どこまで書くかも決めておらず、ゆるりと書いていきます。
新しい審神者を迎えた本丸が稼働を始めた瞬間、庭の枝垂れ桜が満開に花を咲かせた。
ちらり、ちらりと花弁が風に吹かれて廊下に落ちるのを見ながら、こんのすけは主を執務部屋へと案内した。
シンプルな机とパソコン、プリンターに空っぽの棚。
手前にある休憩用のテーブルに審神者が持っていた初期刀を置いた。
「・・・具現なら鍛刀部屋が一番でございますが」
「いや、俺はここの方がいいね!」
審神者・睡蓮は満面の笑みをもってこんのすけの意見をぶった切った。
こんのすけも見習いを経て審神者に就任しているので、並みの初心者審神者より知恵がある・・・からやりにくい。
「わかっている。これからこんのすけが可愛い初期刀をどんな目に合わせるか・・・俺にはわかっているんだからねぇぇ」
「マニュアルなのです! ワタクシもやりたくて初期刀様を血みどろにしているわけではありませぬ!」
やはり知っていたか、初期刀初めてのお使いからの血みどろ手入れコース。
こんのすけは毛を逆立てて無罪を主張すると、睡蓮は穏やかでさわやかな顔に一転した。
「では、俺は見習い先で血まみれスプラッタな刀の皆様の手入れをする先輩の横で見学してたから手入れデビューはいらないですね!」
「いえ、これはマニュアルで」
「いらないよね」
「いえ・・・」
「いらないよね。資源の無駄だし」
「・・・ハイ」
<ここでイエス以外の答えを言ったら初期刀にチクるぞ>と、でかでかと顔に書いた睡蓮にこんのすけは負けて黄昏た。
それを横目に睡蓮は持ってきた初期刀を床に置いてそっと鞘をなでると目をつむって霊力を注ぐ。
一瞬後、強烈な光と桜吹雪が押し寄せ、人影が表れた。
睡蓮を上から見る、ちょっと薄汚れた布に隠れた青い瞳と端正な顔。
「山姥切国広だ。・・・何だその目は。写しだというのが気になると?」
へらりと笑った睡蓮は左手を差し出す。その手をじぃっと見る山姥切。
「初めまして、俺は睡蓮。一緒に歴史を守りましょう」
見つめて動かなかった山姥切が、刀を持たない左手を差し出すと睡蓮がすかさずぐっと握る。
「では! 次は」
「次はお昼寝。これ常識」
「わ?!」
山姥切の具現を確認したこんのすけが張り切って段取りを口にする前に睡蓮は山姥切を思いっきり引いた。
刀剣男士とはいえ、具現したての山姥切はあえなく体制を崩して睡蓮に倒れ掛かるが、睡蓮は要領よく山姥切を畳に押し倒し、自分もごろりと横になる。
睡蓮は完全に寝る体制になっていた。
「ちょ! 睡蓮様! まだ日が高いですよ! 次! 次移らないと!」
「日が高いから昼寝の時間じゃないですか・・・ぐぅ」
「ちょ、本当に寝ちゃったんですかぁぁ!!」
ゆさゆさとこんのすけが睡蓮をゆするが、睡蓮はむにゃむにゃと言うばかりで眠りの国へと旅立って戻ってくれない。
その横で畳に倒れた山姥切が「俺というやつは、例え具現一日目とはいえ人間に押し倒されるなんて・・・俺が写しだからか、そうなのか?」と黄昏てしまったのをこんのすけは気づかなかった。
***
睡蓮の本丸が稼働して3日目。
睡蓮は「はぁぁ、朝ごはんご馳走様~。ではちょっと寝るわ」と言って夢の国に旅立った横でこの本丸にいる者達が額を寄せて机を覗き込んでいた。
「おい、これは本当にこれだけなのか?」
初期刀山姥切が眉間にしわを寄せてこんのすけに問いただす。
「大将はこれ、なんて言ってたんだ?」
初鍛刀愛染国俊もたらりと冷や汗をかきながらこんのすけをうかがう。
「この本丸の残高はこれっきりです」
0 ゼロ 1銭もありません。
瞬間、山姥切が寝ている睡蓮の上半身を起こして小刻みにゆすった。
「ああ、なんかジェットコースターぁ」
「起きろ、起きろ、起きろ! これはどういうことだ!」
ブチ切れた山姥切のシェイク5分でやっと目を覚ました睡蓮が突き付けられた銀行口座の数字、0を目にした途端、へらりと笑った。
「大丈夫、大丈夫」
「どこが大丈夫なんだ、言ってみろ!」
「こんなこともあろうかと、じゃじゃ~ん」
睡蓮はパソコンのある机の一番下の引き出しを開いて中のものを見せる。
「ほら、カップラーメンがこんなにたくさん! まだ寝ていられるよ~!」
「どこが大丈夫なのですかぁ! 睡蓮様!」
「飢え死にまでは、まだ猶予がある」
「それしか大丈夫部分がないじゃないですか!」
「泣いて喜べ! こんのすけにはちょっと高かったけど赤いきつねやるよ!」
「うれしくありません!!」
こんのすけと睡蓮のコントを遠い目で見ていた愛染だったが、横にいた山姥切はパワーアップ大魔神バージョンになり睡蓮の頭をわしづかみした。
後にこんのすけは、山姥切が歌仙にジョブチェンジしたのかと思ったと語る。
「痛い痛い痛い! まんばちゃん痛い!」
「呼び名はともかく、ふざけるな! 俺にとってはそのカップラーメンの量、おやつで軽く吹っ飛ぶわ!」
「えええ! ちょっと大食いすぎない?」
「刀剣男士なめるな!」
ぎりぎりと力を籠める山姥切と、痛いと騒ぐ睡蓮がふと美味しい匂いに気づいて愛染の方を振り向いた。
そこには、机にしまわれていたはずのカップラーメンが、湯を入れられて机に所せましと並べられていた。
「うん、俺はこっちのかれーぬぅどる? っていうのが一番かな」
「ワタクシはやはり、赤いきつねですなぁ、あ、睡蓮様、お先にいただいております」
「ノォォォ! お前ら、何やってるのぉぉ!」
机の引き出しは空っぽになっているのを見てから睡蓮は絶叫した。
山姥切はそれを聞きながら怒った顔で並べられたカップラーメンを手にして1分で完食した。
「ちょっとまんば! お前、それは非常食なんだよ! 味わって食え!」
「は、俺たち刀剣男士にとっては水にすぎん。次」
「へい! 次は味噌らぁめん一丁!」
「ああああ! それは俺の好物の味噌ラーメン!」
絶叫する睡蓮に、愛染と山姥切とこんのすけはにやりと笑った。
「「「知ってた」」」
絶句する睡蓮の前で、3人とも勢いよく味噌ラーメンをすすりだす。
「お、お前ら俺の分・・・あぁぁぁ! ない!」
「「ご馳走様でした」」
「さぁ睡蓮様! 本当に無一文になりましたから、急ぎお仕事をしないとお昼に間に合いませんよ!」
キリっと仕事の斡旋をしだすこんのすけだが、その腹はぽってりでかい。
刀剣男士2人は、さすがに腹は出ないが気力体力十分、といった顔で出陣先を吟味しだした。
「やっぱ肉食いたいから山がいいな」
「そうだな。山ならイノシシと川の魚を数匹仕留めれば良いだろう」
「畑の野菜もちゃんと食べないとだめですよ」
「ああ、わかっている。肉野菜肉肉肉だったな」
「肉肉米肉肉じゃなかったか?」
「すっとぼけないでください! 肉油揚げ肉油揚げ油揚げに決まってますでしょう!」
出陣ついでに食材調達をもくろむ刀剣男士達を背中に、睡蓮はパソコンを起動した。
出陣1つとっても事務作業が入るのがめんどくさい。
しかし、しなければ少なくとも今日の昼食は井戸水一杯になる可能性が高い。
睡蓮はため息をこぼしてから、出陣の事務手続きを始めた。