麦わらと夜兎   作:人参腎

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 ガン・フォールと名乗った″空の騎士″との会合の末に、仮面の男がゲリラと呼ばれる者たちであること、″突き上げる海流(ノックアップ・ストリーム)″が空島への正規ルートではないこと、その度胸を見込んで1ホイッスルのみタダで″空の騎士″が力を貸してくれることになったことなど、様々な話を″空の騎士″と交わした麦わらの一味だったが……結局知りたいことは何も分からないまま、″空の騎士″はゲリラと共に一味の前から相棒の鳥馬に跨って雲の彼方に消えて行ってしまった。

 

 その姿を肩を竦めながら見送った一同は、一先ずは当初の予定通り″記録(ログ)″の指し示す島を目指そうとメリー号を前に進ませて行き───

 

「───うーん、やっぱり片足だと制御がちょっと難しいや」

 

「すっげー! おいイカゼ、次はおれにもその靴貸してくれよ!」

 

 紆余曲折の末、無事スカイピアと呼ばれる奇しくも青海で拾った地図に記されていた空島に辿り着いた一行は、現地人のコニスとその父親であるパガヤと出会い彼女ら親子の案内のもと空島の環境を謳歌している真っ最中であり、ルフィ、イカゼ、ナミの三人は主にウェイバーと呼ばれる乗り物の試運転を、ウソップとチョッパーは空島名物の″(ダイヤル)″という特産品の講義を、ゾロとサンジ、そしてロビンは空島に自生する植物や水産物に各々興味を示していた。

 

「別にいいけど、ナミの方に乗れない時点でこっちも難しいと思うよ?」

 

「にしし、やってみないと分からないって!」

 

 中でもルフィのウェイバーに対する熱量は頭一つ抜けており、青海でルフィが沈没船からサルベージした乗り物と酷似しているということも相俟って、修理さえ出来れば青海でも乗れるようになるかもと期待に胸を膨らませたルフィは、これまでに数え切れないほど転倒を繰り返しているもののそれでも諦めることなくウェイバーの操作に明け暮れている。

 

 ちなみにパガヤのウェイバーを借りたナミは航海士としての力量を遺憾なく発揮して難なく乗りこなすことに成功しており、イカゼも実際に目の前でゲリラがウェイバーを乗りこなす姿を見てある程度コツを掴んでいたため、片足の所為でバランス感覚が時折不安定になることがあるものの数回の試運転の末、見事に乗りこなしてみせていた。

 

「あー、気持ちいい! ……って、あいつまだ諦めてなかったの?」

 

「能力者なら誰でもああいうのには憧れるものなんでしょ」

 

「結構デリケートだからルフィには難しいと思うけどねェ……それこそイカゼもルフィと同じタイプかと思ってたわ」

 

「ははは、それってギリギリ悪口だよね」

 

 心外だと言わんばかりに番傘を開きビーチに腰を下ろしたイカゼは、またしても頭から派手に転倒し海雲に沈んでいくルフィを指差して助けに行かなくていいの? とウェイバーを持つナミへ意趣返しするように言葉を告げる。

 

「ほんっとにあいつはもう……!」

「いってらっしゃーい」

 

「…………ずーっと見られてるね、どうも」

 

 呆れるように肩を落としたナミがルフィの回収に向かう姿を視界に収めながら、イカゼはこの島に上陸してからと言うもののまるで品定めするかのように遥か上空から自分たちを見下ろす不穏な気配が今もその視線を自分たちに向けていることを察知していた。

 

「正直、見られてなきゃ気づきもしなかったよ」

 

 ″見聞色の覇気″にも幾つか種類はあるが、こと範囲という一点に関しては間違いなく自分よりも上手だと確信したイカゼは、朧げに感じることしか出来ないその気配の主を思い口端を吊り上げるとその足跡を辿って居場所を割り出そうと自身の″覇気″を研ぎ澄ませていく。

 

「……もっと上にいるのは間違いないんだけど、雲と他の気配が邪魔過ぎるなァ」

 

 しかし太陽を覆い隠すほどの島雲の数々とスカイピアで暮らす住人たちの人口を思えば、ある程度の方角は分かれども明確な居場所の特定が困難なのは明らか。

 それでもこのまま放置するのは何だか癪に障るため、どうしたものかと思わずイカゼが途方に暮れていると───

 

「す、すび、ずびばへんべひた(すみませんでした)ァ……」

「もうこれで分かったでしょ? 大人しくサンジくんたちと一緒に空島料理食べてきなさい」

ほうひまふ(そうします)……」

「私はもう少しこの辺りで遊んでるから、おじさんたちとみんなによろしく!」

 

「───お、ちょうどいいや」

 

 溺れかけていたルフィを連れて戻って来たナミの言葉を耳にしたイカゼは、肩を落としてパガヤの家へ向かおうとするルフィからシューターを受け取って瞬く間に足に装着すると、アクセルを踏み込む寸前のナミに手を振りながら声を掛ける。

 

「ナミー! 俺ももう少し慣らしたいから一緒に連れてってよ!」

 

「いいわよー! だけど、遅れたら容赦なく置いていくからね!」

 

 そんなやり取りの後、イカゼのスカイピア探索が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ……今のうちに逃げないと……!!」

 

 ″神の島(アッパーヤード)″と呼ばれる空島には似つかわしくない剥き出しの大地が特徴的なその場所で、腕と足を目いっぱい動かし必死の形相で脱出を図ろうとしている少女が一人。

 その脳裏には逃げ遅れた侵入者の男が神官たちに追われている姿が鮮明に焼き付いており、それが今もなお続いていることは遠くから響く爆発音と生まれながらに備わっていた自身の力が証明してくれているものの、その標的が次の瞬間には自分に変わってもおかしくないことを加味すれば呑気に″大地(ヴァース)″の収集に勤しんでいる場合でないことは明白だった。

 

「くそォ、神官の奴ら″大地(ヴァース)″をこんなに傷つけて……!」

 

 村までの最短距離を進むために周囲に視線を向けた少女は、この逃亡劇で荒れ果てた大地を見て歯軋りと共にその小さな拳を握り締めながらも、今は村に帰ることが最優先だと頭を振って更にその足取りを早めていく。

 しかしあと少し進めばウェイバーで逃げ切れる、と近づいて来た沿岸部を目の当たりにして安堵の息を溢す少女の前に、″声″が聴こえて来たのと同時に巨大な怪鳥が姿を現したことでその安堵は一転して絶望へと姿を変える。

 

「おいおい嬢ちゃん、まさかおれたちが気づいてないとでも思ったのか?」

「クカカ」

 

「な、なんで……!?」

 

 三丈鳥と称される空島でも有数の怪物を従えるのは、忌まわしき″神″に仕える怨敵たる四神官の一人。

 名をシュラと言うその男は、恐怖に腰を抜かしてしまった少女───アイサの姿に満足げな笑みを浮かべながらも、どこか不満の色を隠せないような表情で言葉を続けていく。

 

「それにしても何故おれがあの侵入者ではなくこんなガキを追わなければいけないのか……いくら″神″の命とは言え、納得いく説明をして貰わねば気がすまん」

 

 ″心綱(マントラ)″を広げれば他の神官たちは未だに妨害をし合いながら侵入者と追いかけっこに勤しんでいるようだが、スカイライダーたる自身の力を以ってすれば即座にその侵入者を片付けてそのままこの子供を始末することだって容易かったと言うのに、とシュラは敬愛する″神″の判断に不満を募らせざるを得ない。

 そして当のアイサはと言えば、普段の威勢は鳴りを潜めてすっかり及び腰になってしまい、自身の数倍はあろう怪鳥を前にして言葉すら出せないでいた。

 

「まァいい……さっさとこのガキを始末して、その後に侵入者の首を獲ればいいだけのこと」

 

「や、やめ───」

 

 やっとのことで絞り出したその言葉もしかし敵対勢力に身を置いている以上はシュラが突き出そうとしてくる槍の一撃を止めるには至らず、そのまま槍に体を貫かれる自身の姿を幻視したアイサがキツくその目を瞑った、その時───

 

「───女子供に手を上げるなんて感心しないなァ」

「ッ!?」

 

 ″心綱(マントラ)″の外から瞬きの後に目の前に現れた青年が、槍を突き出したシュラの体ごと押し返すようにその番傘を振り抜く。

 予想だにしなかった介入者からの一撃に抵抗すらままならずシュラの体が宙を舞うが、即座に空中で体勢を立て直し指笛で相棒の怪鳥(フザ)に指示を出して飛び込んできたその背中に着地したことで追撃を免れたシュラは、神官たる己に危害を加えた不埒者は何奴かと言わんばかりに怒気に満ちた双眸を青年へ向ける。

 

「あ、ありがとう……」

 

「どういたしまして、立てそう?」

 

「えと……もうちょっとかかりそう、かも」

 

「はは、ゆっくりでいいよ」

 

 空島の住人であれば誰しもが持つ特徴()を携えていないその姿に青海人かとその正体に当たりを付けたシュラだったが、すぐにそんなことはどうでもいいと口端から流れる血を拭うと愛用の″熱の槍(ヒートジャベリン)″を起動してその赤熱化した切っ先を青年へ突き付ける。

 

「入国料を払ったのかはこの際問わねェが、″(ゴッド)・エネル″に仕える我ら神官に手を上げることはそれだけで第2級犯罪に該当する……覚悟は出来ているんだろうな、青海人?」

 

「へェ、そしたらあんたをぶっ飛ばせばそのエネルって奴に会えるのかな?」

 

「どこまでも不敬な男だ……″(ゴッド)・エネル″は(たか)く遠いお方、お前如きが(まみ)えていい存在じゃない」

 

 受けるがいい、紐の試練───そう言ってフザと共に突貫するシュラの姿に、青年は受けて立つと言わんばかりに番傘を担いで真っ向から対峙するように好戦的な笑みを溢す。

 

「(うわぁあああ、助けてワイパー!?)」

 

 怒涛の展開の連続に何が何だか分からないと混乱の境地に陥ったアイサは、その脳裏に誰よりも苦手であると同時に誰よりも頼りになる戦士へ助けを求めながら、せめて邪魔にならないようにと静かにその戦いの行く末を見守るのだった。

 

 

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