麦わらと夜兎   作:人参腎

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08 賞金稼ぎの町

 

 

 巨大なサボテン岩が特徴的な町、ウイスキーピーク。

 極上の食事と酒、そして女でもてなすことを条件に双子岬で出会った二人組───Mr.9とミス・ウェンズデーを拠点まで送迎することになった麦わらの一味。

 偉大なる航路の洗礼を受けながらもどうにか一本目の航海を終え町に到着した一同は、ミス・ウェンズデーを先頭にウイスキーピークの酒場へ歩みを進めていた。

 

「話には聞いてたがサボテンだらけだなこの町は」

 

「あれって岩なんだっけ? それじゃ流石に食べれないか」

 

「お前は飯のことばっかだな……ていうか本当にあいつ等のこと信じてよかったのかよ、おれはもう心配で心配で」

 

記録(ログ)がたまらないとこの島から出られないんだし、だったら傍で目を光らせてる方が安全じゃない」

 

 ミス・ウェンズデーを口説くサンジに呆れつつ、ナミは手首に巻いた記録指針がいつたまるのか思考を巡らせる。

 早い島だと数時間、遅い島だと年単位だとクロッカスは言っていたが、果たしてウイスキーピークはどの程度のものか。

 

「にしてもMr.9にミス・ウェンズデーねえ」

 

 イカゼの隣を歩くゾロが意味深に呟きながら前方の二人組を注視する。

 どこかで聞いたことがあるようなないようなその名前に過去を想起するが、未だにイマイチしっくり来ない。

 ルフィとサンジは一切の疑いなく彼らの後を着いて行ってるし、ナミとウソップは信じてこそいないがそれでも警戒は薄い。

 自分だけでも対応できるようにしておくかとゾロが考えるのは当然のことだった。

 イカゼはどちらとも言えないので保留。

 

「見えたわよ」

「おー、すっげぇ人だな!」

 

 そうこうして歩くこと数分。

 ウイスキーピークの町の前は数多の人が立ち並んでおり、誰もが一味を歓迎するように歓声を上げていた。

 その中心には金髪の長身男性がいて、ルフィからはちくわのおっさんと呼ばれている。

 

「私の名はイガラッポイ。彼女たちから既に話は聞いております、宴の席を設けさせて頂きましたので是非ともこちらへ」

 

「「「喜んでー!」」」

 

 宴、食事、女、と断る要素のない誘いに一味の3バカ(ルフィ・サンジ・ウソップ)が喜色満面の笑みで続いていく。

 ナミも嘆息しながらその後を追いかけていき、ゾロも続こうとしたところでふと立ち止まっているイカゼに気づく。

 

「どうしたイカゼ、行かねぇのか?」

 

 この場にいても漂ってくる宴の香りに釣られルフィたちのように続くかと思っていたがどうにもそんな雰囲気ではない。

 見上げる彼の視線が向かう先はウイスキーピークの巨大なサボテン岩。

 ここに来るまでにも見ていたが何かあるのだろうかとゾロも目を凝らしてみるが……別段変わったところは見当たらないように思える。

 

「歓迎の町かぁ……皮肉なもんだ」

 

「?」

 

「ごめんごめん。俺たちも行こうか、早くいかないとルフィたちに飯も酒も全部食べられちゃいそうだし」

 

「あ、おい」

 

 小走りで向かうイカゼを見失わないようにゾロも駆け出す。

 こうして、それぞれの思惑を胸にウイスキーピークの日は暮れ夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 宴は本物だった。

 食事も酒も女も何一つとして偽りはなく、だからこそ一味の旅の疲れを癒し彼らを心地良い眠りへと誘った。

 それが歓迎の町、もとい賞金稼ぎの町ウイスキーピークの罠だとも知らずに。

 

 あとは眠った彼らを縄で縛り船にある金品を押収するだけ。

 その後は政府に引き渡せば彼らの一味の船長『麦わらのルフィ』の首に懸けられた3千万という大金が手に入る。

 全ては計画通り、とイガラッポイ───Mr.8は嘲弄するような笑みを溢す。

 

「まさかあんなのが3千万の賞金首だったとはね」

 

 とてもそうは見えなかったと語るのはルフィたちをここまで誘導したミス・ウェンズデー。

 相棒のMr.9とミス・マンデーも宴での彼の姿を思い出し同意するように頷いていた。

 

「海賊の力量を見かけで判断することほど愚かなこともない、ミス・バン……マーマー♪ ミス・マンデー」

 

 この町の記録はいつたまるのかと質問攻めしてくる航海士や注意深くMr.8の動向を窺っていた剣士などもいたが、そんな彼らも既に酔い潰れ朝まで目を覚ますことはないだろう。

 懸賞金をかけられた海賊と言っても所詮は駆け出し、酒と女さえ宛がえばどうとでもなるのだ。

 

「何をもたもたしている、さっさと船に行ってこい。酔い潰れた海賊たちを縛るのなんて数人で出来るはずだ」

 

 その指示に従うように集まった賞金稼ぎたちがメリー号へ駆けだしていく。

 そして残った賞金稼ぎたちが酒場にいる一味を縛り上げようと縄を持って入って───悲鳴と共に扉を突き破って帰ってきた。

 

「なんだと!?」

 

「酔い潰れるねぇ……剣士たる者、いかなる時も酒に呑まれる様なバカはやらねぇさ」

 

 酒場から出てきたのは酔い潰れたはずの三刀を携える剣士。

 その表情はとても潰れていたとは思えないほど晴れやかで、ハッキリとした足取りでMr.8たち賞金稼ぎの下へ進んでいく。

 

「それにあんだけ墓標突き立てておいて歓迎の町は無理があるでしょ」

 

「あ、あなたは……ッ!」

 

 酒場の屋根の上で月を背後に佇むのはゾロと同じ一味の戦闘員のイカゼ。

 ゾロはお前も気づいてたかと笑みを浮かべ、ミス・ウェンズデーは双子岬の一件を思い返して悔し気に呻く。

 イカゼは常人離れした視力でサボテン岩に刺さっているのが墓標だと気づき、宴の前からMr.8たちの狙いに気づいていた。

 そしてゾロは更にその先、彼らの正体を看破していた。

 

「おれたちが相手になるぜ、バロックワークス」

「「「!!?」」」

 

 驚愕するMr.8たちと事情を知らなそうなイカゼにゾロは言葉を続ける。

 曰く、賞金稼ぎをしていた時代にスカウトを受け、そこでバロックワークスという犯罪集団を知り情報を聞き出すだけ聞き出してスカウトを蹴ったとのこと。

 どうやら宴の最中にコードネームで呼び合うMr.9とミス・ウェンズデーを見て思い出したらしい。

 

「ふーん、犯罪集団ってことはぶっ飛ばしても何も問題ないわけだ」

 

「気を付けてMr.8、アイツかなりの実力者よ」

 

「剣士の方もだぜ。あの時、太刀筋がまるで見えなかった」

 

 双子岬で二人と戦ったMr.9たちの言葉に、しかしMr.8は問題ないと言わんばかりに嘆息する。

 彼の周囲には100人を超える賞金稼ぎたちがいるのだ。

 どれだけ強くてもこの数を相手にたった二人ではどうすることも出来ないだろう、そう高を括っていた。

 

「ゾロ、ここは任せていい?」

 

「お前はやらねぇのか?」

 

「船に誰かいるみたいだ」

 

「……分かった」

 

 その碧眼はMr.9たちのような二人組がメリー号の前にいるのを捉えていた。

 ゾロは船が壊されたら元も子もないとイカゼの離脱を了承する、元より一人で相手取るつもりだったので問題はなかった。

 

「ヤバそうだったら呼んでよ、手貸して上げるから」

 

「逆だろ。おれの方が早く終わるからな」

 

「言うねぇ……それじゃ酒場に早く帰った方の勝ちってことで」

 

「いいぜ、乗った」

 

 スタート! そう言って屋根を蹴り上げ砲弾もかくやと言うほどに空を切りながらメリー号へ向かっていくイカゼ。

 まさかの仲間の離脱にMr.8は信じられないと目を張ってゾロへ言葉を投げる。

 

「正気か? たった一人で私たちの相手をすると?」

 

 二人でも勝ち目はないと言うのに、たった一人で100人の賞金稼ぎを相手になど出来る訳がない。

 文字通り瞬殺だろう、そう確信するMr.8だったがそれでもゾロの目には一切の恐怖はない。

 むしろ待ってましたと言わんばかりに好戦的な笑みを浮かべると、腰に差した三刀を抜き豪胆に言い放つ。

 

「新入りたちの試し切りがまだなんだ、当たり所が悪くても恨むなよ?」

 

 ウイスキーピークの100人斬りが始まった。

 

 

 

 

 

 

「ったく、何でおれたちがこんな偉大なる航路の果てまで来なきゃならねぇんだ」

 

「キャハハハ、任務だから仕方ないわよね」

 

 メリー号を見上げながら会話する二人組。

 一人はサングラスとロングコートが特徴的な男、もう一人は日傘を差すショートヘアの金髪の女だった。

 

「逃走用の船かもしれないし壊しておきましょうよ、Mr.5」

 

「めんどくせぇ、お前がやれよミス・バレンタイン」

 

 共にバロックワークスのオフィサーエージェントと呼ばれる彼らは、組織内では幹部と呼ばれる立場で両者共に懸賞金を懸けられている賞金首でもあった。

 そしてルフィと同様、悪魔の実を食べた能力者でもある。

 

「ほんとめんどくさがりねえ……まぁいいわ、パパっと終わらせて裏切り者を始末しに行きましょ」

 

 ミス・バレンタインが軽く飛び上がる。

 たったそれだけで風船のようにぐんぐんと高度を上げていく彼女は、一定の高度まで上昇するとぴたりと動きを止めたが、日傘の先端を眼下のメリー号へ向けるのと同時に降下し始める。

 

「いっくわよー! 1万kgプレス!!」

 

 自身の体重を1kgから1万kgまで操作出来るキロキロの実の能力者、それがミス・バレンタイン。

 メリー号目掛け落下する今の彼女の体重は最大の1万kg、そんな彼女とメリー号が衝突したらどうなるか……その答えは言うまでもない。

 

「あぶなーい」

 

「え……? ふぐぅ!?」

 

 あわや激突と言ったところで気の抜けた声が木霊すると、横殴りにするように振るわれた番傘がミス・バレンタインの脇腹を捉えサボテン岩に叩きつける。

 白目をむいて気絶したミス・バレンタインを見送りながら、乱入者───イカゼはメリー号の甲板に着地すると呆然とするMr.5を見据え笑う。

 

「泥棒には天罰をってね。君たちバロックなんちゃらって組織の一員だろ?」

 

「……おれたちのこと知ってんのか。うちの組織は謎が社訓、知られたからにはテメェも抹殺対象だ」

 

「だったらボスとやらに伝えといてよ、殴り込みに行くから顔洗って待っとけってさ」

 

「ほざけ、お前はここでオレに消されるんだよ」

 

 ボボッとMr.5の右手が起爆するように火花を上げる。

 ボムボムの実の爆弾人間、全身のあらゆる箇所を起爆させることが出来るその力はシンプルかつ強力で非常に戦闘向きの能力と言えるだろう。

 近接戦闘主体のイカゼでは圧倒的相性不利の相手だが、それでもイカゼは自身の勝利を疑わず不敵な笑みを浮かべ戦闘態勢に入った。

 

「まずはその薄ら笑いを消してやる」

 

 Mr.5が駆け出しイカゼの顔へ手を伸ばす。

 触れればアウト、触れなくとも爆発の射程に巻き込まれれば手傷を負う、故に当然この一撃は避けるだろうとMr.5は考えていた。

 しかしイカゼは避けない、やってみろと挑発するように微動だにしないその姿にMr.5の額に青筋が走る。

 

「舐めるな、クソガキ!」

 

 そのままイカゼの顔を掴みゼロ距離での爆発をお見舞いする。

 爆音が轟き、爆風で舞い上がった土煙が空へ昇っていく。

 

「顔面ごと吹っ飛んだろ」

 

 確かな手応えを感じMr.5は土煙が晴れるのを待つ。

 そして土煙が晴れ───驚愕した。

 

「んー、やっぱりこんなもんか」

「な、なにぃ!?」

 

 焦げ跡こそ目立つものの、そこには流血は疎か傷一つ負ってないイカゼの姿があった。

 落胆したと言わんばかりに嘆息するイカゼに強がっている様子は見えず、本心からこの程度かとガッカリした様子だった。

 

「強そうな能力だから期待してたんだけど、君ってもしかして組織の中だと下っ端だったりする?」

 

「ふ、ふざけるな! おれはオフィサーエージェントだ!! バロックワークスの幹部だぞ!?」

 

「君で幹部なの? じゃあ君たちのボスも大したことなさそうだ」

 

「なにを───ッ!?」

 

 イカゼから吹き荒ぶ見えない何かに言葉が止まるMr.5。

 たったそれだけで格の違いを理解させられた彼は、顔を蒼白にして震える足で後退っていく。

 

「この前変な夢見てさ、あれから体が疼いて仕方ないんだよ」

 

「あ、あぁ……ああああああッ」

 

 ゆったりと構える番傘に見えない何かが集約されていく。

 あれを喰らったらただじゃ済まない、全細胞から告げられる危険信号を受けMr.5は恐怖に震えながらも自身の代名詞とも言える技を使うためにその手を動かす。

 

鼻空想砲(ノーズファンシーキャノン)!!」

 

 見た目は奇妙この上ないが、放たれたその一撃はイカゼに着弾すると同時に先の一撃を超えるほどの大爆発を起こす。

 しかしこれだけで倒せたとMr.5は油断せず、二発、三発と続け様に土煙の先に同様の一撃を打ち込んでいく。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 鼻から多量の血を流しながら、気力の尽きたMr.5が地に膝をつく。

 周囲のサボテン岩を軒並み消し飛ばすほどの大爆発を見て、流石に全身が消し飛んだかと息を切らしながら視線を上げた───その瞬間だった。

 

 

「雷鳴八卦」

 

 

 菫色の番傘が視界を埋め尽くす。

 気づけばMr.5は自身が宙を舞っていることを自覚し、地面に落下するより先にその意識を手放した。

 

「うーん……これじゃ雷鳴一卦にもならないな」

 

 番傘を振り抜いた姿勢のイカゼには、やはり傷一つなかった。

 

 

 

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