「玉藻、すまないがこれを切ってもらえるか?」
「はーい。わっかりましたー」
台所にて、2人の狐の尾を持つ女性たちが料理をしていた。1人は、金髪のショートボブに金色の瞳を持ち、その頭には角のように二本の尖がりを持つ帽子をかぶった女性。もう1人は青い和服に狐耳と大きな青いリボン、大きな尻尾が特徴の女性。
共通しているのは狐のような尻尾を持つという事だ。
「しかし、1人増えるだけでここまで楽になるとは。すまないな、玉藻」
「いえいえ、身寄りのない私を置いてくださるのですからこれ位はします。前も言いましたが、良妻にして賢母を目指しておりますから」
「ふっ……そういえばそうだったな。期待してるぞ」
この2人が出会ったのは、今から数日前の事。
「それじゃ藍様行ってきますね」
「ああ、気をつけて行ってくるんだぞ。ロビン、橙の面倒を頼むぞ」
「へいへい……面倒臭いけど変な事になるよりはマシだから面倒は見るっすよ」
「ロビンさん、早く行きましょう!」
「おいっ、橙!引っ張るな!」
橙によって引っ張られていくロビンを見送り、屋敷の中に入る藍。その時、周囲に異様な気配を感じた。
ここには、主と自分しか居ない。
(この気配……ロビンと似ている。サーヴァントと呼ばれる奴らか。どうやってここに入ってこれた?)
主にもしもの事が起きる前に侵入者を排除する事を決めた藍。気配は室内ではなく屋外にあるため、今自分のいる場所から近い縁側に向かうことにした。
(……気配が強くなっていく。いるな……紫様に手を出される前に私が……)
藍が、縁側に足を運ぶと彼女の目に入ったのは、狐耳に狐のような尻尾を持った女性だった。
すぐに藍は判断した。狐の類で、自分と同じかそれ以上の強さを持つと。
「……貴様、どこから入った」
「どこからと言われましても……気がついたらここに立ってました」
その女性は、何かを探しているような仕草をしているのを見て、藍はロビンフッドと同じサーヴァントという存在だと察した。
「貴様、サーヴァントという奴だな」
「はい、そうです。クラスはキャスターです♪となると……貴女が私のマスターですか?」
藍はどう返答しようか悩んでいた。話を合わせる為にそうだと答えるか、それとも正直に違うと答えるか。
思考時間は、ほんの数秒であったが答えはもう出た。
「いや、私はマスターと呼ばれる存在ではない。証拠に貴様を召喚した証とも言える令呪がないだろう?」
藍の出した答えは、素直に否定する事だった。話を合わせても訳の分からない事を話されてボロが出るよりはマシだと思ったからだ。
藍は、そんなことを思いながら組んでいた手を崩し手の甲を見せる。
それを見せられた女性は、信じられないと顔をしていたがすぐに納得の表情を見せる。
「嘘はついてないようですね。ですが、随分とお詳しいですねぇ……魔術師ではあるのですよね?」
「魔術師という訳でも無い。貴様と同じようなロビン・フッドとか言うサーヴァントがここに居るからだ。言っておくが、ロビンも貴様と同じようにマスターを持っていないぞ」
「サーヴァントが居るのにも驚きましたが……それよりもマスターも居ないのにサーヴァントが真名を明かしているなんて」
「真名は普段明かさないのだろう?だが、今はサーヴァントが争う元である聖杯とやらが無いからな。それで真名を他のサーヴァントも明かしている」
「みこーん!?聖杯がないですと!?」
「あ、ああ」(みこーん?)
「聖杯が無いのなら何故……サーヴァントは召喚されたのでしょう?」
「それが常識ならば、ここでは常識は通用しないからな」
その言葉に女性は、小首を傾げてしまう。
「この世界では常識に囚われてはいけないのだ。非常識もまた常識の1つということだ」
「この世界……?なにか別世界という訳ですか?」
「ああ、この世界は幻想郷と言ってな……」
藍は今いる世界について説明をする。
最初は半信半疑で聞いていた、女性だったが藍の真剣な様に嘘ではないなと判断し所々疑問に思いつつも、頷きながら話を聞いていく。
「なるほど……隔離された世界ですか。私達の世界……そちらでは外の世界と呼ぶのでしたっけ?外の世界からここに来るには存在が忘れられることなんですよね……絶滅とか。なら、私達が居るということは……」
「死亡しているからと捉えていいかもしれないな。しかし、お前は見た感じ偉人という訳では無いのだろう?」
「おや、真名をご所望ですか?」
「お前が話したいと思うのなら話すといい。まぁ、こちらからすれば後々のために知っておきたい」
「わっかりました。では……天岩戸も絹豆腐、ラブコールとあらば即・参上!遠からんものは音にも聞け! 近くば寄って目にもぷりーず!魔法少女ラブリータマモ、ここに天孫降臨!」
いきなりの変な自己紹介に、藍は呆気に取られるどころか引いてしまう。
「冗談ですからそんなに引かないでくれます?突っ込まれないと悲しいです」
「……真名を話せ。余計は時間を取らせないでくれ」
「真名、玉藻の前と申します。クラスはキャスターでございます」
「玉藻の前……どこかで聞いたような。そうだ……九尾の狐だ」
「あらら……バレちゃいましたか、タマモちゃんショッーク。って、貴方も同じですよね?」
「ああ。だが、お前とは、少し違うがな」
玉藻と名乗った女性は、藍の言っている言葉の意味が分からず首を傾げてしまう。
「お前と同じ九尾の狐だが、私は式神だ。九尾の狐を媒体として私という式神がその九尾の狐に憑いてると説明しておくか」
「なるほど……サーヴァントと似ていますね。サーヴァントは……」
「待ってくれ。サーヴァントのついての説明は紫様に直接伝えてくれ。私から伝えるよりも紫様本人が聞いた方があの方も納得するだろう」
「それは構いませんが……1つお聞きたいことが」
「なんだ?」
「いえ、九尾の狐ともあろう強力な力を持つ貴女が式神に収まっているのがおかしいなと思いまして。それほど貴女のご主人である紫さんという方はお強いのですか?」
「ああ、並大抵の実力では紫様には手も足も出ないだろう。超人的な力を持ったサーヴァントとも互角かと言われると分からないが……善戦はできるだろうな」
玉藻は、なるほどと納得のいったような表情を浮かべるが内心は持ち上げすぎて無いかと思っていた。
自身の主人なのだからよく見せたいのは玉藻も理解している。しかし、それを玉藻は言うことはなかった。
下手に何かをいえば機嫌を損ねてしまい有力な情報を得ることが困難になるからだ。
「ところで……玉藻」
「はい、なんですか?」
「これから貴様はどうするのだ?いくら貴様が玉藻の前と言っても右も左もわからんだろう?貴様が良ければだが、此処に居ないか?」
「い、いいのですか!?」
「善意だけで置くわけではない、監視を兼ねてだ。九尾ともあろう貴様を野放しには出来んからな。勿論、タダとは言わん」
「ふっ……家事でしたらこの玉藻ちゃんにお任せあれ!何せ、
良妻にして賢母を目指しておりますのでお料理からお洗濯、お掃除までなんなりとお申し付けくださいませ」
「そうか……ならば、私の手伝いでもしてもらおうか」
そして、今に至る。
「そろそろ帰ってくる時間ですかね?」
「そうだな」
「ただいま、戻りました〜!」
2人が話していると、庭の方から橙の声が聞こえてきた。
それに気づいた2人は一旦手を止め、橙の出迎えに行く。
「おかえり、橙。それにロビン」
「無事に橙を連れてきましたよっと」
少し気だるそうにロビンは言葉を返す。
「今日は何をしてきたんですか?橙さんは」
「妖精の子達とロビンさんで鬼ごっこしてました」
「それは元気があってよろしい」
「あー場を濁すようで悪いけど、ラン。少しいいか?」
玉藻はそんな橙の返答を聞くと、微笑みながら頭を優しくに撫でてやる。撫でられた橙は心地よさそうに目を細めていた。
そんな様子を藍は微笑みながら見守っていたが、近づいてきたロビンを見るなり厳しい表情になった。
「例のものは買ってきたか?ロビン」
「ああ、ちゃんと買ってきたぜ。買ってこないとオレの命も消えるかもしんないっすからね」
ロビンはそう言うと、厳重そうに何が包まれているであろう風呂敷を藍に手渡す。
藍はそれを受け取ると、ゆっくりと風呂敷を広げていく。その顔は期待に満ちていた。
「ほう……ちゃんと買ってきたようだな」
風呂敷の中身は、5つの藍の大好物である油揚げであった。
藍はロビンに橙の遊び相手のついでに油揚げを買ってくるように命令していたのだ。
「そんじゃオレは、要件を済ませたから散歩してくるわ」
ロビンはそう言うと、フードを被り姿を消す。
「全く手伝いをすればいいのに。まぁ、狩人ですから料理なんて期待できませんけどね」
玉藻はそんなロビンに嫌味ったらしく言葉を吐き捨てる。
「玉藻。今はそんなことより早く料理を再開するぞ」
「はい、分かりましたー。……こちらはこちらで油揚げで頭いっぱいですか……」
油揚げに対して気分が高揚している藍に、内心ため息をつきつつも玉藻は彼女の後を追い、台所へと足を運ぶ。
お久しぶりです。
前回更新から1ヶ月以上経ってしまい、申し訳ございません。
今回は八雲藍と玉藻の前でした。
お互いに九尾の狐ということでどんな風に絡ませようかなと試行錯誤を繰り返しましたが、思うような中身が出来ずに今回のような話となりました。
神霊系や誰かを依代としたサーヴァントは出した方がいい?
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駄目
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良い