麦わらと夜兎   作:人参腎

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24 広まる手配書

 

 

「───なるほどな、砂嵐なんかに連れてかれたなんて妙だと思ってたんだ」

 

 クロコダイルがルフィに撃破されたことでアラバスタの反乱が収まったことを見届けたゾロたちは、宮殿前の広場でビビがコブラ王と共に混乱する国民たちへ事情を説明しているのを小耳に挟みつつ、合流したイカゼからレインベースからこれまでの経緯を聞かされ納得したように頭を掻くと大きく息を吐き出しながら瓦礫の上にそれぞれ腰を下ろしていく。

 自分たちが海軍とひと悶着起こしている間に危険因子のイカゼを秘密裏に始末する、そのための時間稼ぎがあのレインベースでクロコダイルが仕掛けた罠であり、ゾロたちはまんまと罠にハマりつつも仲間の力も借りて無事抜け出すことが出来て一件落着と思い込んでいたが……まさかその裏でイカゼを見殺しにしかけていたと分かれば己の情けなさにため息の一つや二つは吐き出したくもなるというものだった。

 

「でも俺を置いて行くっていうのは英断だったよ、そうでもしなきゃ多分間に合ってなかっただろうし」

 

「そりゃそうだが、お前なァ……」

「そうだぞイカゼ! あと少しで取り返しがつかないところだったんだからな!!」

 

 クロコダイルが如何に強敵だったかを示すように枯れ果てたイカゼの左手と右足へ改めて視線を向けたサンジは、チョッパーが繋がっているのが異常だと診断するくらいには重傷のその姿に言いようのない思いを募らせる。

 特にクロコダイルのフックをそのまま受け止めた左手はいつ千切れ落ちてもおかしくなかったと言うほどの酷い有り様で、チョッパーがこんな無茶もう二度とすんな! と怒気を露わにするのも納得というものだが……当の本人が繋がってるんだからいいじゃん、とまるで気にした風でもない様子なので今後もチョッパーの気苦労が続いていくことは間違いないだろう。

 

「ていうかあんたとルフィでもそんなになっちゃうって……やっぱり王下七武海は別格なのね」

 

 崩落した葬祭殿からコブラ王を連れて脱出したのを最後に眠るように意識を失ったルフィを視界に収めるナミは、ぐったりとした様子で瓦礫に体を預けながら改めて自分たちはとんでもない相手に喧嘩を売っていたんだという事実に呆れたように言葉を溢す。

 ゴム人間の弱点を突くように体のあちこちに刻まれた裂傷に、あのルフィを死の寸前まで追い詰めたというサソリの猛毒。今までもそれなりの修羅場を潜り抜けて来たという自負のあるナミだが、それでもここまで弱り切ったルフィを目にするのは初めてであり、実質イカゼと二人でクロコダイルを打倒したような事実も加味すれば偉大なる航路のレベルは東の海とは比べるべくもないと実感せざるを得なかった。

 

「あー、私もうダメかも……これ以上は、ちょっと限界……」

「イカゼお前、ちゃんと安静にしてなきゃ……ダメだからな……」

 

 とにもかくにも反乱が無事に終結したことで張り詰めていた緊張の糸が切れたのか……どっと押し寄せて来た疲労に耐え切れなかったナミとチョッパーが瓦礫の上に横たわり、既に意識を失っていたウソップとルフィも含めれば残されたのはイカゼとゾロとサンジの麦わらの一味の主力たち。

 みんなお疲れだねと笑うイカゼにお前は疲れてねェのかよ、とサンジが問いかければ、遅刻しちゃったからこれくらいはね、とイカゼは雨除けのために開いた番傘の下にルフィたちの体を並べていく。

 

「一応海軍も近くにいるし、俺が見張っておくから二人も疲れてるなら休んじゃえば?」

 

「アホコックと一緒にすんな、こんなんでぶっ倒れるほど軟な鍛え方してねェよ」

「あァ!? そりゃこっちのセリフだクソマリモ! あばらが何本折れようがナミさんを守るのはこのおれだ!」

 

「あはは、相変わらず仲良いね」

 

 良くねェよ!! と息ぴったりのゾロとサンジに笑みを深めながら、イカゼはどこか笑うように眠るルフィの胸にコブラ王から受け取った麦わら帽子を置いて地下で感じた覇気を想起する。

 

「俺一人じゃ寂しかったしルフィも目覚めてくれて良かったよ……それに船長なら覇気の一つや二つくらい使って貰わないとね」

 

 出来なきゃ船長交代だ、とルフィの活躍に満足そうに微笑んだイカゼは、どちらが軟弱であるか証明してやると傷だらけの体にも関わらず喧嘩にまで発展し始めたゾロとサンジを後目に、曇天の空から降りしきる雨を見上げてしばらく包帯は必要なさそうかなと一人肩を竦めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 スモーカーより報じられた″王下七武海″サー・クロコダイルのアラバスタ王国乗っ取りとそれを阻止した麦わらのルフィ率いる麦わらの一味の活躍に、聖地マリージョアに座す世界政府最高権力″五老星″は更新された麦わらのルフィの手配書と新たに発行された二枚(・・)の手配書、その内の一枚に写る全身に包帯を巻いて番傘を構える男を訝しむように見据え会議を重ねていた。

 

「″赤髪″と″白ひげ″の接触に加え、クロコダイルの一件でも既に立て込んでいるというのに……」

 

「飽くまで可能性の域を出ない話に過ぎないのだろう?」

 

「うむ……しかし偉大なる航路に入ったばかりの海賊が巨兵海賊団の船長と渡り合っている以上、他人の空似と断じることが出来ないのも確かだ」

 

「船長があのガープの孫とくれば尚更な」

 

「……″D″はまた必ず嵐を呼ぶ、か」

 

 クロコダイルの暗躍が発覚したのと同時に芋づる式になって五老星の下に届いた報告はどれも一介のルーキーが成せるようなものではない耳を疑う内容のものばかりであったが、麦わらの一味の船長が他でもない世界政府直下の海軍本部の英雄の孫ともなれば、長い付き合いでその性格を良く知る五老星だからこそ不思議とその報告に納得してしまうのは無理からぬ話だった。

 

 ウィスキーピークの賞金稼ぎ百人斬りから始まり、リトルガーデンで生き延びていたかつてこの海で猛威を振るっていた巨兵海賊団の巨人たちとの邂逅、全員が賞金首のB・W(バロックワークス)のオフィサーエージェント撃破に全ての元凶たるサー・クロコダイルの七武海陥落。

 

 決して世間に公にされることこそないが、真実を知る五老星は以上の活躍を以って麦わらのルフィの首に懸けられた賞金を上乗せすることと、新たに二人の船員を賞金首として報じることを決定した。

 

 ″海賊狩り″ロロノア・ゾロ───懸賞金6000万ベリー。

 

 ″雷槍″イカゼ───懸賞金8000万ベリー。

 

 船長たる麦わらのルフィの更新された1億ベリーの手配書を基準にその首に懸けられた額はルーキーという立場を考えれば破格も破格。

 むしろ七武海の一人を降したにしては安すぎるとさえ感じるその額だが、政府が今回の一件を海軍が処理したと世間に公表すると決めた以上はこれ以上の懸賞金の上昇は不自然であるため致し方ないと言うのが実情でもあった。

 

「取り急ぎクロコダイルの後任を急がねばな、穴一つとて今の状況では″三大勢力″の均衡崩壊に繋がりかねん」

 

「既にセンゴクに他の七武海へ招集をかけさせているが……果たしてどれだけの数が集まるものか」

 

「麦わらの一味については次の島への航路を特定してから確保に動き出すべきだろう」

 

「ならば″雷槍″についてはこちら(政府)の方で調査を進めるべきか……」

 

「事情が事情……サイファーポールでも我々に近しい立場の者に任を命じる必要があるな」

 

 一介の諜報員では役不足だと断じた五老星はサイファーポールの中でも自分たち世界貴族直属の機関───″CP-0(・・・・)″を招集する判断を下す。

 四皇同士の接触という一大事である以上動かせる人員はごく僅かではあるが、それでもその理由が噂の真偽を確かめる程度のことであればルーキー相手にはむしろ過剰戦力というものだろう。

 噂が偽りであるならばそれに越したことはないし、仮に真実であったのならばその時はそれに見合った対応をするだけのことである。

 

「いざとなればシャンガラで待機する騎士たち(・・・・)を向かわせればいい」

 

 そんな事態にならないことを五老星は祈るばかりであったが、それでもやりようならば幾らでもあると余裕然とした態度を崩さずに、五老星は麦わらの一味に関する話を切り上げて次の議題へ会議を進めていく。

 どこまでいっても所詮は自分たち(世界貴族)にとっては矮小な虫けら以下の価値しかない取るに足らない下々民、海賊であれ海兵であれ諜報員であれ、全てはたった一人のこの世界の王に捧げる供物でしかないのだと。

 

 それ故に五老星は気づかないし見誤る。

 麦わらの一味の成長速度は一端の海賊たちの比ではないことに、彼らを取り巻く天運がかつて自分たちを出し抜いた海賊王(ゴール・D・ロジャー)に並ぶかはたまた凌駕するほどのものであることに。

 

 慢心にも近いその余裕が後々の自分たちの首を絞めていくことを、この時の五老星は知る由もなかった。

 

 

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