麦わらと夜兎   作:人参腎

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14 世話ないよ

 

 

 ワポルが帰って来たことを部下から知らされ二度とこの国を滅茶苦茶にさせないと刺し違える覚悟で駆け付けたドルトンの視界に映ったのは、気絶したワポルの兵士たちとかつての同僚(チェスとクロマーリモ)が積み上げられた人間タワーの頂上で腰を下ろすイカゼの姿だった。

 

「お前なぁ……なんでもかんでもぶっ飛ばせばいいってもんじゃねェんだぞ?」

 

「正当防衛だよ。それにほら、こんなに食料手に入ったし」

 

「だから結果オーライってか? あそこにはルフィたちが向かってるってのによ……」

 

「おれも船番しとけば良かったぜ」

「Mr.ブシドー……?」

 

 話に聞くと麦わらの一味とワポルたちはこの国に上陸するまでに一度関わりがあったらしく、その借りを返すべく襲い掛かって来たワポルたちを船に残っていたイカゼが一蹴。

 当のワポルは城に行きたがってたからとイカゼに投げ飛ばされたらしいが、果たして悪魔の実の能力者でもないただの人間がここからドラムロックの頂まであの巨体を投げ飛ばせるものなのだろうか、少なくとも動物系の能力者で身体能力が引き上げられた自分でも不可能だとドルトンは半ば思考を放棄しながら彼らのやり取りを見守っていた。

 

「それにしても医者が一人しかいないなんてこの国も大変だね」

 

「そうなんだよ、しかもあり得ない規模の雪崩まで起きるしよぉ……ルフィたちは無事に辿り着いてんのか?」

 

「心配なら見に行けばいいんじゃない?」

 

「眉コックもいるし問題ねェよ……お、酒もあんじゃねェか、貰ってくぜイカゼ」

 

 ワポルの船の食糧庫から拝借した保存食を頬張るイカゼとその傍らで雪見酒を始めるゾロを呆れたように眺めながら、ウソップはワポルに食べられた船の修理をすべく板材片手にメリー号へと帰っていき、ビビは心配そうな視線をドラムロックに向けつつも今の自分に出来ることをしようと負傷した住民たちの手当てへと勤しんでいる。

 

「……こんな海賊たちもいるのだな」

 

 かつてのドラム王国を滅ぼした黒ひげと名乗る海賊たちや、国と民を捨て海賊として平然と略奪行為に手を染めるワポルたち。

 ドルトンの目にしてきた海賊たちは誰もがろくでもない人間たちばかりだったが、ルフィたちのような変わり者の海賊もこの海にはいるのだと認識を改めた。

 

「む、そう言えば……」

 

 ふと、ドルトンの脳裏に先日この国に訪れた旅人の姿が過ぎる。

 どこから上陸したのかは定かではないが、どうやら黒ひげを追っているとのことで既に黒ひげがこの国にいないことを知ると足早に去って行ったものの、その際に部下に伝言を残しておりドルトンの耳にもその内容は入っていた。

 

『もしも麦わら帽子を被った海賊が来たら伝えてくれ───』

 

 麦わら帽子を被った海賊、それはドルトンの知る限りではルフィ以外にはおらず、その言葉から間もなくルフィたちがこの国に上陸したことを加味すれば彼の旅人の言っていた海賊がルフィであることは明白。

 彼は自身の名前とその行く先をルフィに伝えてくれと頼んでいた様子だったが、ルフィがこの場にいない以上はその内容を伝えるのは事が済んだ後の方がいいだろう。

 しかし、その旅人───エースが残していった言葉はそれだけではない。

 

『───それともう一人、菫色の番傘を持った男を見てねェか?』

 

 友だちの頼みで探してるんだ、住民たちにそう聞き回っていたエースの姿を思い返し、わざわざ遠く離れた自分の下にまで直接訪れて問いかけてきたことが印象に残っている。

 黒ひげと麦わら帽子を被った海賊のこととはまた別件なのだろうだと考えていたドルトンだったが、今目の前にいるイカゼはエースの探している人物と特徴が一致しており、ルフィと共にやって来たこともありとても無関係だとはドルトンにはとても思えなかった。

 

「すまない君たち、エースという───」

 

 やはり忘れる前に聞いておいた方がいいか、そう考えて言葉をかけようとした矢先にドラムロックの頂上から爆発音が響き渡る。

 恐らくワポルが起こしたものだろう、そう推察した一同が作業を中断しドラムロックへ向かう判断を下したことと、これ以降は事件の後処理や怪我人の搬送、そしてDr.くれはの指示によって諸々の準備をしていたこともあってドルトンの言葉は終ぞ彼らに届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 新たな仲間にして待望の船医、チョッパーを仲間に加えた麦わらの一味は、Dr.くれはがバカ息子の門出を祝って打ち上げた満開の桜吹雪を背にしながら歓迎の宴に興じていた。

 

「おいルフィ! それはおれがナミさんとビビちゃんに丹精込めて作ったスペシャルデザートだ!!」

 

「ちょっと待てサンジ! こっちに蹴り飛ばすんじゃブボォ!!」

 

「おーい、つまみが足りねェぞヘボコック」

 

「あんなことがあったのにホントに元気ねェ、男どもは」

 

 わいわいがやがやと、皿と瓶と人が飛び交う盛大が過ぎる宴の中に、しかし当の主役のチョッパーの姿はなく、加えてビビとイカゼの姿もない。

 では三人が今何処にいるのかと言えば、それはチョッパーの持ってきた荷物をある程度整理して出来上がったメリー号の船医室の中。

 ナミの病が解決しアラバスタを目前に控えた今、砂の王国と呼ばれるほどの灼熱の大地はイカゼの体質を考えれば天敵に等しく、Dr.くれはが医術の全てを叩き込んだというチョッパーならば何か負担を和らげる術を知らないか、ということで急遽イカゼがビビに呼び出されたことが事の発端。

 

「多分アレルギーの一種だとは思うんだけど……ごめん、おれも見たことも聞いたこともない症状だ」

 

「そう、トニーくんでも……」

 

 イカゼは麦わらの一味の主力の一人で、相手が七武海の一角であることも加味すれば万全の状態で戦いに臨みたいと思うのは必然。

 これまでの航海でイカゼにとって太陽という存在がどれだけの猛威を振るうのか理解しているビビは、大きなデメリットを負ってクロコダイルたちに挑むことになるイカゼにまるで自分のことのように悔しさを露わにしていた。

 チョッパーはまだ一味に加入したばかりなためビビの境遇を詳しく知らず話についていけない面も見受けられたが、一人の医者という視点で見ればイカゼの体質が話に聞いただけでも異常だと言うことだけはよく分かる。

 

「大袈裟だなぁ、こんなの上から包帯巻いてれば問題ないって」

 

 しかし当のイカゼからしてみればこの体質は目覚めた時から備わっていたものであり、本人からしてみればもう慣れたものでもあるため二人ほどの危機感は抱いていない。

 ローグタウンで買い溜めておいた包帯は余すことなく使い切ってしまったが、ドルトンたちからワポルの一件のお礼として少なからず譲って貰えたことと、最悪の場合は現地で買って補充すればいいのでイカゼとしては無問題だ。

 

「自分のことは自分でどうとでも出来るからさ、君はクロコダイルをぶっ飛ばした後のことでも考えておきなよ」

 

「イカゼさん……」

 

 暗に自分たちが負けることはないと断言しつつも、しかしビビの表情から不安が晴れることはない。

 例え反乱を止めクロコダイルを倒し国を救ったとしても、ビビからしてみればそこに仲間たちの姿がなければ救えなかったことと同義なのだから当然だろう。

 今や麦わらの一味はビビにとって家族も同然の存在で、だからこそ彼女はこの戦いで国民たちが傷つくのと同じかそれ以上に仲間を傷つけ失うことを恐れている。

 

「……」

 

 そうして俯くビビにイカゼは含みを持った視線を向けるも、すぐに普段通りの笑顔を浮かべると診察してくれたチョッパーにお礼を言って船医室を後にする。

 

「一人で戦ってちゃ世話ないよ」

 

 自分たちが傷つくのを恐れる癖に自分が傷つくことは何とも思っていない。

 ビビが麦わらの一味を大事に思っているのならば逆もまた然り、そんな簡単なことも分からないビビに呆れればいいのかそれが分からないほどに追い詰められている事態を嘆けばいいのか。

 

「……何にしても、それは俺の役目じゃないし」

 

『おたくのボスは俺よりも強いの?』

『あの時のあなたよりは断然』

 

 ミス・オールサンデーの言葉を思い返してイカゼは笑う。

 相手は圧倒的な強さと知名度から任命されるという王下七武海の一人、この戦いの黒幕には相応しい不足のない相手だ。

 

「俺はただ敵を倒す───強い奴が相手だって言うなら大歓迎だよ」

 

 それが麦わらの一味の戦闘員としての己の役割。

 船員のメンタルケアは船長にでも任せて置けばいいだろう。

 

「おーいイカゼ! お前も一緒に飯食おうぜ!!」

 

「一緒にって、俺の分全然残ってないじゃん」

 

 アラバスタは目の前だ。

 

 

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