麦わらと夜兎   作:人参腎

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27 追跡者

 

 

 空島捜索の最中、ルフィとゾロがモックタウンからボロボロになってメリー号へ帰って来るという一幕こそあったものの───ジャヤの東の海岸に住むモンブラン・クリケットとの出会いによって空島への行き方を″嘘つきノーランド″の昔話と共に教えられ、そのための協力は惜しまないと語るクリケット率いる猿山連合軍と友情を結んだ麦わらの一味。

 決起集会も兼ねた宴の最中にサウスバードと呼ばれる空島へ向かうためには必要不可欠な生物を捕獲し忘れていたことを思い出し急遽宴を中断して森の奥地へ向かう羽目になったが、紆余曲折の末にロビンが能力を使って捕獲することで無事空島への航路を確保することが出来たため、あとはベラミーに落とし前をつけにモックタウンへ向かったルフィの帰りを一行は待つばかりであった。

 

「へー、それで昼間はあんなに荒れてたんだ」

 

「ルフィもゾロも一切言い返さないしやられたい放題だったんだから……ほんっと頭に来たわ」

 

 敵味方両方にね、と酒場での一件を思い返し青筋を浮かべて嘆息するナミに、船の改造のために板材の運び出しを手伝っていたイカゼは、自分たちとは別方向で情報収集に勤しんでいたルフィたちがどうしてあそこまでの怪我を負って船に戻って来たのか、その理由を聞かされて納得納得と一人頷きながら板材の山をメリー号の甲板へ投擲していく。

 

「何よ、あんたもあいつらと同じこと言いたいわけ?」

 

「ははは、面白いこと言うねナミは」

 

 ゾロ曰く同情しか残らないケンカは辛いだけだからと言うのが無抵抗の理由らしいが、その理由を聞いてもなお納得出来なかった自分とは対照的なイカゼの姿を前に、思わずお前もかと言わんばかりの鋭い視線を向けるナミ。

 しかし肩を揺らして切り株の上に腰を下ろしたイカゼは、ナミの眼差しに込められた意図を察すると呆れたように肩を竦めて否定の意を返す。

 

「ルフィとゾロの言いたいことは分かるしそれを否定するつもりもないよ、船長命令だったなら仮に俺がその場所にいても同じことしてただろうしね」

 

 出す拳の見つからないケンカとでも言えばいいのか、空島をあると断じて夢を追いかけるルフィと空島をないと断じて夢に背を向けるベラミーとではそもそもとして土俵が違うのだ。

 正反対の道を歩む人種だと分かっていたからこそ、自分の歩む道の前に敵として立ちはだかったわけでもないベラミーにルフィがわざわざ土俵を変えてまでその相手をする意味はない、ゾロが言いたかったのは要はそう言うことなのだろう。

 その在り方をイカゼ自身はナミに答えたように理解を示すし否定するつもりもなく、船長(ルフィ)の命令とあれば麦わらの一味の船員(クルー)として異を唱えるつもりもない。

 しかしそれは、飽くまでも船員の一人としてその場に立っていたらと言う話だ。

 

 ただ、と言葉を続けたイカゼは、ルフィが向かったモックタウンの方角へ視線を向け口端を吊り上げる。

 

「相手が誰でも、俺は売られたケンカは倍にして返す主義だよ」

 

 闘争(ケンカ)こそが己にとっての本質であり、そこに身を置けるならイカゼにとって理由や信念なんて些細なものでしかない。

 戦いの中で生き、戦いの中で死ぬ。

 これまでもこれからも、それだけがイカゼにとっての全てである。

 だからこそ、土俵が違おうが何だろうがイカゼには一切関係ないし、もしもその酒場にいたのが自分一人だけだったのなら問答無用でベラミーのケンカを買っていただろうと言う確信がイカゼにはあった。

 

「……あんたと一緒に行けば良かったって一瞬思ったけど、それはそれで疲れそうだし危なそうだからやっぱりナシね」

 

「あらら、フラれちゃった」

 

 おどけるイカゼに命が幾つあっても足りないってのと言葉を返しながら、モックタウンのあちこちで悲鳴や爆発音が上がってたのはコイツが原因かと悟ってしまったナミは、ウチの問題児たちは騒ぎを起こさないと気が済まないのかと思わず額に手を添え呆れ果てる。

 

「ほんと、楽しかったなんて言うロビンの気が知れないわ……」

 

 自分たちに負けず劣らずの騒ぎに巻き込まれただろうに、それでも満足気な笑みすら携えて船に戻ってきた新たな仲間は流石は元B・WのNo.2とでも言えばいいのか。

 裏社会を転々として来たとも語っていたしトラブルに巻き込まれその対処などお手のものなのだとすれば、やはりこの船の中で常識人は自分だけなのかもしれないとナミの気苦労は尽きそうにもない。

 

「……もう朝まで時間がないんだから、早く帰って来なさいよルフィ」

 

 願わくば何事もなく時間通りにメリー号に戻ってくることを心の底から祈るナミであったが、それはそれとしてルフィが今まで数え切れないほど持ち込んで来たトラブルを思い返し、そう上手く事が進むわけもないわよねとどこか諦めにも似た感情を胸中に漂わせながらナミは一人ため息を溢すのだった。

 

 

 

 

 

 

「ゼハハハ! 随分派手にやられたようだな、バージェス!」

 

「麦わらの品定めの裏でその仲間にしてやられるとは何たる皮肉……しかし、それもまた巡り合せというもの」

 

 モックタウンを発ち既に数時間は経とうと言うのに未だに目を覚まさないバージェスの姿を後目に、彼が所属している海賊団の船長″黒ひげ″マーシャル・D・ティーチと他の船員たちは仲間がやられたと言うのに機嫌良さそうに笑みを溢していた。

 と言うのも、大方バージェスの方から突っかかって返り討ちにあったというオチだろうとある程度予想がついていることもあるが、何よりもその手に握られている3枚の手配書こそが黒ひげが上機嫌な最たる理由。

 

「あの覇気で3000万なんてとうとう世界政府も耄碌したかと思ったが……しっかり更新されてて安心したぜ」

 

 ″麦わらのルフィ″懸賞金1億ベリー。

 

 酒場で一度その姿を目の当たりにしている黒ひげとしては、現段階で明確に覇気を自覚して使いこなしてる節があったためむしろ1億でも足りないくらいだろうと言うのが本音ではあったが……それでも待ちに待った億越えの賞金首であることに変わりはないため、自身の目的のためにも″麦わらのルフィ″の首を取るべくその後を追跡しているのが現状だった。

 

「″海賊狩り″はあの時一緒にいた奴か、アイツも無名な訳がねェと思ってたんだ……それでこいつが───」

 

 ───″雷槍″、と手配書に映る青年の姿に、その首に懸けられた8000万という賞金を見てあの″海賊狩り″よりも上かと黒ひげは一瞬目を見張ったが、バージェスを返り討ちにした経緯も考えればそれも納得だと頷かざるを得ない。

 曰く、バージェスを相手に傷一つ負うことなくたった一撃でその意識を刈り取ったと言うのだから、戦闘力で言えば麦わらの一味の中でも随一であることは間違いないだろう。

 手配書の血に飢えた獣のような双眸も相俟って、とても誰かの下につくような人間とは思えない印象を″海賊狩り″共々受けた黒ひげだったが、それは逆にそんな彼らを従えられる王の如きカリスマ性が″麦わらのルフィ″には宿っているという何よりの証明に他ならない。

 

「あの英雄ガープの孫だ、むしろ持ってねェ方が不自然だよなァ……″覇王色の覇気″」

 

 数百万人に一人しか持ち得ない生まれながらの王の素質。

 新世界でその名を轟かす者たちであれば誰もが持ち得るその覇気を″麦わらのルフィ″もまたその身に備えていると考えるのは、モックタウンでのやり取りや彼が従えている仲間たちの性質を思えば何ら不思議なことではなかった。

 

「ただの一億の首じゃねェ……麦わらの首なら政府も文句はねェだろ」

 

 現時点で王下七武海の一角を降せる実力を有している以上、その将来性は世界政府にとって脅威以外の何物でもない。

 そこに血筋や才能も加味すれば、あと数年もしない内に頭角を現し新世界で猛威を振るうことは最早想像に難くない確定された未来とも言える。

 故にこそ、今この場でその芽を摘んでおくことはその首に懸けられた賞金以上の意味を持つことは明らかであり、自身の目的の第一歩として″麦わらのルフィ″以上の存在はこの前半の海にはいないと黒ひげは断言する。

 

「空島まで追いかけるにゃ厄介だ、その前に決着(ケリ)をつけよう」

 

「モックタウンを発ち既に半日以上、追いつくとしたらそろそろか」

 

「ゲホッ、しかしあいつらは運がいい……既に空島へ着いているという可能性もある」

 

「なァに、そうなったらまた探して回ればいい、この偉大なる航路にいる限りはすぐにまたハチ合うことになる」

 

 長年″白ひげ″の船にいた黒ひげは並みの海賊よりも遥かに偉大なる航路を熟知している。

 モックタウンからであれば凡その麦わらの一味の次の目的地の予想は可能であり、それは空島を経由したところで大きく変化することはない。

 仮に次の麦わらの目的地が予想から大きくかけ離れていた場所だったとしても、嵐のように突き進む彼らが何かしらのトラブルに巻き込まれることは容易に想像できるため、″記録″を溜める上での各島々の滞在時間を把握している黒ひげならば直接向かうかそこから逆算して次の島で待ち伏せすることくらいワケのないことだ。

 

「ああ……しかし、おれたちもまた運がいい……」

 

「んん……? ゼハハハ! 見つけたぜ麦わら!!」

 

 そして積帝雲の下でいざ空島へ向かおうとする麦わらの一味を発見した黒ひげたちだったが、その結末は惜しくも目と鼻の先というところで″突き上げる海流(ノックアップ・ストリーム)″に巻き込まれたことで彼らを取り逃がしてしまい失敗に終わる。

 それでも一同は、これもまた巡り合わせだと空島へ向かって行った麦わらの一味の船を笑いながら見送って、次の機会を窺うべくもう一人の仲間との合流場所であるバナロ島へと向かうことになるのだが───

 

 

 

 

「───待ってたぜ、ティーチ」

 

 そこで待ち受けていた予期せぬ相手との会合によって、予想だにしない形で黒ひげの目的は死闘の末に果たされることになる。

 それが後の頂上戦争と呼ばれる大戦を引き起こし一つの時代を終焉へと導くことで、麦わらの一味の───世界の命運を大きく変えることになることを、この時はまだ誰一人として知る由もなかった。

 

 

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