街の安いホテルを借り、部屋で刀の手入れをしていると例のマフィアから連絡が来た。.....オーケストラはしくじったらしい。オーケストラ最後の生き残りは死に、残りは年若い娘が残った。行方は知らされていないが、端から興味はないので関係ない。
「ようやく、仕事の時間だ」
今は時計表記で8時を少し回った辺り。クラドは黒のジャケットを羽織り、刀の入った鞄の紐を背中に回し、担ぐように背負う。そして、ホテルの窓から外に出て、薄暗い路地を疾走した。
「グリムサイス?」
ヨナはやはり知らないのか、目をパチパチとさせ、頭に?を浮かべている。
「まぁ、ヨナが知らなくても仕方ない、ていうか私もあまりよく知らないけどね、名前と戦闘スタイル以外。元々最初から情報が少なくて、あまり知らないけどあの男の戦いのスタイルで気づいた。数年前まで名も知られていない殺し屋だったけど、年月が経つにつれ、彼の戦闘スタイルと依頼達成率が話題を呼んだ」
「依頼達成率は分かるけど、戦闘スタイルって」
「それはね」
「銃を使わねぇからだ。奴が使うのはたった二本の東洋の剣だけ。それで依頼達成率がなんと9割と来たもんだ」
横からレームがピースサインのように二本指を立て、言った。ココは説明の肝を取られたせいか、レームを睨んでいる。
「レームぅ......」
「いやぁ、悪い悪い。昔ちょっと殺りあったことがあってな、つい話しちまった。悪いな、ココ」
「.......仕方ないから許してやる。でも、次はないぞ」
「へいへい」
ココの言葉にレームは生返事を返すとホテルの店員に酒のお代わりを要求し、R達の方に戻っていった。
携帯に表示されているデジタル時計が夜中の11時を回った。もう奇襲を仕掛けるため、侵入しても良かったが、見に覚えのある女を見つけ、クラドはその女に接触していた。
「オーケストラのチナツ、だな?」
「.....何者なのだ?」
チナツはM8000ハンドガンを構え、俺に問う。その目には優しさなどなく、ただ深い怒りの色が窺えた。クラドは両手を挙げた。
「グリムサイス、と言えば分かるか?そっちにも俺の事は伝わっている筈だが」
「私が知ってるのは名前だけ、顔まではしらない......あんたがグリムサイスという証拠は?」
「これでどうだ?」
俺は鞄から二本の日本刀を取り出す。チナツはそれを見て、ようやくM8000を下ろした。
「信じてもいいのか?俺はただ刀を見せただけだが」
「さっきのは嘘。本当は顔も師匠から聞いて知ってたし、何よりそんな剣を持ち歩いている人間なんて殆どいないから」
「それも、そうだな。.....話は代わるが、まだココ・ヘクマティアルを狙っているのか?」
これが一番聞きたかったことだ。返事によってはそれにより少し俺の仕事が遅れる。そうなると......この女は邪魔だ、消す。
「そうだよ」
「そうか......勘だが、このホテルの天井から侵入するつもりか?」
「.......」
チナツは図星なのか押し黙っている。クラドはただ淡々と真実を伝えた。
「ココ・ヘクマティアルは私兵を連れて、屋上からお前を待ち伏せしている」
「嘘よ、何でそんな事が分かる!」
「これを見ろ」
クラドはポケットから小さなラジコン飛行機のような物を取り出した。チナツは訳がわからず、クラドを見た。仕方ない、説明を。
「小型偵察機だ。俺も侵入しようとこれであのホテルの屋上を偵察した。すると案の定、ヘクマティアル達が待ち伏せていた」
「証拠は」
「信じたくないなら、行けばいい。そうすれば分かるだろう?その時、生きてる確率は薄いがな」
「.......」
2度目の沈黙。クラドはこれ以上は話は無駄だと悟った。必要な事を聞いたら、今後の身の振り方を決めよう。
「それで、お前は行くのか、行かないのか、どっちだ?」
「アンタはどうするのだ?」
「お前の返事しだいで変わる。だから、早く返事を」
クラドがそう促すとチナツは俺をじっと見つめ、予想外の一言を発した。
「手伝って」
「.......」
今度はクラドが沈黙する。その選択肢も有ったか......確かに元々共同でココ・ヘクマティアルを殺す算段であったが、今さら連携できるとも限らない。クラドはチナツを見た。正確には目を。クラドはこの女が自棄で言っているのか、考えて言ったのか、見極める。そして.....
「分かった。だが、作戦を立ててからだ。いいな?」
チナツは黙って、首を縦に振った。同時に俺は抜きかけた刀を鞘に戻した。
ここから原作じゃない.....かも?