麦わらと夜兎 作:人参腎
「──このバカ船長!」
ルフィが目を覚まし事の経緯を一味に説明し終えると、返ってきた言葉は航海士からの怒声と拳骨だった。予想だにしなかったナミからの拳骨をもろに受けたルフィは、打撃の効かないゴム人間でありながらその頭上に大きな瘤を作り甲板に倒れ白目を剥いていた。
「どんだけ心配したと思ってんのよ二度とすんなこのバカ!」
「ず、ずびば、へん」
痙攣しながら謝罪するルフィに満足したのかふんと鼻を鳴らしたナミは、すごい威力だなーと感心するイカゼへ視線を向ける。
「私はナミ。このバカ助けてくれてありがとねイカゼ。仲間になるんならこれからよろしく!」
「俺も助けられたから。ま、お互い様ってことで……こちらこそよろしく航海士さん」
差し出された手を快く握り返しイカゼは笑みを浮かべる。と、傍らでナミさんと握手だとぉおおお!? と怨嗟の念を送るサンジに気がつきハッとしたナミはサンジとゾロを指差し先ほどの光景を思い返す。
「あんたたち、イカゼにちゃんと謝っときなさいよ。ルフィを助けてもらったのに斬りかかったり蹴りかかったりしたんだから」
イカゼが防いでくれたからいいものをと言葉を溢すナミに、サンジとゾロは不服そうな表情を浮かべ反論する。
「そりゃそうだがナミさん、あれはコイツも悪いだろ」
「ああ。あの場であんなこと言われたら普通そういう意味で捉える」
本格的な戦闘に発展する前にルフィが目覚めたから事なきを得たが、サンジとゾロは少なくともイカゼに事を構える気がなかったとは到底思えないでいた。そんな二人の反論を受けそれでも先に仕掛けたのはあんたたちでしょと言葉を返そうとしたところで、張本人のイカゼが頭を掻きながら破顔した。
「ルフィの仲間がどんな人たちなのか気になってさ。悪気はなかったんだよ、ごめんごめん」
「悪気はなくとも戦意は溢れ出てたけどな……」
悪びれもなさそうにそう言ったイカゼに、ウソップは死ぬかと思ったと身震いしながら口元を引き攣らせる。
「……まぁ、新しい仲間の強さも測れたことだ。悪かったなイカゼ。おれはゾロだ」
「チッ……サンジだ。テメェ、ナミさんに下手な真似したらおろすからな……さっきは悪かった」
先にイカゼに謝られた手前謝らない訳にもいかず、一応納得したような表情のゾロと渋々と言った風のサンジは互いに頭を下げた。
「素直じゃねぇなーお前ら。おれはキャプテン・ウソップ! 八千人の部下を率いる勇敢なる海の戦士──」
「よろしく長鼻くん」
「最後まで聞けよ! 後名前で呼べ!!」
面白いねキミと笑うイカゼを見て一味に早く慣れそうで良かったと一安心するナミは、ふとイカゼが先ほどから頭上に翳している番傘を見て疑問符を浮かべ問いかけた。
「ねぇイカゼ。あんたって陽射し苦手なの?」
「ん? ああ、そう言えばルフィには言ったけどキミたちには言ってなかったっけ」
そう言って己の体質のことを説明し始めたイカゼに、ほんの些細な疑問故に問いかけたナミはあまりに重い答えが返ってきて目を丸くした。ナミだけでなくサンジやウソップ、ゾロでさえもその言葉に驚愕を露わにしていた。
「ほら」
そう言って、その言葉を証明するように番傘から腕を出したイカゼ。すると一分もしない内に透き通るような肌は赤く熱を帯び皮膚が剥がれ出した。ひっとナミが息を呑むような悲鳴を上げ、何てことないと言わんばかりに自傷行為をするものだから唖然としていたサンジがハッとし声を荒げた。
「このバカッ、ナミさんに何てもん見せてんだ! 早く引っ込めろ!! おいウソップ、すぐに手当てだ!」
「お、おう! 今持ってくる!!」
「大丈夫大丈夫。こんな傷すぐに治るから」
サンジの指示で船内に走り出していくウソップの首根っこを掴み引き止める。ぐぇとカエルが潰れたような声を上げるウソップを尻目に、大丈夫なわけねぇだろ! とサンジが反論しようとするが、急速に傷が癒えていくイカゼの腕を見て冷や汗を流し言葉を失った。
「あんまり怪我したことないから詳しく分からないけど、太陽で焼けた肌なら放っておいても勝手に治るよ」
「……驚かせやがって」
唖然とその光景を見据えるサンジとウソップの代わりにゾロが嘆息しながら言葉を漏らす。
「ハハ、ごめんごめん。そう言えばルフィもこれ見たとき驚いてたなー」
そう言って甲板に腰を下ろすイカゼ。その頃にはもう腕の傷は何事もなかったかのように癒えて消えていた。
「驚いた、太陽に嫌われる人間なんて聞いたことないわ……何かの能力者なの?」
能力者? と首を傾げるイカゼにナミはルフィみたいなゴム人間のことが能力者と呼ばれていることを説明する。うーんと頭を捻るイカゼは続いて能力者が共通して海に嫌われるということを聞くと、じゃあ違うかなとナミの問いを否定した。
「俺は太陽に嫌われてるけど、普通に泳げるし海に入ったって溺れることなんてないよ」
「でもあんた明らかに人間離れした力持ってるわよね」
脳裏に思い出すのは焼け剥がれた肌が一瞬で治った先ほどの現象。何かしらの能力者でなければ説明がつかないような不可解な出来事にナミは一人頭を捻る。
「まぁ、ゆっくり探すよ。そのためにこの船に乗ったわけだし」
「……それもそうね」
考えるだけ野暮かと結論付け、ナミは思考を断ち未だ甲板を転がるルフィへ視線を向ける。
「ほらいつまでも寝てないで起きる。さっさとローグタウンに行って
言葉と共にルフィを叩き起こし、ナミはイカゼ含む仲間たちに指示を出していく。ルフィが海に落ちたり新たな仲間を連れてきたりと紆余曲折あったが、メリー号は再びローグタウンへ続く航路を進み出すのだった。