麦わらと夜兎   作:人参腎

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28 雲の上にて

 

 

「気づけば俺たちも賞金首だね」

 

「そうだな……6000万ってのは不満だが」

 

 ″突き上げる海流(ノックアップ・ストリーム)″に乗り積帝雲を超えたことで無事空の海に辿り着いた麦わらの一味。

 雲の上に船が乗れていると言う本来であればあり得ない事態にルフィを中心に船首付近が騒ぎ立つ中、イカゼとゾロの二人は甲板の柵に体重を預け同じく興味深そうにその光景を見つめながらも、思い起こすのは自分たちを追って来た海賊(黒ひげ)から告げられた言葉とその手に掲げられた手配書であった。

 

「うんうん、俺も8000万じゃ物足りないなァ」

 

「……それが物足りないって言う奴の面かよ」

 

 どこか含みのあるイカゼの言葉に、その真意をある程度察しながらもまだ実際に言われたわけではないからと平然を装ってゾロが返答する。

 飽くまでこの一味の船長はルフィでありその首に懸けられた金額が1億ベリーである以上、その部下である自分たちがルフィの金額を超えることはよっぽどの例外でもない限りは下回って当然だと言うのは周知の事実。

 しかし飽くまでもトップがルフィと言うだけであり、ニ番手は誰かと問われれば副船長が存在しない麦わらの一味では今までは明確にはされていなかったが───

 

「───お互い船長に負けないように頑張ろうね、6000万(三番手)

「上等だてめェ!」

 

 抜刀し気炎を上げるゾロと、番傘を揺らして愉しそうに応じるイカゼ。

 そんな両者の姿をウソップの雲海探索が終わるまで暇になったナミが賞金首になったってのに元気な奴らねェと自分との価値観の違いに呆れていると、その傍でズーンと言う効果音が漂ってきそうなほどに落ち込んだサンジの姿が目に入る。

 

「くそォ……何であいつらが賞金首になっておれが無名のままなんだ……ッ」

 

 ルフィの懸賞金が上がったこととゾロとイカゼが新たに賞金首になったのは十中八九クロコダイルを降したことが原因だろうと推測していたナミは、確かにあれだけの大立ち回りを演じていたサンジが賞金首にならないのもおかしな話だと一瞬考えたものの、すぐにその首に賞金が懸かっていない理由に思い至ると打ちひしがれるサンジの肩にそっと手を置いてそのワケを告げた。

 

「だってサンジくん、アラバスタでは基本裏方に徹してたから……名前もMr.プリンスだったし」

「!!?」

 

 そりゃ政府に認知されないわよ、と語るナミからの止めの一撃を受け、思い当たる節しかなかったサンジの体が驚愕と共にメリー号の甲板に沈んでいく。

 むしろ直前まで正体を隠してくれたお陰でビビをアラバスタまで送り届けてあげられたことを考えれば、サンジがクロコダイル討伐のMVPと言っても過言ではないのだが……惜しむらくはそれを知るのが当事者のみであり、政府側は一切それを認知していないと言うことであろう。

 賞金首になることに抵抗のあるナミにはその気持ちを理解することは一生出来そうになかったが、それでもぴくりとも動かなくなってしまったサンジを見てしまえば流石に同情の念も湧いてくると言うもの。

 

「まァ……私たちはサンジくんが頑張ってたのは知ってるから元気出して───」

「それよりも長鼻くんが一向に上がってこないけど大丈夫なのかしら?」

「───え!? ていうか今更だけどここって海底とかあるの!?」

 

 しかしそんな同情は雲海探索から戻ってこないウソップを前にすれば跡形もなく霧散する。

 いくら空の海と言っても自分たちが青海から突入出来たことを考えれば雲海に底が存在しないことは明白であり、初めての空島に浮かれていたとはいえそんな単純なことにも気づかなかったなんてと自分自身に呆れながらも、どうにかこうにかルフィとロビンの力も借りて地上に落ちるギリギリでウソップを救出したナミは、ケンカするゾロとイカゼにはゲンコツを、落ち込むサンジには喝を入れて改めて一味全員での空島探索に乗り出して行く。

 

 

「ふんふん、空島料理も悪くないね」

「うっめー! やっぱりサンジの飯は最高だ!」

 

「しっかり味わって食えよ、賞金首ども」

 

 青海とは異なる進化を遂げた空魚たちに舌鼓を打ちながら、一同はある程度の探索の末にノーランドの日誌に記されていた内容と似通っている部分を多々発見したことで不確かだった黄金都市がこの場所にあるかもしれないと期待を膨らませる。

 主に大食漢二人の食費のせいで万年金欠の極貧生活を送らされている麦わらの一味としては、黄金の確保はむしろマストであり出来ることならその余剰資金でボロボロになったメリー号の修理もしてあげたいという気持ちもあるのだから尚更だ。

 

「″記録(ログ)″はまだこの上を指してる……一先ずはもっと上に登れる方法を探すことから始めるべきね」

 

「ん……? おーいみんな! あそこに船が───」

 

 ナミの言葉に頷くルフィたちを他所に一足早く望遠鏡で周囲を散策していたチョッパーが何かを見つけたように言葉を発するが、その声が船内に伝達するよりも早くメリー号に近づく敵意(・・)を″覇気″で察知したルフィとイカゼが甲板から飛び出しそれぞれ拳と番傘を構える。

 

「あいつ雲の上を走ってるぞ!? 面白ェー!」

「空島にも海賊の歓迎の仕方は伝わってるみたいだね」

 

「排除する……!」

 

 ウソップが検証した時にはただ沈むしかなかった雲の上を、滑空するように移動する大砲と盾を構えた民族衣装を身に着けた仮面の男。

 その砲身の先が向けられているのは能力で腕を目いっぱい引き延ばしたルフィであり、その姿を見てハズレ引いたねと内心で笑みを溢したイカゼは、ルフィなら大砲くらい難なく避けるだろうと考え仮面の男への視線をそのままに番傘を振り被る。

 

「何、だ? ……力が上手く入らねェ」

「ルフィ……?」

 

 しかしそんな予想を裏切るように、背後から間の抜けた声を溢したルフィに思わずと後ろを振り返ってしまうイカゼ。

 その双眸に映るのはその言葉通りどこか力の抜けた態勢で勢いを落としていくルフィとその目前にまで迫った砲弾。

 理由は定かではないがこのまま能力者のルフィが雲海に落ちていくのは流石にまずいと、振り被った番傘を虚空に放ち風圧で無理やりに軌道を変えたイカゼが砲弾からルフィを守るようにその間に割り込む。

 

「ルフィー!! イカゼー!!」

 

「次だ……」

 

 砲弾の直撃とともに爆煙に包まれた二人にメリー号から悲鳴が上がるが、生死を確かめる間もなくメリー号へと迫る仮面の男にゾロとサンジは即座に思考を切り替えて甲板に飛び上がって来たその侵入者に正面から相対する。

 

「は……?」

「んだ、こりゃ……」

 

 しかしゾロは三刀を、サンジは右足を、各々が己の得物を掲げ力を籠めようとしたその瞬間に二人もまたルフィと同じように己の体に走った違和感に眉を顰め動きを止めてしまう。

 

「青海人か……どちらにしろ排除するのみ」

 

 そんな三人の姿に一人納得したように頷いた仮面の男は、流れるようにゾロとサンジを甲板に打ち沈めると大きく飛び上がってメリー号を破壊すべくその大砲の砲身を向ける。

 そして一味の主力が全員成す術もなく倒れて行く姿に流石に危機感を抱いたナミたちが、冷や汗を流しながら武器を手に仮面の男の行動を阻止すべく各々行動に移ろうとしたその瞬間───

 

「───ボロボロのウチの船をこれ以上痛めつけないでよ」

「ッ! てめェ、まだ!?」

 

 爆煙の中からルフィを担いで突貫して来たイカゼの番傘が、驚愕に染まる仮面の男の脇腹を捉えそのまま雲海へ吹き飛ばす。

 その体は羽織が僅かに焦げて煤けている以外に目立った外傷は見受けられず、あの距離で砲弾を喰らってまさか無傷だとは思いもしなかったとその仮面の下で僅かに目を張りながら、雲海を転がっていた仮面の男は態勢を立て直して改めて麦わらの一味へ視線を向ける。

 

「ほんと、世話のかかる船長だよ」

「しししっ、助かった!」

 

「ルフィ、イカゼ! お前ら無事か!?」

 

 甲板で騒ぐ青海人たちがこの空の環境に慣れていないことは明白。

 数では圧倒的に不利でもこの有利を活かせばあの一味を制圧することは仮面の男からしてみればそう難しい話ではない……ただ一人、平然と動けているあの番傘の戦士を除けばであるが。

 

「おれたちと同じ空の民か? ……いや、違うな」

 

 一瞬自分たちと同じ種族かと考えた仮面の男だったが、しかしイカゼの背にその象徴とも言える羽が生えていないことからそれはあり得ないと頭を振る。

 青海での何かしらの特殊な一族なのだろう、詳しいことは分からないが今はこの環境でも自由に動ける相手が一人だけいるということだけ分かればいい。

 

「多分、三人が思うように動けないのはこの場所の空気が薄いせいね」

 

「へー……それじゃ、あいつは俺が貰おうかな」

 

 私もうまく力が入らないわと語るロビンに、特に体に不調のないイカゼが好戦的な笑みを浮かべて一同の前に出ることに異論を唱える者は皆無。

 

「向こうも準備万端みたいだし……第二ラウンドと行こうか」

 

「気をつけろよイカゼー!」

 

 敵は空の上を走る術を持つ未知の相手、加えて相手に有利な環境と言うこともあってウソップから注意喚起が飛ばされるが、しかしそんなことなど知らないと言わんばかりにイカゼは再び真っ向から仮面の男へ飛び掛かっていく。

 

「舐めるな、青海人!」

 

「舐めさせないでよ、天使さん」

 

「なっ!? ぐぅ……ッ!」

 

 大砲から放たれる砲弾を悉く雲海に撃ち落としながら、再びイカゼの番傘が仮面の男の体を捉えて雲海を転がし島雲までその体を吹き飛ばしていく。

 うおー! と言う仲間たちの歓声を背に受けながらそのまま近場の島雲に着地したイカゼは、吹き飛ばす際に仮面の男の片足からくすねた不思議な形状の靴をまじまじと見据えると、納得したように一人頷いて言葉を溢す。

 

「なるほどねェ、この靴で自由に雲海を渡ってたわけだ」

 

 踵の部分から噴出する突風を目の当たりにして、原理は不明だがこの靴が水上オートバイに似た機能を有しており、その風力を以って何故船もないのに単身でこの雲海を自由自在に動き回れていたのかその理由をイカゼは看破する。

 

「てめェ、シューターを……!?」

 

「あらら、やっぱり片足だけじゃ満足には動けないみたいだね」

 

 その言葉を受けて大砲で島雲を裂いて現れたのは肩で息をする仮面の男。

 シューターと呼ばれる靴の一つを失い片足のみのふらついた姿勢で雲海に立つその姿は、イカゼの言葉が紛れもない事実であると言うことのこれ以上ない証明であり、その足でまだ続けるの? と言わんばかりに笑うイカゼを今まで以上に敵意を鋭くして睨み付けていた。

 

「いいだろう……シャンドラの戦士として、貴様を討つ」

「いいね……それじゃ、最後まで戦ろうか」

 

 その覚悟を受けて笑みを深めたイカゼが、一撃で終わらせてあげるよと″覇気″を込めた番傘を引き絞る。

 ただならぬその気配を前に、仮面の男の脳裏に忌々しい″神″の姿が過ぎってここがお前の死に場所だと告げるように空気に乗った殺意が肌を突き刺してくるも、それでも己が誇り高き一族の戦士であると自負している仮面の男に恐怖はなく、その双眸がまずは逃げ道を奪うと言わんばかりにイカゼの背後にあるメリー号へと向けられて───

 

「───船諸共に沈め!」

「はは、やらせないよ!」

 

 大砲の砲身がメリー号を捉えるのとそれを阻止すべく番傘が振り下ろされるその瞬間、イカゼの″覇気″が自分たちの間に乱入して来る気配を察知して番傘が減速したこもあり、両者の得物が乱入者の一撃を受け真横から弾かれ宙を舞う。

 

「ウーム、我輩″空の騎士″───!!」

 

 騎士然とした甲冑を身に纏い、馬のような奇妙な鳥を侍らせた老体がそこにいた。

 

 

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