麦わらと夜兎   作:人参腎

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04 ローグタウンへ

 

 

 東の海の海上を進む船が一隻。

 その船は麦わら帽子を被ったドクロが掲げられており、今東の海を最も賑わす海賊──麦わらの一味が乗り込む海賊船ゴーイングメリー号のものであった。

 

「島が見えたぞー!」

 

 羊を模した船首の上で、ルフィが嬉しそうに声を上げた。

 その声に気づいたのか、船の中から続々と仲間たちが顔を覗かせた。

 

「色々あったけど、ようやく辿りついたわね」

 

「あれがローグタウンか。偉大なる航路(グランドライン)に入る前に刀買っとかねぇとな」

 

「新しい野郎も増えたことだし食料買い足しておくか」

 

「おれも色々と材料買い揃えておくか。偉大なる航路(グランドライン)で何があるか分からねぇしな!」

 

 各自思い思いにローグタウンで何をするか考え込んでいる中、一拍遅れでイカゼが部屋の奥から姿を現した。相変わらずその頭上には番傘が翳されており、快晴の空に浮かぶ太陽の光を遮断していた。

 

「次の島が見えたんだって? どれどれ」

 

 無人島で目を覚ました以前の記憶がないイカゼは、初めて見る眼前の島の全貌に僅かに目を開き破顔した。

 

「あれだけ大きいなら美味いものがたくさんありそうだ」

 

「おいおい、さっき飯食ったばっかりだろ」

 

 傍らで島を眺めていたウソップはその姿を見て呆れたように嘆息する。ルフィに負けずとも劣らない食欲の持ち主で、その食への探究心はルフィをも凌ぐものを持つイカゼ。ルフィが質より量を求めるのに対し、イカゼは質と量の二つを求めているので最近のサンジは前より増して厨房に篭るようになった。よく手が足りねぇと愚痴を溢すようになったのはイカゼがこの船に加入してからだろう。ご愁傷様と内心で合掌しながら、ウソップはボーっと島を眺めるイカゼに問いかけた。

 

「イカゼはローグタウンに行ったらどうするんだ?」

 

「ナミから貰った金で店巡り。あとは包帯を買い込もうかなーって」

 

「包帯? 何だイカゼ、お前船医にでもなるつもりなのか?」

 

 ローグタウンへの道中でメリー号に迫る海獣を軽々とぶっ飛ばした光景を思い返して、お前に船医は向かねぇと思うぞとウソップは苦笑する。そんなウソップの言葉にイカゼは首を振って否定した。

 

「まさか。俺は仲間の傷を治療するくらいなら、仲間を傷つけたヤツをぶっ飛ばす方が性にあってる。包帯もそのために買うものだよ」

 

「包帯をぶっ飛ばす道具にって……見当がつかねぇな。まぁ何でもいいけど、買い込み過ぎてナミに怒られんなよ?」

 

「長鼻くんこそ、変な道具作って失敗するくらいなら買わないほうがいんじゃない?」

 

「バカ言え、例え失敗してもそんな道具すらも戦いで活用してしまうのがこのウソップ様よ! ギャーハッハッハッ!!」

 

 高笑いするウソップに調子いいなーと釣られて笑うイカゼ。イカゼが麦わらの一味の仲間になって数日。ウマがあったのかイカゼはよくウソップと共にメリー号の甲板で時間を潰している。と言っても、大半がルフィも一緒にいる時が多いので正確にはルフィ・ウソップ・イカゼの三人で過ごしているのだが。

 

「あんたたちー! あそこに船停めるから準備しなさーい!」

 

「っと、我らが航海士からの指示だ。行くぞイカゼ!」

 

「りょーかい」

 

 言葉に頷くイカゼは慣れた様子で停泊の準備をすべく船内を駆け回るのだった。

 

 

 

「それじゃ各自の行動を確認するわよ。お金は限られてるから計画的に使いなさいよ?」

 

 錨を下ろしメリー号を停泊させた麦わらの一味は、今後の計画をナミをが仕切り決めていく。一味の船長はルフィで間違いないのだが、ルフィがこういった頭脳労働が得意じゃないことは周知のとおりなので一同は黙ってナミの指示に耳を傾けている。

 

「おれは刀を買う。偉大なる航路(グランドライン)に入るってのに刀一本だけじゃ格好がつかねぇ」

 

「そうね。ただあんた一人だといつまで経っても帰ってこないかもしれないし……ウソップ、あんたがついて行きなさい」

 

「おれか? 俺も一応買いたいものがあるんだが」

 

「ゾロが刀を買う前でも買った後にでも行けばいいわ。あんたのこの街での目的はゾロを一人にさせないこと、わかった?」

 

「あのなぁ」

 

「よーし分かった。おれの傍を離れんなよゾロくん!」

 

「おれはガキか!」

 

 不服そうな顔で反論するゾロだが、彼の奇跡的な方向音痴振りを考えればナミの判断は妥当だろう。

 

「おれは食料の買い足しだな。ルフィだけでも大概だったってのに、もう一人大食漢が増えたから食料が幾らあっても足りやしねぇ」

 

「サンジの飯は美味しいからしょうがないね」

 

「へっ、そいつはどうも」

 

 悪態をつきつつも何だかんだで美味しいと言われれば、サンジは喜びを隠し切れないように顔を逸らし煙草の煙を吹かし始めた。

 

「じゃあイカゼとサンジくんは食料の買出しをお願い。メリー号は長い間停泊するわけじゃないからイカゼはお店巡りはまた今度にして、サンジくんの買出しを手伝って頂戴」

 

「そういうことなら。よろしくコックさん」

 

「テメェが食う飯だ、しっかり働けよ大食漢」

 

 初めて顔を合わせた時の険悪な雰囲気は影すら見せず、一味の仲間として極普通に接するサンジを見てナミは一味に馴染めたようで良かったと小さく笑みを溢す。そうして、ナミは一味の一番の問題児へその視線を向ける。

 

「おれは処刑台に行くぞ!」

 

 ゾロのように方向音痴という訳ではないのだが、行く先々で何かしらの問題を起こしたり巻き込まれたりする我らが船長に、ナミはどうしたものかと首を傾げ思考する。誰かしらについて行って貰うのが得策なのだろうが、たかだか処刑台を見に行くのに誰かをつかせるのは買い物の効率が著しく下がる。しかしルフィを一人にしておくのも心配で怖い。効率を取るか安全を取るか、その狭間で揺れるナミは暫しの思考の後に結論を出した。

 

「ルフィ、処刑台を見に行ってもいいけど、まずはゾロとウソップの買出しに付き合って頂戴」

 

「えー」

 

 反感を買うだろうがと思って言った指示は案の定で、ルフィは如何にも不服そうに顔をしかめていた。

 

「えーじゃない。あんた一人にすると何しでかすか分かったもんじゃないわ。この前海に落ちて私に迷惑かけたことをもう忘れたのかしら?」

 

「分かりました。ゾロとウソップについていきます」

 

 反論は許さないと拳を握るナミに、ルフィはナミから受けたトラウマ(ゲンコツ)を思い返し即座に肯定の意を示した。その姿を見て満足そうに頷いたナミは、それじゃあ二時間後にメリー号でと言葉を残すと一目散にローグタウンへ駆け出して行った。

 

「なぁなぁゾローウソップー、先に処刑台見に行こうぜー」

 

「バカ野郎、おれの刀を買うのが先だ」

 

「いやいやおれの買い物が先だろ」

 

 何をー! と互いに譲れず口論を始める三人を尻目に、サンジは嘆息しながらイカゼを見据える。

 

「お前、何か買っておくものあるか? すぐに済むならお前の方優先でも構わねぇが」

 

「店巡りはまた今度って言われたし包帯買うだけだからすぐ終わるよ」

 

「じゃあお前の買い物済ませてから食料の買出しに行くか」

 

 ギャーギャーと殴り合いにまで発展し出した三人とは対照的に呆気なく買い物の段取りを決めた二人は、ナミの後に続くようにローグタウンへ足を進ませて行くのだった。

 

 

 

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