麦わらと夜兎   作:人参腎

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13 医者探し

 

 

 リトルガーデンを発ちいざアラバスタ王国へ、という所で航海の要であるナミが異常な発熱に苛まれたことで、麦わらの一味は医者を探すべく航路変更を余儀なくされることとなった。

 既に反乱の狼煙が上がりつつある故郷を想えば一刻も早くアラバスタへ向かいたいであろうビビも、ナミの病気を治すことがこの船の最高速度だと自身を納得させ日夜島の捜索に目を光らせており、その姿に改めて彼らはビビの強さと覚悟を目の当たりにし彼女の思いに報いようと各々が出来得る限りの力で医者の捜索に励んだ。

 

 そんな彼らの思いが通じたのか、メリー号が辿り着いたのは冬島と呼ばれる雪が降り積もる白銀の大地。

 道中で謎の集団に襲撃されたり国の住民たちから手荒い歓迎を受けたものの、ビビの計らいもあって麦わらの一味はナミの治療のために無事冬島へ上陸することが出来た。

 

「なんだか懐かしい気分だ」

「クエー?」

 

 メリー号の甲板でしんしんと降り注ぐ粉雪を見上げながら呟くイカゼに、寒さから開かれた番傘の中で身を縮こまらせていたカルーが何事かと首を傾げる。

 

 島に上陸したのはイカゼとカルーを除くメンバーで二人は万が一を考えメリー号の警邏を買って出たものの、その実イカゼはこの雪景色に思うところがあって一人で考えをまとめたかったという背景がある。

 ちなみにカルーは臆病風に吹かれたのと単純に寒いのが苦手だからという理由。

 

「この船に乗ってから少しずつ思い出して来たことがあるんだよね」

 

 周囲の安全も確保して他にやることもないから、とイカゼは思考を整理するようにポツポツと胸の内を吐き出していく。

 

 未だに記憶の大半は靄がかかったように思い出せない状態ではあるが、子供の頃から相も変わらず戦いに明け暮れていたこと、昔は自分も雪の降る場所で暮らしていたこと、そこで顔も名前も思い出せない一人の男に出会って敗北したこと。

 

 傍らでイカゼの話に耳を傾けるカルーは難しいと言わんばかりに頭を捻っているが、元より解決策を求めていた訳ではなかったイカゼはそんなカルーの姿に笑みを溢し甲板に腰を下ろす。

 

「別に昔のことなんて思い出せなくてもいいかなって思ってたんだけど……」

 

 夢に出てくる過去の記憶は、そのどれもが自身の根幹を成すほどの重要な断片ばかり。

 今の自分では持ち得ない力への執着、完膚なきまでの敗北、そして師という得難い存在。

 昔の自分はどういう人間だったんだろう、そんな興味がイカゼの中で膨れ上がっていくのは道理だった。

 

「……ま、のんびり探していけばいいや」

 

 何処か懐かしいこの景色を視界に収めていれば何か思い出せるものもあるかもしれない、そんな打算あっての船番だったが何事も思い通りに事は進まないものである。

 

「銃声……?」

 

 こんなことなら俺もルフィたちについていけばよかったかな、そんな後悔が僅かに胸中に燻って来たところに発砲音が鳴り響く。

 熊でも出たのかな、と対岸へ視線を向けてみれば見覚えのある船とワポルと呼ばれていたバケツ顎率いる何時ぞやの集団がそこにはいた。

 

「物騒なことしてるねぇ」

 

 彼らの足元には先ほど自分たちを手荒く歓迎してくれたこの国の住民たちが転がっており、イカゼ個人としては仲間に手を出された以上助ける義理など毛頭ないのだが如何せん今は仲間の命に係わる一大事の真っ只中、麦わらの一味の船員としてはこのまま見過ごす訳にも行かないのが現状である。

 

「しょうがない、船長に代わって今回は俺がぶっ飛ばすことにしようか」

 

「───チェス様、クロマーリモ様! 甲板に人影を確認しました!!」

「「撃ち殺せ」」

 

 どうやら向こうもイカゼたちに気づいたらしく、先の一件の恨みを晴らすべく幹部と思わしき二人と数十の兵士たちがメリー号へと押し寄せてくる。

 とても一人と一匹では抑え切れないその光景に震え上がるカルーとは対照的にイカゼの表情に恐怖は皆無、むしろ笑顔すら携える余裕を見せたイカゼがカルーに預けていた番傘を手に甲板から跳躍し兵士たちの前に躍り出て───

 

「食料置いてけ」

 

 ───小腹を満たすための蹂躙が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 ラパーンと彼らが起こした雪崩による妨害を乗り越えてどうにかドラムロックを踏破したルフィ一行。

 その代償としてルフィは全身凍傷、サンジはアバラと背骨にヒビが入った重体となったが、頂上に居を構えていたDr.くれはと悪魔の実を食べた人間トナカイことトニートニー・チョッパーの迅速かつ適切な治療によりナミと共に事なきを得て早数時間。

 

 目覚めたナミはここまで運んできてくれたルフィとサンジに心の中で感謝しつつ、Dr.くれはから完治までにはまだ数日かかることを聞かされ嘆息していた。

 

「あと三日もかかるなんて……そんな時間、ビビにはないって言うのに」

 

 高熱にうなされながらも薄っすらと覚えている記憶ではビビは自分のために血を流してまでもこの場所に連れて来てくれた、その献身に報いるためには一秒でも早くビビをアラバスタに届けなければならないのに完治していない病がドクターストップと共に邪魔をする。

 いっそのことこのまま抜け出してしまおうかとも考えるナミだったが、ふと医者が目の前にいるなら、と脳裏に過ぎった仲間(イカゼ)の姿に話題を変えるという意味も含めDr.くれはへ問いかけた。

 

「ねぇドクトリーヌ、太陽に弱い種族か病気に心当たりってある?」

 

「なんだいそりゃ───」

 

 医術に造詣が深いDr.くれはなら何かしっているかもしれない、そんな期待も込めてイカゼの体質について分かる限りの説明を終えたナミに、途中から笑みを消して真顔でその話を聞いていたDr.くれはは机の上に置いてあったサングラスをかけ直し解を投げる。

 

「───心当たりがあるかと言われれば……あるさね」

 

「ホントに!?」

 

 まさか本当に知っているとは思ってもみなかったナミの表情が驚愕と歓喜に染まる。

 もしかしたらイカゼの不憫な体質もここで治してもらえるかもしれない、そんな淡い期待を瞳に宿しながら続きを促すナミにDr.くれはは表情を変えないまま言葉を続ける。

 

「本当だとも。だけど今のお前には……お前たちには到底話せないよ」

 

「な、何でよ!?」

 

「それならお前たち、世界と戦う(・・・・・)覚悟は出来てんのかい?」

 

「ッ……!」

 

 ゾッとするような鋭い視線に射貫かれてナミの表情が一変する。

 窓でも開けたかのように吹き荒ぶ冷気を幻視するも、しかしその雰囲気も一瞬で霧散してサングラスを取ったDr.くれはは先ほどのような胡散臭い笑みと飄々とした態度で唖然とするナミの額を小突く。

 

「医者の言うことも満足に聞けない小娘には早いってことさ、分かったら大人しくそこで寝てるんだね」

 

「───……って、ちょっとドクトリーヌ!」

 

 ヒッヒッヒッと部屋を後にするDr.くれはを呼び止めようとするも時既に遅し、拒絶するように閉められた扉に弱々しく手を伸ばすナミだが、その脳裏には先ほどのDr.くれはからの言葉が染みついて離れなかった。

 

「世界と戦う覚悟ってどういうことよ……」

 

 気軽に問いかけた疑問に帰って来た余りにも重すぎる回答。

 ただでさえ完治するまで逃がさないと言われているのに熱がぶり返して来たかのような感覚に額に手を添えたナミは、一先ず後で考えようと湧き上がって来る睡魔に身を委ねることにして───

 

「ギャー! 助けてくれェ!!」

 

「待て肉!」

「まだ食うなルフィ!」

 

 轟音と共に扉を蹴破って来たバカたちに大きく嘆息したのも束の間。

 

「おのれ麦わらの一味ぃいいいいいいいいい!!」

 

 どういう訳かメリー号が停泊している方角から飛んできて城の外壁に激突した乱入者(ワポル)に、また問題事かとナミは頭痛のしてきた額を押さえながら現実逃避するように眠りに就くのだった。

 

 

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