トロイアの英雄と正義の味方   作:白燕狭由那

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わかっている。連載物抱えているのにそれを放って別物に飛びつくのはどうなんだよってのはよくわかる。

だが!オジサンカッコいいんだよ!!

(一応転生姉は執筆しています)




『魔術師でありながら、サーヴァントと同等の戦闘力を持つ奇妙な奴』

それが彼に抱いた、第一印象だった。

 

 

トロイアの英雄、ヘクトールとカルデアのマスター、衛宮士郎が出会ったのはオケアノスでのこと。

当時は敵対する者として何度も戦った。もう一人のマスターと盾の少女をフォローしながら、士郎は剣士のサーヴァントと共に戦っていた。

魔術師にも前線に立つ者がいることは知っていたが、その時は気にもせず彼等を相手にしていた。

ヘクトールの考えが変わったのは、サーヴァントを犠牲に女神を奪還された時。アステリオスだけでなく彼を相手にしていたヘラクレスを侮辱したイアソンに対し、士郎は明確な敵意をぶつけた。

 

 

『自分がそうだったからって、誰かを思いやることをしないなら、そんな奴は英雄とは言わない。そんな生き方しか出来ないなら、理想を抱いたまま溺死しろ』

 

 

当然、イアソンは怒りを顕にしてヘクトールに攻撃することを命じた。ヘクトールが放った攻撃はアステリオスが身を挺することで防がれ、その隙にカルデアのマスター達はフランシス・ドレイクの船で離脱したのだった。

イアソンが地団駄を踏みメディアがそれを宥めていた時、ヘクトールは彼等が去った方向から殺気を感じた。急ぎ目をやると、百を超える矢がこちらに飛来してきていた。メディアもそれに気付いて障壁を張り攻撃を防ぐが、矢と思っていたそれが剣でその攻撃のひとつひとつに宝具級の神秘が宿っていること、それら全てが障壁に直撃するとともに爆発―――宝具の自壊によって内包する全ての神秘を叩き付ける“壊れた幻想”であることに驚愕していた。

剣の掃射がそろそろ終るかと思った頃、より強い魔力が迫って来ていることに気付いた。障壁の強度を高めて衝撃に備えたその時、螺旋型の剣が風を斬るように飛来して障壁と衝突した。予想以上の威力にメディアも顔を歪めながら障壁の維持を続けたが、壊れた幻想で障壁は崩されて爆風がイアソンとヘクトールにも襲い掛かった。

 

それ以上の追撃はなかったものの、イアソンは自分を守りきれなかったことでメディアを責めた。イアソンの叱責を受けながらも、メディアはあくまでも冷静に壊れた幻想を完全に防ぐことは出来ないと説いた。

だとすると疑問が浮かぶ。あれだけの宝具を無駄にするような行為は、あちらにしたら不利になるはずだ。それにあちらのサーヴァントは盾の少女と何故か弓兵になっている月の女神、自分達から奪還された女神、青の槍兵、青と黒の剣士で、あれだけの宝具を所持しているのは有り得ないはずだ。そんな疑問に、メディアはある結論を語った。

 

あれは全て模倣品――しかも、限りなく本物に近い品だと。

 

その事実に、イアソンはおろかヘクトールですらも言葉を失った。サーヴァントの象徴たる宝具を模倣品とはいえ作り出すことなど、メディアも聞いたことはない。

では、一体誰が?その答えを出すことは、イアソンには不可能だった。

 

しかしヘクトールには、ある予感があった。

自分と対峙した赤毛の青年―――士郎と呼ばれていたマスターは自分の動きを観察していた。極槍を放とうとした時も、右手で何かを構えるような仕草をしていた。もしかしたら、アステリオスが防いでいなければ、彼が極槍を受け止めていたのかもしれない。

そのことをイアソン達に伝えたら状況は違っていたのかもしれないが、ヘクトールはそれをしなかった。

何故か?理由は簡単だ。

“興味が湧いた”――それだけだ。

 

 

そしてカルデアのマスター達と再び相対した時、ヘクトールは迷わず士郎と対峙した。傍らには剣士が二人。相性的にはあちらが優位だが、己は防戦を得意としている。相手が倒れるか、自分が倒れるか。

 

 

「総戦力でかかってきな、ガキ。年季の違いを教えてやるよ」

 

士郎は臆する事なく、真っ直ぐ自分を見据えて返す。

 

「なら、こちらも全力を持って相手をしてやるさ」

 

士郎はいつの間に手にしていた黒と白の双剣で切り掛かってきた。ヘクトールはそれをドゥリンダナで受け止め、打ち合う。双剣の片割れを叩き落とそうととも、残された刃が槍を迎撃し、次の瞬間には叩き落としたはずの刃が戻っている。それを何十回、何百回と繰り返すうち、ヘクトールにも焦りが出てきた。

一瞬の隙を見てヘクトールは士郎を蹴り飛ばすが、士郎は空中で体勢を整えて着地する。

変わって、今度は二人の剣士が同時に切り掛かる。青と黒の騎士王は在り方は違えどその太刀筋に変わりは無く、連携するように剣舞を繰り出す。

ただでさえサーヴァントと対等の戦力を持つ魔術師に鎬を削られたのに、最優のサーヴァントが二人も襲い掛かって来るのだ。

ここで決めるか―――ヘクトールは距離を取り、槍を構えた。

 

「標的確認、方位角固定―――」

 

其は英雄ヘクトールの代名詞、その投擲に負けぬもの無しと言われる対城宝具。

 

不毀の極槍(ドゥリンダナ)!!」

 

籠手から魔力が溢れ出し、槍を支える彼の腕に負荷が掛かる。そしてヘクトールは勢いそのままに槍を投擲した。

 

「吹き飛びなぁ!!」

 

極槍は士郎達を目掛けて突き進んで行く。ヘクトールはかつて“自分の槍を止めたくばアキレウスかアイアスの盾を持って来い”と言った。普通なら無理な話だろう。

だが、何事にも例外は存在する。衛宮士郎は未来の自分がそれを扱っているのを目にしているのだから―――!

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

 

かつてヘクトールの極槍を防いだ最強の盾がここに顕現された。二つの宝具は己が役目を果たさんと拮抗する。花弁が衝撃に絶えられなくなり、一枚、また一枚と散っていき、七枚目に到達した。盾を支える士郎の制服の腕部は衝撃波により現わとなり、魔術回路も悲鳴を上げている。青の騎士王が駆け寄り、肩に手を載せる。それだけなのに、負担は軽くなったようだ。士郎は残った花弁に魔力を注ぎ込む。

やがて、七枚目の花弁もひび割れていく。ひびが花弁全体に広がるとともに、最強の盾は役割を終えるように砕け散った。極槍もまた、守りを崩すことはできたが、その先の標的を討つことは叶わず、弾かれるようにヘクトールの足元に転がった。

そこで、ヘクトールは気付いた。自分に蹴り飛ばされてから士郎はそこから一歩も動いていない。戦いに集中するあまり気付かなかったが、士郎は自分に問い掛けるように何かを唱えていた。まさか、騎士王達の反撃はあくまでも時間稼ぎで、こちらが本命だったのか。

そう思っている間にも詠唱は進み、終演を迎える。

 

 

Withstood pain to create weapons, (担い手はここに独り)

 

waiting for one's arrival. (剣の丘で鉄を鍛つ)

 

I have no regrets.This is the only path. (ならば我が生涯に意味は不要ず)

 

My whole life was(この体は、)

 

"unlimited blade works"(無限の剣で出来ていた)

 

 

次の瞬間、夕焼けのような、朝焼けのような赤い空と、墓標のように剣が突き刺さった大地が辺りに広がっていた。

 

固有結界―――魔術における大禁呪が展開されていた。

イアソンは勿論、メディアですらも言葉を失っていたが、ヘクトールはどこか納得した表情を浮かべていた。

異界を作り出した張本人は真っ直ぐヘクトールを見据えている。

 

「行くぞ、トロイアの軍神―――守りの余力は充分か」

 

ヘクトールはその言葉に笑みを浮かべ、槍を構え直す。

 

「随分と自信があるみたいだな。―――アンタ、名前は?」

「衛宮士郎。――“正義の味方”だ」

 

士郎の両手に双剣が握られる。

 

「そうかい。なら、この兜輝くヘクトールを破ってみな、正義の味方!!」

 

そう叫ぶと、ヘクトールは駆け出した。

 

同時に、士郎の背後に無数の剣が現れ、剣が一斉に射出される。ヘクトールはそれらを槍で凌ぎながら士郎に接近する。至近距離に到達し、槍を突き出すが双剣がそれを防ぎ、切り掛かるのを身を捩じらせながら避ける。

撃ち合いを繰り返し、互いに距離を取った時には、二人は息を切らし、身体は傷だらけになっていた。いつの間にか、二人の剣士はもう一人のマスターの元で異形――魔神柱と化したイアソンを相手にしている。

 

 

士郎は双剣を破棄し、新たな宝具を出現させた。それは一振りの剣。彼は槍として使用しているが、後世においてとある騎士の剣となったもの。ヘクトールはそれを見て、目を細めた。

 

「―――はっ、それを出してきたのか」

 

不毀の極剣(ドゥリンダナ・スパーダ)。ヘクトールの持つ不毀の極槍(ドゥリンダナ・ピルム)の本来の姿である宝具。ヘクトール自身は投擲を好んでいたというが、流石に投擲ができないような状況では剣として使用したことがあるようだと、士郎は憑依経験から得た情報を整理していた。そして、それをどんな思いで振るったかをも。

 

「確かにアンタが作り出した武器は誰が見ても精巧にできてはいるが、俺は誰よりも不毀の極剣(それ)のことを知っているんだぜ。本来の担い手である俺に勝てるのか?」

「そんなのは関係ない。これで、お前を止めてみせる」

「はっ、上等だ。そんじゃあかかってこい!!」

 

二人は同時に飛び出し、剣と槍の刃を撃つけ合う。

 

 

「「不毀の極剣/極槍(ドゥリンダナ)!!」」

 

起源を同じとする宝具がその真価を発揮せんと、輝きを放つ。

 

「「はぁぁぁああああ!!!」」

 

刃と刃が撃つかり、光が弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝負、ありか――」

 

そう呟いたのはヘクトールだった。霊核の破壊は免れたものの、その胴体は袈裟懸けに斬られており、流れ出る血が衣を伝って小さな血溜まりを作っている。

これではあの男に討たれた時と同じではないか―――。

脚が身体を支える力をなくし、その場に崩れ落ちた。遠くでは魔神柱が討たれたのだろう、耳を(つんざ)くような叫びが響いている。

 

 

“――やっぱり、柄じゃないなぁ”

 

薄れゆく意識の中で見えたのは、固有結界の赤と本来の青が混じった空と、自分を討った彼が先ほどとは異なる歪な刃の短剣を手に見下ろしている姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に目が覚めた時、ヘクトールは何故自分がここにいるのか分からなかった。

ベッドに横たえられた自分を診に来た医師――ロマニから、士郎が契約を断ち切る宝具(あのメディアが裏切りの魔女として英霊となった時の)で強引に契約を結んだのだと聞かされ、余計に頭が混乱した。

何故そんなことをして消滅するしかなかった自分と契約をしたのか――――そんな自分の心情を察したのか、ロマニは苦笑していた。

 

「まぁ君の言いたいことも分かるよ。あのレオナルドだって士郎くんの言い分聞いた時は呆れていたし」

 

カルデアの技術部門を統括しているサーヴァントを例に出して、自分をカルデアに連れ帰った彼のことを語る。

 

「『放っておけなかったから』だってさ。士郎くんには君に何か思うことがあったから、あんなことをしたんじゃないかな」

 

何かあったら通信機で知らせることを伝えてロマニは部屋を出て行った。

上体を起こしてベッドの上から部屋を見回すと、サイドテーブルの上に自分の装備が置かれているのを見つけた。

手に取ってみると、外套は皺一つ無く伸ばされおり、手甲は傷一つ無く磨かれていた。僅かに感じた魔力から、彼がやったのだと察した。どれも持ち主の意思で魔力に還元されてしまうのに。

装備をテーブルに戻すと、再び仰向けになって目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

どれくらい時間が経っただろうか。

部屋のドアを叩く音がして意識が浮上した。

 

「誰だ」

『俺だ。入っても良いか?」

「……どうぞ」

 

訪ねてきたのは、彼――衛宮士郎だった。ヘクトールは彼に入室の許可を出した。

 

ヘクトールは部屋に入ってきた士郎をオケアノス以来改めて見てみる。歳はもう一人のマスターよりも少し年上、地毛にしては珍しい赤毛の短髪と琥珀色の瞳は不思議と調和しており、表情もあの時とは違い穏やかだ。

 

「ロマニから目を覚ましたって聞いたから様子を見に来たけど、調子はどうだ?」

「おかげさまで。しっかり休んだから問題ないよ」

「それなら良かった。なかなか目覚めなかったから心配してたんだ」

 

それ大体お前のせいだよな、とヘクトールは内心毒づいた。投影したものはワンランク下がっているとはいえ宝具の一撃は重く、回復するまで時間が掛かっていたのだ。士郎には問題ないと言ったが、現に起き上がっているのもつらい。

 

「ロマニから聞いただろうけど、ヘクトールは俺のサーヴァントということになっている。基本的に人理修復に協力してもらうことになるけど、問題ないか?」

「へいへい、オジサンもその辺は理解してるよ。というか、それをわざわざ聞くのかい?」

 

ヘクトールにとっては決定事項であろうそれを、士郎は確認するように尋ねたため、ヘクトールは怪訝な視線を向けた。

 

「いや、だってヘクトールは俺が無理矢理契約しちゃったし、本人の合意のないまま協力してくれっていうのはまずいだろ」

「合意も何も俺の関係ないところでやっていただろう。なんでそんなことをして俺を引き込んだんだ?もしかしたら裏切る可能性だってあるだろうに」

 

そう、それこそヘクトールが疑問に思っていたこと。

ロマニは“何か思うことがあった”と言っていたが――。

 

 

「ヘクトールがそんなことをすると思わないから」

「はぁ?」

「あの時も、あのイアソンに最後まで従っていた。イアソンの行いが悪だと分かっていても、だ。それに――」

「?」

「――いや、とにかくそう思ったから俺はヘクトールを助けたいって思ったんだ」

「助けるって…あの女神様ならまだしも、俺みたいなオジサンはないだろ」

 

まだ何か隠しているようだが、士郎はヘクトールが裏切ることはないと思い、助けたいと願ったから契約を結んだということは分かった。

小さく溜息をついていると、士郎はヘクトールの身体を支えて横たえた。

 

「長話に付き合わせてゴメンな。本調子じゃないのに」

 

ばれていたのか、とヘクトールは閉口した。表情は繕えても、身体の方はそうでもなかったらしい。

 

「訓練用のシミュレータとかは一言言ってもらえれば使っても良いからな。もし俺に用があったら訓練室か食堂にいるから」

 

そう告げると、士郎は部屋を出て行った。ヘクトールはそれをただ無言のまま見送り、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

―――――夢を見た。

 

後輩の少女が毎朝起こしに来て、一緒に朝食を作る。

姉のような隣人がやって来て共に食事を取り、一日が始まる。

学校ではクラスメイトや担任に振り回されながら、生徒会の友人に頼まれて備品を修理しながら勉学に励む。

帰宅して再び後輩と隣人と食事を取り、一日が終わる。

 

そんなありふれた、されど平穏な日常が、そこに在った。

 




pixiv投稿時のものに一部加筆修正を行いました。


士郎とヘクトールって、どこか似ているような気がするんですよね。
身内を守るためなら、的な。
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