何かアドバイスなどありましたら言ってくださいな。
「だからやめようって言ったじゃん!も~~!!」
「今さらそんな事言ったって仕方ないだろ!文句言わずに走れ!!」
「コウのバカぁ~~!」
…森の中を全力疾走する若い男女。この一文だけをみると我々現代人には青春しているのかと思ってしまうが、決してそういう訳ではない。そう、彼らは背後から迫ってくる'何か'から全力で逃げているのだ。某神の見えざる手の如く追ってくるその'何か'。絶対に捕まってはいけないと防衛本能が全力で囁きまくってくる。
「でもこの怪しい森を抜ければこいつも追ってこれないはずだ。あと少し走るぞ!幸いあいつはどんくさい!」
「も~~、つーかーれーたーー!」
…これは遡ること数時間前のこと。人口数十人のとある小さな村に暮らしているコウとナナはいつもと変わらぬ畑作業をしていた。
「ったく、今日も今日とて畑仕事ですか。俺も世界を脅かす魔王とか倒しに行きたいなー。」
「もうコウったら!口じゃなくて手を動かしてよ!大体私たちは普通の人なんだしさ…てか、私ばっかり働いてるし!」
「ハッハッハ、今日もお前らは仲がいいなァ!こりゃ結婚相手には困らなそうだな」
「あと数年で結婚できるわね~」
「父さんもお母さんもからかわないでよね!」
「ナナのことは僕に任せてくださいなっ!キリッ」
「キリッじゃないわよキリッじゃ!!」
「ハッハッハ!」
代わり映えの無い日常。だがそんな毎日も悪くないとナナは思っていた。今日はどんな面白い事が起きるんだろうな…。ってゆーか、私とコウは付き合ってないからね。村の人は勘違いしてるみたいだけど!そんな事を考えながら畑仕事を進めていく。
「よーしお前ら、今日はここらで終わりにしていいぞ」
「お父さんと母さんだけで大丈夫?」
「あと少しだけだからな。そんなことよりコウと遊びに行ってこいよ。あいつ森で遊びたがってるぞ?」
「そんな森に行きたがってなんて…」
ナナが振り返るとそこには木で作られた槍と剣、そして何かの動物の毛をトーガの如く装備していたコウが立っていた。
「ナナ…やっと気づいたか。これ結構恥ずかしいんだぞ?」
「いや知らんがな!?てか着替え早っ!!!」
「とにかく行くぞ!今日は何かが起きそうな気がする!俺の中の何かがそう囁いているのだァ!」
「それ森に行く度に言って…」
ナナが最後まで言う間もなくコウに手を取られ森に飛び込んでいってしまった。
「おとうさーん、おかあさーん、夕方までには帰ってくるねー!!」
「おう、行ってきな!」
「ケガせず帰ってくるのよ~」
父と母に見送られながらナナはコウに森に誘われる(拐われる)。森に行くときはいつもこんな感じなのである。そして猪の如く森の中を突っ切る。毎度毎度全力疾走なので非常に疲れるが、今日はどこへ行けるのだろう、そんなことを考えながら森の奥へ奥へと走っていくのも悪くはない。
「今日はどこまで行くつもりなの?」
「行けるだけいくのみさ!」
雄叫びを揚げながら走るコウ。でも、そんなコウも悪くないかも…なんてことを考えてる内に辺りの雰囲気が明らかに変化しているのにナナは気が付いた。今は昼間のはずなのに陽射しがほとんど入ってこない。
「ねぇコウ」
「(雄叫び)」
「コウってば!」
「ごふっ!?」
ナナが足を引っかけると、全力で走っていただけあって、すさまじい勢いでコウは地面に倒れていった。
「もう、ひどいじゃないか!折角走ってたのに」
「そ ん な こ と よ り!周りを見て!!」
「なんじゃこりゃ…まるで夜みたいじゃないか…」
「私たち、そんなに森の奥に入ったかしら…?」
日光を遮るかのように生えている木々。まるでジュラ期のようなサイズの植物が生い茂っている。
「なんかここ嫌な予感がするわ。早く戻りましょう」
さすがにこのイレギュラーな状況は相当コウに堪えたらしく、コウは倒れたままである。その身体を起こそうと手を取った瞬間、その手を強く握り返された。ナナは二重で嫌な予感がした。
「いやさすがにこれ以上は…」
「やっぱ冒険でしょ!!!!!!!」
ナナの言葉は遮られ、今までしゅんとしていたコウは水を得た魚の如く元気になっていった。
「ほら、一緒に行かないないと迷子になって危ないよ?ガンガン行こうぜ!」
そう言って立ち上がると同時に走り出すコウ。ナナの本能はこの先に進むのを全力で止めてくる。が、そんなナナの様子を気にもせずにコウは突き進む。
「もうイヤだぁ~~!」
そんなナナの悲痛な叫びは森の深い闇に消えいった。
しばらく進んで行ったが特に変わった様子は無かった。相変わらず陽射しはほとんど入らないが、木漏れ日が綺麗だなぁと考えられるだけの余裕がナナにはできていた。もしかしたらここは人の手が届いていないだけの森で、本当に何もないのかもしれない…などと考えながら歩いていたら、コウが急に立ち止まった。
「ち、ちょっと、急に止まらないでよ…」
「何かあるっ…」
そう言うと小走りで行ってしまった。
「待って置いていかないで!はぐれちゃう…」
コウに追い付くと少し開けた場所があり、そこで彼は何かに釘付けになっていた。その目線の先には石造りの古びた祠のような建物があった。
「何これ…さすがにこれ以上は危ないから帰った方が… 」
「いや、中に入らないといけない気がするんだ。」
そう言うと彼は祠に向かって歩き出した。今一人で帰る訳にも行かないし、コウを一人で行かせるのも何だか気が引けた。
「こうなりゃ私もヤケですよ、何があるか最後までみますからね」
そう言ってコウについていく。
「私はこの異様な雰囲気の森に入った時から怖かったけど、コウは怖くはないの?」
「怖さよりも興味の方が勝ってるからね、むしろ自分がどこまで行っちゃうのかの歯止めが効かなくて怖いね!」
なんて会話をしていると祠に前に着いた。改めて近くで見るとその大きさに圧倒される。そして何だか不気味である。草花が生い茂っており長年手入れされてないことが分かる。
「…ねぇやっぱりここに入るの?」
「もしかしたらお宝があるかもしれないし、入ってみよう。それに何かあっても俺が守ってやるからさ!」
彼はそう言うと木製の剣を構えてみせた。素振りをするとビュンと空を切る音がした。なんだかいつもふざけてばっかりのコウが頼もしく見えた。
「絶対に守ってよね…」
いざ祠に入ってみると何故だか知らないが内部は明るかった。どうやら地面や壁に描かれている紋章が薄く光っているようだ。
「これってもしかして魔法…?」
「わからない。わからないけど明るいのは俺らにとって好都合だろ。安心して進めるな」
「私も魔法使えるようになるかな?」
「練習すれば使えるんじゃない?俺も魔法なんてあんまり見ないし、よくわからないけどね」
実際魔法は練習すれば誰でも使えるようになるがコウ達が住んでいる村では誰一人会得している者はいない。決して怠慢などではなく、周りに魔法を扱える者がいないとその習得は非常に困難なものである。彼らの村は主要都市からも離れているので旅の人達が流れてくることもほとんどない。コウは旅(脱走)をして村から出た経験があるので魔法を見たことがあるが、この村からほとんど出たことのないナナにとってはこれが初めて見る魔法である。先ほどまでの恐怖心はすっかり消え、魔法に目を輝かせながら進んでいくと最新部に着いた。台座のような物がありそこには剣が刺さっていた。明らかに封印に使用されているような禍々しい雰囲気のお札が下に敷いてあり、その上に剣がぶっ刺さっている。
「コウ、まさかこの剣抜こうなんて言わないよね?」
「そうだなぁ…」
そう言ってスタスタと剣に向かうコウ。まさか、いやまさかそんなこと…。非常に嫌な予感がした。いや、でも今回は下にお札が見えてるし、さすがに抜きはしないよね…?コウはお札と剣を交互に見た後、口を開いた。
「これ、抜いたらまずいよねやっぱ…」
「あぁ、今回ばかりはわかってくれるのね!さすがに下にお札があるし、抜いたら絶対にまずいよね、私もそう思う」
「何か封印されてるのかなぁ…?」
「そうなんじゃないかな?」
「あ、この剣の名前何だと思う?」
「随分と唐突ね、何だろう…」
少し考えるナナ。
「正解は、エク○カリバー」
シャキンッ。
「えっ?」
「あ、抜けちゃった」
その手にはしっかりと古びた剣が握られている。
「いやいやいやいや抜けちゃったじゃないでしょ!??」
すると案の定揺れ始める祠。これはマズイ。非常にマズイ。絶対に封印が解かれちゃったヤツだ。さてこれからどうしよ…剣を戻すか?しかし一度解かれてしまった封印は簡単には戻らないと相場が決まっているから…そうだ、京都に行こう。などとUSBメモリーもびっくりの速度で思考を巡らしているナナ。
「おい、行くぞ!」
その声で我に返る。そしてコウに 手を引かれ走っている。彼は必死で走っていたが、しかしその後姿は非常に楽しそうである。あ、これは絶対に何かあったなと本能的に悟った。そしてナナは走りながら後ろを振り返る。そこには手のような黒いものが2本、辺りの木々をバッタバッタとなぎ倒しながらこちらを追ってきている。それが何かはわからないが確実に捕まってはいけない気がした。いや、捕まったら死ぬな、コレ。今日はどんな面白いことが起きるんだろうな(キャピッ☆とか考えてた数時間前の自分を全力で殴り倒してやりたい。
「やっちゃったぜ☆」
「やっちゃったぜじゃないわよぉぉぉぉぉ」
そんなこんなで現在に至る。コウもナナも無我夢中で走った。そして辺りは気付くと陽射しが入ってきてすっかり元の森に戻っていた。後ろから追ってきていた'何か'の姿も、もう見えない。
二人とも息を切らしながら地面に倒れこんだ。コウもさすがに今回ばかりは命の危険を感じたらしく、相当疲れているようだった。これは夢なのかとすら思えてしまうような出来事だったが、しかしコウの手にはしっかりと古びた剣が握られていた。
「とりあえず村に帰るか…」
「そうね…」
ナナは普段からコウに連れられてよく走っていたが、久々にこんなに疲れた。一刻も早く帰って寝てしまいたかった。コウも何だか考え込んでおり、二人の帰路には会話が無かった。