麦わらと夜兎 作:人参腎
「──なるほど。じゃあ君はそのコックのご飯待ちきれなさに海獣に喧嘩売って、その果てに海に落ちて波に呑まれここに流れ着いたと」
「おう。死ぬかと思ったぞ」
「ハハハ、君って相当バカだね」
「ばっ……!」
自己紹介を終え、互いに腹の虫が鳴き出したのを切っ掛けに食事を一緒に取ることを提案したイカゼは、食事を終えた後にルフィに何故この島に流れ着いたのかその理由を聞き破顔した。嵐に巻き込まれたとか同郷の海賊に襲われたとか、そういったことを想像していたイカゼにとってルフィの話したことは腹を抱えて笑う程度には可笑しな話だった。
「これからその
「笑い過ぎだぞお前!」
「いやこんなの笑うなって方が無理だよ」
可笑しい可笑しいと腹を抱えるイカゼに不満顔を浮かべるルフィ。しかしイカゼに指摘され改めて考えてみると、イカゼの言ったことは否定のしようがない正論そのものだったので言葉を続けられず口を噤んでしまう。今頃ルフィの仲間は船長のバカな行いに怒りの形相で血眼になって周囲の島々を探し回っていることだろう。
自分たちの次の行き先はローグタウンという街で、そこで準備を終えてから
「ローグタウンねぇ」
「どんな街か知ってるのか?」
含みのあるイカゼの言葉にルフィが尋ねるが、イカゼは首を横に振り否定した。
「知らない。俺、この無人島で目を覚ました以前の記憶がないから。正直自分の名前以外のことは常識的な知識しか分からないよ」
「お前、記憶喪失なのか!?」
予想だにしなかった言葉にルフィの目が見開かれる。そんなルフィの反応にさして驚いた風でもなく頷いたイカゼは、自身がこの無人島で目を覚ました時の状況を淡々と語り始めた。
「気づけば俺はこの島にいた。自分の名前以外の記憶を全部忘れて、右も左も分からないままどれくらいの時間が経ったのか分からないけどこの島で生きてきた」
イカゼは傍らに置いてある番傘を手に取る。
「俺が持ってたものはこの傘一つ」
「傘?」
何で傘なんか持ってたんだと視線で問いかけるルフィに、イカゼは実際に見せた方が早いかと考えルフィを連れ陽の当たる場所へと向かった。
「俺は太陽に嫌われてるんだ」
「太陽に?」
訳が分からないという表情を浮かべるルフィに、イカゼは日陰から日向へ足を踏み出した。その行いに首を傾げるルフィだが、徐々に時間が経っていく内にイカゼの体に起き始めた異変に目を見開いた。
イカゼの透き通るような白い肌が熱を持ったかのように赤く染まると、チリチリという音と共に皮膚が剥がれ落ち始めた。それは徐々に日光の当たる腕から首、顔と広がっていきやがて全身にまで広がろうとしたところでルフィはイカゼを日向から日陰へ連れ戻した。
「これが俺が太陽に嫌われてる理由。どういう訳か、俺は日光を長い間浴び続けてると今みたいな現象に陥る。だから日光を遮るこの番傘は必需品ってわけ。そうなれば記憶を忘れる前の俺は何処に行くにもこれを持ち歩いてたって考えるのは当然だろ?」
「お前、怪我大丈夫なのか?」
ルフィでも分かるように説明したイカゼだったが、果たしてそれを聞いてたのか聞いてなかったのか、ルフィは日光に焼かれたイカゼの腕を直視していた。そんなルフィに嘆息しつつ、イカゼは大丈夫だと言わんばかりに腕をルフィの眼前に持っていく。
「日陰に戻って暫くすれば治るよ。ほら、もう治り始めてきてるの分かる?」
赤く腫れ皮膚が剥がれボロボロになっていたイカゼの腕が常人では比較にならない速度で自然治癒が進んでいく。それを目の当たりにしたルフィは心配など吹き飛んだのか、口をあんぐりと開きすっげー! と驚愕していた。
「どういう理由なんだろうね。正直、見当もつかないよ」
「ああ。おれもさっぱりだ」
驚愕の表情から一転、真顔で頷くルフィに期待なんてしてないと返す。すると、どうしたものかなーと忌々しい太陽を見上げながら呟くイカゼに何を思ったのか、ルフィは唐突にイカゼの顔を覗きこみ、
「なぁイカゼ。おれの仲間になれよ!」
満面の笑みと共にそう言った。
「……ん?」
流石のイカゼも理解が追いつかないと唖然とした様子でルフィを見据えていると、ルフィはイカゼを仲間に誘う理由を堂々と語り出した。
「お前記憶喪失なんだろ? んで、太陽に嫌われてる理由も知りたいんだろ? だったら、おれと一緒に海賊やって一緒に探そう! おれお前のこと気に入った!!」
恥ずかし気もなく、にししと笑みを浮かべるルフィにイカゼは言葉が出ない。まさかいきなり仲間になれと言われるとは思いもしなかったし、ルフィの言う様にこの島を出て答えを探そうという考えすらなかったからだ。
「なー、一緒に海賊やろうぜイカゼー!」
自分の何処をそんなに気に入ったのかは理解出来ないが、海賊になろうと言われて不思議と悪い気はしなかった。それに、ルフィのような自由人が船長の海賊の一味に入ったらきっと退屈しないだろう。退屈しない、その思いにどうしようもないほど強く惹かれて、気づけばイカゼは無意識の内に笑みを浮かべルフィの眼前に手を差し出していた。
「面白そうだ。なら、是非とも船に乗せてもらおうかな──船長」
そして、自らの意思でルフィに仲間になることを決意し、
「おう!」
心底嬉しそうに笑いながら、ルフィはイカゼの手を握り返した。