早苗さんと神父くん   作:トマトルテ

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一話:人はパンツのみにて生きるにあらず!

 

「ねえ、信一(しんいち)。キリスト教なんてやめて守矢(もりや)の信者にならない?」

「何度言っても無駄だ、邪神諏訪子(すわこ)。我は大いなる天の父以外を信仰するつもりはない」

「そんなこと言わずにさぁ。ほら、今ならここにある早苗(さなえ)のパンツもつけるから」

「くどい! 人はパンツのみにて生きるにあらず! 即物的な報酬では真の幸せなど掴めぬ!」

 

「なに勝手に私のパンツ持ち出して勧誘しようとしているんですか、諏訪子様!?

 後、信一さんも大真面目な顔でパンツとか言わないでください!」

 

 守矢神社の一角。神主などの神社を管理する人々が住む居住スペース。

 そこに、恐らく神社とは最も似合わないであろう服、神父服を着た少年が居た。

 早苗と呼ばれた少女より頭一つ大きく、黒髪に鋭い眼光を持つ姿は相手に厳格な印象を与える。

 しかし、実際の所はパンツを目の前にして、真顔でおかしなことを叫ぶ残念な人間。

 その名も西山(にしやま)信一(しんいち)である。

 

「えー、いいじゃん。減る物でもないし」

「減りますよ! パンツを渡す私の心が擦り減りますし、大体パンツ自体が減るでしょう!?」

 

 そして、そんなおかしなやりとりにツッコミを入れているのは東風谷(こちや)早苗(さなえ)

 長い新緑の髪に、信仰する神を現したカエルと白蛇のアクセサリーが特徴的な女子高生。

 またの姿を、ここ守矢神社の奇跡を起こす風祝(かぜはふり)である。

 

 もっとも、今の彼女は赤面して乱雑にパンツを取り返しているので、神聖さの欠片もないが。

 

「でも考えてもみてよ、早苗。パンツの一枚で、現代ではSSRクラスの(私達)が見える霊感持ちを信者に取り込めるかもしれないんだよ? ガチャなら数十万が消えるところが、数千円程度で収まるなんて破格でしょ」

「だからってパンツは無いでしょ、パンツは! 仮にパンツで信者が増えても素直に喜べません!」

「このご時世に贅沢だねー」

 

 一方で現役女子高生のパンツを与えるという、人によってはまさに悪魔の誘いとなる行為を行ってきた、見た目金髪幼女の少女は洩矢(もりや)諏訪子(すわこ)。ここ守矢神社で祀られている神本人である。基本的には信仰が薄れてきている現代社会にも、そんなものだろうと、信仰獲得に対してそこまで積極的ではない。しかし、もう1人の神の方針や、純粋に信一という人間に興味があるので、こうして度々ちょっかいを出しているのだ。

 

「何度言われようとも、我が信じる神を変えることはない。それはそうとして、早苗」

「な、なんですか、信一さん。急に改まって…」

「淑女がパンツパンツと連呼するのはいかがなものかと」

「誰のせいだと思ってるんですか! 誰の!?」

 

 真顔でたしなめてくる信一に、早苗も我慢の限界だったのかビシバシとお祓い棒で叩き出す。

 しかし、男女差のためか信一には全く堪えた様子がない。

 

「いたいいたいやめてくれ」

「そんな棒読みで言われても信じられませんよ!」

「神に仕える巫女が信じることを放棄するとは、実に嘆かわしい」

「それを言うなら神父が嘘をつくなんて罰当たりでしょう!」

 

 ギャーギャーと言い争いを始める早苗と信一。

 だが、その顔には険はなく、どこか楽し気な様子が漂っているのが諏訪子には読み取れた。

 

「青春だねー」

 

 だから、そもそもの騒動の原因が自分にあることを棚に上げてニヤニヤと笑う。

 

「大体の話、我に悪魔の勧誘をしてきた邪神諏訪子が悪いだろう。我を責めるな」

()()()信仰する神なんですから叩きづらいんですよ」

「今、自分の巫女にサラっと酷いこと言われた気がするわ」

 

 だが、そんな高みの見物など面白くないと、信一が早苗の矛先を諏訪子に逸らそうとする。

 しかし、絶対に許早苗(ゆるさなえ)状態の彼女は矛先を変えない。

 もっとも、何だかんだで信じる神に口撃(こうげき)をしている気もしないが。

 

「というか、邪神ってなんですか? キリスト教の他宗教への迫害的な所ってどうかと思います」

「失礼な。それは中世の誤ったキリスト教観だ。確かに事実として十字軍などで、キリスト教は他宗教と争ってきた。その過程で多くの残虐な行為が行われてきたのは事実であり、我らの恥ずべき歴史だ。それは認めよう。しかし、本来の…現代のキリスト教は他宗教を排除したりなどはせん。バチカンのローマ法王自らが他の神の存在を認めておられる。ただ、我々が信じ崇拝するのは創造主たる父だけという話だ。他の宗教は他の宗教として敬意を持っている」

「十字軍…バチカン…? と、とにかく敬意を持っているのなら邪神扱いはやめください!」

 

 突如として始まった長々とした歴史トークに、歴史が苦手な早苗は気勢をそがれてしまう。

 しかし、風祝としてここで負けるわけにはいかないと、謎のプライドを持って持ち直す。

 

「祟り神ほど邪神と呼ぶのに相応しい存在も、そうは居ないと思うが?」

「そ、そう言われると反論できない」

 

 が、続く言葉でぐうの音もなく納得させられてしまうのだった。

 諏訪子は土着の神であり、その本質は祟りや呪いといった恐怖で信仰を得る神だ。

 恩恵ももちろん与えるが、事実だけ見れば邪神と呼ばれてもおかしくはない。

 

「そもそも、この邪神がイエス様を誘惑しようとした悪魔の如く、我を勧誘してこなければ、我も邪神呼ばわりはしないのだが」

「久々に祟りっぽいことが出来るから張り切ってる。反省はしてないわ」

「諏訪子様…もしかして悪魔とかの誘惑って久々に自分が見える人に会った神様が張り切った結果なのかな……」

 

 現代では神を見ることの出来る人間や、声を聞ける人間はほとんどいない。

 そのため、声を聞けるだけの人間でも神が嬉しくなって声をかけたりする。

 昔なら神託だが、現代では普通に心霊現象だ。時代の流れというものは恐ろしい。

 

「なんだか言い争いの声が聞こえるから来てみれば、切支丹(キリシタン)の坊やが来てたのね」

「これは、神奈子殿。お邪魔しております」

「今日は何の用事で来たのかしら?」

「テストに向けての勉強会です。我が文系教科を、早苗が理系教科を教え合う予定です」

「……本当に他の神様に敬意を払う時はあるんだ」

 

 早苗がそんなことを考えていると、この神社の御神体である八坂(やさか)神奈子(かなこ)が騒ぎを聞きつけたのか、姿を現す。

 藍色の髪に銀杏と紅葉の飾りをつけ、女性ならば誰もが羨むような美貌とスタイルを持つ少女。

 そんな彼女の登場に信一は礼儀正しく挨拶を行う。

 

 そして早苗は、自分や諏訪子に対するものとは180度違う信一の態度に白目を向けるのだった。

 

「それで今度は何を騒いでいたのかしら?」

「早苗のパンツを餌に信者に引き込もうとしたけどダメだった」

「ブラジャーもつけなさい、早苗」

「神奈子様までー!」

 

 信じる二柱にいじられて若干涙目になる早苗。

 流石に可愛そうになったのか、無表情のままであるが信一が助け舟を出す。

 

「いや、だから要らないと言っているのだが」

「…ふん」

「なぜ、要らないと言ったら言ったで機嫌を損ねるのだ…」

 

 しかし、何故かそれではダメだと言わんばかりに、早苗は顔を背けて拗ねてしまう。

 一体どうすればいいのかと無表情のまま、困った空気を出す信一。

 そんな2人の様子を見て、諏訪子と神奈子はクスクスと抑えきれないように笑う。

 

「乙女のプライドってやつだよ、信一」

「乙女のプライド…? つまり我はパンツを受け取ればよかったのか? 邪神諏訪子よ」

「いや、パンツを渡すのは本気で嫌がってると思うよ」

「それが分かってるなら、どうしてそんなことをするんですか…諏訪子様…」

「早苗の反応が面白いから」

 

 こいつ一回殴った方が良いのではと、自らの神に思わず剣呑な目を向ける早苗だが、諏訪子はどこ吹く風で話を続けていく。

 

「それで、結局どういうことなのだ?」

「パンツを渡すのは恥ずかしいけど、興味を持たれないのは自分に魅力がないようで嫌ってこと」

「面倒だな、乙女のプライドとは」

 

 見られるのはもちろん嫌だ。でも、無反応で返されるのもプライドが傷つく。

 乙女心とはこうした高尚(こうしょう)な心理が常に渦巻いているものなのだ。

 

「しかし、これで理解したぞ、早苗」

「な、何をですか?」

「今度からは汝のパンツを見たら、顔を紅潮させて鼻血を吹き出しつつ、目を手で塞いでその指の隙間からチラチラ見て、『べ、別に興味なんてないぞ!』と断るとしよう」

「別にそこまでのテンプレなリアクションは求めてないですよ!? というか1つ1つ言われると結構複雑な仕草ですね、それ」

 

 大真面目な顔で次は興奮した様子を見せると告げる信一に、お祓い棒でツッコミを入れる早苗。

 結構痛そうな音が辺りに響くが、やはり信一は表情を変えずに無表情である。

 これもまた2人のコミュニケーションの在り方なのだ。

 

「はぁ…どうして清楚で可憐な風祝の私が、こんな仏頂面神父と腐れ縁なんてあるんでしょうか」

「全くだ。なぜ敬虔で厳粛な神父である我が、天然暴走巫女と未だに関わりあっているのか」

「…………」

「…………」

 

 お互いに無言で見つめ合ったまま、ゲシゲシと相手の足を蹴り合う早苗と信一。

 そんな様子を見ながら、諏訪子と神奈子の二柱はのほほんとした様子で語り合う。

 

「こうして2人の喧嘩を眺めるのも、もうずいぶんと経つねぇ」

「そうね。確か早苗が小学生の頃からの付き合いかしら。子供が成長するのは早いわね」

「内面は大して変わってない気もするけどね」

 

 背丈は大きく変わったが、やってることは変わっていないという諏訪子の言葉に神奈子も苦笑いで肯定する。三つ子の魂百までとはよく言ったものだ。

 

「いやー、でも最初に信一が訪ねてきた時は驚いたね。普通に私達が見えるんだもん」

「職業柄か血筋のおかげか、霊視の能力が高かったものね、彼。……でも、あの時か」

 

 そう言って神奈子は昔を、と言っても神にとってはつい最近の出来事を思い起こすのだった。

 

 

 

 

 

「神様なんているわけないじゃん」

 

 全てはそんな子供らしい遠慮のない言葉がきっかけだった。

 早苗の小学校のクラスメイトが悪意もなく言い放った言葉。

 無論、早苗は激怒した。そして、かの邪知暴虐の佐藤君に天罰を降ろさねばと誓う。

 具体的には、足の小指を机の角にぶつける奇跡を起こそうとした。

 しかし、そんな早苗よりも早く動いた者がいる。それこそが。

 

「神の存在を信じぬ者は天罰を受けるがいいッ!」

「ちょっ!? 机の角を俺の足の小指にぶつけ―――痛だだだッ!!」

 

 子ども故に、今よりも数倍過激だった西山(にしやま)信一(しんいち)その人である。

 子どもとは思えぬ陰険さと力強さで、机を振り上げて的確に佐藤君の小指を狙う信一の姿に、早苗は自分のことを棚に上げてドン引きした。しかし、騒ぎを聞きつけた教師が信一を叱る時には別の感情も持つようになっていた。

 

 この人も神様を信じる同類だと。すなわち同族意識を持ち始めたのである。

 

「あの…西山君ですよね?」

「如何にも。そういう汝は東風谷だったか?」

 

 だから、早苗は勇気を出して声をかけてみた。

 

「西山君は神様(神道)を信じますか?」

「当然のことを聞くな。神(キリスト教)は常に我らを見守ってくださっている」

 

 それが勘違いの始まりだとも知らずに。

 

「ですよね! ですよね! 西山君は話の分かる人でよかったです」

「我の家が神の住まう場所(教会)だからな。神を信じることは息を吸うことと同義だ」

「あ、私の家(神社)もなんですよ! 凄いですね、こんなところにも共通点が!」

 

 幼い二人は世界の広さなど知らない。それ故に、神=自分の信じる神と思っている。

 だからこそ、自分達のすれ違いに気づくことが出来なかった。

 しかし、どんな勘違いもいつかは終わる時が来る。

 

「信一君、信一君。明日私の家に遊びに来ませんか? きっと神様も喜んでくれます」

「構わん。では、明日の放課後にそちらの家に出向くとしよう」

「はい! じゃあ、これが学校から私の家までの地図です!」

 

 仲良くなった子供がお互いの家に遊びに行くのは当然のこと。

 級友からは口を揃えて、変わり者と言われる2人だがそこら辺は普通の子と変わらない。

 そして、信一が早苗の家に遊びに来た日に、2人の勘違いは終わりを告げる。

 

「……キリスト教だったんですね」

「……神道だったのか」

 

 友達に自分のカッコいい姿を見せようと、巫女服でめかし込んでいた早苗。

 私服姿が神父服に聖書という、根っからの変わり者である信一。

 2人は、相手の制服以外の姿を見て初めて相手の正体に気づいたのだ。

 

「…………」

「…………」

 

 当然、痛々しい沈黙が辺りを覆い尽くし嫌な空気が流れる。

 2人は多神教と一神教。ロミオとジュリエット。きのことたけのこである。

 まさに悲劇。決して相容れることの無い立場の者と2人は友情を結んでしまったのだ。

 

「信一君……」

「早苗殿……」

 

 だが、しかし。はい、さようならとあっさりと別れられる程2人は非情ではなかった。

 今までの友情は簡単に捨てられるものではない。

 故に、2人は同時にある結論へと至った。

 

「改宗しませんか?」

「改宗する気はないか?」

 

 この言葉が、2人の本当の意味での付き合いの始まりなのだった。

 

 

 

 

 

「見ることも話すことも出来ない神様より、絶対うちの二柱を信仰した方がいいです!」

「愚かだな、早苗。目に見えるものを信じるだけが信仰ではない。宗教の本質は信じることだ!」

「だとしても、実際に奇跡を起こせる私が居る方が得です! 後利益も確実につきますよ!」

「奇跡ならば(あるじ)が幾らでも起こしておられるわ。何より、利益目当ての信仰など不純だ」

「そういうキリスト教だって天国に行けるとか言って、免罪符とか売ってるじゃないですか!」

「いつの話だ! そもそも、あれはカトリックの中でも明確にダメだったと改革されている!」

 

 あれから10年近くの歳月が経ったが、変わらずに相手を自分の宗教に引き込もうとしている2人の姿がある。諏訪子と神奈子はそんな姿を見ながら思い出話を続けるのだった。

 

「あの日もこんな感じで2人が喧嘩をしているのを見てたわよね」

「そしたら、信一がこっちに気づいて挨拶してきたんだよね。いやー、あのときは驚いたわ」

「余りにも自然に挨拶してきたから、気づくのに時間がかかったわよね」

 

 あの日、小さな宗教戦争を引き起こした早苗と信一だが、今でも関係が続いているのはこの二柱の影響でもあるだろう。信仰が薄まり力を失った自分達を見ることが出来る信一の登場に、諏訪子は興味を持ち、神奈子は自らの信徒に加えようと思い、早苗を更にたきつけたのだ。

 

「私の風祝なら信者を増やすのも仕事だって言ったわね」

「そうそう。それで早苗も真面目で素直だから、使命感に燃えちゃったんだよね」

「その結果が10数年に渡る宗教勧誘…まあ、予想通りとは言え、改宗なんてそう簡単にしないか」

 

 多大なる時間と労力が報われない早苗に、一瞬だけ哀れみの目を向ける神奈子。

 しかし、すぐに隣の諏訪子を見て予想通りだと呟く。

 

「人は簡単に信じる神を変えない。それを今のうちに早苗に知ってもらうって訳かい、神奈子?」

「あの坊やを引き込みたいと思ったのも本音よ。ただ、改宗を迫るだけじゃ無理なこともある。そういう状況になったときに、押すだけじゃなくて引くことも覚えさせないとね。早苗は良い意味でも悪い意味でも真っすぐだから」

 

 神奈子は本来は諏訪の神ではない。

 出雲で産み落とされた神であり、この地には侵略してきた身である。

 もちろん、当初は侵略してきた身なので、この地で自分を信仰させようとした。

 

 しかし、諏訪の民の多くは祟り神である諏訪子の報復を恐れて改宗しようとはしなかった。

 そんな思いがけぬ状況に対して、神奈子が出した打開策が共同統治。

 表向きは自分の別名である建御名方神(タケミナカタのかみ)を信仰しているように見せ、裏では元のまま諏訪子を信仰させることでこの地を統治してきたのである。

 

「あー…まあ、早苗のあの真っすぐさは長所であり短所だからね」

「そこが可愛い所なんだけど、これも神に仕える者としての勉強よ」

 

 そう言って、神奈子は威厳たっぷりに腕を組む。

 

「ええい! だから何度言えばわかるのだ! このアホ風祝が!」

「アホって言う方がアホなんですよ! このバカ神父!」

 

「……早苗がそういうのが出来るようになるのは、まだ大分先だろうね」

「そうね……気長に見守っていくとしましょう」

 

 しかしながら、その威厳は小学生のような煽り合いをする2人にかき消されてしまうのだった。

 微笑むべきか、苦笑いをするべきか、二柱は迷った末に同時に溜息を吐き出すことにした。

 だが、次の瞬間にはそんな人間らしい表情も消え、どこまでも先を見る神の瞳となる。

 

「もっとも……この微笑ましいやり取りを見るのは後少しになるでしょうけどね」

「幻想郷だっけ? 忘れ去られた者が集う世界」

「ええ。私は栄えある過去よりも、棘の未来を取るわ。……それが多くの犠牲の上に立つ神としての責務」

 

 神奈子は遠い昔を思い出すように目を細め、2人には聞こえないように呟く。

 神が消えるということは、今まで自らを信仰してきた者達の想いまで消えるということ。

 自らの滅び以上に、神奈子にはそれが許容できなかった。

 

「ふーん……ま、勝手にしなよ。私は口出しはしないよ」

「元々、何を言われても実行するつもりだったわ」

「ハハハ、だと思った。でも、早苗にはちゃんと伝えなよ」

「もちろんよ。あの子にはちゃんと話して選択肢を与えるわ」

 

 幻想郷に行くということはこちらの世界から消えるということ。

 信じる神についていくにしろ、1人で残るにせよ、風祝である早苗にとっては一大事だ。

 そのため、独立不撓(どくりつふとう)の神である神奈子もちゃんと話す気でいた。

 

「む、アホ風祝と言い争いをしたせいで、こんな時間に。我は帰らせてもらうぞ、礼拝の時間だ」

「はいはい、さっさと帰ってください。それと明日も同じ時間に集合です」

「心得た」

 

 神奈子がそんな考えを巡らせている間に、信一は帰りの支度を始め出す。

 そして、こいつら本当は仲が良いだろとツッコみたくなるようなやり取りの後に、信一は思い出したとばかりに、懐からあるものを取り出す。

 

「受け取れ」

「なんですか、それ?」

「ポケット聖書だ。これを読んで神の崇高なご意思を知るがいい」

「わあ、ありがとうございます」

 

 流れるような動作でゴミ箱に投げ捨てられるポケット聖書。

 

「……天罰が落ちるぞ」

「落ちませんよ、私巫女ですから」

 

 その余りにも見事なダストシュートに、さしもの信一も思わずとばかりにツッコミを入れる。

 だが、早苗の方はいつもやってるので大丈夫と言わんばかりのドヤ顔だ。

 ムカつくことこの上ない。

 

「全く汝は……前にやった普通のサイズの聖書も捨ててはいないだろうな?」

「大丈夫です。6冊程まとめて漬物石にしていますから」

「………まあ、漬物のためなら致し方あるまい」

「私が言うのも何ですけど、良いんですかそれで?」

 

 まさかのOK宣言に、今度は早苗の方がツッコミを入れてしまう。

 ボケとツッコミがクルクルと入れ替わるのも、この2人の日常なのである。

 

「漬物は神が創造した至高の食物だからな。特にたくわんならば、幾らでも白米が食える」

「とてもキリスト教徒とは思えない発言ですね」

「生まれも育ちも日本人だからな。パンとワインより、米と茶で肉体が出来ている」

 

 早苗の呆れた視線も気にすることなく、堂々と漬物好きをアピールする信一。

 そして、そこへ何やらニヤニヤとした笑みを浮かべた諏訪子が近づいてくる。

 何やら、大切な物を包んだような紙袋を引っさげて。

 

「そんな信一へお土産だよ。これがあれば、ご飯が何杯でもいけるよ」

「ほう…して、その包みの中身は?」

 

 諏訪子の謳い文句に興味を引かれたのか、渡された紙袋の中を無警戒に覗き込む信一。

 

「もちろん、早苗のパンツだよ」

 

 瞬間、信一は先程の宣言通りに、無表情のままに顔を紅潮させて、鼻血を吹き出しつつ。

 目を手で塞いで、その指の隙間からチラチラとパンツを見ながら。

 

「べ、べつにきょうみなんてないぞ……こんな感じでどうだ?」

 

 と、凄まじい棒読みで言い放つ。

 

「テンプレ過ぎてむしろバカにされてる気がします!」

「いや、これ以上我にどうしろと?」

 

 無論、それを見た早苗が納得するはずもなく、再度痴話げんかに突入するのだった。

 




こんな風に気楽に書いていく予定です。
感想・評価もらえると嬉しいです。

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