そしてそれを暖かく迎えると決めた艦娘たち。
その日、片桐英太郎は非番で、診療所に立ち寄ってから、青ヶ島の町中をぶらぶらしていた。
あまり、娯楽の多いとは言えないこの島。
特にやることも無かった彼は、スーパーあおがしまで煙草を買ってポケットに突っ込み、
庁舎内の官舎に戻ろうとしてるところだった。
自身は海来の言葉に心動かされ、自身の父が圧制を敷いて艦娘達を痛めつけていた青ヶ島にやって来た。
階級も降格を願い出たが、それは安藤大将によって慰留された。
「一度の過ちは一度の功績で償うことだ。降格したところで、それは
と言う言葉と共に。
「降格でも良かったんだけどな」
そんな呟きを零しながら溜め息を吐くと、後ろから声が聞こえる。
「何が降格でも良かったんですか?」
英太郎が振り向くと、そこにはスーパーあおがしまのレジ袋を片手に、
いつものカーディガンにブラウス、そしてロングスカートの海来の姿があった。
「そういえば、提督も非番でしたな?」
「そういうことです、中佐は煙草ですか?」
「まあ、そんなところです」
二人並んで歩く、青ヶ島環状線。
「中佐は、
「……私は、
「ああ、敬語とか階級とか提督とか良いですよ、オフなんで」
「了解した」
ふふっと笑う海来に、英太郎は言葉を続ける。
「俺は今まで、
「……その、差別はひどかったんですか?」
言い辛そうに口にする海来に、英太郎は、
「片桐家からは縁を切られた。家には石を投げ込まれたことも何度もあったし、警察は取り合ってくれなかった。軍らしき連中に日夜監視され、その軍人達に嫌がらせも受けたさ」
「…………」
「父のやって来たことは許されざること。そんな事は判っているんだ。だけど、ここまで家族がメチャメチャにされても、『
「…………」
「ある日、『不敗の女神様のシンパ』を名乗る輩から、母は暴力を受けた。それが切っ掛けで、母は寝たきり生活になってしまった。
「今でも母を憎んでいますか?」
立ち止まり、海来はぽつりと、でもはっきりした言葉で英太郎に問い掛けた。
振り向いた英太郎は、自嘲染みた笑みを浮かべていた。
「そりゃあ、ちょっとはね。でも、
「それが、
「い……いやそれは」
その鋭いツッコミに、シドロモドロになる英太郎。
「改めて訊きますが、何をしに私の部屋に侵入したんです?」
「いやあ……その……
あの一件で一目惚れした、寝顔の一つも見に来たくなった、ってところでしょうかね?」
「っ…」
英太郎の、その正直すぎる反応に、「呆れた……」と海来は笑いながら、再び歩き始める。
「申し訳ない。でも、その
「こんな、
「それでも今、深海棲艦と戦っている。艦娘達も
その言葉に、海来はフフッと笑う。
「やはり、『想いが力になる』という、
「………」
同じく歩き始めた英太郎は、何も言えない。
「ディープシー・キラー、深海の殺し屋。そう、呼ばれていました」
「………」
「やはり、
「そう、かも知れないな」
「でも、
「………辛かったんだな」
その言葉に、小さくコクリと頷いた海来。
「でも、
その笑みに見とれてしまい、顔を赤くして背ける英太郎。
「何ですか?童貞みたいな……」
「いけないか?」
「…………」
はぁ、と小さく溜め息を吐く。
「いいですか?女心は繊細なんですよ?」
びしっと指を立て、腰に片手を当てて、英太郎を見上げる海来。
「心得た」
ふふっと笑う英太郎に、
「よろしい。いい笑顔です」
そんな会話をしている頃には、庁舎前までやって来ていた。
庁舎前には、訓練を終えた艦娘達が戻って来る。
「てーとく!アイスが、アイスが欲しいのだ!」
真っ先にやって来るのは、
「今日の命中率は0%だったっぴょん」
「う、『卯月』っ!それは言わない約束だろう!?」
『卯月』に、訓練の命中率の暴露をされると、涙目になりながら抗議をする『三笠』。
「それじゃあ、皆でお茶にしましょうかね?」
『はーい!』
艦娘達が手を上げると英太郎は、
「では私はこれで」
と、立ち去ろうとすると、
「中佐も一緒にお茶しないぴょん?」
『卯月』が声を掛けたのだ。
「いや。君達に酷いことをしたのに、いいのかい?」
意外そうな顔をしながら『卯月』の顔を見ると、『三笠』がその前に出る。
「艦娘たるもの、そのような
えっへん、と胸を張って言うと、
「
『卯月』も笑顔で言う。
「まあ。
そう言うのは『吹雪』である。
「まあ確かに、アイドルの顔に傷つけたのはイケナイけどぉ。仲間になったなら許しちゃう」
『那珂』がそれに続いて、
「まあそういうことだから、お茶に付き合いなさいな」
「では、謹んでご相伴させていただこう」
皆で仲良く庁舎に入って行った。
皆の前には紅茶とアイス。『三笠』の前には2Lの
「さあ、折角ですから七並べでもしましょうかね?」
『はーい!』
「それは懐かしいものを」
元気に返事する艦娘達に、懐かしそうな顔をする英太郎。
数分後。
「スペードの8が……8が止まってるぴょん!出せないぴょん!!最後のパスだぴょん!」
『卯月』が涙目になる。
「さて、出しますか。上がり」
しれっと最後に、スペードの8を出す英太郎。
『あーっ!!ひどっ!!』
艦娘達の声にしれっと、
「
と、クックックと笑いながら、抗議の声を流す。
「ああ、助かります。これで上がりです」
海来が、最後のジョーカー+スペードの10を出す。
「!?」
「酷いぴょん!ミクちゃん提督も酷いぴょん!」
『卯月』は、最下位確定である。
こうして、夜までトランプで盛り上がるのだった。
艦娘達が解散して部屋に帰って行った後、二人で後片付けをしている。
「艦娘達も貴方を受け入れてくれています。ちょっとずつ、
「……かも知れないな」
「さて……ここからはオトナの時間です」
「えっ?」
驚いて振り向いた片桐は、
「『艦これ』、中佐もやってるんでしょう?」
「あ……あぁ……」
「うふふ、朝まで寝かせませんからね?」
「あ……あぁ」
少し妖艶な笑みを浮かべた海来に、英太郎は翻弄されていた。
その後二人は、メチャメチャ艦これをプレイした。
翌朝、数時間しか仮眠を取っていない英太郎は、眠そうな目を擦りながら出勤すると、
元気そうに執務をしている、海来の姿があった。
「おはようございます」
「お、おはようさん。どうした?眠そうだけど?」
「ええ、まあ。高天原二等兵、後でコーヒーを頼む」
「了解しました」
「さて、朝礼を始めます」
『はい』
こうして、青ヶ島泊地の一日が始まって行く。