麦わらと夜兎   作:人参腎

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18 孤立

 

 

「───スモーカーさん、どうするんですか?」

 

 レインベースにある貸し切った飲食店の一室で、かれこれ一時間近く煙草を吹かしながら考え込む上司(スモーカー)に痺れを切らしたたしぎが問いかける。

 ローグタウンで麦わらの一味を取り逃しそれを追いかけるべく偉大なる航路に入ったスモーカー率いる海軍は、先日ナノハナでついに麦わらの一味を捕捉し今度こそはと捕縛にかかったが寸前のところで思わぬ人物からの妨害を受けまたしても取り逃す羽目になってしまった。

 

 そんな彼らがここレインベースを訪れているのは、ナノハナで麦わらの一味と共に行動をしていたアラバスタの王女(ビビ)を見かけたスモーカーが長年の海兵としての勘がこの国には何か裏があると考えたことと、事前に報告を受けていた犯罪組織と繋がっている疑いがあるクロコダイルの身辺を調査するため。

 元々七武海制度に懐疑的で反対の意を示していたスモーカーは、どれだけ政府から信頼を勝ち取ろうと海賊は所詮海賊と言うスタンスを崩さず、クロコダイルの決定的な証拠を掴んだその時は麦わら共々この国で捕える心持ちだった。

 

 しかしそんなスモーカーの考えを見透かしたかのように、クロコダイルが昨晩スモーカーとたしぎの前に突然来訪したことで事態は一変する。

 

『明日、ここレインベースに麦わらの一味が失踪していたビビ王女を連れてやってくる。おれは七武海の一人として仕事を全うするつもりだが……お前はどうする? スモーカー大佐』

 

 情報元は不明だが確信を持っているかのようなその言葉にスモーカーは眉を顰めざるを得ない。

 本来であれば海賊がおれに指図するなと問答無用で突き返していたスモーカーだが、あくまでも自分は王下七武海(政府側の人間)としてここにいると言わんばかりのクロコダイルに、元より麦わらを追ってこの国にやって来たスモーカー(海兵)がその言葉に異を唱えることなど出来るはずもなく、麦わらは(・・・・)おれの獲物だと反論することが精々だった。

 

 それから一夜明け、部下たちをレインベースの各地に配置させながらも未だに自身は動こうとしないスモーカーに、成り行きを見守っていたたしぎが一石を投じたのが事の発端。

 

「麦わらたちはここで捕え、ビビ王女をアルバーナへ連れ帰る───クロコダイルを探るのはその後からでも遅くないんじゃないですか?」

 

 結論から言うと反乱軍の存在を考えればそれでは遅すぎるのだが、そんなことを知る由もないたしぎはまずは目の前の悪を捕えるのが先決だとスモーカーを見据える。

 

「…………市民の避難を済ませておけ」

「はい!」

 

 ここで手をこまねいていても仕方ないと言うのは事実でもあったため、たしぎの言葉を受けたスモーカーは煙草を吸い殻に押し付けて愛用の十手を手に立ち上がる。

 そもそもクロコダイルに麦わらを横取りされてしまえば何のためにこの偉大なる航路に来たのかも分からない、と揺れる己を心の中で無理やり納得させながら。

 

 

 

「クハハ」

 

 そんな彼らを見て愉快だと言わんばかりに嗤うクロコダイルに気づかないまま。

 

 

 

 

 

 

 オアシスを掘り当ててトトから涙ながらに感謝された麦わらの一味は、クロコダイルをぶっ飛ばしたいルフィと反乱を止めたいビビとで一悶着あったものの、ルフィがビビの本心を引き出し無事クロコダイルを倒す方に決定したことで反乱軍のいるカトレアではなくクロコダイルが拠点にしていると言うレインベースへと足を運んでいた。

 

「あー、ユバの水が沁み渡る……これなしで一日かけて砂漠を渡ってたかもしれないなんて考えたくもねェよ」

 

「夜中に起こされたのはいい迷惑だったけど、それを差し引いても大手柄よね」

 

 よくやったわと満タンまで補充した水筒を手に親指を立てるナミに、おじさんとルフィが下地を用意してくれたお陰だよとイカゼは苦笑する。

 その言葉の通りイカゼが起きた時には既に砂が湿るほどの地層まで穴が掘られていたし、それを成したのは砂嵐に負けず砂を掘り続けたトトの執念の賜物だろう。

 イカゼはただそれを参考に周囲の砂を掻き出して開いた空間に番傘を叩き込んだだけのこと。

 おじさんが諦めなかったお陰だね、とイカゼがトトに言った時は万感の思いを込めた感謝の言葉を告げられたしイカゼとしてはそれだけでも十分だったのだが、水もなしに砂漠を越えようとしていると知るや急遽全員分の水を用意してくれたのだから感謝してもしきれないのはむしろイカゼたちの方だった。

 

「イカゼさん、改めて本当にありがとう」

 

「はは、もうお礼は十分だって。それよりビビはこの戦いの後の自分の心配しといた方がいんじゃない?」

 

 お世話になった人が報われたことが余程嬉しかったのか、ユバを出立する前にも述べた言葉を繰り返すビビにイカゼは自身と先頭のルフィを指差して楽しそうに笑う。

 

「俺とルフィ、宮殿の食糧食べ尽くすつもりだけど……ちゃんと用意出来そう?」

 

『クロコダイルをぶっ飛ばしたら死ぬほどメシ食わせろよ!』

 

「イカゼさん……ええ、もちろん!」

 

 自分だけでなく仲間の命も懸けてクロコダイルとの戦いに臨む決意をしたビビだが、それは決して仲間の命を軽々しく扱うことと同義ではない。

 むしろ仲間なのだから傷ついてほしくないと強く思うし、死なせてしまうなんて以ての外だ。

 それでもみんなが命を懸けて戦ってくれると言うのだからビビはもう一人で戦おうとは思わないし、仲間と一緒に最後まで戦い抜くと左手の印に誓ったのだ。

 

 そしてその想いは当たり前のように戦いの後のことを語るルフィとイカゼの言葉からも分かるように、ここにいる全員が同じ気持ちだと悟ったビビは力強くその言葉に頷いてイカゼ共々ルフィの後に続いていく。

 

 

 

「───見えた! あれがレインベースよ!」

 

 それから日が沈み再び登り始めた頃、一同は遠目からでも豪華な装飾が施された建物が立ち並んでいるアラバスタ随一のギャンブルが盛んな町、レインベースへと辿り着いた。

 

「ビビ、ここにクロコダイルがいるんだな?」

 

「ええ。中心地にあるレインディナーズ、そこがクロコダイルの拠点よ……だけど、これは」

 

 夢の町と言われるほど普段から賑わい人並みで溢れかえっているレインベースは、しかしその名声に反するように喧騒はおろか人の姿すら見受けられない。

 こんなこと今まで一度もなかったと唖然とするビビにみんな店の中にいるんじゃねェかとルフィが楽観的に答えるが、とてもではないが今のレインベースはそんな雰囲気ではなかった。

 

「待ってたぜ、麦わら」

 

「げぇ!? ケムリン!」

 

 混乱する一同の前に姿を現したのは、ルフィを二度に渡り追い詰めた海軍本部大佐″白猟のスモーカー″。

 アラバスタに上陸していることはナノハナに足を運んだ時点で理解していたが、まさかレインベースまで来ているとは思いもしなかったとルフィが苦々しい表情を浮かべ後退る。

 未だにその白煙の能力を打破する術を持たず、加えて向こうには能力を封じる海楼石の十手があるのだからルフィ視点で見れば心底嫌そうに顔を歪ませるのも納得というものだ。

 

「既にレインベースは海軍が封鎖しました、大人しく捕まってビビ王女を解放することを勧めます」

 

「げぇ!? パクリ女!」

 

 副官のたしぎの言葉を受けて周囲を見回してみればその言葉の通り既に海兵たちが出入り口を固めるように配置されており、続々と建物の影から姿を現す増援の海兵が一味を逃がさないように取り囲んでいく。

 

「三度目の正直だ、今回ばかりは逃げられると思うなよ」

 

「どけよケムリン! おれたちはクロコダイルに用があるんだ!」

 

「奇遇だな、おれもあいつを調べてるところだ」

 

 詳しい話は牢の中で聞いてやる、と戦闘態勢を取るスモーカーに続くようにルフィたちも各々戦闘態勢に入るが、とてもではないがこんな場所で足止めを受けている場合ではないと判断したビビが事情を説明しようとスモーカーの前に躍り出ようとした、その時───

 

「きゃッ!」

「ビビ!?」

 

 突如として発生した巨大な砂嵐が、海賊も海兵も関係なく無差別に吹き荒れてレインベースを呑み込んでいく。

 

「こんな時に何だってんだよー!?」

「か、風が強すぎて立ってられない……!」

 

「チィ、どういうつもりだ!」

 

 まるで意思を持つかのようにルフィたちや周囲の建物を傷つけることなく天へ昇っていく砂嵐に、この場で唯一心当たりがあったスモーカーは自分たち(海軍)がやられるまでは麦わらには(・・・・・)手を出さないと言っていたクロコダイルの姿を思い返し彼が待機しているであろうレインディナーズを睨み付ける。

 

「お、収まった……?」

 

「ったく、幾ら砂の国っつっても限度があんだろ」

 

 やがて何事もなく空に消えていった砂嵐を見送って愚痴を溢すゾロに、ビビが私もこの規模の砂嵐は初めてと返そうとして───気づく。

 

「イカゼさん……?」

 

 砂嵐に連れていかれた仲間の姿に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正直驚いたよ、わざわざそっちから出向いてくれるなんてね」

 

「VIP待遇は不服か? 覇気使い」

 

「この程度なら興覚めかな」

 

「ハッ、減らず口を」

 

 レインベースから遠く離れた砂漠地帯の中心で、イカゼはただ一人クロコダイルと対峙していた。

 

 

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