王選が開始されてから三日後メリオダスはスバル、レムと共にカルステン公爵家に泊まっていた。本来ならばメリオダスはエミリアの護衛をしなければならないのだが、エミリア直々にスバルの事を頼まれてしまったのでカルステン家に滞在していた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「そろそろ終わりにしますかな?」
スバルはヴィルヘルムに稽古を付けてもらっていたが傍から見れば唯の八つ当たりか頑張っている事を主張している風にしか見えなかった。
「いいんですか?ヴィル爺だってあの件で忙しいのに」
「客人の依頼だ無下には出来まい」
「稽古にゃら良いんですけどね、正直、フェリちゃんには言い訳している様にしか見えません」
「太刀筋に迷いが見える、初心者って理由だけじゃなさそうだな」
「ほぅ、卿も元は騎士だけあって見る目はあるようだな」
窓からスバル達の稽古を見ていたメリオダスとフェリス、そして椅子に座って書類を書いているクルシュはスバルについて話していた。特にフェリスは辛辣だった。
「ん?あれは・・・ラインハルト?」
「珍しいねぇ、ラインハルトがここに来るなんて。一体何の・・・あぁスバルきゅんに用があったのね・・・」
「ふーん・・・それにしてもラインハルトって恐ろしく強いよな?」
「それはそうだろう。何せ奴はこのルグニカ王国の最高戦力なのだからな」
「ありゃ、オレでも勝てるかどうか・・・」
「にゃはは!君もかなり強い様だけどラインハルトには敵わないと思うよ?だからバカな事考えるのはやめにゃ」
メリオダスがラインハルトを見て自分をも越える強者なのではないかと思いながら、クルシュの説明を聞いて内心では戦いたくてウズウズしていた。しかしフェリスにはバレていたらしく止められた。
ラインハルトが帰った後もスバルはヴィルヘルムと稽古を再開し、傷だらけになりながら庭で寝ていた。
「稽古、お疲れ様です」
「レム・・・それにメリオダス・・・」
「よっ、随分と元気が無いじゃないの」
「そりゃな・・・お前らは俺の事、情けねぇと思わねぇのかよ・・・」
「思いますよ」「思うよ?」
「思うのかよ・・・」
スバルの質問に対してレムとメリオダスはキョトンとした顔で頷き、スバルは力の無いツッコミをした。
「じゃあ何で一緒に居てくれるんだよ・・・そう頼まれたからか?」
「いえ、私がそうしたいと思ったからですよ。私は以前二人に助けられ大切な事を沢山学びました。なので今度は私がスバル君とメリオダス君を支えたいんです」
「オレは頼まれただけだが、お前とはそこそこの付き合いだ。一緒にいてやるよ」
「お前ら・・・ありがとな」
レムは以前の借りを返す為に、メリオダスはいつものとぼけ顔で軽口を叩くがスバルは少し間を置きお礼を言った。
「二人共、明日街に出かけませんか?思えばここに来てから三日間何処にも言ってないでしょう?」
「良いんじゃねぇか、たまには息抜きも必要だろ?」
「あぁ・・・」
翌日には三人で街に出向きカドモンの店をレムとメリオダスで手伝い、スバルはカドモンと王選候補者の事で何やら揉めていた。メリオダス直ぐにエミリアに関することだと確信した。店の番をしていた二人は嫉妬の魔女がどうのこうの言う者が多く、気になったメリオダスはレムに魔女について前よりも詳しく説明してもらい、嫉妬の魔女がどれ程危険かを知った。
それからメリオダス達はカルステン家に戻りスバルは風呂から上がった後クルシュと酒を飲んでいる所でメリオダスが来た。
「あらあらお二人さん、こんな良い景色を背景に晩酌ですかな?」
「メ、メリオダス!?」
「卿か、良ければ一緒に飲むか?・・・と、卿はまだ子どもだったな」
「オレはガキじゃねぇから大丈夫だ。それにいつも飲んでたしな」
「そうなのか?ならば問題あるまい」
「いいのかよ!」
メリオダスの乱入により気まずい雰囲気が一気に和み、メリオダスが酒を飲む事に何の疑いも持たないクルシュにスバルはツッコミを入れた。
「んで、何の話しをしてたんだ?」
「あぁ、治療の話しや王選についての話しだ」
「ああぁぁ!!!!何でスバルきゅんとメリオダス君がここにいる訳!!?」
突然フェリスが大声で叫んだので三人は少し驚きフェリスの方に顔を向けた。
「それにクルシュ様!!そんな無防備な格好でぇ!!!」
「おかしいか?普段フェリスと晩酌する時と変わらないだろう?」
「そーれーがー!!問題何です!!男は狼にゃんです!!!」
「お前も男だろうが」
「戯れは寄せフェリス、ナツキ・スバルの想い人が誰なのか王選の場に居た全員に知れている。それにメリオダスにも想い人が居るようだからな」
「まぁ、スバルきゅんは喧嘩しちゃったみたいですけどねー」
「・・・」
スバルはウィンクしながら発せられたフェリスの言葉で痛い所を突かれてしまい、顔を下に向けようとした時クルシュはスバルに喝を入れた。
「瞳が雲れば魂が陰る、それは未来を閉ざし、生きる意味を失うという事だ。下を向いている者にどれ程の事が出来る。顔を上げ、前を向き、手を伸ばせ。私は卿の事をつまらぬ敵と思いたくないのでな」
「とにかくスバルきゅんは早くエミリア様と仲直りしてくれなきゃ、その為に何が出来るのか、それを費やして尽くすの」
「俺に何が出来るのか・・・」
二人のアドバイスにスバルは少し考え、過去を思い出しながら気づいた。自分しか出来ないことに・・・
「出来る事なら、ある・・・俺にしか出来ないことある!言われるまでもねぇさ・・・」
「・・・風が出てきたな、明日はまた、荒れた天気になりそうだ・・・」
自分にしか出来ないことがあると笑みを浮かべながら言うスバルをよそにクルシュは見透かした様に話した。