「オレは魔神族。十戒〈統率者〉メリオダスだ!」
「魔神族? おこがましいのは君だ、メリオダス。この程度で神を名乗るなんてね」
メリオダスの攻撃はパックには大して効いていなかった。
「準備運動は終わりだよ」
飛びかかりメリオダスを地面へ叩きつけ、そのまま押し潰す。その衝撃で地面が凹み亀裂が走る。
「準備運動と言うのも案外嘘では無さそうだ」
地面を押さえつけていたパックの右前脚がメリオダスの獄炎によって爆発し思わず脚が離れる。
「”お手”の次は、”お座り”か?」
闇を纏わせた左手をパックへ向け強く握る、今度はその手を振り下ろす。
闇はメリオダスの動きに合わせてパックの体を覆い締め上げ地面に叩きつける。
「くっ・・・!」
悶えるパックに追い討ちをかけるようにメリオダスは力を入れる。更に重力が増し最早ミンチになるのは時間の問題かに思われた時、パックの大氷結が闇を突き破ってメリオダスに直撃する。
「もしかして勝ったと思った? 君は僕を舐め過ぎだよ」
「・・・それはお前も同じだ」
爆煙の中からゆっくりと姿を見せるメリオダスは余裕の笑みを浮かべている。
「これが全力か?」
「安心していいよ。次は僕も本気で行くから」
そう言った瞬間、パックの右前脚がメリオダスを弾き飛ばしパックもそれを追いかけて飛びかかる。
噛み砕こうとした口を蹴り上げ、それに負けじとパックも鉤爪で引っ掻く。
「ッ・・・!」
ロストヴェインでは防ぎきれず体の数ヶ所から血が噴き出す。
互いに一歩も譲らない攻防が続いている。
**********
二体の化物の戦いを無気力に見詰める少年の眼に生きる希望は無い。村は壊滅し大切な人も死なせてしまった、もう既に詰んでいる。
(・・・・・殺してくれ・・・・・殺してくれ!)
辺りに転がる魔女教徒の凍死体、そしてエミリアの死体も雪に埋もれていくの見ながら死を願うスバル。
すると突如轟音が止む。目線を向けるとそこには地面に倒れ伏すパックとそれを見下ろすメリオダスが居た。
「全力を出さぬまま倒れるとは・・・」
パックもメリオダスも全力で戦っていなかった。
メリオダスは自身の力が強すぎるが故の油断。
一方、パックはメリオダスの様に舐めていた訳ではなく、近くに居たエミリアを巻き添いにしてしまう為、本気で戦えなかったのだ。
「ふん・・・」
そしてメリオダスは興味が失せた様に屋敷の方へ顔を向け飛び去ろうとしていた。
「待ってくれ、メリオダス!」
そんなメリオダスをスバルは呼び止める。それに応じてメリオダスも止まりスバルを見下ろす。
「・・・お前は、レムのことを覚えてるよな? ラムもエミリアもエリザベスもおかしいんだよ。皆レムを知らないって言うんだ!あいつは俺達にとっては掛け替えの無いーー「スバル」 ・・・メリオダス?」
何かに縋る様に同意を求めるスバルにメリオダスはただ無表情で答えた。
「ーー誰だそいつは?」
スバルの期待とは裏腹に返ってきたのは否定だった。
「・・・は? 誰ってお前・・・昨日まで一緒に居ただろうが!」
「寝ぼけてるのか? 昨日もその前の日もレムなんて奴は居なかっただろう」
「じゃあ、白鯨は・・・此処に来る途中、白鯨はどうしたんだよ! レムと協力して倒したんじゃないのかよ!!」
「白鯨の分身体なら殺したが、本体には逃げられた。その時もオレ以外誰もいなかったぞ?」
白鯨が分身したと言う発言にも驚いたが今はそれよりも最近まで一緒に居た筈のメリオダスまでもがレムのことを忘れている事に驚愕する。
「・・・他に無いならもう行くぞ」
そう言ってメリオダスは呆然とするスバルを置いて屋敷の方へ飛び去って行った。
(そんな・・・メリオダスも、レムを忘れたってのかよ・・・!)
この世界に心底絶望したスバルは”戻る”べく自殺することを決意し今まさに自らの舌を噛み切ろうとした瞬間、先程まで倒れていた獣が目を覚ました。
「ーー全く、僕はまだ死んでいないんだけどね」
「!!」
「それとも敢えてトドメを刺さなかったのか・・・相変わらず何を考えてるか分からない男だ」
死んだと思っていたパックはなんと生きていたのだ。しかし重傷を負っているのでかなり弱っている。
「あぁ、そういえば居たんだったね」
スバルの存在を確認したパックは力を振り絞り起き上がりメリオダスと同じ様にスバルを見下ろす。
「さて、話しをしようか。スバル」
**********
ロズワール邸内部、殲滅状態と化したメリオダスは虱潰し扉を開けて禁書庫を探していた。その間屋敷内に潜んでいた魔女教の生き残りが数名が死角から攻撃をして来たがそれを一瞥もくれること無く返り討ちにあっていた。
「おや? アナタは・・・こんな所で再びお会いするとは奇遇デスねぇ」
廊下の奥から何者かが近づいてくる。それは先程メリオダスが殺した筈のペテルギウスと容姿は全くの別人であるものの言葉遣いや仕草が酷似している男が暗闇から姿を現した。
「私は魔女教大罪司教〈怠惰〉担当、ペテルギウス・ロマネコンティ・・・デス!!」
「・・・ふん」
名乗りだしたペテルギウスに興味が無いと言いたげに嘲笑する。
「先程の背後からの攻撃は見事! それに比べ私は何と愚かな、眼前の獣に気を取られてアナタの存在に気づかなかったとは・・・あぁ〜怠惰怠惰怠惰ァァ!!!」
自ら自虐行為に走るペテルギウスを無視してメリオダスは高速接近し素早く蹴りを繰り出した。勢い良く蹴り飛ばされたペテルギウスの足を掴みそのまま床に叩きつけその衝撃で床が抜け落ち下の階へ落下していく。
「ッ!」
終わったと思われたその瞬間、無数の”何か”が背後から出てきてメリオダスの体を押さえつける。
「油断しましたねぇ。怠惰なる我が権能《見えざる手》デス」
背後に居たのは先程の男性とはまた違う男性、しかし今メリオダスの背後に居るのは間違いなくペテルギウスだ。
「・・・どういう仕組みだ?」
それは見えざる手を指しているのではなく殺した筈のペテルギウスが何故こうして姿を変え生きているのかという疑問だった。
「知ったところで意味が無いのデス! 今からこの私が怠惰なるアナタを・・・殺すのデス!!」
そう言うとペテルギウスは力を入れてミンチにしようと試みるがメリオダスは微動だにしない。それどころか体に全く変化が無い様な素振りをしている。
「この程度か? 権能とやらは」
「・・・バカな。あの獣だけでなくアナタまでも・・・こんな事、あるはずが無いのデス!」
同様の余りメリオダスから見えざる手を一旦引き戻す。
「私の魔女に対する信仰を、愛を、アナタの様なものに妨げられて良い筈がないのデス!!!」
再びメリオダスを殺さんと見えざる手を伸ばして来るがそれよりも速くペテルギウスの懐に潜り込む。
「見えざる手、か・・・見えていれば大したことはない。最も見えていようがいまいがオレの脅威にはならんがな」
「何故デスッ!!・・・「まだ気づかないのか?」・・・な! これは・・・!」
伸ばした見えざる手を確認すると微小だが獄炎を纏っていた。それに今気づいたペテルギウスは自らの怠惰を自覚する。
「体に触れていた時、既に獄炎を纏わせておいた。流石に気づくと思ったが・・・余程動揺していたようだな」
メリオダスは拳を強く握り、そのままペテルギウスの腹部を貫く。
「貴様自身の体は人並みだな」
「がっ・・・あ・・・あぁ・・・・・・」
そしてメリオダスはとどめに獄炎でペテルギウスを焼き尽くす。
「・・・脳が、震・・える・・・」
それを最後にペテルギウスは絶命する。
ーー同時刻、スバルも死亡した。