「なぁスバル。これからどうするんだ?」
「まずは屋敷に帰る。そっからラムやエミリア達を連れ出す・・・何処でもいい。とにかくあの場所は危険なんだ!」
夕方レムの操縦する竜車でこれからの事を話すスバルの顔は焦りが見える。メリオダスは何故か怪我をしているスバルに疑問を覚えたが竜車が進む先にこちらに向かって手を振る青年を見つけたのでその疑問を取り敢えず飲み込んだ。
どうやらこの人達は商人でここで野営するつもりらしい。疲れた地竜を休ませる為に少しの間休憩することにした。
「これからメイザース領にですか?もう夜ですし危険ですよ。僕らはここで野営するつもりなので良ければご一緒しませんか?」
「そんなこと言って、お前時期外して在庫にした油を少しでも減らしたいだけじゃないのか。オットー?」
先程手を振っていた青年オットー・スーウェンの失敗談を商人の皆で笑っている。
「そんなつもりありませんよ。ま、まぁ確かに少しでも油をご利用いただければと言う欲が無いと言えば嘘になりますが・・・」
「油がどうかしたんですか?」
「今の時期、売り物として価値が微妙な油を大量に抱え込んてるんです」
その言葉を聞いた瞬間スバルは何か思い付いた様な顔をする。
「王都に行ってもこの油を全部捌ききれるか分かりません・・・そしたら僕は破産です!・・・破産です」
絶望的な状況に嘆くオットーにスバルが商談を仕掛ける。それは油を全部買い取る代わりにメイザース領まで連れてってくれと言う内容だった。オットー以外の商人にもその商談を持ち掛けすぐに移動することになった。
「夜間も走り続けてメイザース領に入るのは朝方になるでしょうね」
「休憩無しで悪いな」
「いえいえ。在庫処分が出来る上に運賃も弾んで貰えるなら僕は無敵です!」
ガッツポーズで張り切るオットーを他所にレムが距離を確認したいと言うのでスバルは携帯電話の明かりで地図を照らす。オットーはそれを不思議そうな目で見ていた。
「ん?あの木は確かフリューゲルの大樹だったな」
「あぁ、なんでも数百年前にフリューゲルって賢者が植えたって伝承が残ってるんだとよ」
隣りに竜車を走らせていた商人の男がメリオダスの呟きを聞いて補足する。
「すげぇ木だなぁ。こりゃ見事としか言いようがねぇ・・・」
フリューゲルの大樹に気を取られていたスバルはふと隣りを走っていた竜車に目をやるとそこには誰も居なかった。
「・・・メリオダス、隣りを走ってたオッサンどこ行った?」
「何言ってんだ。元々隣りには誰も居なかったろ?」
「・・・は?」
次の瞬間急に霧が発生すると共に獣のような鳴き声がスバルの耳に入る。近くに何かの気配を感じたスバルは恐る恐る携帯電話の明かりで周囲を照らす。するとそこには巨大なガラス細工の様なものがあり携帯電話の明かりが反射していた。スバルはガラス細工をじっと見詰めるていると、なんとそのガラス細工が動き自分を見ていた。そこで少し考えあるものに辿り着くーーこれはガラス細工では無い、眼だ。巨大な何かの眼がある事に気付いたスバルは驚き声を上げた瞬間その巨大な生物も再び吠える。その衝撃でスバルは吹っ飛ばされてしまい竜車を外へ投げ出された。
「スバル君!」
咄嗟の判断でレムがスバルをキャッチし竜車に着地する。すると巨大な生物が此方に身体を押し付けて潰そうとして来たのをメリオダスが蹴り飛ばして軌道を逸らした。
「何があったんだ!一体どういう事なんだ!」
「スバル君、立たないで!風避けの加護が切れています!」
「随分とタフなヤツだな。あのでけぇのは何なんだ?」
「分からないんですか!霧の中、あんな巨体で空を飛ぶ存在なんて一つしかない!!」
スバルとメリオダスの疑問に竜車の手網を握りながら何とか答える。その顔には焦りや恐怖が入り混じっていた。
「ーー白鯨です!!」