ブレンド・S ~凸凹な軌跡~   作:夜神

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第2話 「小さくても立派な」

 あの後、桜ノ宮は店長からドSキャラを任され最初こそ困惑していたが……。

 結果的に言えば、持ち前の目つきの悪さと緊張による失敗も重なって十二分にドSキャラを真っ当していた。

 まあ接した客が帰った瞬間に罪悪感に耐え切れなくなって誰も居ない扉に謝罪しまくっていたが……。

 ただ紅葉や日向からお墨付きをもらい、店長なんかは鼻血を踏み出して倒れるほど興奮していたようなので今後も桜ノ宮はドSキャラ担当としてやっていけるだろう。

 細かいいざこざもありはしたのだが、割と毎日のように起きていることに等しいのでその説明は省かせてもらう。

 

「……ん?」

 

 角を曲がると視界に桃色の制服を着た黒髪の少女が見えた。髪型といい佇まいといいおそらく桜ノ宮だろう。目的地が同じなのだからこういうことが起きてもおかしくはない。

 しかし、俺は紅葉達と比べるとあまりあの子と話してないからなぁ。仕事をサボって桜ノ宮を見ていた店長のせいで仕事量が増えていたことが最大の理由だと言えるのだが。

 あまり人手のある店でもないし、挨拶くらいはしておくか。歩幅的にどう考えても追いつきそうだし。

 

「おはよう桜ノ宮」

「え……あ、おはようございます。確か……速水さんでしたよね?」

「ああ」

 

 どうやら名前は憶えてくれているらしい。まあ俺を含めても4人しか覚える対象がいないのだから覚えられてない方が問題といえば問題なのだが。

 

「あの……どうかなさいました?」

「いや別に。少し考え事をしてただけだ」

「考え事ですか?」

 

 あの店長、今日は真面目に仕事するのかなとか。

 きっと今日も深夜アニメ見てたせいで寝不足なんだろうなとか。

 今日も桜ノ宮を見てハイテンションになって気持ち悪い言動するんだろうなとか。

 正直考えだしたらキリがない。まあこれを桜ノ宮に言ったところで何も変わらないから口にはしないけど。

 

「大人はあれこれ考えることがあるんだよ。例えば……帰ったら何しようかなとか」

「そうなんですね……って、もう帰ってからのこと考えるんですか!? これからバイトに行くところですよね!」

「バイトに行くから終わってからのことを考えるのさ」

 

 だってこれから行く場所なんて大なり小なりストレスを溜める場所なんだから。

 故に終わってからどうそのストレスを発散するのか考えておくのかは大切なことでしょう。

 

「は、速水さんって少し変わってますね」

「俺が変わってるならこの店の奴らなんて変人に等しい……」

「どうかしまし……なっ!?」

 

 俺と桜ノ宮の目に映っているもの。

 それは泣きながらしゃがんでいるイケメン店長と、さも当然と言わんばかりに店長に腰を下ろしている無表情な少女だ。はたから見れば父親が娘に玩具にされているか、もしくは危ない遊びをしているようにしか見えない。

 

「ふぅ……」

「しくしくしく……苺香さん、助けてください。いじめられてるんです」

 

 助けを求める店長であったが、桜ノ宮が何か言う前に小柄な少女がチョップで黙らせた。それから何度も店長の頭にチョップを繰り出しながら

 

「……って、何で速水くんが苺香さんの隣に居るんですか!」

「そこでばったり会ったからだが」

「ずるいです、ずるいです! 私だってまだ苺香さんと一緒に歩いたことないのにぃぃぃぃ!」

 

 うぜぇ……顔面に1発入れたくなるくらいのうざさだ。

 そもそも、何でただそこで会っただけなのにここまで言われなくちゃいけないんだ。同じ職場で働いてるんだからそれくらい起こることだろう。大体店長はここの2階に住んでるんだから一緒に店に来るとか無理だろうが。

 

「私の苺香さんに手を出すなんて速水くん、君って人は! 麻冬さん、そこを退いてくださ……ぐへっ!?」

「うるさい。人の足元でごちゃごちゃ騒がないでくれる? 大体まだわたしの話終わってないんだけど」

「そんな~」

「自業自得でしょ。大体仕事中に居眠りする方が悪い」

「だ、だって深夜アニメ見て寝不足なんですよ~」

「録画して見ればいいでしょ」

「リアルタイムで見ることに意義があるんです~!」

 

 速水くんもそう思いますよね?

 みたいな目でこっち見るのやめてもらっていいですか。別に俺は録画で良いタイプなんで。よほど熱中しているものでもない限りリアルタイムで見たりしませんが。

 

「速水さん」

「ん?」

「店長って子供に好かれやすいんですね」

「――ッ」

 

 子供。

 その単語に苛立ったのだろう。小柄な少女は店長の前髪を引っこ抜く勢いで引っ張り始める。店長が悲鳴を上げたのは言うまでもないよね。

 桜ノ宮に悪気はないんだろうが……これはこれでこのままにしておこう。だってこのままの方が面白そうだし。

 

「おっはよ~」

「あ、夏帆さん。おはようございます」

「おはよう。速水くんもおはよう」

「ん」

「ちょっ、何かいつもより素っ気なくない? 少しは構ってくれてもいいと思うんだけど」

 

 俺はお前の彼氏でもなければお兄ちゃんでもありません。なので構う理由はないと思います。大体……

 

「今はあれを見るので忙しいんだ」

「あれ? あ、麻冬さん。おはよう、今日シフト一緒だったんだ」

「おはー、ついでに速水も」

「はいはい、おはー」

 

 そう……あえてここまで隠していたが現在店長を足で何度も踏んでいる少女は俺達の関係者である。

 名前は星川麻冬。茶髪のショートカットで身長140センチ以下……おそらく135センチほどと思われるリトルガールである。俺との身長差は約45センチ。並んで歩けば親子か兄妹に思われること間違いなし。でも年齢は俺と変わらない21歳なんだよね。

 

「速水……」

「どうした星川? そんな冷たい視線を向けられても俺は興奮しないぞ」

 

 だって店長と違ってMじゃないからな。まあ睨まれた理由は分かってるんですけど。俺が星川のことをチビだって考えたのを見抜かれたからだろうし。別にそこまで気にすることはないと思うけどね。

 何たって人は見た目じゃなくて中身だし。この職場で働いているとしみじみとそう思うよ。

 

「あのさ速水くん……何で速水くんは私の頭の上にあごを乗せてるのかな?」

「日向がもう少し構って欲しいと言ったからだが?」

「そういう構い方をして欲しいわけじゃないから。されるならまだ頭を撫でられたりする方がマシだよ!」

 

 いやーそれはちょっと抵抗があるというか。

 星川の前でやったら暗に自分は長身でわたしはチビだとバカにしてるのかっていちゃもん付けられそうだし。それに日向さんってあまり異性に慣れてないじゃないですか。そういうことしちゃうとギクシャクしちゃいそうだし。

 はいそこ~、すでに頭を撫でるよりも難易度の高いしてるとは言わない。

 コメディ的なノリでやってる分には相手も意識しないから問題なのですよ。相手からすればおちょくってるようにしか思えないからな!

 

「あの……お取込み中にすみません。あの方は……もしかして店長さんの上司でしょうか?」

「あはは……」

「あながち間違いではない」

「速水くん、そういうこと言わないでくださいよ。私だって傷つくんですからね! あと苺香さん、この子は私の上司ではなく苺香さんとホールのスタッフさんです!」

 

 そのスタッフさんにイスにされてチョップされている人物が店長と呼べるのだろうか。

 今更だけど……店長ってこの店内でのヒエラルキー低いよな。俺よりも星川よりも紅葉よりも下だろうし。日向は優しさ故か俺らが厳しいからかそうでもないけど、現状確実に上なのって桜ノ宮だけなのでは……近い内にこれも変わりそうだが。

 

「同じホールのスタッフさんだったんですね」

「そ……あなたが新人の子ね」

「はい、桜ノ宮苺香です」

「わたしは星川麻冬、よろしく」

 

 俺達の時とは打って変わって桜ノ宮は何度も頭を下げるようなことはせず、星川をずっと見つめている。観察していると言ってもいい。

 まあ……星川のことを小学生とでも思ってるんだろうな。それに対して疑問は抱きそうだが、桜ノ宮って天然みたいなところがありそうだし、最近の小学生は成長が早いからどうとか考えて納得しそうな気もする。

 そんなことを考えていると、桜ノ宮が星川にでこを突かれていた。これまでに数えきれないほど小学生に間違われてきただけにその手の思考は簡単に読めるようだ。

 

「わたしは速水と同じ大学生。何考えてるかぐらい分かるんだからね」

「は、はい……すみません」

「速水、出来ればあんたにも1発入れておきたいんだけど。この子と同じようなこと考えてた気がするし」

「気がするってだけで1発入れるのはどうかと思うんだが。これで勘弁してくれ」

 

 俺は星川に近づくと彼女の頭の上に右手を置く。そして……ゆっくりと何度か撫でる。

 はたから見れば完全に子供扱いしているように思えるかもしれないが、俺にはそんな邪な気持ちは全くない。誠心誠意……俺のストレス発散のために撫でている。人の頭を撫でるのって何ていうか癒されるよね。まあ俺だけかもしれないけど。

 

「ははは速水さん!? そういうのは、その逆効果なのでは……あれ?」

「安心しろ桜ノ宮。星川はこういうことじゃ怒らない」

「いや普通に怒るわよ。あんただから許してやってるだけで……いい加減わたし以外にストレス発散する方法を見つけて欲しいんだけど」

「色々試した結果、現状これが一番癒されるんだ」

「あっそ……ロリコンだとか思われても責任取らないから」

 

 その必要はないでしょう。はたから見れば娘か妹をあやしてるようにしか見えないわけだし。

 これ以上考えるとさすがの俺でも腹パンとかされそうだからやめておくけどね。

 

「というか、そろそろ準備しないと開店に遅れるわよ。わたしもあんたもまだ着替えてないんだし」

「はぁ……今日は昨日よりも楽であってほしい」

「少しは前向きに考えなさいよ。あとでまた撫でさせてあげるから」

 

 そう言われてしまっては頑張る他にない。

 単純に考えて人手は増えているし、基本的にキッチンも俺と紅葉が居ればどうにかなる。下手に客足が増えなければどうにかなるだろう。それでも店長に苛立ちを覚えることは何度かありそうだが……今は考えないでおくことにしよう。

 

「ほら、さっさと準備するわよ」

「へいへい」

「へいは1回」

「あの~そこははいなのでは……いえ、何でもないです」

 

 

 

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