月にはアメリカのスペースシャトル[コロンビア号]が空中分解して、搭乗していた宇宙飛行士七名全員が死亡した事故が起きたところだ。あれの映像も9.11に引けを取らないショッキングな映像だった。そして今起こっているアメリカ主導のイラク侵攻、中国で感染が拡大中の感染症だ。もっとこう、世界がハッピーになれるような事件とか起きないものだろうか...。例えば...何があるだろうか。一方が幸福で一方が不幸になるようなことなら沢山思いつく。が、全人類が、幸せになれるような出来事、と聞かれて思いつくことがない。食事をしながらそんな事を考えていると

 

「...小学生のクセしてなんか難しいこと考えてないか、シュッツ?」

 

父さんに心配そうに聞かれた。ハッと顔を上げると母さんもちょっと心配そうにこっちを見ていた。......いや、そこまで深刻なことは考えていなかったと思うけれど、どうやら顔には割と厳しい表情がでていたらしい。

 

「いや、何でもないよ?」

 

「嘘つけ、大体お前考え事してたら難しい方にばっか考えて結局悩んでるタイプの人間だろ?」

 

ギクッとなる。図星だった。考え事するのは苦手だ。だけれど、一旦思考に嵌ると考え事の深みへ深みへ入り込んでしまう。哲学、なんていう気はさらさらないけどより深く考えた方が上手くいったりするんじゃないかと思って、無理やり思考を奥の方へ沈みこませたりしている。が、どうして俺がそういう奴だと分かったのだろうか?例え、親であっても子供の内面とか、なかなか分からないはずだ。子が親の心を理解できないのと同じで。

 

「どうして俺がそういうタイプだって分かるの?」

 

そりゃ、と父さんは苦笑して、

 

「俺も同じタイプだからに決まってるだろ。」

 

と。......何にも悩みがなさそうな父さんなのに......。

 

「今お前、俺は何も悩みを持ってなさそうに思っただろ?」

 

「ソ、そんな事をナイヨ?」

 

片言になってるぞ、と父さんは俺の頭をポンポンしながら撫でてくる。その手の感触はまさに父の手だった。

その手にはどこから持ってきたのかビールがある。......見れば母さんもビールを飲んでいるではないか。まずい。本能がそう言う。これは、何度も経験してきたことだから俺の経験が直感に囁いている。

 

【長ーい説教の時間です。】

 

と。

だが、既に頭は父さんに抑えられている。どうにか逃げようと必死で頭を回し...

 

(そうだ、食器を片付けるのを言い訳に逃げれば!)

 

だが、悲しいかな。先を読んでいたかの如く食器は既に机の上から消えていた。キッチンの方へ母さんが歩いていくのが見える。......あぁ、その手にはご馳走を載せていたお皿が。俺は悟る。つまり、逃げ場は無いのだと。まだ宿題終わらせてないのに...何時間かかるかも分からない説教タイムは流石に辛い。が、もう覚悟を決めるしかない。腹を括ったところで父さんが話を始めた。

 

「うん。丁度いいし我が家恒例の、お説教タイムだ。」

 

「逃げれないから、仕方なく聞いてあげるよ父さん。」

 

ちょっと咎める様な口調で父さんに返答してやるが、それに構った風は無く話を続けた。酔ってやがるよ、この親父。

 

「いいか?例えばお前はAという問題にぶつかる。が、運が悪いことにBという問題も持ってしまった。これ、周りにいる仲間にはそれを言わずに自分1人で抱え込むか?」

 

「うん。」

 

母さんが入れてくれたオレンジジュースを飲みながら話を聞く。ちなみに母さんは食器を高速で洗っている。...絶対話に参加する気だ、あれ。

まあ、父さんには頷く。だって自分の問題は自分で抱えるべきだ。助けを求める程でも、他人の手を煩わせる訳には行かない。......まあ、俺は助けを求められたら...いや、助けを求めて来なくても助けれるようになりたい。だから、積極的に助けるようありたいけれど、他の人がそうとは限らない。

 

「そうか......AもBも難問。お前ならどうする?」

 

「......普通にAを解いてからBに手をつける。」

 

「あぁ、それが普通だ。というか、それ以外の答えを出した瞬間俺はこのグラス落としたぞ。」

 

AもBも難問なら仕方ない。簡単で並行作業でやれるなら話は別だけど、難しいなら先に持ってしまったAを片付ける。そしてBを片付ける。時間はかかるだろうが一番手っ取り早くて安全な方法だ。でも、父さんは続ける。

 

「でもお前とか俺みたいなタイプじゃそう上手く行かない。」

 

「?どうして?」

 

「薄々気づいてるだろうけどな、お前とか俺みたいなタイプって問題が難しくなればなるほど思考を奥に奥にってやるタイプだからさ。」

 

...それの何がダメなのだろうか。問題に何か不備がないか、裏がないか、新たしく問題が湧いてこないか。足りない頭をフルに使って考えるのが正しいはずだ。だから、父さんの話には首を傾げざるを得ない。それを見た父さんは

 

「まあ、深く考えるのは正しいさ。でも、それを解くために時間を必ず裂きすぎる。んで、Bを解けなくて何かしら...まあ、周りのヤツらに迷惑かけるわな。」

 

「あ、うん。でもある程度で切り上げたら」

 

俺が言おうとした事を父さんが遮る。

 

「確かに時間をかけなければいい。けど、時間をかけずに解を出せるか?」

 

「.........。」

 

どうだろうか。ん?あれ...?と、言うか......この話の結論、

 

「要するに周りにいる仲間を頼れ、と?」

 

「おおっと、いきなり核心をつくなよ...。せっかく親らしく、為になる話をしてたのに...。」

 

グラスに入ったビールを飲み干しながら、父さんは残念そうに言う。

......俺?いや俺は呆れ10割程でこの話を割と真面目に聞いていたことを後悔している。なんでって、そりゃあれだけなんか...らしい話だったのに結局は

 

「難しい問題にぶち当たったら、仲間を頼れ、て。これそんなに難しく言う必要あったの父さん。」

 

「ハッハッハ...。息子よ、父さんだって偶には子供の前でかっこいい姿をしたいんだ。......まあ、ちょっと酔った自分に酔って適当言ってたことは、許せ?」

 

ほんと、この親父は...。いや確かに仲間を頼るのは正しいことだ。けど、さっきも俺が考えた通り、助けを求められることを迷惑に感じる人もいるわけで...。

 

「結局、問題に仲間を巻き込んでるよ...。仲間を巻き込まず自分で問題は解決すべき...ってのが父さん達の社会の常識なんじゃないの?」

 

「甘いぞ、我が息子。助けを求められて嬉しくない奴なんて、世界中を探しても何処にもいない。なんせ、所詮自分はちっぽけだとか自分は何も出来ないとか割と、心の中で思ってるんだぞ?頼られて嬉しくならないはずがない。」

 

「でも、それっていいの?」

 

「いいんだよ、足りないところは他所から持って来りゃいい。お前は意思も力も多分ある。足りないのは問題を解決に向かわせる力...まあ、思考力とか想像力が足りないんだわ。」

 

つまり、俺が問題を抱えたら積極的に他人の...周りにいる人の力を借りろ、相手がどう思ってるかなんて気にするな、か。俺が父さんの言わんとする長ったらしい説教の結論を噛み砕いているのを、父さんはキッチンから戻ってきた母さんに注がれたビールを飲みながら見ている。と、母さんが口を開いた。

 

「あら、そんな簡単な事をわざわざ難しくシュッツに説明してたの?」

 

「父さんだってカッコつけたいんですー...。と、まあこの話はもういい。結論は出たし、あとはシュッツが、こんな当たり前の話をどう受け取るか、受け止めてくれるかだ。」

 

「言葉そのままの捉え方ならできるよ?」

 

「それでいいんだよ。ひねくれた考えも思いもお前には要らん。あと、考えるだけ無駄だ。ザ・脳筋。」

 

「と、父さんは言うけど少しは考えなさいよ?」

 

言い終えたあと、残っていたビールを父さんは飲み干した。......この人グラス三杯もいったよ。ジョッキじゃないだけマシだけど。俺の家族って確か、じいちゃんもアルコールに弱くて二杯が限界だったはずなのに...。父さんは俺の知る我が家の酒飲みギネス記録を更新したらしい。ちなみに母さんは俺と同じでオレンジジュースを飲んでいる。我が家ってドイツにあるまじきアルコール耐性の無さなんだよね。多分、俺も将来は酒類は飲めないだろう。飲めて二杯辺りかなぁ、と思う。

 

「んで、まあもうひとつ話があるんだけどな。いいか?」

 

「さっきみたいに難解に見せて一般常識っぽいのじゃないのならいいよ?」

 

「大丈夫だ、そういう話じゃない。」

 

他にする話がある、と。......酒に酔いすぎて中身のない話になるのか、脈絡もない話になるのかは、分からないが、時間もまだある。暇だし、父さんと母さんといる時間は大切だ。なので、ちょっとだけ聞いてみようと思う。......あんまりなアレだったら母さんが父さんをベットにシュートしてくれるだろうし。

 

「まあ、お前に一つだけ聞きたいだけなんだけどな。」

 

「?」

 

「為すべき事...やるべき事の為にお前は命を捨てる覚悟があるか?」

 

.........ある。それぐらいの覚悟を持ってないとGSG-9、国を守る部隊に入る資格すらない。何かを守るために、何かを為すために命を捨てる。まだ小学生で生命が脅かされる事なんて無いから、そこに恐怖で足が竦むとか、動けなくなる可能性も無きにしも非ずだ。けど、俺は命を張る覚悟はある。父さんの目を見据えて俺は返す。

 

「ある。この命を、捨てるじゃない。誰かの為に捧げる覚悟はあるよ。」

 

「そうか。」

 

父さんは穏やかな笑みで何故か俺の答えに満足していた。...他にそれ以上言うことは無いのか、父さんは

 

「んじゃ、風呂に入って来る。」

 

「分かったわ、お先にどうぞ。」

 

「ん。」

 

風呂に入りに行った。......一体何だったんだろうか?話というよりか、あれじゃただの問いだ。俺がGSG-9に入る、なんて夢を掲げているからその覚悟を問うための問いだったのか。母さんの方を見るけど、父さんと同じで穏やかな笑みを浮かべているだけだ。よく、分からないけど多分満足した答えだったのだろう。よく分からないからそれ以上考えるのをやめた。ほら、深く考えすぎるなってさっき父さんに言われたばっかりだし。

 

「じゃあ、俺宿題終わらせてくるよ。」

 

「はい。終わらせてらっしゃい。」

 

 

その日は宿題を終わらせて、最後に風呂に入って...いつの間にか布団の中にいました.........。父さんも母さんも風呂に入ったらすぐに寝る人間なので、俺が洗濯機を回して、風呂を洗って置く。我が家では最後に風呂に入った人がする事だ。......ゲームしなくていいのかって?いや、女神転生やろうと思ったけど時間、もう遅いし寝ることにしたんです。あー、お布団最高に気持ちーーーzzZ...。

 

ふ、とする感覚もなく、どこか。俺は全く見知らない場所で目を覚ます。

 

(あ、うん。夢だ。)

 

声も出ないし、体も動かせない。となると、ここは俺の夢の中だ。......いや、ここまではっきりした夢はあまり見たことがない。と言うか、俺の記憶にないものを夢として見ることはあるのだろうか。ホラー映画とか見たあとに同じ光景を見て呻いてた事はあった。でも、それは印象が深かったからだ。......でもこの空間には全く、印象がない。目の前には謎の絵がある。

 

(...真ん中に女性。女性の右側にはユニコーン。左側にはライオン。...天幕には、.........フランス語で私の......唯一......の願い...?望み?)

 

なんだこれは。見たことがない絵だ。

と、唐突に場面が移り変わる。

まるで、アニメだ。......謎の大きなロボット...一角獣?の中にいる、多分パイロットの呟きが聞こえた。

 

『私のたった一つの望み。』

 

...これは、さっきのフランス語のやつだろう。つまり、あの絵をこの人は知っていることになる。

 

『可能性の獣。』

 

何のことだろうか。可能性...獣。よく分からない。けど、何故か目が覚めても覚えておけそうな言葉というか、言い回しだ。

 

『希望の象徴』

 

......この人からこの人のお父さんとお母さんへの思いが、伝わってくる。...大切に育てられたのだろう。特にお父さんに対しては、色々な感情が混ざっている。けれど、そこに彼は立ち止まらず、前に進んだ。......子供ながら察するが、お父さんとお母さんから見てこの子は希望の象徴、だったのだろう。

そして場面は幾つも切り替わる。そこには色々な感情があった。けれど彼は『人の中の可能性』というものを信じた。......それにロボットが答えるかのごとく、奇跡を起こしていた。はっきり言おう、俺はこのよく分からない夢の主人公に憧れてしまった。

 

(だって、何かを為すために現実に向き合って、周りの誰かを支えて...支えられて。その人達の希望の象徴と言える存在になれるなんて...すごい、な。全てを1人で抱えるんじゃなくて分かち合う......これが、父さんに言ってた事...なんだろうな。)

 

視界は一瞬暗転した。次にはもうひとつ見知らぬ光景が目の前に広がった。それは...どこかの...SAT.....確か日本の特殊部隊だ。それが突入しようとしていた。ドアが開けられ、フラッシュバンが投げ込まれる。と、同時に盾をもつ男を先頭に部屋へと入った。その瞬間、声が出ないのに俺は声を出したかった。

 

(っ、人質が!)

 

部屋に敵と思しき者は十数名程いて二、三人がフラッシュバンから視界を守った。そして、手と足を縛られている女性に銃を向ける。......一体どんな階級の女性か分からないけれど、あの人は恐らく罪がない。なのに殺されようとしている。銃声が響いた。思わず目を瞑る。......けれどそこには悲鳴がなかった。代わりに何か、硬いものが硬いものとぶつかる音がする。

 

(あの人......いやでも無茶だ!アサルトライフルの弾を盾が受け止めれるはずがない!)

 

人質と敵の間に1人が割って入った。最初に突入した男だ。でも彼は盾を構えるので精一杯だ。キョロキョロと辺りを見渡すと、別では敵とSATが撃ち合っている。けれど、彼は反撃すら許されない。撃たれ続けて...ついに弾が貫通する。貫通した弾は、SATの隊員の身へ刺さる。けれど、彼は歯を食いしばり、動かない。......死が怖くないのか。と思う。あんなバカな真似して生きれるはずがない。何発も体に穴を開けて刺さるも、彼はそこから動かない。至る所から血が流れる。胴体にも防弾チョッキを貫通して体が穿たれている。......俺は、その覚悟を決めた有り様に畏怖した。と、ついに敵を制圧したSATが彼の方へ射撃を加えていた敵を制圧する。......と、同時に彼は倒れた。

その先は言わなくても、分かるだろう。彼は死んだ。人質は無償だ。おかげで無意味に死ぬ命は、なかった。けど、代償に彼は命を捨てた。.....GSG-9を目指す以上、俺にもあれ程の覚悟が必要だろう。だけど、彼はそれを身をもってなした。......恐ろしい、と思う。

 

(あれと同じ時に陥った時、俺はああいう行動が出来るだろうか...。)

 

と、意識が上昇するような感覚を受ける。身体が起きるサインだ。あぁ、そろそろ夢から醒めるのだろう。その、間際どこからともなく

 

『出来るに決まってるだろ。覚悟さえありゃ、なんでも出来るもんさ。』

 

そんな言葉が聞こえた。




はい、ということでちょっとだけ主人公の死因の描写をここで足してみました。後、あれですね。ニュータイプとして彼をモデルにしているので、彼の夢も見ました。
分からないところとかあれば付け足したいな、と思います。

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