あの硫黄島制圧戦から、一ヶ月が経った。
大怪我をしていた艦娘達も、戦線復帰していた。
そんなある日、高梨未来少佐と片桐英太郎中佐の二人に、東京への召喚命令が出た。
紀子を留守番に残し、二人で東京に向かっていた。
「多分お叱りごとですね。降格は覚悟で」
「降格するなら、私も揃って降格になりそうですな?」
輸送船で、そんな会話をしていた二人。
英太郎の可動義手には、人工皮膚が付けられて、一見では義手と判らないようになっていた。
一ヶ月間のリハビリと、利き腕ではない事が幸いし、日常生活が送れるまでに回復していた。
とはいえ、まだ体の痛みは残ってはいるが、職務には漸く復帰できた。
というより、一ヶ月で
東京の艦娘本部からの迎えの車が来ていて、艦娘本部まで公用車で移動することになる。
そして、直行で艦娘本部庁舎まで辿り着いた。
庁舎までやって来ると、不知火が入り口で待っていて敬礼する。
「高梨少佐、片桐中佐、安藤本部長がお待ちです。どうぞ」
そう言うと、背を向けて庁舎内に入って行く。
二人も答礼すると、不知火の後に続く。
「不知火です。高梨司令官、片桐中佐をお連れしました」
「高梨少佐、入ります!」
「片桐中佐、入ります」
不知火がノックの後に扉を開くと、敬礼して入室する。
不知火は、そのまま安藤本部長の脇に控える。
扉を閉めると二人共、安藤の前に立つ。
「ええと、降格ですかね?」
海来が苦笑いで言うと、安藤は
「
「はっ、謹んでお受けいたします」
英太郎が敬礼をすると、安藤は海来の方を見る。
「高梨少佐、貴官は
「えええ?私、
「そう言うな。
「はい。謹んでお受けします」
海来も苦笑いで敬礼をする。
「……と、ここまではお褒めの言葉だ。余人はいない、楽にしろ」
安藤がそう言うと、二人共『休め』の姿勢になる。
「一泊地の司令官が、他の司令官を巻き込んで大規模侵攻作戦等、前代未聞だ。私が、遡り追認したから良かったものの、大村少佐からの報告がなければ、
「申し訳ありません」
英太郎が先に謝罪すると、海来も、
「
苦々しい顔をして、頭を下げる。
「それで、勝手に工廠部を動かして装備品は借りるわ、その借りた装備品を壊すわ、こちらで立てていた硫黄島奪還作戦は全てパーになるわ、いろいろやらかしてくれたな、全く……
「返す言葉もありません」
「ですね……」
二人して申し訳無さそうな顔をしていると、安藤は大きな溜め息を吐いた。
「それで、艦娘は全員重傷。全く……呆れてものが言えません。不知火は常々、あなた達がへっぽこだと思っていましたが、これほど
不知火にも大きなため息を吐かれる。
「
「せっかくの申し出、誠に光栄ですが、お断りします」
「だろうな。別の人間を送り込むことにしよう」
「申し訳ありません」
「構わん。今回の事例の通り、
「はっ!」
英太郎が敬礼すると、安藤は満足そうに、
「話は以上である」
その言葉に、
「「それでは失礼いたします」」
二人は、揃って執務室を後にした。
「……全く、馬鹿ですね。せっかくの司令官職の復帰を蹴るなんて」
「確かに、そうかも知れませんな」
艦娘本部の廊下を並んで歩く二人。
「片桐大佐、今夜ご夕飯の予定は?」
「いや。何処かホテルを取って、コンビニ飯のつもりでしたな」
「……お礼くらいさせてくださいよ。今日の夕飯は、私がご馳走します」
「?……ありがとう」
少し照れながらそういう海来に、英太郎は少し首を傾げてから感謝の言葉を述べるのだった。
ホテルに到着すると、それぞれ一旦部屋に戻って、夕方まで過ごした。
「
そう言って別れて……
ロビーにスーツ姿でやって来ると、海来は白いワンピースにカーディガン、と云う出で立ちだった。
「………」
その姿に見とれていると、海来は笑みを向ける。
「さ、行きましょ?」
そう言うと、手を繋いでその手を引くように歩き始める。
向かった先は、イタリアンレストランだった。
奥のテーブルに案内されると、イタリアンのコース料理が出される。
「さあ、頂きましょう」
「あ、あぁ……」
英太郎は、これは夢なんじゃないか?と思っていた。
そこで会話をした内容を、英太郎は記憶することが出来なかった。
そして食事後。
「ちょっとお散歩しましょうか?」
そう言うと、タクシーに乗って東京スカイツリーに向かった。
日の暮れた東京スカイツリーからの景色は、街の明かりが煌めいて、いい景色だった。
「手を繋ぎましょ?」
「え?ああ……」
繋がれた、英太郎の右手と海来の左手。
ソラカラポイントで眺める、東京の夜景はきれいだった。
「きれいな夜景ですね」
「そうだな…」
海来の言葉で、二人は東京の夜景を見下ろしている。
「私は人を信じきれませんでした……」
懺悔のように語る海来に、英太郎は何も言えずにいた。
「もう一度、
「私は……それほどのことをしてはいないさ。信じて従いてきてくれた、艦娘の
「でも、
「………」
海来はそう言うと、やんわりと手を離すと
薬指には、白銀の指輪が填められていた。
「嘗て、高梨提督と戦艦三笠は深い絆で結ばれた時に指輪が現出した、と云います。これは、
そう言うと、ポーチから同じ白銀の指輪を取り出す。
「これは、硫黄島に転がっていた、
「……」
指輪は、海来の手を離れると姿を消して……英太郎の左薬指に填められていた。
二人の指輪が輝いて、海来は霊子の増大を感じていた。
「……英太郎さん、貴方の『想い』は伝わりました。それが私の答えです。もう
「………こういう時、どうしたらいいか分からないんだ」
顔を赤らめながら、「ずっと、軍務一筋だったから」と続ける英太郎に、海来は抱き付いた。
英太郎も、恐る恐る海来を抱き締める。
「……ダイスキですよ?」
そう。
暫し、抱き締めた後、
「戻りましょうか?」
スカイツリーを降りながら、手を繋いで歩く二人。
「私の部屋、ダブルで取ったんですよ。あとは
「えっ?」
驚いて立ち止まり、海来を見下ろすと、海来は
「ほら、『据え膳食わぬは男の恥』ですよ?」
その言葉に、再び顔を赤らめる英太郎。
「言っておくが、俺は女性経験はないぞ?」
「……私も、男性経験があるわけ無いじゃないですか?」
その言葉に、お互いふっと笑い出す。
二人にとってその夜の出来事は、終生忘れられぬ思い出となった。
翌朝、青ヶ島までの輸送船の中で、
「母に、挨拶に行かないといけませんね?」
「『不敗の女神様』か……」
英太郎は少し考え込むと、海来が心配そうな顔になる。
「母をまだ憎んでいますか?」
「そうじゃないんだ。親父はやってはいけないことをした。
その言葉に、ふっと笑みを零す海来。
「お父さんはお父さん、貴方は貴方、きっと母ならそう言うと思います」
「ならば、二人して休暇が取れるように、艦娘を鍛えねばならんな?」
「そうですね」
二人を乗せた輸送船は、青ヶ島に向かって行く。
再び日常が戻ってくるのだ。
そんな中海来は、「いつ艦娘たちに伝えようか……?」等と考えていた。
英太郎爆発しろー
次回は4日の9時/その次は9時1分です
※19話まで完成済み