麦わらと夜兎   作:人参腎

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09 黒幕の正体

 

 

「ちょっとイカゼ、あんた大丈夫なの!?」

 

 要改良だな、と気絶したMr.5を置いて酒場に戻ろうとすると、爆発音を聞きつけたのか珍しく焦燥した表情でナミが駆け付けてきた。

 その後ろには何故かたんこぶが重なりまくっているルフィとゾロがいて、また満身創痍のMr.8と鴨のような生き物に跨るミス・ウェンズデーの姿もあった。

 

「服が焦げたこと以外は無問題、メリー号も無事でよかったよかった」

 

 一先ずナミの心配を晴らそうと普段の調子で言葉を返せば無傷のメリー号も相まって安心したように息を吐いていた。

 そんなナミを後目にイカゼは揶揄うようにボコボコにされたゾロへ視線を移す。

 

「何だよゾロ、目を離した隙に随分な大所帯じゃないか。何か面白いことでもあったの?」

 

「このバカの勘違いでとんでもない目にあったんだよ……」

 

「まー気にすんなよゾロ、誰でも間違えることはあるって」

 

「お前のせいだろうが!」

 

 ゾロから詳しい話を聞くと、町の住人たちが賞金稼ぎだと知らなかったルフィが目覚め、ルフィ視点だとゾロが親切な町の住人たちを斬りつけるという恩知らずな現場に遭遇。

 絶対に許さないと勘違いし話を聞かなくなったルフィとやむを得ず戦闘になり……最終的にナミの喧嘩両成敗を受けて収まったらしい。

 

「ぷくく、笑える」

 

「今度はお前が相手か?」

 

 イカゼがその場にいなかったことを惜しみつつ笑みを溢していると、何やら血相を変えたMr.8とミス・ウェンズデーが気絶したMr.5の前に駆け寄っていた。

 

「間違いない、Mr.5……バロックワークスのオフィサーエージェントです」

 

「どうして彼がここに……?」

 

 バロックワークスの幹部だというのはやはり自称ではなかったらしい、その事実にイカゼは先のMr.5との戦いを思い返して退屈そうに嘆息すると、気絶させたもう一人、ミス・バレンタインも引き摺って来て二人の前に放り投げる。

 

「ミス・バレンタインまで……! あなたがこの二人を?」

 

「任務だとか抹殺だとか物騒だったからね」

 

 先ほど会った時よりも口調と雰囲気が変わってるMr.8に違和感を抱きつつ答えると、やはり彼らは……と何処か感動したような声音でミス・ウェンズデーと話し始めてしまった。

 敵じゃないの? と戦っていたゾロに目配せすると、メリー号の点検でもしていたのか船から降りて来たナミへ視線を向け、ナミも意図を察したようでゾロから引き継いでイカゼに経緯を話し始める。

 

 

 

「───なるほどね。この二人は実は王女様とその護衛で、犯罪集団にはスパイとして潜入していたと」

 

「大まかにはそんな感じよ」

 

 Mr.8とミス・ウェンズデー、もといアラバスタと呼ばれる国の王女とその護衛隊長のビビとイガラムを見て感心するようにイカゼは頷く。

 途中からは話し半分で聞いていたが、要約するとバロックワークスの社長にアラバスタが乗っ取られそうでそのためにルフィたちに力を貸してほしいとのことだった。

 

「いいじゃん、面白そうだ」

 

「だよなー! よし、その社長ってやつをぶっ飛ばそう!」

 

「国まで送るだけだっつうの!」

 

 ルフィとイカゼはバロックワークスの社長を倒すつもりでいたが、そこまで深く関わる気のないナミは断固としてそれを拒否する。

 えーと不満の声が上がるが、命を狙われる可能性が高い以上ナミは決してこの件に深入りするつもりはなかった。

 

「じゃあよ、その黒幕って誰なんだ?」

 

 ルフィが余計な一言をビビに問いかけるまでは。

 

社長(ボス)の正体!? それだけは聞かない方がいいわ! 社長の正体を知ってしまったらあなたたちは絶対に命を狙われる!」

 

「えー、でもおれ気になるぞ」

「右に同じく」

「そうだそうだー」

 

 何故か無性に嫌な予感がしたナミが三人の口を封じようと動き出したが……残念封じるべきはビビの口だった。

 

「あなたたちが強いことは認めるけど、それでも絶対にアイツには勝てない───王下七武海の一人、クロコダイルには!」

 

 こうして、麦わらの一味はアラバスタ王国とバロックワークスの因縁に巻き込まれることが決定した。

 当然、この場にいたメンバーの顔は上空で監視していたアンラッキーズと呼ばれるバロックワークスの手の者により、社長ことクロコダイルに報告されることとなる。

 

 

 

 

 

 

 イガラムの決死の覚悟を見届け、爆睡するウソップとサンジを引き摺って記録が指し示す次の島へ船を出したルフィたち。

 ウソップとサンジは何が何だか分からないと文句を溢していたが、話が進まないからとナミの拳骨で黙らされている。

 

「あれだけ手が早いとすぐにでも追手が来そうだな」

 

「名前知られたくらいで大袈裟だね」

 

「国を乗っ取ろうってんだ、それだけ慎重に動いてるってことだろ」

 

 ビビ曰くウイスキーピークのようなバロックワークスの息がかかった町がこの付近に点在しているため、組織の規模と抱えた秘密を考えれば千人の追手が来てもおかしくはないとのこと。

 ウイスキーピークで百人斬りを成し遂げたゾロだが、地上ならまだしも海上でその十倍の数を相手取るのは厳しいかと嘆息する。

 

「そうだイカゼ、あの時の勝負はおれの勝ちでいいんだよな?」

 

 煽るような笑みを浮かべるゾロに一瞬何のことかと首を傾げたイカゼだったが、そう言えばイガラムたちと戦う前に先に酒場についた方が勝ちという内容で勝負をしていたなと思い出す。

 戻ろうとしていた直後にナミたちと合流して結局戻れずじまいだったが、ゾロは抜け目なく戻ってから合流していたらしい。

 

「仕方ないな、それでいいよ」

 

 肩を竦めて負けを認めれば、満足そうな顔でゾロは腰を下ろし刀の手入れを始める。

 ローグタウンで購入したであろう二振りの内の一つにイカゼがふと懐かしい気配を感じた時、甲板に人影が姿を現す。

 

「誰よあんた!?」

 

 ナミの驚愕の声と共に振り返れば、そこには2階の柵に腰掛けるテンガロンハットを被る黒髪の女が一人。

 ビビからミス・オールサンデーと呼ばれた彼女は、話を聞くに社長───Mr.0(クロコダイル)のパートナーらしい。

 

「……へぇ」

 

 悪くない、とイカゼは目を細める。

 たった一人でこの船に乗り込んできた胆力、一味に囲まれても焦り一つ見せない泰然自若とした振る舞い、そして何よりも……数多の修羅場を潜り抜けて来たであろう血の匂いがイカゼの本能を刺激していた。

 

「私たちに命を狙われる王女を拾ったあなた達も、こんな少数海賊に護衛される王女のことも不運だと思っていたけれど───」

 

 ミス・オールサンデーの視線がイカゼを捉える。

 

「Mr.5との戦い見させて貰ったわ。すごく強いのね、あなた」

 

「そりゃどうも。おたくのボスは俺よりも強いの?」

 

「ふふ。あの時のあなたよりは断然、と答えておこうかしら」

 

「…………いいね」

 

 全力でなかったことを見抜かれつつ、あのくらいじゃ勝てないと発破をかけられたイカゼの口端が釣り上がる。

 俄然楽しみになって来たと闘志を燃やしていくイカゼに満足したのか、ミス・オールサンデーはぽいっとビビに何かを投げ渡す。

 

「それはアラバスタの一つ手前にある島の永久指針(エターナルポース)、ウチの社員も知らない航路だから追手も来ない……それがあればすぐにでもクロコダイルの下へ向かえるわ」

 

 その言葉にビビが驚愕する。

 事実ならこれ以上の贈り物はないが、相手はクロコダイルのパートナーのため自分たちを嵌めるための罠かもしれない。

 迷い揺れるビビだったが、真横から伸ばされた手が永久指針を奪い取る。

 

「いい奴なのか罠なのか、そんなのどっちだっていい」

 

 永久指針を手中に収めたルフィは一切の迷いなくそれを握り潰す。

 

「この船の進路をお前が決めるなよ!」

 

 どうしてと目を見張るビビだが、同じく命を狙われる立場のゾロとイカゼはルフィらしいなと笑みを浮かべていた。

 

「……そう、残念」

 

 ミス・オールサンデーはこうなると分かっていたのか相変わらず余裕そうな態度を崩さずに、それなら話は終わりだと柵から降りて立ち上がる。

 

「あなた達の記録指針が示す土地の名はリトルガーデン、とても危険な土地よ。アラバスタへ辿り着けずクロコダイルの姿を見ることすらなく全滅するかもね」

 

「うるせぇ! ちくわのおっさんを爆破するし船の進路を勝手に決めようとするし、おれお前のこと嫌いだ!」

 

「私は威勢のいい奴は嫌いじゃないわ。生きてたらまた逢いましょう、モンキー・D・ルフィ」

 

 意味深にその名を呟きながら、ミス・オールサンデーは花のようにメリー号から消えていった。

 

 ちなみにこの後、折角の永久指針を壊したルフィは憤怒の形相のナミから大目玉を食らい、飯抜きの刑を言い渡され地獄を見る羽目になるのだった。

 

 

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