麦わらと夜兎   作:人参腎

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10 巨人が棲む島

 

 

 ジャングル生い茂る秘境の地、リトルガーデン。

 ミス・オールサンデーに全滅を示唆され慎重な行動を心掛けようとするナミとウソップを他所に、未知の生物たちに冒険心を刺激されたルフィはビビを連れ島の散策に飛び出してまい、続くようにゾロとサンジも口喧嘩の末に狩り勝負を始め島に乗り込んで行ってしまった。

 

「よし、それじゃ俺も行ってこようかな」

「「待て待て待て!」」

 

 陽射しが強いこともあり両腕だけではなく顔にも包帯を巻いていて出遅れたイカゼは、準備は終わったと番傘片手に船を飛び降りようとした所をナミとウソップに引き留められる。

 

「イカゼが船に残るならいいかと思ってあいつ等のこと好きにさせてたのに」

「あんたが行っちゃったら意味ないでしょうが!」

 

 ナミが行く手を阻むように回り込み、ウソップが縋り付く様に腰に手を回す。

 二人が文句も溢さずに見送るなんて珍しいなと考えていた矢先にこれだ。

 元々出歩く気満々だったイカゼは包帯で隠れ目元しか見えないものの、すごくイヤそうな雰囲気を晒しながら二人を見ていた。

 

「オールマンデーと別れてから俺この島に来るの楽しみにしてたんだけど」

 

「オールサンデーな。聞いただけで死者が出そうな物騒な名前にするなよ」

 

 ミス・オールサンデーをして危険と言わしめた島だ。

 到着する前から期待に胸を膨らませていたイカゼからしてみれば船に留まるなんてとても容認出来ない。

 引き摺ってでも行くけど、と強行突破の構えを示すイカゼに、まさかここまで乗り気だとは思わなかったとナミが嘆息しそれならと妥協案を提示する。

 

「イカゼは私たちが助けてって言ったらすぐに駆け付けられる程度の距離で周囲の探索をお願い。30分経ったら一度船に戻って来て報告、その後は冒険でも狩りでも好きにしていいわよ」

 

「……りょーかい。全くうちの航海士さんは人使いが荒いなぁ」

 

 やれやれと嘆息し船から飛び降りるイカゼ。

 普段差してる番傘は包帯と陽射しを覆うように伸びるジャングルのお陰で腰の帯に収められており、初めて見るその姿にウソップは感心したように言葉を漏らす。

 

「ローグタウンで包帯なんて買い込んで何に使うのかと思ってたが、そのなりである程度陽射しを防げるなら確かに便利だな」

 

 目付きが超怖いけど、と苦言を溢しつつ言えばイカゼも自覚してるのか笑って受け入れている。

 ナミは不便な体質よねぇ、と改めて太陽の下を歩けないというその不自由さに同情していた。

 

「もう慣れたもんだよ。一先ず最優先は現地人の捜索でいいの?」

 

「そうね、話が通じるならログがどのくらいで溜まるのか聞きたいから」

 

「それじゃ軽くこの辺り回って来るから、何かあったら叫んでよ」

 

 十秒くらいで戻れると思う、そう言葉を残し木々を伝いながら密林の奥地へと消えていくイカゼ。

 その姿を見送りながらナミとウソップは二人きりの船のなんと頼りないことかと実感しつつ、あちこちで響き渡る轟音にルフィたちは無事だろうかと暇つぶしも兼ねて会話を始める。

 

「特にゾロだよ、あいつこの船に帰って来れんのか?」

 

「特級の方向音痴だものね……まぁアイツがこの辺の猛獣たちに負けるとは思えないし何とかなるわよ」

 

 私はそれよりもルフィと一緒にいるビビが心配よ、と言葉を続ければ、ウソップの脳裏に気分転換したいからと言ってルフィに着いていったわんぱく王女の姿が過ぎる。

 

「敵の会社に潜入するだけあって度胸あるよなぁ……戦闘面は確かに心配だがルフィもいるし大丈夫だろ」

 

「あのねぇ……私が心配してるのは、そのルフィの起こした騒ぎに巻き込まれて無事でいられるかってことよ」

 

「そりゃお前…………心配だな」

 

「でしょ?」

 

 行く先々で何故か事件の中心にいるルフィだ、今回の冒険も静かに終えられるとは思ってない二人は、そんなルフィと一緒に行動をするビビを思い冷や汗を垂らす。

 今の一味の目的はビビを故郷まで無事に送り届けること、まだまだ始まったばかりの旅なのに早速暗雲が漂い始めて来たことを二人は予感する。

 

「ウソップはいいわよね、ウイスキーピークでサンジくんと潰れてたからバロックワークスの抹殺リストに入ってないんだもの」

 

「ああ……確かお前ら四人は顔が割れてるんだっけ?」

 

「ビビが口を滑らせちゃったお陰でね」

 

 なのにあいつ等と来たら何で呑気に冒険なんて出来るのかしら、と文句を言いつつ、それでもビビとの約束を破ろうとは考えないナミの姿勢にウソップは好感を覚える。

 やるときはやる女だからなナミは、と内心で頷いていると、ふと自分たちを覆う影の存在に気づかされる。

 お互いに話を止め恐る恐る顔を上げてみれば、そこには密林を遥かに超える巨体を持つ恐竜の姿があった。

 

「「…………」」

 

 猛獣珍獣の騒ぎではない古代の生物に二人が絶句して言葉を失うのも無理はない。

 あんなものがメリー号に気づいてしまえば、足を一歩動かすだけでこの船は軽々と海の藻屑になるのは明白。

 しかし抵抗する手段など持つはずもない二人は、自分たちの気配を最大限絶ってその恐竜が過ぎ去るのを待っていることしか出来なかった。

 

「おー、でっかい恐竜」

 

 お願いしますお願いしますと二人が全身全霊で祈りを捧げていると、聞き覚えのある声が二人の耳に届く。

 嫌な予感を抱きつつ壊れた玩具のように顔を上げれば、見慣れた番傘を持つ包帯男が大樹の頂点に立っていた。

 

 あ、終わった、と二人が確信するのと同時───

 

「ガバババババ!」

「───ッ!?」

 

 恐竜の背後で刃が煌めき、瞬きする間もなくその首が宙を舞う。

 そして振るい抜かれた一撃は勢いを止めることなく恐竜と相対していたイカゼの下まで到達し、咄嗟に刃と体の間に番傘を差し込み直撃は免れたが衝撃は殺すことが出来ず、イカゼは密林を巻き込みながら彼方まで吹き飛ばされた。

 

「む? 何か巻き込んでしまったか?」

 

 軽々と言葉を溢すのは、先ほどの恐竜と同等の体躯を誇る巨人。

 その手に持つのは所々刃が欠けている年季の入った戦斧(バトルアックス)

 微かな違和感を感じ首を傾げるその巨人は、ふと視界に入った船───その上にいるナミとウソップを見つけ喜色に染まった笑みを浮かべる。

 

「ちょうどいいところに来たな客人よ。酒は持っているか? 肉が取れたからもてなすぞ」

 

 エルバフの戦士、赤鬼のブロギー。

 後にそう名乗りを上げる巨人と、ナミとウソップは出会った。

 

 

 

 

 

 

「───ビックリしたー、凄い力だったなあの巨人」

 

 数多の木々を倒壊させて岩盤に叩きつけられたイカゼは、未だに痺れの残る右手を見ながら上体を起こす。

 恐竜だろうと巨人だろうと力で押し負けることはないと高を括っていたらこの様だが、それでも肉体も番傘も支障ない程度の傷で済んだのは偏にあの巨人が本気を出していなかったからだろう。

 本気だったなら今頃自分の肉体は上下に別たれ命はなかったはずだ、そう思わせるほどの底知れなさをイカゼは感じていた。

 

「随分遠くまで飛ばされてる……ナミとの約束は守れそうにないな」

 

 目印にしていた大樹が遥か遠くにあるのを見て、二人は無事だろうかと服の汚れを払いながら立ち上がる。

 一合受けただけだがあの巨人からは悪い雰囲気を感じなかったし、ナミとウソップも自分から手を出す性格ではないから大事にはならないだろうと予想するが、万が一を考えれば早急に二人の下へ戻った方がいいのは明白だ。

 何より、とイカゼは薙ぎ倒された木々の数々を見て獰猛な笑みを浮かべる。

 

「一回は一回だ。やり返させて貰おうか、斧巨人」

 

 故意だろうと過失だろうとやられたからにはやり返す。

 痺れが取れた右手の感覚を確かめるように握り込むと、遠くに見える活火山の噴火を合図に疾風の如くイカゼは密林を駆け抜ける。

 

「ん? もう一体いたんだ」

 

 薄らと見える目的の巨人の影を追いかけていると、そのすぐ傍に剣を構える巨人の姿があった。

 仲間かと考えたが、直後に互いの得物を打ち合い始めた様子を見るにそうでもないらしい。

 

「ハハッ、豪快だなあ」

 

 空を裂き、大地を砕き、天の果てまで轟くような巨人たちの決闘を見てイカゼは破顔する。

 先ほどイカゼが受けた虫を払うような軽いものではなく、相手の命を奪い戦いに勝つことだけを考えた全霊の一撃は、その余波だけでイカゼの闘争心を刺激し湧き上がらせた。

 

「期待以上だ、リトルガーデン」

 

 ミス・オールサンデーの言葉は真実だった。

 あの巨人たちを敵に回せば麦わらの一味は大打撃を受け、最悪の場合その冒険はここで途切れることになるだろう。

 彼らの機嫌を損ねてはならない、それを一味の船員(クルー)として頭の隅では理解しつつも、イカゼは番傘を振り上げることを止めれなかった。

 

「む、これは───」

「───随分と懐かしい気配だ」

 

 戦いを終えた自分たちの前に現れた影を見て、痛みと疲労に塗れながらも巨人たちは愉しそうに笑ってその乱入者を迎え入れる。

 

「ガバババ! 下がれドリー、おれの客人だ!」

「ゲギャギャギャ! いいぞ客人、やってしまえ!」

 

 その矛先が自分に向いていると察知したブロギーが迎え撃つように斧を振りかぶる。

 ドリーと呼ばれた巨人は、乱入者に敵意がなくただひたすら闘志に満ちたその気配に戦士の誇りを刺激され、彼が傷を負ったブロギーに遠慮しないようにと発破をかける。

 

「せりゃああああああ!!」

「雷鳴八卦───!」

 

 戦斧と番傘が激突し、轟音がリトルガーデンを駆け巡る。

 拮抗する二人の姿にドリーは黒い稲妻を見たような気がした。

 

 

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