デジモンアドベンチャー 選ばれてない子供   作:noppera

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もう待ってくれている方も少ないと思いますが、何とか今日こうして更新できました。
時間を空けながら書いていたので出来が心配ですが、これ以上伸ばすとモチベーションが下がりすぎてしまいそうなので投稿させていただきました。
どうか楽しんでいただければ嬉しいです。


第43話 思考回路の過去

(…………!)

 

 中枢コンピュータに主電源からの信号が届いたのを確認してメカノリモンの意識は覚醒した。メカノリモンの覚醒を確認した電気信号達は、他の機器を起動をさせるためにまた機体の各所に散っていく。

 メインカメラが起動していない現在、メカノリモンの眼前に広がっているのは薄暗い闇と、体の状態を報告するためのシステムメッセージのみだった。

 

(再起動シーケンス……データ整理ノ必要性ヲ確認。更新開始……)

 

 薄暗く機械的な視界の中で意識の戻ったメカノリモンは再起動するための処理を行おうとしたが、その前に新しく入力されたデータを整理する必要があるらしく、自らの体内データを適切な記録場所へと移していくという処理を先に行う事になった。

 

(検索、竜因子データ……)

 

 新しく自分の中に入り込んだストライクドラモンの竜因子データを見つけ出し、それを1つ1つチェックしてあるべき場所へと移動させていく。しかしデータを確認している最中に不審なデータを見つけ出した。

 

(作成日時不明、作成者不明……データノ場所ハ私ノ記憶領域深部)

 

 竜因子データと検索をかけたもの中にあったので関係することはたしかだが、メカノリモンにはこれがストライクドラモンから受け取ったデータだとは思えない。その根拠となるのがデータの記録場所だ。

 記憶領域は文字通りメカノリモンの記憶を保存する場所のことで、そこに余計なデータが紛れ込むようなことはあってはならない。なので、この領域はしっかりとしたセキュリティがかけられている。

 

(ツマリ、コノデータハ私ノ過去ノ記憶デアル可能性ガ高イ……)

 

 そう推測したメカノリモンはデータの整理を自動的に進めるように設定し、データ整理と並行して見つかったデータを閲覧することを決めた。

 データの破損がひどいらしく、データの展開を試みると色々警告が出るが、それを無視してメカノリモンはデータを開いた。

 

 

 薄暗かったメカノリモンの視界がノイズに覆われたかと思うと、次の瞬間にはメカノリモンの眼前に何者かの視界が映し出された。メカノリモンの推測があたっているならば、これはデジタマに還る前のメカノリモンの記憶だ。

 データの映像の画質はノイズ交じりで劣悪なものだったが、そこに記録されていた景色は、信人達が拠点にしている研究所の地下整備場だった。

 映像の中の地下整備場は現在とは違い、アームやクレーンが忙しなく動いており、何かの部品を運んでいるようだった。それをよく観察してみると、アームやクレーンは映像の手前、つまり過去のメカノリモンの方に機械部品を運んでいる事が分かる。

 暫くするとアーム群は止まり、視界の端のエレベーターから誰かが姿を現した。

 

(アレハ……人間?)

 

 背丈こそ違うものの、エレベーターから出てきたのはたしかに信人達と同じ人間であった。映像は激しく乱れているものの、それが眼鏡をかけた大人の男性であり、小脇にノートパソコンを抱え、白衣を着こんでいることが分かった。

 その男は過去のメカノリモンの目の前に来るとしゃべり始めた。音声はまだ残っているようだ。

 

『……ついに完成した。私の究極最強デジモンだ』

 

 映像にかかるノイズの隙間から辛うじて見える男の口元には笑みが零れていた。男は過去のメカノリモンを見上げながら彼の周りを歩く。ここでメカノリモンは映像の視点がだいぶ高いことに気付いた。過去のメカノリモンはそれなりに大きな体躯だったようだ。

 

 男は暫く上機嫌な様子だったが、口元がノイズに覆い隠された次の瞬間、男の口元は忌々しいとでも言いたげな形に歪んでいた。

 

『デジモンどもに敗北したおかげで、島から逃げ出して姿を隠すはめになったが、もうすぐそれも終わる』

 

(島……敗北? 彼ハ何カト戦ッテイタノデショウカ?)

 

 男が不機嫌だったのも一時的なもので、すぐに歪んだ唇には元の笑みに戻った。

 

『七大魔王とロイヤルナイツは予想通り戦争中……野望達成の絶好の機会だ』

 

(!?)

 

 男の口から嘲りとともに飛び出した2つの勢力の名前に、映像を見ているメカノリモンは驚く。

 その言葉が本当だとすれば、太古の戦争は目の前の男によって引き起こされたものだということになる。とても聞き流せる情報ではない。

 

『デジモンなど、私の言うことさえ聞いていればいい。こいつのようにな……』

 

 男が映像の向こうからメカノリモンへと視線を投げかける。その瞬間、偶然にも目元にかかっていたノイズが晴れ、映像越しに目が合った。ノイズの隙間、さらに眼鏡の奥に揺れる男の瞳は、信人と同じ人間とは思えないほど暗く濁りきっていた。

 

(!……)

 

 男の目を直視した時、記憶領域の奥で何かが呼び起されているような気がして、今まで感じていた感情が急速に冷めていき、思考が淀んでいく。

 まるで思考回路がスイッチによって切り替わったように、自分の意思というものが希薄になる。

 

『この世界もデジモンも、元々はネット上のデータなのだ。人間がネットを発展させたことで生まれた存在……人間のおかげで生まれたのだから、人間に従うのは当然だ』

 

 男が恐ろしく自分勝手な持論を展開してるが、なぜかメカノリモンは男が言っていることが正しいのか間違っているのかの判断がつかない。

 今までの旅の経験、思い出から考えれば男の持論は狂っていると断言できる。そのはずなのだが、何故かメカノリモンの思考回路は男の持論を否定させず、ただ従属することだけを促していた。

 

『もう邪魔は入らない。今度こそデジタルワールドは私のものだ。ふはははははは!!』

 

(…………)

 

 男は映像の向こう側でゲラゲラと笑い始めた。聞くに堪えないものであったが、それを聞いてもメカノリモンの感情は動かない。現在の稼働しているメカノリモンの機械的で無感情な思考回路は、男の笑い声に反応するようには組まれていないからだ。

 

『さて、さっそくこの道具の運用テストだ。行くぞ、私の兵器』

 

(…………!)

 

 ひとしきり笑った男は、過去のメカノリモンへ運用テストをするという命令を出す。映像越しにも関わらず、メカノリモンの思考回路は男の命令を感知し、命令を遂行するため自動的に体の各所へと信号を送った。

 おそらく、過去のメカノリモンも現在と同じように動いていたのだろう。

 

 だが、その後に男がノートパソコンを操作し始めたところで映像は激しく乱れ始め、メカノリモンの視界が再び暗くなった。記録された映像が終わりを迎えたのだ。

 メカノリモンはそれに気付かず、機体を動かそうとする。

 

「――――――?」

 

 先ほどの男の声ではない、誰かの声が聞こえてくる。

 その声に命令は含まれていないらしく、現在稼働している機械的な思考回路は反応しない。しかし、今度は映像を見る前に動いていた、感情を宿した思考回路が再び反応した。

 機械的思考は動き出した感情を不要と判断して停止させようとする。

 

「――――モン!」

  

 しかし、声が聞こえるたびに冷え切っていた思考が温度を取り戻し、停止命令を無視してどんどん感情や旅の思い出などを取り戻していく。ついに機械的な思考がそれらを抑えきれなくなり、封じ込められていたメカノリモンの意思と呼ぶべきものがよみがえった。

 それと同時に、今聞こえている声の持ち主が誰であり、何を言っているか理解できるようになった。

 

「メカノリモン!」

 

(マ、スター……信人!)

 

 声の持ち主に確信をもった瞬間、メカノリモンの暗かった視界が急に開け、自分のメインカメラが信人を見下ろしていることに気がついた。どうやら並行して行っていたデータ整理と再起動処理がいつの間にか終わっていたらしい。

 メカノリモンが周りを見回してみると、信人だけでなくストライクドラモンやウィッチモン達も自分の様子を注意深く見ていた。

 

「……マスター?」

 

「やっと返事したか……目を覚ましてはいいけど、俺が呼びかけても無反応で立ち上がったから心配したんだ。どこか調子が悪いのか?」

 

「まさか機械のくせに寝ぼけてたわけじゃねぇよな?」

 

「…………ソノ通リデス」

 

「……は?」

 

 冗談のに対して予想外の肯定が返ってきたたことにストライクドラモンは呆気を取られ、信人もまさかそのような返しが来るとは思ってなかったので驚いている。

 

「夢……昔ノ夢ヲ見テイマシタ」

 

「え? それって、過去のことを思い出したってことか?」

 

「ハイ。トハイエ、極一部デスガ……ソレヨリ、私ガ眠ッテイル間ニ、何カ起キタヨウデスガ……」

 

 メカノリモンがまず気になったことは、部屋を仕切っていたはずのガラスが粉々になっていたことで、それを見れば何か異常事態が起こったことは明白だ。

 

「あー、その説明も含めて、今後の話し合いをしようと思うから上に来てくれるか?」

 

「了解デス」

 

「じゃあ、俺たちは先に行ってるから」

 

 信人たちはメカノリモンが無事に起動したことに安堵しつつ、手術室から出て行った。

 メカノリモンは別の出口から出ることになるのだが、すぐには歩きださなかった。

 

「……私ガ昔ニ持ッテイナカッタモノハ、大体見当ガツキマシタ。ソレガ得ラレタノハ、マスターガ私ヲ選ランデクレタカラデス。感謝シナケレバナリマセン」

 

 そうポツリ呟き、メカノリモンは信人達が待つ場所へ向かった。

 

……………

………

……

 

 メカノリモンが目を覚ましたのは、クワガーモン達の襲撃から一夜明けたあとの正午であり、信人が起きたのもその少し前だ。そのため情報共有が必要になり、信人たちは研究所のメインコンソールが置かれている部屋で情報共有をすることとなった。

 

「……ナルホド、昨日ノ夕方ニソノヨウナコトガ……」

 

「どうもそうらしい。俺も起きたのはメカノリモンよりもほんの少し前だったから、詳しくはたった今聞いたよ」

 

「……体調ハ大丈夫デスカ?」

 

「ウィッチモンの薬のおかげで随分楽だ。ほんと、居てくれて助かった」

 

「まぁこの私が調合したものだから、当然よね」

 

 信人の調子はウィッチモンの調合した薬と長時間の睡眠のおかげで、少し頭痛がする程度の容体まで落ち着いていた。

 

「マスターノ体調モ回復シテルナラ、手術ハ無事ニ終了シタト言ッテモイイデショウ。私モ異常ナシデス」

 

「あぁ、俺も調子ばっちりだ。昨日の戦いも、すげぇうまく立ち回れたしな……信人、ほんとにありがとな」

 

 メカノリモン、ストライクドラモンの体調に異変はなく、信人が施した手術は成功したと断言できる。信人はそのことを変わらない様子のパートナー2体を見て改めて実感できた。

 

「……こっちこそ、お前たちが元気でほんとに良かったよ。特にストライクドラモンのほうは、ちゃんと手術の効果があったみたいだからな」

 

「……昨日の戦い、私がしっかりと見ていた。ウィルスへの敵対衝動についてはもう心配いらない」

 

「そうか、これで大きな問題の1つは片付いたな。さて、これからどうするか……」

 

「あぁ、ダークエリアで聞いた奴らの事を他のデジモンに伝えたいって言ってたな」

 

 ストライクドラモンの確認に信人ははっきりと頷く。とはいえ、今のところどんな風に脅威を伝えて協力を得るかどうかはまったく未定だった。

 

(ただ単にそういうやつらがいるってだけ伝えてもなぁ……現実味がないからどれだけ効果があるやら)

 

 いくらデジタルワールドが危機に陥っていると伝えても、脅威を実際に体験や認識をしていなければ、警告をまともに聞き入れてくれない可能性が高いと信人は考えている。

 とは言ったものの、今のところ地上のどこで影響が出ているかはまったく分からないのが現状だ。ベルスターモンの話によれば、軍勢の一部が物資調達のために地上に出ているらしいが、その情報だけではとても探し切れない。ダークエリアの入り口はこの研究所に記録されているものの、それにすべての入り口が記録されているわけではない。

 

(ん~……効果が薄いとしても一回周知して、まずその影響を見つけてもらった方がいいかな)

 

「……デジモンが多くいる場所なら知っている」

 

 信人の思考を察したのか、ミケモンが多くのデジモンが集まる場所の情報を提供してくれるようだ。

 

「ここからかなり距離があるけど、サーバ大陸で一番大きい街がある。デジモンが各地から集まってくるイベントもあるけど、それは少し先になる」

 

「へぇ、ここからどれくらいかかるんだ」

 

「メカノリモンで飛んで二日ほど」

 

「結構遠いなぁ……先輩達が様子を見に来る可能性もあるから、今はそこまでいけないかな」

 

 一応、他の子供達は太一の捜索に専念する約束になっているが、もしかすると探索に行き詰ったことでこちらとの合流を優先する可能性もあるので、信人はこの研究所からあまり遠くに行きたくはなかった。

 

「……ミケモン。街じゃなくても、メカノリモンで飛んで日帰りで戻れる距離にデジモンの集落はあるのか?」

 

「エテモンが暴れていたせいで数は減ってしまったけど、いくつかある。それに、エテモンがいなくなったから隠れていたデジモン達も姿を現すはず」

 

「そうか……よし、次の行動は決まった。付近の集落を回って、ダークマスターズのことを伝えてこの世界の危機を知らせる。それと、地上に出ているダークマスターズや、太一先輩の目撃情報を集める」

 

「ダークマスターズの件は、どこまで信じてもらえるかしらねぇ」

 

「とりあえず、頭の片隅で覚えてもらえるだけでいいかな。具体的な行動を起こしてもらうよりも、目撃情報を集めることが重要だな。ところで、ウィッチモンにも手伝ってもらいたいんだけど……」

 

「まぁ、いいわ。実感ないけどこの世界の危機らしいし、ここまで来たらとことん付き合ってあげるわ」

 

「私も手伝う。エアドラモンがいるから、機動力に問題はない」

 

「2人とも……ありがとう」

 

 ミケモンとウィッチモンの快い協力に対して、信人は深く頭を下げて感謝を述べる。

 2体の協力によって、当初は信人達だけでやる予定だった危機の周知はずっと効率の良いものとなる。そうして浮いた時間は何かしらの役に立つかもしれないので、この協力は信人にはとてもありがたかたかった。

 

「それで、今日から動くのかしら?」

 

「いや、今日はとりあえず集落の位置の把握からだな。それで、明日から行動開始だ」

 

「今後ノ予定ハ決マリマシタ。デハ、私ノ話ヲシテモヨロシイデスカ?」

 

 今後の予定が決まったところで、メカノリモンが話を切り出した。

 

「あら、私達は席を外したほうがいいかしら」

 

「イエ、構イマセン。マズ、コチラヲ見クダサイ」

 

 メカノリモンは部屋のコンピュータに近寄り、自分の体から出したケーブルをコンピュータに接続した。どうやらメカノリモンは自分の見た記憶を信人達にも見てもらうことにした。

 記憶と言っても映像データであるので、このように他の電子媒体に移して再生させることができる。マシーン型デジモンならではの方法である。

 

 元々それほど長い映像ではなかったため、映像の閲覧はすぐに終わった。映像を見終わった信人達の表情は、やはり険しいものだった。特に信人はメカノリモンの過去の境遇の事だけではなく、自分が前世から持っている記憶の兼ね合いも考慮すると、深刻に考えざる終えなかった。

 

(……メカノリモンの過去が少し分かったのは良いけど、人間の大人? 過去のデジタルワールドに人間の大人がいたなんて、原作で語られてなかった。しかも、どうも当時のデジタルワールドの危機に関わってるようだし……いや、それよりも……)

 

 信人が一番懸念しているのはその点だった。今更になってとは思っているものの、過去であの人間がしでかしたことが原作のどこかで影響を及ぼす可能性もゼロではないという考えが浮かんでいた。

 ただ、それよりも信人は人間の大人の言動に憤りを覚えていた。

 

(デジモンを道具か……過去のメカノリモンはあんな奴の言う事を聞かされていたのか。気に入らない)

 

 男はデジモンを心底見下し、過去のメカノリモンのことを道具や兵器と呼んでいた。現在メカノリモンをパートナーデジモンとしている信人からすれば、これほど不快なことはなかった。

 

「あんな奴の言う事聞いてたなんて、災難ね。あの時は辛かったでしょうに」

 

 映像を見て押し黙った面々のうち、最初に口を開いたのはウィッチモンだった。

 その言葉はメカノリモンの過去の境遇を慰めようとするものだったが、メカノリモンはウィッチモンの言葉に対して首を横に振った。

 

「……アリガトウゴザイマス。デスガ、過去ノ私ハアイツ言ウ通リノ存在ダッタ可能性ガ高イデス」

 

「あら、どういうこと?」

 

「初メテ映像ヲ見タ時、私ハ無条件ニアノ人間ノ命令ヲ聞キソウニナリマシタ」

 

「じゃあ、あの時に寝ぼけてたのはそのせいか」

 

「ソウデスネ。アノ時ハ人間ノ言葉ニ従ッテ、出撃スルツモリデシタ。ソレヲ止メテクレタノハ、マスターデス」

 

「え、俺が?」

 

「過去ノ私ニハ、意思ヤ心ト呼ベルモノハナク、本当ニアノ人間ノ道具ダッタト思ワレマス。今コノヨウニ感情ヲ宿シテイル事ハ、過去ノ記憶ガナカッタ事モ要因ノ1ツデショウガ、何ヨリマスター達トノ旅ノオカゲデス」

 

 メカノリモンは信人を真っ直ぐと見据え、自分に感情をもたらしたのは信人達のおかげだと断言する。

 メカノリモンが映像越しの命令を聞きそうになった時、機械的な思考を破ったのは旅の思い出だった。

 今思えば、メカノリモンが信人のことをよく聞いていたのは機械系デジモンとしての特性だけではなく、無意識のうちにあの男との関係を思い出していたからなのかもしれない。

 だがメカノリモンは、信人や選ばれし子供達の旅で人間との正しい関係を認識していた。だからこそ、過去の認識によって無意識で体を動かしていた時に、信人の声に反応することができたとメカノリモンは思い返す。あの男の言う事を聞くのは間違っていると、今の自分の意思と相いれないと理解できたからこそ、メカノリモンは信人の呼びかけに応える事ができたのだ。

 

「私ハアノ人間トノ関係ガ間違ッテイルト認識シマシタ。マタ、何ヨリソノ関係ガ嫌ダト思エマシタ。ソウ思エタノハ、マスターガ私ヲ選ンデクレテ、過去ノ私ガ欲シタモノヲ与エテクレマシタ」

 

「! それも思い出したのか?」

 

「ト言ウヨリモ推測近イデスガ……遠イ昔ノ私ガ欲シカッタモノハ、「感情」、「意思」……ソシテ、パートナートイウ関係ダッタノダト思イマス。ソレガ過去ノ私ニハナクテ、今ノ私ガ手ニ入レテイルモノダカラデス。何故ソレヲ欲シタノカ等ノ詳シイ事ハマダ分カリマセンガ、確信ニ近イモノガアリマス。ダカラ、私ハマスターニ言ワナケレバナラナイ事ガアリマス」

 

「?」

 

「私ヲ選ランデクレテ、アリガトウゴザイマス。表ニハ出テイナカッタカモシレマセンガ、マスター達トノ旅ハ楽シク、眩シイモノデシタ。過去ノ因縁カラ私ヲ解放シテクレタ、マルデ光ノヨウナ時間デシタ」

 

「!! ……えっと、そのー」

 

 メカノリモンの相変わらずストレートな物言いと感謝に対して、信人は気恥ずかしそうに言葉を詰まらせながら下を向いてしまう。

 もちろん信人にとってはとても嬉しい言葉だが、こうして面と向かってストレートに言われるとやはり戸惑ってしまうようだ。

 

「あら、照れてるの? かわいいところもあるのねぇ」

 

「ほんとに、こういう事は相変わらずストレートに物を言う奴だなお前は」

 

「そうね。あなたも見習ったら?」

 

「なっ……どういう意味だミケモン!」

 

 その光景を見ていた他の面々は、先ほどの険しい表情から暖かい表情になっており、場の空気も和んだものになっていた。

 先ほどまで信人が抱いていた怒りは、和やかな雰囲気とメカノリモンからの感謝でいくらか紛れた。

 

(……あの船内の時と一緒で、聞けばストレートに気持ちを応えてくれる。あの船で言ってくれたことの答えが、少しでも得られたからよしとするか)

 

 ファイル島からサーバ大陸に渡るとき、ハグルモンは自分の過去を気にしており、信人はメカノリモンのパートナーとしてその願いが少しでもかなえられたことが嬉しく感じられた。

 

(メカノリモンも気にしていなくて、今の方がいいって言ってくれたとことは良かった。まぁ、流石にあれよりは良い関係を築けているとは自負しているけど……あの男、一体誰だ?)

 

 少し頭が冷えたことで、映像に映っていた男に対して何者だろうという純粋な疑問が湧いてきた。

 この研究所の資料を見た時からその存在は疑問視していたが、それほど気にしてはいなかった。だが、映像越しではあるがいざ実像を見てみると、その存在を意識してしまう。

 それでも、信人はあの男そのものが今更影響を及ぼすとは考えていない。しかし、この研究所を見ていると1つの懸念がある。

 

(あの男が直接出てくることはないだろうけど、この研究所みたいにあいつの残したものはあるかもしれない。今回は役に立ったけど、全部そうなるとは限らない……)

 

 この研究所では途方もなく長い時間が経っているところを見ると、あの男が作った何らかの遺産が残っているのでないかと信人は思う。

 さらに言えば、デジタルワールドは自分のものだとまで言う男の作るものはどうせ碌でもないものだと信人は確信している。

 

(そうえば、この研究所のパスワードを解除したときに削除されたデータが……いや、これ考えても仕方がないだろ)

 

 しかし嫌な予感を感じると同時に、考えても仕方のないことだという事に気付いた。冷えた頭で冷静に考えると、このような可能性まで考えていてはどうしようもないと思い至る。ただでさえダークマスターズの有効な対抗策を出せかねているのに、出てくるか分からない脅威まで考慮に入れていてはキリがない。

 そう思い至ってその考えを切り捨てようとした時、少し引っ掛かりを覚える。

 

(デジタルワールドは私のもの……? どこかで聞いたような気がするけど……いや、そんな機会はなかったはず……)

 

「どうしたの? メカノリモン達に言いたいことがあるはず」

 

「え?……あぁ、そうだった」

 

 微かな引っ掛かりを覚えていた信人だったが、ミケモンに声を掛けられるとそれを忘れ、今自分の言いたいことに思い至る。

 

「メカノリモン、それにストライクドラモン。前にも言ったけど、お前達との旅は俺にとっても楽しいし心強い。こっちこそお前達と一緒に居られて感謝してる。これからどうなるか分からないけど、まぁお前達と一緒に居れば、絶対大丈夫だろう。そう思うほど、信頼してるよ」

 

「ハイ、マスター」

 

「おう。期待もしといてくれ」

 

 信人の言葉に2体のパートナーが軽く頷き合い、それを見た信人の大きく頷いた。そして密かにこれからの展望に希望を持つ。

 

(不思議と、こいつらと居れば何とかできそうな気がするな。もう変に悩むより、行動してみた方がいいかもしれない。ストライクドラモンの問題も片付いたし、もっと積極的に行こうかな……未来を変えられるようにな)

 

 ストライクドラモンの問題解決と、パートナー達の感謝の言葉の後押しにより、信人はいよいよ原作を変えようと積極的に行動しようかと考え始めていた。

 太一とアグモンがデジタルワールドに帰還するまであと約3週間と少し……ここにきてようやく、信人達は動き始める。

 




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