政府は事前連絡というものが好きではないらしい。
「睡蓮様ー! 睡蓮様ー! 起きてください! ビッグニュースですよ!!」
ゆさゆさと小刻みにゆすられて半身を起こした先に見えたのは太陽ではなく暗闇だった。
「寝よう」
「ビッグニュースなんですよ! 起きてください!」
寝直そうとしたら太ももに添えられたこんのすけの足が再度小刻みにゆれたので、眠い目でこんのすけを見下ろすと、こんのすけの頭に封筒が乗せられていた。
「器用な・・・手紙か」
「はい! 政府からの速達です!」
眠い目をこすりつつ封筒から手紙を出している間に、騒ぎに気付いたらしい乱と愛染が部屋に入ってきて明かりをつける。
まぶし気にしながらも手紙を上から下まで見てから、目を輝かせている愛染に手紙が渡された。
「何って書いてあるの?」
「鍛刀祭だって。え~っと」
あいさつ文と激励部分を飛ばして中位にある所に目を止める。
「初心者審神者様は普段より成功確率が上がる鍛刀祭を開催します。
期間はこの手紙を見た瞬間から12時までの6時間。 今からか!」
「急だよね。でもどの刀でも出やすいって事?」
乱の瞳は超新星の如く輝き、愛染の瞳は半眼になってあくびをしていた睡蓮へにじり寄った。
「今だよ主さん! 今ならきっと噂の三日月宗近を降ろせるかもよ!」
「蛍・・・いや、もうちょっと目標を下げて山姥切の兄弟刀の堀川国広が来てくれるかもしれないな! 大将頑張ろうぜ!」
盛り上がる2柱の横で睡蓮は顎に手をやる。
「いや、ここはひとつじっくり作戦を考えて・・・考えて・・・」
「・・・」
「・・・」
「寝ておりますね、睡蓮様」
目を閉じて考える仕草をした睡蓮に、3秒待った2人は睡蓮を担ぎ上げて鍛刀場所へと移動した。
「いや、事前に出やすい黄金比率と遠征計画を考えてだな」
「各資材200個は確保して後は鍛刀資材だな」
「玉鋼が足りないね。江戸の加役方人足寄場に山姥切と蜂須賀必須で何回か遠征だね」
「手伝い札がまったくありません。睡蓮様に隙間時間なく鍛刀してもらいましょう!!」
燃え上がる乱と愛染、こんのすけ主導の鍛刀祭りのゴングが鳴った瞬間だった。
***
「というわけでございまして、只今睡蓮様は霊力不足でお部屋におります」
「そうか。俺は遠征だから、主をよく見ておいてくれ」
朝食の席で鍛刀祭りと遠征のお願いをこんのすけからされた蜂須賀が初めに言った言葉は主の朝食の不在理由だった。
蜂須賀の言葉に深くうなずくこんのすけ。
横で山姥切が特に言葉を発しないのは、口に物が入っているのもあるが朝に会ったからだ。
鍛刀部屋に置いてあったのは愛染国俊4柱。
愛染は「脇差狙いだったんだ」と苦笑していたが、縁か愛の結果にコレジャナイ感と恥ずかしさに睡蓮は隣で空いていた手入れ部屋に行ってしまった。
「今も40分で完成と出ておりますが」
「普通なら脇差なんだけど」
「これで俺が出てきたからな~」
遠い目になる乱と刀の愛染を籠に入れる愛染を思い出しつつ、山姥切は朝食を平らげておにぎり6つ(10時のおやつ)をしっかり持って出陣準備に席を立った。
乱は庫裏を出て歩いていると、前方からこんのすけがぴょんと現れた。
「こんのすけ、蜂須賀と山姥切どうだった?」
「快く遠征を引き受けていただけました! 山姥切様はおやつのおむすびをしっかり持って行きましたが」
「山姥切らしいよね」
くすくす笑いながら乱が手入れ部屋のふすまを開ける。
「主さん、朝食・・・っていないよ!」
「睡蓮様?! どこに」
愛染は遠征メンバーになったので、乱は睡蓮の朝食をこんのすけは鍛刀祭りの情報収集に行っていたスキに手入れ部屋でふて寝していた睡蓮が消えていた。
気配を探す間もなく、隣の鍛刀部屋から広がる霊力。
「侍従なしに鍛刀ですか、睡蓮様」
慌ててこんのすけが鍛刀部屋に走り込み、乱は食事を机に置いてから続く。
そこには背中を丸めた睡蓮がいた。
鍛刀時間は40分。
「ど、どうなさったのですか? 相変わらずの鍛刀時間なだけでございますよ?」
落ち込んでいるらしい睡蓮の背中から覗き込むと睡蓮は頭を下げたままボソリとつぶやいた。
「全部いっぱいつぎ込んだんだ」
「はい?」
「玉鋼も砥石も999個」
「はい?!」
慌てて資材を見ると確かに在庫があまりない。
「なのに40分・・・。俺には1時間半の呪いさえもないのか」
「主さん・・・」
「き、きっと今度は脇差の誰かがいらっしゃいますよ!」
乱はどう言えば睡蓮の気が晴れるかわからずに口を閉ざし、こんのすけは持ち前のポジティブ発言をかけるしかなかった。
山姥切が遠征数回から帰ってきて最後の鍛刀の侍従になった時には愛染用のカゴにいっぱいある愛染国俊とその前に鎮座している愛染一柱(資材全て999個使用と書かれた札がある)が置いてあった。
こんのすけの帳簿を見なくてもわかる。今までの全てが愛染国俊に変わったという事を。
山姥切は主の肩にそっと手を置いた。
「主、これで最後なのだから思いっきり何も考えずに霊力を籠めるというのはどうだろうか」
「山姥切・・・」
朝見た時より体が細くなったように見える睡蓮に、山姥切は襤褸布で顔を隠しながらとつとつと語る。
「堀川の兄弟や、乱の兄弟、愛染の兄弟をと無理に思わず、一緒に戦ってくれる男士を願うのはどうだろうか」
「そうか、そうだな。やってみるか! 誰かお願い! 歌仙でもこの際良いから! 誰かヘルプミー!!」
願いを込めて窯に玉鋼を投げ込む睡蓮の後ろで、息をつめて見ていた3柱がついつぶやいてしまった。
「でも歌仙はイヤなんだね・・・言葉と裏腹に背中が語ってるよね」
「大将、選り好み鍛刀してたのか。そりゃ女神さまのお仕置きだったんじゃねぇ?」
「歌仙はいいやつだよ。もし来たら良好な仲になるよう取り持つようにしよう」
願いを込めた鍛刀に、遠征で唯一持ってきた手伝い札をこんのすけがそおっと妖精達に渡す。
窯から取り出された刀は、愛染より大きかった。
「おお! これは!」
「やっと、やっと来てくれてありがとおぉ!!」
喜ぶこんのすけの横に来た睡蓮はそのまま喜びに手を打ち付けると、誉桜が舞った。
光と桜吹雪が去った後、佇む人影は一礼をする。
「僕はにっかり青江。うんうん、君も変な名前だと思うだろう?」
喜ぶ睡蓮の後ろでは今日の帳簿をつけながら鍛刀運の悪さに頭を抱えるこんのすけと山姥切、自転車操業でもなんとか結果が出て疲れがにじんでいるが笑顔の乱と愛染と蜂須賀。
青江は周りを少し見渡し
「主の為に、敵は石灯篭のように切って見せよう」
にっかり笑って主である睡蓮の手をとった。