トロイアの英雄と正義の味方   作:白燕狭由那

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支部での2、3、4を統合・再編集したものとなります。


本作品の士郎の大まかな概要
衛宮士郎(27~28歳)
高校卒業後は遠坂凛とと共に渡英。
時計塔で魔術の研鑽に励み、自分なりの正義を見極めるため途上国で慈善活動に従事する(遠坂とは連絡は頻繫に取り合う)。
時計塔で遠坂が起こした騒動が原因で、その尻拭いとしてカルデアに行くことになる。
全て遠き理想郷は一旦セイバーに返還したが、聖杯破壊後“お守り”として預かっている。

諸々のことはまた書けるときに。




(……今のは…)

 

眠りから覚めたヘクトールは先程まで見ていた夢を思い浮かべた。

マスターとサーヴァントは互いの記憶を夢を通して見ることがあるという。

だとすると、あれは士郎(マスター)の過去だろうか。

今より幾分か幼さの残る面立ち。夢の中で彼は常に誰かのために動いていた。ヘクトールには、それがどこか歪に思えた。

 

ベッドの上で起き上がって今の状態を確認してみる。先日まで残っていたダメージはもう問題ないようだ。

ヘクトールはベッドから立ち上がって軽く身体を解し、サイドテーブルに置いていた装備を身に着けて部屋を出た。

時刻は早朝を少し過ぎた頃。カルデアの廊下を目的のないまま歩いていると、視線の先に見覚えのある姿を見つけた。

 

「あ…ヘクトールさん」

「よぉ」

 

薄紫の少女とリスにもウサギにも似た小動物の組み合わせ。少女―マシュ・キリエライトはヘクトールの姿を見て思わず目を見開いた。ヘクトールは軽く手を挙げて応える。

思えば士郎以外と言葉を交わすのはオケアノス以来これが初めてだ。ヘクトール自身、知らぬ間に契約してカルデアに来てからはずっと眠っていたため、こうして出歩くのも初めてなのだ。

 

「衛宮先輩から目を覚ましたと聞きましたが……お身体はもう大丈夫なんですか?」

「ああ、おかげさまで」

 

会話はそれで途切れてしまった。マシュはなにかを話そうか迷っているような顔をしている。

当たり前か。自分とは敵対していたのだ。もう終わったこととはいえ、まだあの時のことを引きずっているのかもしれない。

そんな沈黙を終わらせたのは彼らの近くにあった扉―――カシュ、という軽い音を立てて開いた部屋から出てきた人物だった。

 

「あれ?マシュ、それにヘクトール」

「先輩!起きてらしたんですか?」

 

黒髪蒼眼の少年―カルデアのもう一人のマスター、藤丸立香。

マイルームから出てきた彼は自然とマシュのそばに行く。

 

「今日は朝練するってことだったから早めに起きたんだけど……」

「!そ、そうでした!!」

「そうだ。ヘクトールも一緒にどうかな?」

「俺も?」

 

ヘクトールは思わず目を丸くした。確かに調子を確認したいと思うが、自分のマスターに許可を取らなくも良いのか気になったが、

 

「士郎さんならこの時間食堂で準備をしているだろうし、俺達と朝練していたってことなら許してくれるよ」

 

と返されたため、結局彼らとトレーニングルームに行くこととなった。

 

 

 

「ん、そうか。分かった、じゃあ頼んだ」

 

立香からの連絡に士郎は作業の手を一旦止めて応答する。その様子を一緒に準備していたタマモキャットとブーディカが見守っていた。

 

「ご主人達はトレーニングに向かったか」

「ああ。一時間くらいで終わらせるってさ」

「そっか。なら今日も腕によりをかけて作らなきゃね」

「そうだな」

 

会話を終わらせて手を動かす三人。手際よく作業したため、予想より早く支度を終えることが出来た。後片付けをする士郎にブーディカは声を掛けた。

 

「ねえ士郎。ちょっと良いかな?」

「え?良いけど……」

「片付けならキャットに任せるがいい。ささ、シロウはブーディカと行くがいい」

 

キャットに台所を追い出され、士郎はブーディカとテーブルを挟んで向かい合って座ったのだった。

 

「えっとブーディカさん、俺に用って……」

「ヘクトールのことだよ」

 

突然自分のサーヴァントである彼のことを切り出されて士郎は目を丸くした。

 

「士郎、ヘクトールがあの子達とトレーニングするって聞いてちょっと嬉しそうな顔してたじゃない」

 

カルデアに喚ばれた他のサーヴァントと異なりヘクトールは特異点で契約を鞍替えさせたケースだ。士郎の独断でだ。

士郎達がオケアノスから戻ってきた時のことを、ブーディカは今でも覚えている。

毛布に包まれて眠るヘクトールを、士郎は大切に抱きかかえていた。

士郎の行動に一部を除いた誰もが困惑していた。そんな面々に、士郎は“放っておけなかった”という理由を述べたのだ。多くの者がその真意を図りかねていたが、士郎のサーヴァントであるアルトリア達は特に異議を唱えなかったし、立香も『士郎さんなりの理由があるんだろう』と納得していたのでその一件はうやむやとなったのだった。

 

「まぁ、な。立香にも人理修復に協力させるってことは言ってあったし、仲間としてやっていくには連携も必要だからな」

「そうだね。ヘクトールほどの英霊がいるなら心強いことこの上ないもの」

 

ブーディカは士郎が契約を鞍替えさせた理由が分かる気がした。

ヘクトールは“守護者”だ。神話においても、身内が原因で戦争が起こったにも関わらず、それを切り捨てず護ろうとした。それが彼にとっての“正義”だったから。

今回もそうだ。イアソンの行いを悪と分かっていながらも、ヘクトールは守護することを選んだ。そのことを、士郎は“正義の味方”として開放してやりたかったのかもしれない。

食堂の入り口付近が騒がしくなってきた。朝食を取り職員やサーヴァントが来たのだろう。

士郎とブーディカは会話を終えて朝食の配膳をすることにした。

 

 

トレーニングを終えたヘクトールは、立香達に誘われるままに食堂に脚を運んだ。

基本的にサーヴァントは食事を必要としないが、生きていた国や時代と異なるものを口にする楽しみを満たすこともある。

特に青と黒の騎士王はその代表格なのだとヘクトールは聞いた。本人達曰く、『ただの料理ではなく、シロウが作った料理だから良いのです(だ)』ということなのだが、エンゲル係数が跳ね上がるほどになっては如何なものか。槍と術の光の御子はうまければ良いと言っていたが、士郎の料理を気に入っているらしい。

食堂に足を踏み入れると、暖かで食欲を湧かせる匂いが鼻をくすぐった。

アルトリア達はいつの間に料理を受け取ったのか、すでに席に座って食事を取っていた。見ているうちに大量の料理が消えていく。

クー・フーリン達はカウンターにいる桃色の髪で狐耳の女性―タマモキャットに話しかけて注文しているらしい。

その他にも、様々なサーヴァントがカルデア職員に交じって食事していた。

その光景に意外なものを見たような表情をしたヘクトール。一緒にいた立香とマシュは苦笑しながらこの状況を説明した。

 

「みんな士郎さんが作るごはんを気に入っちゃってて」

「衛宮先輩は皆さんのリクエストに応えてしまいますからね」

 

職員どころかサーヴァントすら虜にする己のマスターは一体何者なんだ。そう思ってしまったヘクトールは可笑しくないはずだ。

自分達も食事を取ろうとカウンターに向かおうとしたが、ヘクトールは立香達に座って待っているよう言われたため、長テーブルの一画に席を取って待つことにした。

しばらく待っていると、立香とマシュが戻ってきた。その後ろには男―士郎がいた。

 

「マスター?厨房にいなくていいのか?」

「ブーディカさんとキャットにあとは任せろって言われてな。俺もまだ飯食べていなかったし」

 

そう言う士郎は食事が乗ったトレーを一つずつ両手に持っていた。士郎はそのうちの一つをヘクトールの前に置く。

 

「ヘクトールに合わせてギリシャ料理にしてみたんだ。といっても時代とか違うから口に合うかは分からないけど」

 

そういうが、ヘクトールが生きた時代のことを考えれば現代の食事事情は進歩しているだろう。

立香達も席に着いたので、揃って食事を取り始めた。その際、士郎と立香が「いただきます」と手を合わせたので不思議に思っていると、マシュが彼らの国の習慣なのだと教えてくれた。

―――初めて口にした料理は、ほのかに故郷の味がした。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

朝食後、士郎の姿はマイルームにあった。

部屋の中心で座禅を組み、精神統一を行う。

 

 

「―――投影(トレース)開始(オン)

 

 

その手に出現したのは黒い柄に朱金の刃を具えた一振りの剣。

不毀の極剣(ドゥリンダナ・スパーダ)。オケアノスにおいて同じ存在――不毀の極槍(ドゥリンダナ・ピルム)と撃ち合うこととなった宝具だ。

あの時は担い手の技量を再現する“憑依経験”によるヘクトールの剣技で勝利できたが、それもそれまでの撃ち合いで消耗させていたからであり、タイミングを誤っていたら討たれていたのは間違いなく自分だった。

クラス相性に関係なく相手を屠る――ヘクトールはそれをまさに実行できる英雄だ。

 

 

「―――同調、開始」

 

 

投影した極剣を構え、その深層に沈み込むように経験を引き出していく。

ヘクトールがあのトロイア戦争を戦い抜いた原動力、その思いを。

 

『―――士郎くん、ちょっと良いかな』

 

――と、ダ・ヴィンチから通信が入ったため魔術の行使を中断する。

 

「どうした?」

『次の特異点に向けて補助用の礼装を開発したんだが、その性能を確認したいから来てくれるかい?』

「分かった。すぐに行く」

 

通信を切り、士郎は座禅を崩す。持っていた極剣を床に置き、そのまま立ち上がって部屋を出て行った。

 

 

 

 

ヘクトールは士郎のマイルームを目指して歩いていた。

あの後、士郎は立香達の食器をまとめて厨房に持っていきそのまま洗い出してしまったため、言葉を交わすことができなかった。

いや、食事中であってもマナーは悪いが会話することはできるのだが、士郎の料理に夢中になっていたヘクトールはその発想に辿り着けなかったのである。

己の思わぬ失態にヘクトールは赤面し、己のマスターに責任を押し付けることを決めたのだった。

 

閑話休題。

 

ヘクトールは立香達と別れ、談話室などを周っていたが士郎のことが頭から離れなかった。

もう一度話したいと思い、職員から士郎の部屋を聞いて向かっていたのだった。

士郎の部屋の前に着き、いったん深呼吸をする。そして扉をノックする。

が、反応はなかった。

 

「……留守か?」

 

そう思ったがもしかしたらと思い、扉の開閉スイッチに手を伸ばす。

扉が開き、ヘクトールは士郎の部屋に足を踏み入れた。

白を基調とした、最低限のものしか置かれていない空間。その中に、ヘクトールはあるものを見つけた。

 

「これは……」

 

それは士郎が投影し、床に置き放しにしていた不毀の極剣だった。ヘクトールは屈みこんでそれを手に取る。

魔術で作られた贋作というが、不思議と自分の手にしっくりくる。

この剣で、自分は討たれたのだ。そう思うと、柄を握る手に力が込もった。自分自身に負けたような気がして。

 

「―――ヘクトール?」

 

背後からかけられた声にヘクトールは我に返った。振り返ると、士郎が部屋の入り口に立っている。

士郎の視線の先―――己が握っている極剣に気づき、気恥ずかしさを覚えて反射的に剣を背中に隠した。

 

「隠すことないだろ。見たかったら見ていればいいのに」

「別に見たくて見てたってわけじゃないんだけど……」

 

士郎はヘクトールの傍を横切り、棚に置いてある給湯器を操作した。辺りに香ばしい匂いが漂う。

士郎はサイドテーブルをベッドの下辺りに移動させて、コーヒーカップを二つ置いた。

 

「ほら、床に座ってないでこっちに来いよ。その方が見やすいだろ?」

 

士郎が腰かけたベッドの隣を軽くたたいて促す。特に断る理由もないので、ヘクトールは士郎の隣に座った。

不毀の極剣を見詰めるヘクトールを、士郎はコーヒーを口にしながら横目で見守る。

 

「……なぁマスター」

 

不意にヘクトールが剣を見つめたまま口を開いた。

 

「アンタの作る武器は“限りなく本物に近い模倣品”なんだってな?」

「ああ。俺の魔術――投影魔術で作ったものは少し特殊でな……」

 

士郎は自分の魔術とその産物の特異性について語った。

 

 

――本来、投影魔術とは自己のイメージからオリジナルの鏡像を魔力によって複製するもので、イメージが完璧でなければ存在強度を失い霧散する、極めて効率の悪い魔術である。

だが、士郎の投影したものは彼自身の魔術『固有結界』から引き出されたものであり、厳密に言えば投影魔術ではない。

その方法も、一度見た現物もしくはその情報を元にして、

創造理念(創造の理念を鑑定し)

基本骨子(基本となる骨子を想定し)

構成材質(構成された材質を複製し)

製作技術(製作に及ぶ技術を模倣し)

憑依経験(成長に至る経験に共感し)

蓄積年月(蓄積された年月を再現すること)

によって宝具の能力の再現も可能にしてしまうということだと。

これを聞いたヘクトールはオケアノスあの時の現象に納得するとともに、自分自身に討たれたということを改めて自覚してしまった。

自分に用意されていた、冷めてしまったコーヒーを呷ったが、気持ちは落ち着かない。

 

「なぁヘクトール、もし良かったらさー――」

 

ヘクトールの様子を見ていた士郎はある提案をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

彼らの姿はトレーニングルームに在った。士郎が出した提案とは、『全力で自分と撃ち合う』ということだった。

士郎が使う武器は不毀の極剣だけ、お互いに宝具の真明開放は行わないという条件の元、士郎とヘクトールは向かい合って得物を構えていた。

 

 

「―――憑依経験、共感完了」

 

剣を構えていた士郎がそっと目を開く。此れよりこの身が振るうはヘクトールの技。

士郎の纏う気配が変わったことを感じたヘクトールは槍を握る手に力を込める。此れより相対するは己自身の技。

 

 

『それじゃあ二人とも、準備は良いかい?』

「ああ」

「問題ない」

 

管制室でモニタリングを行っているロマニの声に二人は短く返事を返す。

モニターに映る彼らの姿を、立香やマシュ、アルトリア達が見守っている。

 

『それでは……始め!』

 

開始の合図とともに二人はほぼ同時に飛び出し、フィールドの中心で剣と槍の刃を打ち合った。

士郎が剣を振り降ろせばヘクトールが槍でそれを受け止め、ヘクトールが槍を突き出せば士郎が剣でその軌道を逸らす。

それは“どのタイミング何の手を出してくるかが分かっている”様だった。

そう、これはヘクトールが自分自身と向き合うための通過儀礼。衛宮士郎によって再現された己の技と向き合うことで、ヘクトール自身の壁を乗り越えるものだ。

奇しくも、かつて士郎がもう一人の自分と対峙した光景と酷似していた。

 

 

 

 

「……すごい、です」

 

管制室で二人の先頭を見守っていたマシュがぽつりと呟いた。

モニターの中で二人は一歩も引かずに剣閃を繰り広げていた。

デミサーヴァントとして力を発揮できていない自分とは何もかもが違う。その事実に、自分の未熟さを痛感してしまう。

 

「―――大丈夫です」

 

そんなマシュの気持ちを察したアルトリアが声を掛ける。

 

「戦う力だけがすべてではなく、守護る力も在り方のひとつです。貴女に力を託した者は、それを象徴する者なのですから」

 

アルトリアの言葉にマシュは少し表情を明るくした。

 

「――はい。ありがとうございます」

 

 

そんな会話をしている間にも、戦況は変化していた。

ヘクトールは槍の柄を短くして剣に持ち替え、クラスの相性を感じさせない技量を発揮していた。

士郎も負けず劣らず剣を巧みに振るい、ヘクトールの剣閃を防いで隙を与えない技量を魅せていた。

 

 

ガキンッ!!

 

 

という音があたりに響く。

不毀の極剣が宙を舞い、彼らから離れた場所に転がった。

フィールドの中心で向かい合ったまま肩で息をする二人。

士郎は両手で極剣を握り締めており、ヘクトールは両手を力なくだらりと降ろしていた。

士郎の勝利か―――先頭を見守っていた誰もがそう思った時。

士郎の手に握られていた極剣が、軽い音を立てて砕け散った。

 

 

「引き分け――、ってところか」

「ああ――そう、みたいだな」

 

ヘクトールなら宝具を呼び戻すことができるし、士郎も宝具を再投影することが可能だ。

それでも、二人はこの結果に不満はなかった。全力を出して撃ち合った結果なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

模擬戦を終えて、ヘクトールは自分の部屋に戻っていた。

シャワールームで汗を流しながら、オケアノスでの戦いと今回の士郎との模擬線を思い返す。

ヘクトールの目から見ても士郎の腕は悪くない。絶え間ない努力により磨き上げられたそれは称賛に値するものだった。

だが、夢で断片的に見た士郎の過去は戦いとは無縁なものだった。平和な世界で生きているはずの人間が何故戦う力を求めたのか。あの時名乗った、“正義の味方”と関係するものなのだろうか。

その疑問はシャワールームから出ても答えが浮かばず、濡れた髪を乾かすことも忘れていた。

 

――――――と。

 

『ヘクトール、入ってもいいか?』

「―――、ああ。どうぞ」

 

扉を開錠してやると、士郎がトレーを持って入ってきた。

 

「おにぎりを作ったから一緒に………って、ヘクトール」

 

士郎はサイドテーブルにトレーを置くと、ヘクトールの髪に触れた。

 

「髪濡れているじゃないか。風邪ひくぞ」

「……サーヴァントは風邪をひかないと思うんだけど」

「気持ちの問題だよ」

 

首にかけていたタオルで髪を乾かされる。粗方乾いたところで、いつの間にか手にしていた櫛で髪を梳かされた。

 

「よし、できたぞ」

「ああ、どうも…」

 

タオルを脱衣所近くの籠に入れると、士郎はヘクトールの隣に座り、トレーに載せていた皿を差し出した。

 

「好みの具とか分からなかったから鮭にしたけど、大丈夫か?」

「ああ、ありがと」

 

皿の上からおにぎりを一つ取って頬張るヘクトール。それを見守りながら、士郎も自分の分を取って口にする。

ほぼ同時に食べ終えて、しばし二人は無言になったが、ヘクトールが疑問に思っていたことを尋ねようと口を開く。

 

「マスター、アンタはなんで“正義の味方”になろうと思ったんだ?」

 

士郎はヘクトールの目を真っ直ぐに見る。

 

「……俺にはさ、義父がいたんだ」

 

士郎は語る。ある事故ですべてを失い、義父によって救い出されたこと。義父の夢―――正義の味方になることを受け継いだことを。

ヘクトールはそれをただ静かに聴く。

 

「…それで、アンタは思い描いた 正義の味方()に辿り着けたのか?」

「いいや、分からない。今でこそ人理修復なんてことをしているけど、カルデアに来る前は途上国でボランティア活動をしていたし、とにかくいろんなことをやってきたけど、答えはまだ出ていないんだ」

 

学校建設に係わったり、一緒に井戸掘りをしたり。ボランティア先での活動を語る。

 

「でも、行った先の人達の笑顔を見るとなんだか嬉しくてな」

 

そう語る士郎の表情は晴れやかで。ヘクトールにはそれが眩しく見えて。

 

「……そうかい」

 

と、そう返すだけだった。

 

 

「―――っと、そろそろ俺は行くよ」

「ああ」

 

部屋の扉に向かう士郎を見送るヘクトール。

 

「あっ、そういえば」

「……どうしたんだ?」

 

士郎が何かを思い出したのか立ち止まって振り返る。

 

「飯の量、足りないなら今度から少し増やしておくぞ」

 

その言葉を理解するのにヘクトールは時間を要した。

飯の量が足りない?何故その発想になった?まさか朝食の食いつきがそう見えたのか?

我に返った時には既に士郎の姿はなく、ヘクトールは赤面し頭を抱えたのだった。

 

 

その後、食堂で不機嫌オーラを放ちながら用意された食事(朝食比1.5倍の量)を食らうヘクトールとその雰囲気に困惑する士郎、その光景を生暖かく見守る立香以下その他の面々が目撃されたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月が映える夜、日本家屋の縁側に二つの人影が在った。

一人は壮年と思われる黒髪の男性。もう一人は赤毛の少年。

 

『子供の頃、僕は正義の味方に憧れてた』

 

そう口にしたのは男性だった。

少年は男性の独白に疑問を投げかける。

 

『何だよ、それ。憧れてたって、諦めたのかよ?』

『うん、残念ながらね。ヒーローは期間限定で大人になると名乗るのが難しくなるんだ』

『そっか、それじゃ、しょうがないな』

『うん、本当に……しょうがない』

 

自然と途切れる会話。そして、少年が口を開く。その運命を決定付ける言葉を。

 

『うん。しょうがないから俺が代わりになってやるよ』

『まかせろって。爺さんの夢は――――』

 

“――――俺が、ちゃんと形にしてやっから”

 




次回書くとしたら幕間。オケアノスカルデア視点とかカルデアメンバーから見た士郎とか。
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